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越境学習者は2度死ぬ~越境学習を組織に導入するポイント~『越境学習による冒険人材の育て方』開催レポート・前編

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多くの企業が戦略の実行、生産性の向上、社員のリテンション等のために、以前にも増して人材開発に力を入れるようになってきた昨今、人事担当者らの中で「越境学習」という新しい学びへの関心が高まっている。

ビジネス環境の大きな変化に伴い従来型の企業内OJT=経験学習の限界も感じる中、組織の中で新たな挑戦・変革のために人材育成の手法として越境学習(=体験学習)を自社に導入できないか、模索している人事担当者も少なくない。

この記事では、主に人事担当者を対象に開催したオンラインイベント「具体事例から知る! 石山教授と企業人事が語る『越境学習による冒険人材の育て方』~コンフォートゾーンの突破を後押しする新たな社員研修~」の内容を報告するとともに、組織における人材育成の手法として「越境学習」を導入する際のポイントをお伝えする。

1.オープニング~代表・廣優樹によるNPO二枚目の名刺紹介

イベントでは、まず代表・廣優樹からNPO二枚目の名刺の活動についてご紹介した。

NPO二枚目の名刺の活動の柱は、「サポートプロジェクト」(以下、SPJと表記)という企業・団体に勤める社会人とNPO等社会課題の解決に取り組む団体とが一緒に取り組むプログラムである。
その特徴は、自ら手を挙げて参加すること、想いを重視しスキルを条件としないこと、二枚目の名刺のプロジェクトデザイナーが伴走することが挙げられる。

SPJでは毎回参加した社会人にアンケートに答えてもらっているが、96%が「プロジェクト参加前後で自分の変化や成長を感じた」と回答している。
「どういうモチベーションで社員が参加するのか、そのひとが(越境先から)帰ってきたときにどうすると組織にとっての価値へとつなげられるのか考えていただければ」と結んだ。

 

2.石山教授基調講演~越境学習者は2度死ぬ~

続いての基調講演では、石山恒貴教授(法政大学大学院 政策創造研究科)から「越境学習による冒険人材の育て方―コンフォートゾーンの突破を後押しする新たな社員研修―」と題してご講演いただいた。

石山教授は、越境学習研究の第一人者であり「時間と場所を選ばないパラレルキャリアを始めよう!」(ダイヤモンド社)、「越境的学習のメカニズム」(福村出版)など関連著書も多い。
NPO二枚目の名刺でも2014年頃から共同研究に取り組ませていただいており、参加者へのインタビュー等をつうじてSPJにおける越境学習のメカニズムを調べていただいた。

■「越境学習」とは

まず石山教授は、越境学習の定義について以下のように語った。
「越境と言うからには何かの境界を越えるのだが、境界とは何だろう? それは《自分の心の中のホーム》と《自分の心の中のアウェイ》を行ったり来たりすることである」

石山教授によれば、ホームとは《そこに行くと良く知ったひとがいて社内用語もつうじるので安心できるけれど刺激がない場所》、アウェイとは《そこに行くと見知らぬ人たちがいて社内用語も通じず居心地が悪くて不安だけど刺激がある場所》であり、ここを往還するのが越境学習なのだ。

■越境学習のメカニズム

続いて、NPO二枚目の名刺が実施しているSPJについて、経験学習としてのメカニズムについて解説をしていただいた。

「①まず(SPJでは)上下関係がないため、ひとりひとりがリーダーシップ、オーナーシップ(主体性)を発揮しなければいけない」
「②また、他社のひとたちとの社内用語が通用しない関係、NPOのひとたちの会社組織とは異なる考え方や情熱などに触れると、そこに異質性があり、葛藤があって揺さぶられて学びになる」
「③さらに抽象度という点でも、自分たちでミッションを設定しチームの定義もしなくてはいけないことから、抽象度が高くモヤモヤして学びになる」

