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<企業対談シリーズ vol.2> 本業を超える成長体験を従業員へもっと届けたい! 三菱商事従業員組合 ✕ 二枚目の名刺で見えた課題と期待

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二枚目の名刺は、人材育成支援にアンテナを張る企業様と連携を行っています。
シリーズ第2弾となる本対談では、三菱商事従業員組合様との事例をもとに、越境体験の意義や今後の展開についてそれぞれの立場から深堀ります。

ゲスト:


松田 太志 さん(活動参加時の愛称:「たいしさん」)
三菱商事従業員組合 元 執行委員長
2023年に執行委員長として第3回目となる企業連携を担当し、自らも「たいし」さんとしてプロジェクトに参加する。4回目には組合内を越えて三菱商事全社の取り組みへと発展させた立役者。


岩田 有馬 さん
三菱商事従業員組合 現 執行委員長
松田さんから役員を引き継ぎ、会社への橋渡しをフォローした影の立役者。二枚目の名刺への理解も深く、15周年を迎えた二枚目の名刺の今後についての議論に外部有識者として参加いただく。

インタビュアー:


大澤 美紀(愛称:「みきさん」)
役割:プロジェクトデザイナー(プロジェクト伴走者)
三菱商事従業員組合様のサポートプロジェクトにて、プロジェクトデザイナーとして伴走した。


藤木 位雄(愛称:「きんぐさん」)
役割:事業推進事務局(企業・自治体等連携の窓口)
企業様窓口として三菱商事従業員組合と初回プロジェクトより一緒にプロジェクト企画と運営に取り組む。

三菱商事従業員組合の工夫は、熱意を乗せる募集告知

大澤: 三菱商事従業員組合さんは1年交代で執行委員長が変わりますよね。松田さんは2022年に3回目の担当として引き継がれたわけですが、連携に至るまでの経緯をお聞かせいただけますか?

松田: 一般的に「従業員組合」と聞くと、賃金闘争であったり従業員の待遇面に関連した活動をイメージをされる方が多いのかなと思いますが、三菱商事の従業員組合では長い歴史の中でも組合員のエンパワーメントやキャリアの自立といったところが重点施策の1つでした。
これについて取り組むなかで、従業員にも様々なアンケートを取るのですが、スキルアップや担当業務外の経験をしたいというニーズが高いことが分かりました。
では、どういうことができるだろう?と考え、その1つの解としてプロボノ活動にたどり着きました。
ですが、いざ会社と一緒にやってみようという話になると様々な動機づけの課題が出てくるんですね。守秘義務であったり、労務管理をどうするかであったり。
そこでまずは組合単独の企画としてやってみるのが早いよね、という経緯で組合独自の企画として実現に至りました。

大澤: 松田さんが引き継がれた際は、二枚目の名刺に対してどのような印象を持たれましたか?

松田: まずプロボノ的な観点において二枚目の名刺さんの活動内容は素晴らしいなと思いました。前任者からも二枚目の名刺さんが大変柔軟にプログラムの組み立てからご尽力くださったと聞いています。組合としてやりますとは言っても、一定の質の担保であったり、三菱商事社員単独でやらせていただいたり、支援先を選ばせていただくなど、様々な要望に対しカスタマイズを進めて頂いたと聞いています。

大澤: 募集に際しては何か苦労されたことはありましたか?

松田: 引き継いだ時に感じたのが、1回目、2回目と同じ募集方法では参加者数が減るだろうという危機感です。アプローチする母集団は変わらないのに、すでに参加した人がいる状況だったので。
そこで工夫したのは、カズさん(プロジェクト事務局)のご協力を得て、各支援先の具体的な取り組み内容を広報誌として発信することでした。特に重視したのは、支援先代表の方の熱意や素晴らしさをしっかり伝えることです。「この支援先なら支援したい」と思ってもらうことが、わざわざ組合の企画に参加する理由になると考えました。支援先への共感があれば、プロジェクト開始後も熱意を持って続けられると思ったからです。

藤木: 他の企業様と比べても、支援先選定で事前に情報を集めて話し合い、しっかり落とし込んでおられたケースは珍しいです。組合員に想いを届けるという決意を感じました。

大澤: その熱意が伝わって、共感を持って関わろうと思ってくださる方々が集まったんですね。

意外とリスクって取れるもの。松田さんが参加体験によって得た気づき

大澤: 松田さんご自身も支援先の一つでMOTTAINAI BATON株式会社さんのプロジェクトに参加して頂き、実際に体験されていかがでしたか?

