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公務員×一般社団法アソボロジー代表理事 自分の機嫌を自分で取る、公務員キャリアにおいてワクワクするための働き方 

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新米公務員パラレルワーカーのはまむーが先輩パラレルワーカーにインタビューする本シリーズ。今回のインタビュー相手は同じ京都市役所で働きながら、一般社団法人アソボロジーの代表理事や同志社大学で非常勤講師を勤める伊藤圭之さん。公務員という世間一般では刺激が少ないと思われがちな仕事をワクワクしながらする伊藤さん。今回はそんな伊藤さんが大学講師や法人の代表理事といった2枚目の名刺を持つに至ったきっかけと、本業である市役所の仕事を面白がるコツについてインタビューしていきたいと思います。

■伊藤圭之(一般社団法人アソボロジー代表理事)

本業は京都市役所にてふるさと納税の担当係長を務める。市役所の仕事以外に、
「あそび」×「まなび」をテーマに、まなびにつながるゲーム開発や企画を実施する
一般社団法人アソボロジーの代表理事や、同志社大学の非常勤講師など多種多彩なフィールドで活動する。

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1.システムエンジニアから京都市役所への転職、家庭のために公務員へ。

元々、民間企業でシステムエンジニアとして働いていた伊藤さん。京都市役所に入ったのも明確な動機があるわけではなく、前の会社が飽きてきたので転職しようかなと思ったタイミングで、たまたま友人に京都市役所を紹介してもらったのがきっかけだった。

当時、民間経験者採用の倍率50倍で、かつ公務員試験の勉強をする時間もなかったため、勉強時間0時間で筆記試験に挑むことになった。しかし、結果は見事1次の筆記試験を突破。

「正直、落ちていると思っていました笑。通った時は『マジか』と思いましたね。京都市役所の民間採用試験における筆記は足切りでしかなく、出題が英語や時事問題といった教養試験だけでした。でもギリギリの点数だったと思います。」

その後試験は順調に進み、最終的に京都市役所の内定を見事獲得した。実は大手家具メーカーの内定を同時に貰っており、当初は京都市役所から内定を貰えるとは思っていなかったため非常に悩んだ。

「給与面であれば、圧倒的に大手家具メーカーの方が良かったんですが、その企業は全国転勤で初職場は札幌の予定でした。子供も小さかったので、家族のことを考えて、京都市役所で働くことを決めました。当時、その企業はアメリカへの海外展開も視野に入れており、自分は英語もできたので家庭がなければ、面白そうなそっちを選んでいたかもしれません。」

2.初めての2枚目の名刺〜働きながら龍谷大学大学院への進学〜

子育ても考え、家族との暮らしを重視して京都市役所の道を選んだ伊藤さん。元々、友達とシェアルームをしたり、
何か「面白いこと」を企てるのが好きな伊藤さんが京都市役所に入って2枚目の名刺を持つようになったきっかけは、
龍谷大学の大学院へ1年間通ったことだった。

「行政とNPOから推薦された社会人が集まる、地域貢献人材を育成する龍谷大学の大学院に奨学金を貰って入学しました。本来2年間勉強をして修士論文を書くはずのところを、1年間で仕上げる非常にストイックなプログラムでした。さらに、京都市役所内の研修である、市民協働を促すファシリテーターになるための研修も同時に受けていたので、とても忙しかった記憶があります。」

大学院では、他の社会人大学院生である行政やNPOの人とのネットワークが構築され、多くの刺激を得た。
他にも、市民協働ファシリテーター研修※で、京都市役所内の熱くやる気のある人たちに出会い、
「部署の枠を超えた時、庁内にもこれだけのやる気のある人たちがいる!!」と思った。

※市民協働ファシリテーター研修とは、京都市が企画するワークショップにおいて、企画や運営をするとともに、行政課題解決のために行政と市民をつなげる支援をするファシリテーターを養成する研修。市民協働ファシリテーター制度について詳しくはこちら。

