【企業対談シリーズ vol.3:前編】 NTT西日本×二枚目の名刺 越境により生み出された新しい価値の創造

シリーズ第3弾は、2017年の連携企画をきっかけとして、今では社を挙げての越境プロジェクトが発展しているNTT西日本様との対談です。
本記事では、二枚目の名刺との連携に至った背景やそこから得た学びをもとに、企業への越境学習の取り入れ方についてお伺いしていきます。
ゲスト:
山下 諭 さん
NTT西日本 長崎支店長(取材時:NTT総務部門 人材戦略担当 担当部長)
NTT西日本 ビジネスデザイン部にて人事・人材育成担当時代に、二枚目の名刺とのプロジェクトを企画。今ではNTT西日本全社で盛り上げている越境プロジェクトのはじまりを創出したキーパーソン。
藤木 位雄さん(愛称:「きんぐさん」)
株式会社NTT西日本ルセント 関西支店 京橋第二センター センター長
2017年に山下さんとともに二枚目の名刺プロジェクトへ参加したことをきっかけに、二枚目の名刺にジョイン。二枚目の名刺では事業推進やプロジェクトデザイナーを担当している。NTT西日本で2025年に開催されたE-1グランプリでは優秀賞を受賞。
インタビュアー:
宮内めぐみ(愛称:「うっちー」)
本シリーズの取材担当。
会社員を経て、自らを試すべくフリーランスへ転身。 デザイナー・ライター・イラストレーターの3つの肩書を持つ、”描ける×書ける デザイナー”として活動中。
新規事業開発部が抱えていた課題意識と、二枚目の名刺との出会い
宮内: NTT西日本と二枚目の名刺の取り組みが始まった経緯について教えていただけますか?
山下: 取り組みは2017年頃だったかと思います。当時私はNTT西日本のビジネスデザイン部に所属していました。約200人ほどの部署で、新サービス開発や、さまざまな企業とアライアンスを組んで新規ビジネスを創出することをミッションとしていました。
私は部内の人事・人材育成の担当として、社会課題解決やパートナーとのビジネス創出のため、どのような研修や実体験を通じて社員の能力を伸ばしていくべきかを考えていました。その頃にちょうど「越境」という言葉も出始めていたので、越境による体験なども意識していましたね。
宮内: 8年前といえば、「イノベーション」という言葉もビジネスパーソンにとっては身近なワードになった頃ですね。
山下: はい。早稲田大学の入山先生と話す機会があり、「イントラパーソナルダイバーシティ」という概念を話されていました。これは「イノベーションを起こせる人」は自分の中にダイバーシティを持っている、つまり2軸以上の軸を持っている人だというものです。
これにより、やはり越境は必要だと確信しました。自分たちのビジネス開発に活かせるようにするためには、それぞれの専門分野や強みという軸を持った人が、越境でもう1つの軸を作りに行くというのが、イノベーションを起こせるきっかけになるんじゃないかと感じたんです。
宮内: 二枚目の名刺との出会いはどのようなものだったのでしょうか?
山下: 当時株式会社ローンディール代表の原田さんにご協力いただきベンチャー企業への社員派遣を行っていた間柄から、原田さんより「自分が登壇するので話を聞きに来ませんか?」とお誘いいただいたんです。そのイベントで一緒に登壇されていたのが、二枚目の名刺の代表廣さんで、廣さんの話を聞く中で「これはやってみたい!」と思いました。
宮内: 廣さんのお話で特に魅力を感じられたのはどこですか?
山下: NPOでの活動自体も魅力ですが、一般公募で自ら集まる社外の方も加わりチームを組んで社会課題解決を実践する点が特に価値があると感じました。異なる分野の人々と共にゴールを設定し取り組む形態は当時ほとんど見られませんでした。
二枚目の名刺との取り組み以前にも、社員向けビジネス開発研修などを実施していましたが、管理者自身でさえビジネス開発業務経験はあっても成功体験を持つ人は少ないのが現実であったたため、「管理者自身が社会課題を体験し、実践してみる」という発想から二枚目の名刺との企画に至りました。それによって管理者が自らの言葉で社員に伝えてもらいたいと思いました。
管理職限定!手挙げ制で始まった前例なき社会課題解決への挑戦
宮内: 二枚目の名刺のプロジェクト参加においては、どのように進めていかれたのですか?
山下: 当時の部長の理解を得て、対象を管理者に絞りました。手挙げ制にして、8人ほどが参加してくれました。実は私自身も一人のメンバーとして参加したんです。
宮内: 管理職に絞ったのはなぜでしょうか?
