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公務員こそ2枚目の名刺で未来を拓く!〜福岡市役所・今村寛さん(後編)

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前編では、公務員人生で大きな転換期となった出来事から2枚目の活動をスタートするまでの経緯について伺った。後編では、若い世代の公務員へのメッセージを中心に話を訊く。
前編記事はこちら

金治:2枚目の活動を通じて、今村さん自身が得られたものはありますか?

今村:人脈とコミュニケーション能力ですね。
財政出前講座を始めた頃に出会った方々と、最近になって再会することもあります。2枚目の活動での出会いが現在の中小企業振興部長の仕事にも活かされておりますので、やっていて良かったと思います。
また、コミュニケーション能力は飛躍的に高まったと実感しています。大学卒業後ずっと役所に勤務していると、どうしても職員以外の方と話すことに抵抗があったのですが、一度勇気を出して話してみると抵抗を感じなくなり、こういうスタンスで話せば大丈夫、ということがわかるようになりました。

2枚目の名刺とオープンマインド

金治:“こういうスタンスで話せば大丈夫”とは具体的にどんなスタンスでしょうか?

今村:オープンマインドですね。
役所の中で何十年も仕事をしていると、職員以外の方に心を開くことが難しくなってしまう。私自身もそうだったので、そこにハードルを感じてしまう気持ちは理解できますし、職員全員にオープンマインドを持ちなさい、というのは不可能だと思っています。
まずは自分自身がオープンマインドを持ち、民間企業から何か相談事を持ち掛けられたときに担当職員と繋ぐことができれば、民間企業が必要なときに必要な情報を得ることができるし、最終的にビジネスにも繋がる。民間企業の皆様に対しても、私の存在が役立っていると感じます。

金治:2枚目の活動をすることが、オープンマインドを持つことにつながる、ということでしょうか。

今村:そうです。
我々公務員は、なかなか素の自分を表には出しません。仕事で民間の方や市民の方と直接接するときも、「○○市役所の△△です」と身構えて少し距離を置いてしまいます。私は、オフサイトミーティングなどの「ゆるーい対話の場」を通して素の自分を出せるようになり、市民の方と接するときも、自然とオープンマインドを心がけることができるようになりました。「福岡市役所の今村」と「個人としての今村」を使い分けられるようになり、まさに2枚の名刺を持っているような感覚で人づきあいをしています。2枚目の活動とオープンマインドは卵と鶏の関係のようなものなので、どちらが先という話ではありませんが(笑)

金治:なるほど~。私も地域で2枚目の活動をしていると、オープンマインドって大切だなって実感しますし、だからこそそういった役所の外での活動で私の中のオープンマインドも育まれていると実感していて、すごく納得できます!
そういった姿勢とも関係があるのかもしれませんが、今村さんは、お仕事のことも全国各地での講座の模様なども、積極的にSNSで発信されていますよね。Facebookなどで発信されるときに、気を付けておられることはありますか?

今村:「ここまでなら書いてOK」というリテラシーの感覚的な基準は、日々磨いていますね。公務員がSNS等で発信するときに抵抗を感じるのは、「上司から何か言われたらどうしよう」という不安があるからですよね。ということは、上司から見て「すごいな」と思われることが書いてあれば、問題ないと考えています。
役所の人間だからここまでしか話しちゃいけない、とか、役所の人間は役所の悪口を言ってはいけない、とか、所管課じゃないから話さない、という対応をしてこちらが壁を作ってしまうと、市民の皆様は心を閉ざしてしまいます。SNSでも対面でも、役所の人間としての顔、個人の顔、市民の顔という3つの顔を場面によって使い分けることで、オープンマインドを心がけていますね。

公務員がプロジェクトベースで地域に関わる時代に

金治:ところで最近、国家公務員の兼業が容認されましたが、このニュース※を聞かれてどう思われましたか?

※政府は2018年6月15日に閣議決定した「未来投資戦略2018」において、労働市場改革の一環として、国家公務員の公益的活動等のための兼業に関する環境整備について位置付けた。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/#senryaku2018

今村:「歓迎すべきだ」「喜ばしい」という声も聴きますが、私は正直、まだまだ“ぬるい”と思っています。

金治:“ぬるい”とは、具体的にどういう意味でしょうか?

今村:創業・立地推進部長として起業支援を担当していたとき、起業家の皆様と仕事をしていました。そこで、彼らは、自身の会社の垣根を飛び越えて、いろんなところで繋がって、いろんな仕事を回している。つまり、プロジェクトベースで動いている、という現実を目の当たりにしたんです。
世の中はすでにプロジェクトベースの時代に変化しているのに、国家公務員の兼業容認のニュースのように、役所の中から見て“兼業”や“副業”と議論しているのは、それ自体がもう時代遅れだと感じます。今更、「こういう目的なら兼業してもいいよ」と議論している組織ってどうなんでしょうか。
公務員の本来の在り方を考えると、有償であってもNPO法人などの公共性の高い社会活動を行って良いことはある意味“当然”で、そんな段階の議論をしているよりも、早く、公務員がプロジェクトベースで地域に関われる時代が来なければならない、と思っています。例えば、公務員の身分を持ったまま、地域のまちづくりに関わる会社の役員として経営に関わったり、公務員として培ったノウハウや専門知識を生かして民間企業のサービスの創出に関わったり。公務員と民間企業とが、互いの持てる知的資源、人的ネットワークを活用し、業務として一緒にプロジェクトを動かせるようになれば良いですよね。