市民協働ファシリテーターになった後は、積極的にワークショップへ手を上げた。そんな中、
市民協働担当へ異動になり積極的にまちづくりの関係者と関わる機会が増えていき、この異動が伊藤さんが、
「自分のやりたいこと」を実践するきっかけとなる。

市民協働担当になった時に、市民協働の係長の本務として、同志社大学のプロジェクト科目の授業公募に応募した。
これが、一般社団法人アソボロジーの前身だった。当時の上司には、
「市民協働の計画策定の仕事もあるのに、授業公募の仕事もして大丈夫か?」と聞かれたが、
「大丈夫です!!」と言い切ってそのまま授業に応募して無事に採用された。

大学講師の仕事は学生とも交流できて楽しかったが、これは1年ごとの募集で、本務のまま応募し続けることには大きく2つの問題があった。1つ目は、市民協働の部署から異動になった場合には授業をすることができなくなること。2つ目は、本務のままにした場合、後任の市民協働係長にも、重たい授業の仕事を任せることになり負担になる可能性があることだった。だから、2年目の応募をする際に市民協働の係長としてではなく、あくまで個人としてはやっていいか上司に打診した。

当時の課長の後押しもあって、「やってみるか!」という形で承諾され、京都市の人事部署にも無事許可を貰うこともできた。その後大学の授業がある時は講師控室でテレワークをして、講義の時間帯は時間休を取得して教鞭をとった。

京都市役所の副業ルールは、①本務に支障をきたさないこと②従事先が京都市との利害関係がないこと③京都市役所の職員としての品位を汚さないことが基準となっている。人事部署へ許可申請を申し込む際にも、この同志社大学での講師業が基準①から③を満たすことを説明した。この同志社大学の講師としての仕事が本務以外の初めての2枚目の名刺だった。

「現時点で実際に『名刺』として持っているのは、①一般社団法人アソボロジー②同志社大学の非常勤講師③龍谷大学のメンター※の3枚ですが、『名刺』を作っていないだけで京北地域の林業を盛り上げるプロジェクトの事務局長もやってます。」

※日給5,000円で龍谷大学の卒業生がメンターとなって現役学生の悩みを聞く活動。

3.アソボロジーが一般社団法人になった理由〜市民活動の実践と大学生との伴走〜。

一般社団法人アソボロジーは、好奇心とアソビゴコロをどれだけ引き出すことができるか?というテーマで様々な事業に取り組んでいる。そのためのゲーム作り、人材研修、ゲーミフィケーションに基づくファシリテーションや場づくりなど様々なことに取り組んでいる。

例えば、京都文教大学と新聞社が一緒にやっている子供記者クラブという活動があり、小中学生が記者として自ら取材すると実際に新聞に載るというものだが、この活動のチームビルティングやウォームアップワークを任されたりしている。

基本的に対象が子供が多いが大人も含めた活動をしている。好奇心や遊び心を、その人から引き出して、
その人を活性化(ワンダードリブン)することを手伝うことをアソポロジーの基本理念としている。

アソボロジーを法人化した理由は大きく2つあった。
1つ目は本業でまちづくり活動をする中で法人設立の相談を受けることもあり、法人設立の知識があった方がいいと考えたからだった。それに加え、本業で市民活動団体の支援をする際に「行政って市民活動しないよね」と言われることも少なくなかったからだ。だから、
自分自身が法人を設立し市民活動をすることで支援者である市民活動団体にも仲間意識を持ってもらえると考えた。

2つ目は、法人設立の経験が伴走相手の大学生にとっても有意義なものになると考えたからだ。同志社大学の講師業の繋がりから大学生と「師弟関係」のようなものを結んで、大学生の成長の伴走をしている。大学生にとって法人設立の経験が、大学生が大学生以外の人と関わる良いきっかけにもなると思い、大学生達と一緒に法人設立の手続きをした。