藤木: 活動は業務時間外、平日夜や土日に行われるため、管理職であれば労務面の懸念が少ないと判断があったようです。
宮内: 確かに一般社員だと業務命令なのか何か分かりにくいところですね。参加者の皆さんはもともと意識も高い方ばかりでしたか?
山下: 皆が皆そうだったわけではなく、意識の高さにも差はありました。自分自身のキャリアについて考えていた人もいれば、単純に興味を持った人もいますし、動機はさまざまです。協働先のNPOや活動テーマなどがわからない状態だったので、「もし興味があれば」というくらいの気持ちで手を挙げた人もいたと思います。
藤木: 私は「もし集まらなかったら手伝おうか〜」くらいの軽い気持ちでしたが、結果的にどっぷりとはまる形になりました(笑)
宮内: 企画者の山下さん自らが参加されたのは興味深いですね!参加してみていかがでしたか?
山下: 自分自身、純粋に活動に興味があって参加してみたのですが、大変だったのは覚えています。業務をしながらの参加でしたから。でも、皆自ら参加したいと思って手を挙げた人たちなので、すごく熱意を持って取り組んでくれました。
自分たちで決めた目標に向けて、それぞれができることをどんどんやっていく。「私の業務はここまで」というのではなく、「こういうことはどう?」と提案した人が「じゃあ私たちはこれで動くね」という感じで。
3ヶ月という短い期間ではありましたが、チームとしてはすごく楽しかったですね。
宮内: 皆さん管理職なので時間確保は大変そうですね。その反面、得られたことは何でしょうか?
山下: 私と藤木さんが参加したのはホームレスの方の自立支援をしている認定NPO法人 Homedoorの活動で、課題をヒアリングしチームで決定したテーマは「HUBchari(ハブチャリ)」というシェアサイクルの駐輪ポートを作る・探す」でした。ホームレスの方の支援活動にも実際に参加させていただき、なぜそれをやるのかという思いを共有しながら活動できたのは良かったです。
また、社外のメンバーが入っていたので、NTT西日本の常識ではない見方や、やり方を知れて、非常に刺激になりました。
宮内: 印象に残っているのはどんな場面ですか?
山下: 例えば意思決定のプロセスです。大企業だと、1つのプロジェクトをやるために色々な部署の了解を得て、順序だてて取り組むのですが、ベンチャー系の人なども含めて様々な方がいたので、「それだったらそう思うところに直接行けばいいじゃないか」「なんでそんな回りくどいことをやるの?」など、発想の違いがありました。
藤木: Homedoorの代表 川口さんが入った会議では、意思決定がものすごく早かったですね。インターンシップをやろうという話になって、「それじゃあ来週に募集かけましょう」と。「え、来週やるの?」みたいな驚きがありました。
「本当にビジネスに繋がるのか?」社内の壁を越えた”NPO支援ポート”設置秘話
宮内: プロジェクトを始めるにあたって社内での説得はどうでしたか?「NPOと組んでどうビジネスにつながるのか」といった疑問はなかったですか?
山下: もちろんありました。「別に収益を生むわけではないじゃないか」と。当然、費用対効果についても社内から指摘されるだろうし、その理由をきちんと説明する必要があると考えていました。
「人が変わることによってビジネスが生まれるんだ」「我々に足りていないのは、イノベーションの学術的なことやビジネスを作るためのノウハウよりも、実体験を通じて学び、マインドを作り、それを広げていくことが最も価値がある」といったような説明をした記憶があります。
宮内: 実際、プロジェクトの成果はいかがでしたか?
藤木: 私たちの参加したHomedoorのプロジェクトでは、最終的にHUBchariの駐輪ポート設置まで達成できたのは大きな成果でした。ただ、これがプロジェクトの中で一番大変だったことなんですが、なんとNTTのビルに設置するのが最も難しかったんです。
宮内: それは意外ですね。自社のビルなのに一番難しかったのですか?
山下: はい。社内での関係者が多く、調整に時間がかかりました。
会社の何かを外部に貸す=お金をいただくという発想があるので、自転車のポートを貸す場合も「いくらの収入が入るから貸す」という不動産ビジネスの方向性になってしまいます。
「場所を無償で提供することがNPO支援となり地域での社会貢献に繋がる。そのような価値の見方も必要ではないか。」と説得しながら、最終的には承認をいただき、NTTビルの空きスペースへ駐輪ポート設置が可能となりました。当時の関西支店長とNPO代表による調印式や開所式テープカットなども実施し、社内外の認知拡大にも取り組みました。
藤木: 社内で前例のない事項はどのように承認を得るのかという難しさがありました。無償で貸すという想定の社内規定がないので、最終的にはトップしか判断ができないということにたどり着いたんですね。
山下: 当然、我々から説明に行くと、「なぜCSRの取組をビジネス開発の部署が担当しているのか」という根本的な疑問を持たれてしまうので、理解してくれるキーマンを見つけるのが大事でした。
藤木: 一方で、他メンバーが自身の繋がりのある先への駐輪ポート設置提案は、順調に進んでいるようでした。NTTビルだけは部署を回りに回って最終的に8ヶ月くらいかかりましたね。とは言え、皆さん「うちの部署だと判断できないけど、形になったら応援するよ」と言ってくれていて、最後に実現できたときには全員が味方になってくれていたので嬉しかったですね。
宮内: プロジェクトを終えた参加者にはどのような変化が見られましたか?