これらはSPJを実施するたびに参加者から聞いてきた「一人ひとりが主体性を発揮しなければならない」「価値観が揺さぶられる」「モヤモヤする」といった声とも一致する。

■越境の経験をとおした個人の変化

続けて解説していただいたのは、サポートプロジェクト参加者の3段階の変化について。

サポートプロジェクト参加者は、最初の頃、自分らがみんな違っていることに気付いていない。自分が知っている社内の言葉、仕組みが全国共通で通用すると思っている。しかし、自分の仕事のやり方で進めようとしてうまくいかなくて、チームが空中分解しそうになる(1段階目)。
うまくいかないので肚を割って話そうということになると、自分たちが互いに考え方や前提が全然違うことに気付く、これが2段階目の異質性の認知。
一旦このことに気付くと、互いの得意な部分を活かし合おうとする。これが3段階目の異質性を統合しようする段階だ。

石山教授も解説してくださっていたが、実際、全体の3か月間の中で、最後の1カ月くらいで急にチームが機能して、取組が進むようになるという話は、SPJに伴走するSPJデザイナーの間でよく言われていることだ。

■越境学習者は2度死ぬ

では、異質性の認知が変わったり「違いに気付く」ことが、本人のどんな成長につながるのだろうか?

石山教授によれば、リーダー的な立場では多様な意見を統合したり、メンバーに権限を委譲したり、曖昧な中でも意志決定するという力が身に付くのだという。
また、メンバーという立場においても、そもそもの意味を問い直すことや信頼関係の構築することなどを学ぶ。こういったことが会社に戻っても業務の中で活かされているということが分かった。

さらに、石山教授からは「越境者は2度死ぬ」というインパクトのある言葉も。

経済産業省との研究では、大企業からベンチャー企業への越境者の例として、ベンチャーのひとたちの圧倒的な迫力の前にショックを受け(①)、一段高い視座、広い視野を身に付け、ひと皮むける経験をする一方で、自らの組織に戻ってから「もっと社会課題に」「もっと経営の感覚をもって」と周りに呼びかけても「ちょっとどうしちゃったの? そんな熱量高いめんどくさいこと言われても困るよ」と言われショックを受ける(②)。これ(①②)が「越境学習者は2度死ぬ」という現象だ。二枚目の名刺のSPJでも同様の現象が起きている。

こういった越境者の経験を組織に活かすにはどうしたらいいのだろうか。
「人事部門の役目だ大事だ」と石山教授は言い切る。経営者にも意義を感じてもらい、上司にも「関心を持ちながらも関与しない姿勢」でいてほしいが、そこをつなぐのが人事の役割だと強調する。

■最後に

「越境学習は冒険だ。みんなが越境学習者の卵であり、特別なひとの体験ではない」と石山教授は強調した。
会社の中の同質的なOJTだけではなくて、いろいろな経験をすると、個人の中に多様性が満ちた存在になる。そういったことをドキドキワクワクしながら行っていくのが越境学習。

「何になりたいのか」「自分の価値観はどうあるべきか」という問いと向き合い、自分の価値観がハッキリするからこそ会社のパーパスにも深く共感できる。自分があるからこそいろいろな企業や人とネットワークをつくることができ、会社でも価値を発揮できる。

ただしたった一人だけ変わっても会社の変化には限界がある→変わり始めたひとびとを草の根にネットワークをつくったり、人事がその草の根ネットワークを経営者や現場の上司と結んだりできれば、より組織的にも大きな変化が起こるのではないか。

そう参加者にメッセージを投げかけた。

 

後編へつづく

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ライター

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島田正樹
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さいたま市役所に勤めながら、NPO法人二枚目の名刺「2枚目の名刺webマガジン」の編集者として活動。その他、地域コミュニティづくりの活動や、公務員のキャリアに関する活動などにも取り組む“公務員ポートフォリオワーカー”。『仕事の楽しさは自分でつくる! 公務員の働き方デザイン』(学陽書房)著者。ブログで日々情報発信中。https://note.com/shimada10708 https://magazine.nimaime.or.jp/shimadamasaki_interview/