一歩踏み出し、継続することで未来を拓く

金治:部長というお立場でありながら、今村さんほど精力的に2枚目の活動を行っておられる方は全国でも類を見ませんが、管理職の立場から若い世代に向けてのメッセージがあれば、ぜひお聞かせください。

今村:その問いかけに対しては、2つお伝えしたいことがあります。
一つ目は、仕事できちんと成果を出していて、一定の公共性を持って2枚目の活動をしていれば、職場の中でも認められないことはありませんよ、ということ。役職が上がるにつれて、心がけなければならないリテラシーは若干変化しますが、それでも、部長になったからといって2枚目の活動を自粛する必要は全くありません。私のような前例があるんだから、やろうと思ったらできますよ、と伝えたい。
二つ目は、2枚目の活動をやり続ければ、すごい未来が拓ける、ということ。私は遅咲きで、財政出前講座をスタートしたのは43歳のとき(2012年)なんですよね。それから6年間で全国各地から依頼をいただくようになり、“スーパー公務員”なんて呼ばれるようになりました。裏を返せば、それまでは“ただの公務員”だったわけです(笑)。
今は、昔に比べれば全国でもオフサイトミーティングや自主研究会などが活発に行われておりますし、公務員の壁を越えて活動できる場もたくさんある。自分自身が足を踏み出せば、学びの場はたくさん用意されていると感じます。私は研修でアメリカに行くまで全く外の世界を知らかなったので、今の若い世代は恵まれていてうらやましいな~と(笑)。

金治:(笑)。確かに、6年間でここまで活動が広がったのは、すごいですね。

今村:そうですね。だからこそ、20代、30代の職員の皆様に伝えたいんです。皆様が、今の若い時期に一歩踏み出して、仕事も2枚目の活動も頑張れば、10年後は、自分でも予想していなかった素晴らしい未来が開けているはずなんです。私自身この6年間で体現してきたからこそ、そう確信しています。

まず、「鎧を脱ぐ」ことから始めてみませんか

金治:最後に、全国の公務員へのメッセージをお願いします。

今村:まず鎧を脱ぐことから始めてみませんか。
公務員って、“公務員という名の鎧”を着ているんですよね。鎧は重いけれど、着心地が良いんです。鎧を着ている限りはあまり攻撃されないし、いざとなれば鎧の中に逃げ込んでしまうこともできる。だけどそれでは市民の皆様に心を開いてもらえないので、これからの時代、公務員も鎧を脱いでいく必要があると感じています。
町内会でもいいし、ソフトボールでもいいし、とにかく公務員ではない顔で、人と付き合ってみて欲しい。それが難しければ、Facebookで発信することから始めてもいいし、イベントに行ってみてもいい。そんなことを少しずつでも続けていれば、自然と道が広がってくると思います。
ぜひ鎧を脱いで、一歩踏み出してみてください。

金治:本日は、ありがとうございました!

【満員御礼!作戦会議@神戸 募集締め切りました!】

10/27(土)10:00- 作戦会議「公務員プロジェクト、関西初上陸!」
場 所:120 WORKPLACE KOBE(兵庫県神戸市中央区磯上通4丁目1―14三宮スカイビル)
内 容:公務員こそ2枚目の名刺で社会を変える! 未来を拓く!
「公務員が2枚目の名刺をもつ社会を当たり前にする」ことをミッションに活動をしている「公務員プロジェクト」(正式名称:公務員×2枚目の名刺プロジェクト)。地域の課題に日々向き合う公務員が、組織や立場を越えて課題解決に活躍する社会をつくる。そんなプロジェクトに関心のある人は大歓迎! おかげさまで参加希望者多数により満員御礼となりました。ありがとうございます。
主 催:NPO法人二枚目の名刺

写真:長谷川尚人

【インタビューを終えて】
時間の関係で短時間でのインタビューとなってしまったが、どの質問にも的確に、また本質を突いた回答をいただくことができ、こちらの機微を読んでくださっていたように感じた。
二つの大きな転機に関しては、「衝動からの行動で思い付きなんです。」とご本人は仰っておられたが、お言葉の背景には、「これやってもらえないかな?」「あれよかったよ。」という、周囲の方々の存在を垣間見ることができた。
「たまたま始めた活動が、たまたま周囲のニーズに合っていた。みんなが“いいね”と言ってくれるから続けた。」とのお言葉からは、①自分の中の違和感を放置せず行動すること、②リクエストがあればとりあえずやってみること、③活動を継続することの大切さを教えていただいた気がした。まずは一歩踏み出してみると、何かしらの結果が生まれ、それが次の行動に繋がっていく。つまり、“P”のない、“DCAサイクル”により、自然と好循環が生まれ、現在のご活躍に繋がっているのではないかと感じた。
マイナス感情を放置せず、自ら行動を起こすことで人生を好転させてきた今村さんが放つお言葉からは、実感のこもった、エネルギーの強いメッセージをいただくことができた。私自身、身が引き締まるとともに、必ず次の一歩に繋げようと決心したインタビューとなった。

 

※ライターがブログで取材のこぼれ話を執筆しています。Webマガジンでは紹介しきれなかった話も随時公開!>おてんば公務員の徒然ブログ

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カメラマン

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金治 諒子
ライター
公務員×2枚目の名刺プロジェクトメンバー。 母であり、妻であり、プライベートで社会活動に携わる姫路市職員。孤独な子育てを経験し最愛の子ども達の前で笑えない日々を過ごす中で、社会と自分の在り方に疑問を持ち、地域に飛び出すようになる。子ども達の世代まで持続可能な繁栄を願う。そのためにまずは、母自身が自分の人生に主体性を持って行動する。