山下: 目に見える変化ではありませんが、マインドはかなり変わったと思います。皆何らかの気づきを得ていました。
プロジェクト後は部長も含めたオープンな報告会を実施し、人事部に加え、社内イントラで周知して、部門を超えて興味ある方々にも参加してもらいました。プロジェクト参加者が自らの思いや伝えたいことを語る場を設け、経験を言語化することに価値があると考えています。特にミドルシニア層は会社貢献だけでなく、培った力を社会に還元することも考えをもってもらいたいと思います。
藤木: NTT西日本と二枚目の名刺の活動は単発で終わりましたが、越境への考え方・価値観はNTT西日本のオープンイノベーション施設「QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)」という形で脈々と続いている印象です。
山下: そうですね。二枚目の名刺で得た「費用対効果だけではない価値」という考えが現在のQUINTBRIDGEにも繋がっているのではないでしょうか。QUINTBRIDGEは人々が自由に集まり社会課題解決やビジネスができる場を提供するコンセプトです。単なる場所貸しではなく、共創の場ということに意義があると思います。
場所貸しの発想だとオフィス利用率という話になりますが、もっとソフト面で、「人を呼び込む仕掛けが重要ではないか」という話をしていた覚えがあります。
人事こそ越境を!自社で越境学習を成功させるために、今できることとは?
宮内: 最後に、越境に取り組もうとされている企業さんに向けて、山下さんのご経験からアドバイスなどがあれば教えてください。
山下: やはり誰かが動かそうとしない限りは事も動きませんよね。こうした取り組みはなかなかすぐには進まないので、誰かが旗振り役として動くとともに、大きなフォロワーを確保することも重要だと思います。
また、個人的に強く意識したのは「やりたいと思う人にやらせる」ことです。手を挙げた人を上司が「忙しいから出せない」と止める場合、「本人はリスクも承知で希望している。それを阻むなら、その責任を負えますか?」と説得しました。本人の意思があれば何らか動かせますから。自ら発信しなければチャンスは掴めないという文化も根付かせる必要があると思います。
宮内: 社員の声が届く会社にしていくことは大切ですね。
山下: そうです。最初に手を挙げる「ファーストペンギン」は勇気がいります。大きな流れになれば多くの人が手を挙げるようになりますが、その時には競争も激しくなっているでしょう。だからこそ最初に手を挙げる人の思いを大切にし、そこからきっかけを広げていくことが重要です。
藤木: 企業の人事担当者で「どうしたらいいかわからない」と言う方には、まず自分が体験してみて、その会社に合った人事戦略やキャリア自律の方法を見出すべきだと思いますね。
実際に経験した人は自分の言葉で熱を伝えられるから、社内での説得力も増します。「単に費用対効果じゃない」ということが伝えられるんです。
山下: 人事に携わっている方こそ、自身が越境してみるといいかと思います。現在、NTT西日本ではダブルワークや公募人事など自律的キャリア形成の仕組みが広がっています。新卒でも自分の経験や志向をアピールできればスタートラインが変わる時代です。
ベンチャー経験者は自己アピールに慣れていますが、大企業一筋の人は役職歴だけで終わりがち。特にミドルシニア層には「キャリアにゴールはなく、自分の幸せや満足に繋がる選択を自ら考えることが必要」と伝えています。
宮内: 自己アピールと実績の見える化が重要ですね。
山下:その通りです。「人事異動についても、次のキャリアに繋がるように、きちんと自己表現しないと望むとおりのキャリアとなるかどうかわからない」となると、自らのキャリア実現のため皆さん自己アピールを書くようになります。越境体験の価値は見えにくくても確かに存在します。誰かの最初の一歩と熱意の共有が組織を変えます。そして越境は特別なことではなく、これからのキャリア形成において重要な要素の一つだと確信しています。
宮内: 山下さん、藤木さん、ありがとうございました!
そして現在のNTT西日本の越境への取り組みは?
続きは、後編「NTT西日本×二枚目の名刺 越境社員が会社の未来を創る!」へ! >>

ライター

編集者

カメラマン


