TOP > 介護業界の仲間が抱える悩みを共有したい。対話の必要性を実感し『未来をつくるkaigoカフェ』を立ち上げたケアマネ―ジャー

介護業界の仲間が抱える悩みを共有したい。対話の必要性を実感し『未来をつくるkaigoカフェ』を立ち上げたケアマネ―ジャー

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『未来をつくるkaigoカフェ』は、都内のカフェで毎月開催されているイベントだ。毎回、募集から数日で満席になってしまう大人気イベントである。介護や医療に関連するテーマが設定され、ゲストの話などをもとに、介護やケアについて語り合う中で、学びと気づきを得ていく。

主催者は、介護施設でケアマネージャーとして勤務する傍ら、2枚目の名刺としてkaigoカフェを運営する高瀬比左子さん(たかせひさこさん、以下、高瀬さん)。前編では、高瀬さんがkaigoカフェを立ち上げるためにどのように最初の第一歩を踏み出したのか、活動の中で得たものなどについて話をうかがう。

介護職を通じて自己肯定感を得る

高瀬さんは大学卒業後、一般企業や中間支援団体などの勤務を経て、介護業界に転職。現在はケアマネージャーとして施設で働いている。介護業界へは当初、営業職としての入社だった。だが人手不足のため、急遽介護事業所の立ち上げに携わることになり、スタッフとして訪問介護の仕事をすることになった。

唯一の常勤スタッフであったこともあり、電動自転車で利用者さんの元へ訪問する目まぐるしい毎日が5年間続いた。高瀬さんは当時のことを「修行の日々でした」と振り返るが、得たものはとても大きかったという。

「一対一で利用者さんと向き合う訪問介護の仕事からキャリアをスタートできたのは、とてもラッキーなことだったと思います。直接お家に訪問するため、家の中のルールに戸惑ったり、利用者さんから文句を言われたりと辛いことも多かった一方で、『来てくれて本当に嬉しい』と、私が来るのを心待ちにしてくださったりする利用者さんも多くいらっしゃいました。利用者さんと密なコミュニケーションを取る中で、『自分は人から必要とされているのだ』という実感が湧きました

一般企業でOLをしていた時には、「私ではなくても他に代わりがいる」「ここは私の居場所ではない」と感じていたという高瀬さん。介護の仕事を通じて、一般企業に勤めていた時には感じられなかった“自己肯定感”を得ることができた。また、高齢者と会って対話をすることで、同年代とは違う価値観や考え方に触れられたことも大きかった。

「いずれは何か自分らしい活動を」という想い

仕事を始めて3年目には介護福祉士、5年目にはケアマネージャーの資格を取得し、高瀬さんは順調にキャリアを積んでいった。しかし高瀬さんは、現場の仕事だけで終わろうとは思っていなかったという。

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漠然とはしていましたが『いずれは何か自分らしい活動をしたい』と思っていました。会社の中でトップに登り詰めるようなタイプではないこともわかっていましたし、組織というものに息苦しさを感じてもいた。父親が自営業をしていたこともあり、『自分も人も居心地の良いコミュニティを作りたい』という想いは以前からありました」と、高瀬さんは語る。

もともとおしゃれなカフェを巡るのが趣味で、多忙な仕事の息抜きにもなっていたという高瀬さん。訪問介護の仕事から離れ、ケアマネージャーとして施設に勤めるようになってからは、以前よりも時間に余裕ができ、体力面の負担も減った。そのような環境の中で高瀬さんは『未来をつくるkaigoカフェ』を立ち上げることになる。

本業で感じた課題が、最初の一歩を踏み出すきっかけに

「介護の現場で働いていると、非常に“孤独”を感じることが多いんです。同僚や上司に、自分がやりたいケアについて上手に共有ができずもどかしさを感じたり、介護の理想と現実の違いに苦しんだり。その一方で、いくら自分が前向きな想いを持って仕事に取り組んでいても、それを周囲に理解してもらえないこともあります。内気で口下手な人も多い業界ですから、なおさら。これは私だけではなく、業界で働く人達が共通して感じていることなのではないか? と考えました。

