課題を解決するためにLifeWorkSProjectができること−ここから汐留のコレクティブ・インパクトが生まれる【後編】
汐留という場所で今、新しい動きが起こっている。
会社員、地域NPO団体、自治体職員、学生。
汐留に関連がある様々な人々が集まり、7つのプロジェクトが始動した。
その大きなコンセプトであるLifeWorkS Projectとは一体何なのか?
これからの「働く」と「生きる」が混在する取組みのキックオフ、後編を追う。
「働く」はこれから、どんどん「生きる」に近くなる。
自分自身の夢や大好きなことを見つめ直して、それを今の仕事と重ね合わせて。
1人ひとりが、自分らしいと心から言えるこれからの働き方を語り合い、
仕事のカタチをデザインしていくプロジェクト。
「今」を変えたい!そんな想いを持つキーパーソンたち
株式会社フューチャーセッションの野村さんがゆっくりと壇上から参加者に向かって話し始めた。
「今日皆さんにお聞きしたいのはLifeWorkSってコンセプトにワクワクしているかどうかということです。人にやらされるものではない。自分のLifeWorkSってなんだろうかということを考えて、自分ごとにしてもらいたい」。
キックオフ後半のファシリテーター野村さんは参加者皆さん一人ひとりに問いかける。
総勢200名近くの人たちの視線が一瞬ふっと散らばった。
今日自分自身は何故ここに足を運んでいるのか。
この場所を通して自分は何を得たいのか。
今の自分に何ができるのか。
そして自分にとってのLifeWorkSとは何か。
参加者自身が自分はどんなLifeWorkSが考えられるかを話すネットワーキングの時間。近くの人とグッと距離が縮まった。
それから7つのプロジェクトとして“僕が/私が考えているLifeWorkS”として提案や課題を持ち込んだ人たちからのプレゼンテーションが始まった。
(1)放課後×汐留リソース活用のアイディア
特定非営利活動法人放課後NPOアフタースクール(以下、放課後NPOアフタースクール):押塚岳大さん(おしづかたけひろさん 以下、押塚さん)
「子どもたちの放課後って今どうなっているかご存知ですか?」
子どもの連れ去り事件は放課後の時間に多発していること、日本の子どもたちの自己肯定感の低さ、学童保育が足りないこと。
現代の子どもたちには安全で楽しい放課後の環境がなかなか作り得ないという課題を、放課後NPOアフタースクールでは、学校を使って子どもを預かり、さらに地域の人が「市民先生」となって多様な体験を与えるという活動や、企業と一緒に連携し学校外での活動を行なっている。
「プレミアムフライデーが始まったけれど時間の有効な使い方が分からない社会人がいると。プレミアムフライデーが始まる15:00から17:00は、学童保育で人手が足りない時間でもある。そこを繋げるアイディアを皆さんからもらえたら」
押塚さんから、働き方改革が始まった企業や実践する社会人との繋がりをきっかけにこの汐留にて新たなアイディアが生まれることを望む声が上がった。
(2)かいしゃ・ぱーく・しおどめ
株式会社電通(以下電通):マーケティングソリューション局 相良晃子さん(さがらあきこさん 以下、相良さん)
「私は今子どもを育てながら働いていますが、フルタイムで保育園に預けていると日中のほとんどは親と子がバラバラな空間で過ごすことになります。それぞれの時間が全く見えていない。本当にそれでいいのかと思っていて。社会人と子どもたちが交わらないんだったら交わればいいんじゃない!ということで子どもを汐留に連れて来るプロジェクトを立ち上げたいと思いました」。
父親・母親がどこでどのように働いているか、子どもたちもその姿を知りたいだろうし、普段企業の顔として働いている社員同士が父親・母親の顔を会社で見せられる機会ともなる。
会社という場所にとっては異分子である子どもの存在によってLifeとWorkSはグッと重なり合うイメージを持っている。
この汐留というオフィスエリアに子どもたちを連れて「街」を感じさせることに賛同する人、共に動いてくれる人を相良さんは望んでいる。
(3)「動け」を後押しする、コミュニケーションを生み出すために