松田: 4月末にチーム組成後、5月初めは手探りでしたが、5月中旬からは本格始動し、たくさんのことに取り組みました。MOTTAINAI BATON代表の方も私たちの活動をとても後押ししてくださって。
1ヶ月経つ頃には、JR東日本さんが募集していたコンペにプレゼン資料を作成し応募しました。その後も、駅のマルシェで出店される際のお手伝いや、SNSマーケティング、「廃棄されかねない食材をレトルトカレーにする」というMOTTAINAI BATONさんのコンセプトに沿って農家さんへの飛び込み営業も行いました。約40件ほどリストを作成してメールを送って、反応があった方に電話して、という感じで。

大澤: そのスピード感は、いつもの業務でもそうなのですか?それともこのプロジェクトだから特別に頑張ったのでしょうか?

松田: このプロジェクトだからだと思います。それが学びでもありました。
一つは、チームとして早い段階で「アクションしたい」というコンセンサスが形成できたことが大きかったですね。もう一つは、代表が私たちの提案をすぐに実行に移してくれるようなスピード感の持ち主で、それに引っ張られたことです。

大澤: 私もいくつかプロジェクトデザイナーで関わっておりましたが、MOTTAINAI BATONさんのプロジェクトチームは行動量が多いと感じました!
一方で仕事との両立はいかがでしたか?

松田: プロジェクトは夜遅い時間での打ち合わせになることが多く、メンバーそれぞれに忙しい時期があって参加できないこともありました。でも、共通の目標があったからか、皆が「やります」と宣言したことをしっかり実行する良いサイクルができました。

大澤: スピード感以外にも学んだことはありますか?

松田: 「失敗しても死にはしない」というマインドで、トライアンドエラーをすぐに実践に移す姿勢です。MOTTAINAI BATONさんは株式会社でスタートアップに近い性質があり、リスクを恐れずに積極的に取りに行く姿勢が印象的でした。
三菱商事のような大企業にいると、リスクを取って意思決定し実行することは難しいと思いがちですが、細かなリスクを各々が取りながら何かやってみることが、スピード感や物事が良い方向に変わっていくことの源泉になっているのだと改めて気づきました。

大澤: その経験はその後の本業にも影響しましたか?

松田: 明らかに新しいことに食いついてみる感度は高くなりましたし、会社のボランティア活動にも参加してみようという副次的効果もありました。視点が本業だけでなく、外の世界にも広がったと感じています。

支援先団体と参加者とに生まれる期待のギャップから考える、評価点と課題点

大澤: 運営側としても参加した立場から、課題に感じたことはありますか?

松田: 難しいのは参加者の期待と実際に取り組む内容とのズレでしょうか。
MOTTAINAI BATONさんは「もったいない食材のカレー化で食品ロスを解消」という明確なミッションがあったので企画が組みやすく、事前の期待とも合いやすかった。しかし他の支援先では、最初に話していた課題意識と実際に必要なことが違ったり、支援先トップの方も悩まれていて課題が具体的に言語化されていないと、序盤に手探りの期間が長くなりがちです。そうするとアウトプットの質も時間に左右されます。
いかに早くオンボーディングするかが課題だと感じました。