大学生に伴走している理由は、人が何か新しいことを知ったり、気づいたり、若しくは自分の中にあるまだ見つけられていなかったものを発見する(ブレイクスルー体験)場に居合わせることが元々好きだからだ。

「家系が代々高校や大学の教員が多いので、もしかしたら、そういった血筋があるのかもしれませんし、
自分自身が子供の頃に父親から引き出してもらい話していて楽しかったという思い出があるからかもしれません。」

4.「自分で自分の機嫌を取る方法」伊藤ファーストという性癖

「伊藤さんは自分で自分の機嫌を取るのがうまい」と言われることがあるが、これはテクニックというよりはそういった性癖に近い。また、市民協働コーディネーターに「伊藤さんって伊藤ファーストですよね」と言われたこともある。いろいろなことはしているが自分の気持ちに正直に自分の「やりたい」を大事しているという意味だと思う。

自分で自分の機嫌を取っているというのは、要は「やりたいことをやってる」ということ。ただ、自分がやりたいことをやるというのは言うのは簡単だが、やらないといけないことや置かれた立場がある中でやりたいことをやるのは難しい。

そんな時の打開方法は2種類あり、

1つ目は今の環境を変えること。例えば、同志社大学の講師業が市民協働の仕事に資するものだと上司を説得して自分のやりたいことを本務にすることが挙げられる。

2つ目は、環境を変えず、今の環境の中でやりたいことを見つけて考え方を変えること。例えば、最初の職場は生活保護のシステムを扱う部署だったが、仕事として関わらなければ、知らなかったであろう生活保護制度を知ることを「面白い」と捉えて「やりたいこと」として認識していた。他にも、単純作業であれば、より短い時間でより正確に仕事をするためにはどんな身体の動かし方をすればいいのか、どういう入力の順番がいいのかといった視点で考えることができる。

「他人の気持ちや考え方を変えることはできませんが、環境や自分の考え方は変えられる余地があります。そして、仕事ができる人は仕事を面白がってできる人です。仕事を嫌がってやって高いパフォーマンスが出るわけがありません。スポーツ選手やアーティストと一緒です。自分の考え方や環境を変えて、面白がって仕事をしている人が仕事ができる人です。

周りの人にも、伊藤さんは仕事を楽しんでいるとよく言われることが多い。子供の頃から読書が好きで、まわりの子供が遊んでいる中一人で友達の家の本を読んでいた。本を読む習慣があるといろいろなことに興味の幅は広がりやすいと思うし、それが環境や考え方を変えて仕事を面白がる今のスタンスに繋がっている。

また、読書をして物語を知ることで、膨大な仮想体験を得ることができる。公務員が異動によって新しい業務に触れることは、新しいストーリーを体験することに近いと思う。

5. 1つの組織しか知らないことほど不健康なことはない。

伊藤さん自身の考えとして、大学を卒業して1つの会社の価値観に染まるのは、その人とって良くないとのこと

「副業や転職、派遣といった方法で、別のセクターの価値観を知った方が多くの学びがあります。」

また、2枚目の名刺を持って活動し、本業以外の違う顔を持たなければ見えないものがある。それは、
学校に行かず子どもが家にこもって親や兄弟としか話していない状況は価値観に偏りがでるので、学校に行って別の人間関係を作ることと似ている。

1つの組織に入って、ずっとその組織で働きその組織しか知らないということほど不健康なことはない。

外のことを知らないと、逆に自分の組織の良さも知ることができないので、メタな視点を持つためにも2枚目の名刺を持つといい。

自分の置かれている状況は自分の1つの組織に所属しているだけでは分からない。
2枚目の名刺を持って、自分の組織の良いところ・悪いところを知って、2枚目が良ければ転職すればいいし、
そうでないなら1枚目の組織のことをもっと「知る」ことも大事。