株式会社資生堂(以下資生堂):経営戦略部未来創造局・萩原なつらさん(はぎわらなつらさん、以下萩原さん)
資生堂は2016年9月に社員向けに、社内で知識を交換したり、支援者や実行者が繋がり合ったり、社員同士がさまざまな物事にトライしていける基地としてワーキングスペース「SHISEIDO PIT」を開設した。
「SHISEIDO PITを作る時『今後資生堂をどうしていきたいか。どんな資生堂でありたいか。そのために何を打破していくか』を社員にヒアリングしていく中でハードルが見えてきたのです」。
目指すべき姿はわかるがやるべきことが見出せなかったり、課題に対してアクションができなかったり、実行方法や人脈がわからないので繋がらなかったり。
「ハードルを超えていくためのコミュニケーションの仕組みとしてどんなことが考えられるか、皆さんのご意見をもらいたい」。
会社内部の課題を外に開示することによって、多様な人たちから様々な観点でのアイディアを受け入れる土壌ができていることが萩原さんの発言からも理解できる。
(4)意思決定スピード向上のための会議見直し
港区役所(以下港区):企画経営部企画課長 野上 宏さん(のがみひろし 以下、野上さん)
「港区は現在人口が増加しています。毎年約5000人増えていて、おおよそ3000人の新生児が生まれています。人が多くなるということは、その分課題も多くなるし、その分職員が超過勤務していることもある。職員が仕事と家庭とのバランスを取りながら働けるようにしたい。そのためには職員の時間管理が必要で、特に課題なのが会議体なんです」。
野上さんから、現在港区には300余りの会議体が存在し、管理職がそこに駆り出されてしまうため、その間一般職員で判断できないことが止まってしまうという現状が語られる。
「会議の時間が長いのではないかとか、会議の参加人数はどのくらいがいいのかとか、効率的な会議資料はないのか、模索している。働きやすい職場にできるよう皆さんの意見を借りたい」。
働く現場のリアルな変化を求める声に参加者が頷く様子が見られた。
(5)学び合いの場の提案
ソフトバンク株式会社(以下ソフトバンク):人事本部 妻沼孝征さん(つまぬまたかゆきさん 以下妻沼さん)
「社員同士で学び合うということが浸透してきています。そんな場として研修コースが年間261回開催され、述べ4000人以上の社員が強制ではなく参加しています。そして何より講師のほとんどが社員なのです」。
2010年からソフトバンクは「ソフトバンクユニバーシティ社内認定講師制度」を策定し、社内にいる様々なスキルや知見に長けた社員が現場で培ってきたノウハウをお互いに教え合い学び合うことで、社員一人ひとりの能力の向上を目的としているもの。プレゼン作成や英会話など様々な研修内容が生まれている。
妻沼さんから会場の皆さんに熱意のこもった声がかかった。
「うちの会社だけではなくいろんな企業の方に参加してもらい、知恵を出し合い学び合えたら。それは一個人にも、属す組織にもメリットがあるはず。参加したいと思った方はディスカションに参加してください!」
(6)2枚目の名刺@汐留の提案
特定非営利活動法人二枚目の名刺:代表理事 廣優樹(ひろゆうき 以下廣)
「2枚目の名刺があることで、その人の変化・成長があって、それによって新しい価値を自分が属す会社に生み出す。『自分は何をやりたい?』『私は何者なのか?』これを表現できる仕組みが2枚目の名刺」。
二枚目の名刺としても汐留という場所でどんなことができるかを廣が挙げる。
「今後は働き方改革によって会社外の時間は増加していく傾向となるでしょう。その時間をどうデザインしていくかはそれぞれ。最近周りでいろいろなことやっている人増えたなと傍観者になるか、自分自身が社外での活動も積極的に取り組む当事者となるかは、自分自身が選ぶものです」。
企業の人間だけではなく、NPO団体であっても、自治体であっても、学生であっても、自分個人が社会に何ができるかをアクションする上で、この汐留という場所を起点にした2枚目の名刺となる活動の展開へのアイディアを求めた。
(7)新しい働き方
株式会社電通アドギア(以下電通アドギア):未来デザイン部 小山朋美(こやまともみ 以下、小山さん)さん