藤木: 二枚目の名刺では、ある程度目標に対して取り組んだ実績のある団体へ協働提案を行い、課題感は事前ヒアリングしますが、その課題感を率直にプロジェクトメンバーと話し合って取り組みテーマを決めて進めてもらう形を取っています。
支援先には「対等な関係で情報開示してください」とお伝えしており、話し合いが進む中で「実はこんなこともやっています」と情報が出て、新たな視点で課題が浮き彫りになるケースもありますね。

松田: 課題の深掘りから始めること自体は良いのですが、深掘りしたつもりでピン留めしたことが途中で変わると、プロジェクトが中途半端になってしまって、後から「…あれ?」と、巻き戻って繰り返されるようなことになっちゃいますよね。
それはそれで経験としては良いのですが、できる限り早期に深堀りが必要だという事態に気づき、多少時間をかけてでも徹底的に探ると良いのだろうなと思います。

大澤: 最後に終わった時にはある程度達成感も欲しいですから、どっちつかずでモヤモヤモヤと終わってしまうときはスッキリしませんね。

藤木: 確かに別のプロジェクトでは、進んでいた方向が途中でガラッと変わりましたね。でも参加者の皆さんが状況変化へも粘強く取り組まれ、団体代表の方と東京で話を聞いて方向転換をされ、結果的には良かったと思います。

松田: 結果は良かったのですが、そうした方向転換は再現性がないと感じます。あの時はたまたま参加者全員がパワフルだったから救われましたが、運営側としては反省点でした。

大澤: それでも越境体験としては価値があったと思いますか?

松田: 少しでも興味があればやってみるべきだと思います。もうその一言に尽きます。やったら悪いことにはならないので。
事前のプロジェクト説明会などで支援先の熱意や取り組み内容を伝える工夫をさらに磨いていくことが大切だと思います。

コスパ重視の時代における越境体験の意義

岩田:  キャリアの文脈では「計画的偶発性理論」が登場することも多いですが、先が見えない世界ではどういった経験やスキルが必要になるかわからないし、越境体験の機会があれば掴むことは大切だなと考えています。
しかし、今は「コスパ・タイパ重視」の生き方が増えていますよね。目の前の評価される仕事にフォーカスして、それ以外のことはやらないというような。
この傾向とプロボノ活動は対角の位置づけだとも思うので、どのように折り合いをつけていくべきか考える必要があると思います。

大澤: タイパ重視層は近道を知りたがっている傾向がありますから、二枚目の名刺の活動は遠回りに見えるかもしれませんね。ですが、同じ会社の仲間が、最初は遠回りだと思っていたのに、色々吸収して成長している姿を見せられると「これが効果あるんだ」と思ってもらえるかもしれません。

松田:  推進する側の経験を経て感じた問題は、実感を持って知ることが難しい点です。プロボノで得られるものは、短期間に熱意ある人から影響を受け、自分なりに創意工夫していく経験です。履歴書に書けるようなスキルではなく、熱意をかけた実感の分だけ成長するもの。これを文章にすると陳腐になってしまうんですよね。結局、支援先の代表者に実際に会うなど、実体験を通してでしか伝えられないのかなとも思いました。

岩田:  おそらく、Z世代などは「社会貢献」というワードに興味を持つ人も多いのですが、これを本業としてできないかなと考えているのではないかと想像します。2枚目の名刺を持ってサードプレイスで動くということには関心がない人も結構いるような気もして…うーん、難しい世界ですね(苦笑)

藤木: タイパ・コスパばかり考えると、自分の殻からなかなか出られないのではないかなと思うんです。しかし、一歩踏み出した経験で人が変わっていくという過程を知る機会が少ないのもまた課題ですよね。
私も最初は社外でボランティア活動など考えたこともありませんでした。同僚の誘いでたまたま参加して、世の中の課題に触れて「こんなことがあるのか!」と気づき、そこからどんどんのめり込んでいったし、私自身のキャリアも大きく変わりました。
特定のスキルで関わるプロボノではなく、共感で関わるプロボノに参加した方の気持ちや、人としての変容があることを伝えていきたいですよね。この経験をロールモデルとして情報発信していく、会社としてはそういう働きかけは大事かなと思います。