6. 公務員は民間よりも副業がしやすい。安定しているからこその挑戦。

市職員は市役所のことをやりたいことができない組織と思い過ぎている側面がある。

「ルールや法律でも禁止されていなくて、やってもいない段階からこれはできないと思い込んでしまっていることがあるように思います。例えば一般社団法人を設立した時も、大学講師を始めた時も、周りから『できるんだ』と驚かれました。やろうと思えばできるのに、やれないと決めつけてやれてないことも多々あると思います。他にも、私は屋上でトランペットを吹いたり職場のIHで料理をしたりしています。」

昼休みに屋上でトランペットの練習をする伊藤さん

そして、実は公務員の方が民間よりも副業をしやすい。なお、ここでいう副業は金銭的報酬のないものも含む。民間企業は労働者と経営者が労働契約を結んでおり、副業にすることによって労働効率が下がることが懸念され、副業禁止のバイアスがかかりやすい。一方で、公務員の労働条件は法律によって定められており、地方公務員は仮に市長が副業をやらせたくなかったとしても法律に抵触しなければ問題なくできる。また、安定している立場だからこそ、その安定を軸足として挑戦的なことをすることができる。

市役所に限らず、日本のコンプライアンスは怒られないようにするために、やってはいけないか「分からない」ことも、勝手にやってはいけないと決めつけて、議論すらされないこともある。議論すれば効率化され改善される可能性もあるが、なんとなくの不文律がまかり通り、結果として組織全体で見た時に非効率さや不合理が生じてしまう。それはいろいろな可能性に蓋をしてしまっている。

また本業が忙しすぎて2枚目の名刺を持つ余裕がないのは市役所に限った話ではなく、日本の社会全体の「忙しすぎる問題」が原因にある。社会全体に余白がなく、忙しく仕事をして2枚目の名刺に割く時間がないような働き方をしても、それほど本業の労働生産性も向上していない。

行政に限って言えば日本の民主主義コストも高く、手続き的正義を実現するために時間がかかりすぎて、それが極端な忙しさに繋がっている。さらに、まともな議論もされているかというと疑問であり何の対話もされておらず、大学生に市の委員会の議論を見せると悪い意味で勉強になってしまう。

7. みんながみんな仕事の中で「ワクワク」する必要はない。

「仕事をする上でワクワクしてパフォーマンスを上げることは大切なことですが、市役所にいる人間が全員僕みたいになったら終わりです笑。」

行政の仕事で正式な本務として事業創造をする部署は多くはなく、税金や福祉のように規制をしたり審査をしたりして強力な権限を持って安定的に社会を形成することを目的とした部署も多数あり、それも社会にとって重要な役割を果たしている。

「僕はどんな仕事にでもワクワクしようとする性格ですが、こういった性格だとワクワクすることが難しい職場だとパフォーマンスが下がってしまい、これが自分自身の弱点だとも思います。」

仕事に対して「楽しい」と思わないまでも、自分の仕事の社会の中での役割を認識して誇りを持ってやってほしい。「ワクワク」することは本業以外の2枚目の名刺でチャレンジしてみて、そこが自分を解放する場になればいいと思う。

市役所の仕事は多種多彩に渡り、度重なる人事異動で自分のやりたい「面白い」仕事に就けるとは限らない。私自身、希望の部署に異動するための努力をしたがそれが実らなかった苦い経験がある。けれど同じ時間を費やすのなら、その「面白くない」仕事を面白がって取り組む方が非常に有意義だ。一方で、本業が忙しすぎて2枚目の名刺を持って活動するための時間がないと言っている友人も私のまわりで少なくない。こういった、社会に余白がないという構造的な問題もあり、この「日本の仕事が忙しすぎる問題」にどう向き合っていくべきのか考える良いきっかけとなった。
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濵村 和生 kazuki hamamura
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二枚目の名刺の広報ユニット員、サポートプロジェクトデザイナー。 京都市役所に勤めながら、NPO法人FREEBOXの代表理事として法人運営をし、「やりたいこと」と「できること」で社会貢献する「場」の構築を目指す。