「危機管理のプロは、なぜ単身でイスラエルに乗り込んだのか?」Points of You Japan市居嗣之さん
【今回の二枚目人】
合同会社グローバルリンク社長/Points of You Japan代表
市居嗣之さん
今、静かな広がりを見せているコーチングのツールがある。「Points of You®」。手触りのよい布のパッケージに包まれた65枚のカラフルな写真を見ているだけで、誰もがイマジネーションをかき立てられる。今回、ご登場頂くのはPoints of You Japan代表の市居嗣之さん。なんと、本業は危機管理会社の社長さんだ。その市居さんがなぜ、単身イスラエルの本部に乗り込み、Points of You® を広めるに至ったのか?そこに込めた思いや今後のビジョンをうかがった。
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防災トレーニングをする中で抱いた問題意識とPoints of You®との出会い
酒井:危機管理会社の社長をされている市居さんが、なぜ単身でイスラエルに乗り込み、Points of You Japan 代表という2枚目の名刺を持つに至ったのかを伺えたらと思います。まずは市居さんのプロフィールからお聞かせ願えますか。
市居さん(以下、敬称略):IT企業で8~9年務めた後、2009年5月に防災・防犯といった危機管理全般を扱う合同会社グローバルリンクを立ち上げました。自治体から業務を受け負い、市民や行政担当者のトレーニングをすることが主な仕事です。以前はテロに関する国際業務にも携わっていました。
酒井:自治体が抱えている課題にはどのようなものがあるのでしょう?
市居:例えば新宿区だと、防災対策です。首都直下型地震を見据えて、区の職員の力を借りずに、区民が自分たちの力で小中学校に避難所を立ち上げることができるようなトレーニングを実施しています。
机上で理解するだけではなく、区民の方が避難所を立ち上げるにあたり、どの教室をどう使うかだとか、どこに本部を置いたら良いかだとか、実際に体を動かして訓練しているんですよ。
酒井:そこから二枚目の活動であるPoints of You®の活動を始められたわけですが、まずはPoints of You®を見つけて、単身でイスラエルに乗り込むまでの話をお聞かせいただけますか。
市居:トレーニングのサービスを10年以上提供してきた中でわかったことは、災害時に何が起こるのかということは、インターネットやテレビの情報を通じて皆さんよく知っているのに、具体的な行動に転換する場面になると、途端に体が動かなくなるということです。
このことは、Points of You®に出会う前から一つの問題意識として持っていたことではありました。トレーニングを行うと、そのギャップを感じるんですよ。こうした理由から、防災や防犯や危機管理といったことに限らず、イメージする力をトレーニングできるツールがないのだろうかと探し始めました。
酒井:なるほど。実際に災害が起こったときに対応できる力をつけられないかと考えたわけですね。
市居:日本の場合、幼児の右脳を開発するツールはたくさんあったのですが、私が探している大人の発想力や想像力を鍛えるようなものはなかったんです。それが海外のツールに目を向けるきっかけになりました。
そんな中で出会ったのが、Points of You®です。世界中で想像力の開発や人材開発に活用されているのだということを知り、本当にそれが機能するのかということは半信半疑の状態で、まずは日本で手に入れるにはどうすればいいのかという問い合わせをしました。
その段階では、日本で具体的に活用している人はいないということだったので、インターネットを通じてツールを購入したのですが、実際に手に入れてはみたものの、独学で理解するには難しくて…。イスラエルの本部にメールや電話で問い合わせて説明を聞いてもいまいちよく分からなかったので、直接行ってみることにしました。
酒井:すごいですよね(笑)。イスラエルまで行こうと思われた動機は何だったんですか?
市居:私の性格もあると思います。最近ではスカイプやチャットで顔の見えるコミュニケーションができるとはいうものの、1対1のコミュニケーションが私の中で一番しっくりくるんです。まわりからもよく驚かれますが、以前から防衛関係の仕事で世界を飛び回っていたこともあったので、渡航に対する抵抗があまりなかったのかもしれません。
イスラエルで触れたPoints of You®の魅力
酒井:実際にイスラエルの本部に行かれて、どうでしたか?
市居:私が感動したことが二つありました。一つが、Points of You®そのものの魅力。特に、このツールができた背景や歴史の部分です。もう一つは、開発者二人の人格です。
酒井:Points of You®そのものの魅力とはどんなところだったのでしょう?
市居:Points of You®は、元々コーチングの二人のプロフェッショナルが開発したツールです。そもそもコーチングというと、どうしても高価なサービスのイメージがありますよね? 二人も最初はエグゼクティブな方々をクライアントとしてサービスを提供していたようです。
でもあるとき、「本当にコーチングを必要としている人は、貧しい生まれの未成年やDVの被害を受けた女性たちなのではないか」と思うようになり、ペイフォワード(Pay forward)というNPO団体を立ち上げて、こうした方々にコーチングを行う活動を始めました。
でも、サービスを必要とする全ての人たちに対応するのは、二人の手だけでは到底足りない。「何とかして自分たちの手を介さずとも、同じようなサービスを提供できるような手立てはないものか」と試行錯誤した末に形になったものが、Points of You®だったそうです。
酒井:そして二つ目の魅力は、開発者の人格ということですが。
市居:過去にサラリーマンをしていた頃は、スーツをビシッと着て、皆ビジネスライクだったんです。でも私としては、ビジネスで関わる人たちとも、もう少し親密な関係性の中で仕事をしていきたいと思っていたところがありました。開発者の二人はまさにそういった方々なんです。基本的にTシャツとジーンズといった格好をしているので、最初から壁が抜けているような感覚がありました。
(開発者のYaron&Golan)
Points of You®の価値は、壁を壊し視野を広げること
酒井:そうした感動によって、Points of You®を日本に持って来られたわけですが、団体を立ち上げようと思われたのはなぜですか?
市居:Points of You®を日本に持ってきた後、コーチングやカウンセリングといった、いわゆるクライアントに対してケアを行っているプロフェッショナルな方々に使っていただいたのですが、半年くらい経った頃から、「自分の力だけでは、満足のいくサービスが提供できないのではないか」という声が上がるようになってきました。
私自身も、「こんなツールです」と伝えていくだけでは足りないと感じていたので、危機管理会社の業務でずっとやってきた研修やトレーニングのサービスをPoints of You®にも取り入れることを考えました。そうすると、研修を提供するだけではなく、その方々をサポートするような仕組みも必要になってきます。しっかりとした団体を作らなければと、2014年の1月にイスラエルにある本部の日本支部のような形で「Points of You Japan」を設立しました。
酒井:私も去年初めてPoints of You®に接しましたが、急速な勢いで広まっていると感じます。
市居:2014年に約40名程、2015年に約160名、2016年に約460名の方がトレーニングを受けています。多くの方はカウンセラー、コーチング、セラピストといったプロフェッショナルとして活動されている方ですので、当初考えていた層には比較的広まってきているのかなという感覚はあります。
酒井:団体としてのポリシーは何かあるのでしょうか?
市居:Points of You®でクライアントにサービスを提供するにあたっては、「壁を壊す」「視野を広げる」ということを意識していますし、Points of You®の価値であるとも思っています。サービスの形には色々あると思うのですが、まずはPoints of You®の正式なスタイルを習得して欲しい。Points of You®のやり方を知ったうえで、殻を破って欲しいと思っています。ずっと守り続ける必要はありませんが、あくまでもベースを知ったうえで、色んな形に変化させていって欲しいですね。
後編につづく
後編では、二枚目の名刺を持ったことで起きた変化や今後のビジョン、市居さんにとっての「幸せな働き方」をお届けします。
ライター
編集者
カメラマン