大澤:  人は見通しが立たないと不安になります。若い人にとっても終身雇用が保証されない今の社会は不安なもの。そんな中、予期せぬ偶然の出来事への柔軟な対応が結果的に自身のキャリアを築くという計画的偶発性理論は、学生にも受けが良いんです。越境学習はタイパ重視とそれほど乖離するものではないと思いますが、単に「知らない」だけなのかもしれませんね。

岩田:  二枚目の名刺さんのような活動は、社会人として様々な役割を持つことの大切さを教えてくれます。私自身、会社の仕事だけでなく組合の役員をした経験が大きな影響を与えてくれました。色々な顔や役割を持ち、様々な場所で貢献することで自信にも繋がりますし、フィードバックも得られます。そういう機会を作り出している二枚目の名刺さんは社会人にとって大きな影響を与えられる団体だと思います。

会社への移行で参加者層に幅が出た!人材育成への展開を見据えて

藤木: 今年は従業員組合として何かテーマや取り組みを計画されているのでしょうか?

岩田:  現在は3つの重点領域を設けています。1つ目は「自分を磨く」、2つ目は「輝ける環境を作る」、そして3つ目が「会社の未来を考える」です。特に「自分を磨く」というテーマは、プロボノ活動と関連しています。組合では単に会社への要求だけでなく、自分たちがそれに見合う価値を発揮できるよう自己研鑽することも大切と考えています。

大澤:  松田さんから岩田さんへと執行委員長を引き継がれたわけですが、その時はどのように受け止められましたか?

岩田:  松田さんから引き継いだ際、プロボノ活動は「会社と一緒にやる」という視野も持ちたいという話がありました。組合の役割は賃金交渉など従業員の就業環境改善だけでなく、キャリアアップや教養の増進など会社の役割と重なる部分もあります。
ただ、会社がまだ取り組んでいないことを先駆けて実施することも組合の役割だと考えています。プロボノは会社に先駆けて取り組めたテーマでしたが、キャリア関連の活動なので、最終的には会社に移していくべきだと思いました。

松田:  基本的な課題意識は引き継いでいます。組合だけでやっていると年齢層が限られてしまうので、もっと幅広い層に機会を提供できないかという思いがありました。また、組合単独で継続していくのも限界があるため、会社の企画として昇華させることが理想だと考えていました。

岩田:  会社主導にして良かったのは、ミドルシニア層が多く参加したことです。参加者の半分以上が40代以上で、組合員ではない層でした。やはり会社に移してやってもらうことには一定の効果があり、幅を広げていくために必要なことだったなという風に思います。
ただ、会社に移行したことで対象の幅は広がりましたが、会社側は「人材育成」というより「社会貢献」という文脈で捉えていました。プロボノは社会貢献という側面ももちろんありますが、「社会貢献」だけを前面に出して人を集めるのは難しかったと感じています。組合としては「人材育成」や「越境体験」という文脈で再度取り組みたいという気持ちがあります。

藤木: 社会貢献として参加された方々から「テーマ設定があらかじめあっても良かったのでは」という意見もあったようですね。

岩田:  そうですね。参加者のステージによって求めるものが違うと感じました。若手であれば、どんなに苦労しても「何かをやり遂げた」という経験自体が成長に繋がります。しかしミドルシニア層は既に専門性を持っていて、それを活かして貢献したいという思いが強いため、事前に課題設定があった方が良いと感じる傾向があります。参加者の幅を広げられたのは良かったのですが、ニーズの違いがあったと感じます。
もちろん様々な角度での検討が必要ですが、会社として人材育成の枠組みの中にプロボノ活動を入れてほしいなというのを次の野望として持っています。

大澤:  二枚目の名刺での活動は、単純に団体さんを助けられるというだけでなく、課題設定から関わることで本人が変容するんですよね。その点に共感いただき野望を持ってくださってるというのはすごく嬉しいなと思います!
貴重なお話を聞かせて頂き、ありがとうございました。

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