外の人とつながりを持つことで、同じ思いを持っている人達に出会えるのではないか、と思いました。また、自分の想いを言葉にして伝える対話のトレーニングにもなるのではないかと考え、そのような人達が集まれる場を作りたい、という想いで、kaigoカフェを立ち上げました」

現場で感じた働きにくさや孤独感を共有できたり、これから先のキャリアのヒントが得られたりする場を作るために、高瀬さんは最初の第一歩を踏み出した。

いち介護職の人が気軽に参加できる場づくり

介護に関するセミナーや勉強会などはあるが、そのような中では、参加者同士が交流することはなかなか難しい。業界の交流会なども、挨拶や名刺交換をする程度で得られるものが少ない、と高瀬さんは感じていた。カフェというスタイルにすることで、学ぶこと、人とつながることのふたつができることに加え、リラックスできる場になるのではないか。また、経営者や管理職などだけではなく、いち介護職の人達も来やすくなるのではないか、と考えたという。そのため、ネーミングにもこだわった。

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(写真=未来をつくるkaigoカフェ提供)

「自分も含め、『主体的に未来を切り開いていきたい』と考える業界の仲間を応援したい、という想いから、『未来をつくる』という言葉を入れました。また、個人的に『介護』というワードが画一的なイメージをつくっているのではないかと感じ、柔らかい印象にするため、あえてローマ字の表記にしました」と、高瀬さん。ネーミングひとつとっても、高瀬さんの想いが表れている。

高瀬さんはまず、Facebookやブログ、ツイッターなどでkaigoカフェの告知を始める。自分が発信することに共感してくれる人は多く、参加者は続々と増えていった。「介護従事者はリアルで話せる場を求めているのではないか?」という、高瀬さんの予想通りの反応だった。特に、相手の顔が見えやすいFacebookでの告知が効果的だったという。

カフェへ参加したことで自分を認められるように

kaigoカフェの参加者は、介護従事者や施設経営者をはじめ、その家族、医療・介護関係の勉強をしている学生などがおり、参加者層の幅も少しずつ広がっているという。年代は30~40代が多く、男女比率は半々程度だという。

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カフェの開催にあたり、高瀬さんが心がけていることは『参加者同士の対話が生まれやすい場づくり』。テーマの設定や準備などはきちんと行うが「自分だったらこのカフェに来たい、参加したいと思うか」を常に考えながら、堅苦しくない、なるべく“ゆるい”感じの雰囲気を作ることを意識している。

カフェのテーマは、介護やケアの本質、離職、法改正についてなど、現場で働く人はもちろん、経営者や医療・看護系の人でも共通して対話がしやすくなるようなものを設定している。

「カフェの参加者からは、『自分のやってきたことを肯定できた』『これからも介護業界で頑張ろうと改めて思った』などの言葉をもらうことがあります。『カフェで学んだことを現場に落とし込み、実践できた』という声をもらったりも。そのような言葉をもらうと『やっていてよかったな』と思いますね」と、高瀬さんは語る。

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(写真=未来をつくるkaigoカフェ提供)

自分も、同じ介護の仕事に従事する仲間も心地よくいられる学びや気づきの場を、と考え、カフェという形で実現した高瀬さん。同じ環境で思い悩む仲間とつながれたことが、高瀬さんの世界を広げていった。

なお、未来をつくるkaigoカフェと二枚目の名刺は、4月27日に「豊かな未来のための選択肢を増やすには」というテーマで、共催イベントをおこなった。

後編では、kaigoカフェの活動で自身や参加者がどう変化したか、新たな取り組みなどについて話を聞く。

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手塚 巧子
ライター
1987年生まれ。日本大学芸術学部卒業後、出版社勤務等を経て、ライター・編集者として活動中。ビジネス、社会問題、金融、女性・学生向け媒体など、幅広いジャンルにて記事を執筆。小説執筆も行い、短編小説入賞経験あり。