「働き方について考え始めイノベーションを起こそうとしている。今までやっていた仕事を絞り、生産性をあげて、その余白から学ぶ時間を作り、新しい仕事へ繋げていくような動きを推し進めています」。
電通アドギアは、電通とサントリーコミュニケーションズ株式会社が資本を持つ総合広告会社であり、創立15周年を迎えた今年の4月には「未来デザイン部」が創設され、新しい働き方を推進していく動きが始まっている。
テレワークやサテライトオフィスを利用した働き方や残業を減らしていくための社内ポイント化など新たな試みに挑戦している。
「電通アドギアの働き方改革は始まったばかりです。今日ここに集まる人たちは働き方改革の先輩たちも多くいるはずです。たくさんの意見をもらいたい」。小山さんは、前を向いて力強くプレゼンテーションしてくれた。
プレゼンテーションが終わった後に野村さんから言葉が続く。
「それでは今からこの7つプロジェクトの中で自分が関わってみたい、何か提案ができる、興味があると思ったところに集まり話をしていきましょう」。
200名近くの参加者が一斉に各プロジェクトのプレゼンターのいる場所に分かれていった。
グループごと自己紹介が始まったり、名刺交換がスタートしたり、早速ディスカッションが始まったり、それぞれの動き方が始まっていった。
お互い異なる場所にいるからこそどこで何をしているのか自己紹介しあう様子
参加者同士がプロジェクトにおいて何ができるか、にこやかにブレストしあう様子
株式会社スノーピークビジネスソリューションズはLifeWorkSに共鳴しテントを貸出。コンセプトにふさわしい環境づくりに参加者の距離も縮まっていた。
一番重要なのは、ネクストアクションに繋がるかどうか
このキックオフにおける各プロジェクトのゴールは明確だった。
プロトタイプまで作ることが設定されていた。
参加者がその場でフォームを入力し今日中にプロトタイプを明示できる仕組み
プロトタイプとは完成完全版という形ではなく、まずは理想をイメージして大筋を固めた模型を指す。つまり、ある程度共有したゴールイメージを形にしてそこにたどり着くために具体的な骨子まで作るということが、今日この場で仮設定されるということ。
ただの話し合いやディスカッションに終わらず、今日のこの時点でまずは模型まで作ろうというこの設計が、潔く感じる。
それぞれの経験、知識、視点、想い、どのような枠組みから言葉を発してもいいから、各プロジェクトがどのようなゴールを描けるか、ここに向けて各グループは大いに盛り上がったようだ。
各プロジェクトのリーダーによるネクストアクションの発表
それぞれのプロジェクトリーダーから、感想とネクストアクションの発表があった。
「ネット上でコミュニケーションをとり、もっと多くの人が関われるようにしたい」
「それぞれ会社のカルチャーが違うという気づきがあった。もっと他社と話す機会を作りたい」
「早速皆で次回会う場を設定しました!」
「学生たちから見た“カッコイイ大人ってどんな人?”という議論から、自分が実現したいことをやっている人だと意見があがった。実現するための賛同者を集めたい」。
「違う立場の人たちからの意見はとても必要だと思い知った」。
「1年以内に30分以内の会議を実現します!」
プロジェクトリーダーの発表中にもプレゼンターを応援するような声が上がり、短い時間でも参加者同士のネットワークが作れたことがはっきりとうかがえる。
今日初めて出会った人たちと、今まで触れたこともない課題や提案に自分が関わることを選び、そして一歩行動を起こしていること。
短時間でプロトタイプまで出し、さらにネクストアクションを提示するグループに至っては間も無くそれが形になり得るムードさえあった。
自分から行動を起こすこと。
行動を起こしていくためには1人ではなくて他者と関わっていくこと。
それによりさらなる刺激を受けて前進できること。
多くの人がそれを今日実感したはず。
汐留にある企業、NPO団体、行政、学生などさまざまなセクターが集まり、これから頭の中で動いていた企画がどんどん形になっていくだろう。
2枚目の名刺Webマガジンは今後もこのLifeWorkSの動きを追っていきたい。
写真)鈴木六二三
ライター
編集者
カメラマン