「働き方改革」をソーシャルイノベーションにつなげる【”働き方改革”とにっぽんの将来】分科会レポート①
2017年11月18日有楽町国際フォーラムにて日本財団主催のソーシャルイノベーションフォーラムが開催された。
3日間に渡って多くの分科会が開かれ、社会にとってイノベーションを起こそうとしている動きの原点や経緯、状況が様々な場所で垣間見える時間があった。
「”働き方改革”とにっぽんの将来」と題されたセッションには200名近い聴衆が集まり、ゲストスピーカーと会場とが「働き方改革」をソーシャルイノベーションにつなげるための具体的な方策について議論を行った。
企業・行政・NPOのそれぞれから、働き方改革の議論をリードする経済産業省産業人材政策室参事官・伊藤禎則さん(いとうさだのり 以下伊藤さん)、人事界のオピニオンリーダーであるユニリーバジャパン・ホールディングス株式会社(以下ユニリーバ)取締役・人事総務本部長の島田由香さん(しまだゆか 以下島田さん)、2枚目の名刺を持つことを当たり前の選択肢にすることをミッションに掲げる当団体代表・廣の3名がゲストスピーカーとして登壇した。
モデレーターは、新公益連盟の理事としてソーシャル業界への人材流入促進を仕掛けるNPO法人クロスフィールズ代表の小沼大地さん(こぬまだいち 以下小沼さん)が務めて2時間のセッションが行われた。
トライセクターそれぞれのフォーカスポイント
「“働き方改革”をどうやってソーシャルイノベーションに繋げるかを考える時、今現状どんな動きがあるかを見ていくと、社会貢献とビジネスが急速に接近する流れがあります。“社会課題を解決する”となった時、NPOだけではなく、行政や企業と連携をし、このトライセクターで課題解決へ踏み込んでいくことが大事だと考えており、今日はパブリックセクター、ビジネスセクター、ソーシャルセクターそれぞれの現場から人を呼びこの場をつくりました」
セクターを超えて繋がり社会に動きを仕掛けていきたい。
パブリックセクターからの“働き方改革”の視点
バトンを受けた第一走者の経済産業省伊藤さんはパブリックセクターからの視点で大局的な視点から話し始めた。
「日本の雇用システムそのものが変わろうとしているんです。新卒一括採用、終身雇用、OJTなど。そう言ったシステムが一部サステイナブルではなくなってきているんじゃないかと思います」。
口火を切った伊藤さんのこの言葉によって、“パブリックセクターの人がこれを言ってくれるんだ!”という会場参加者の期待感が高まったことを感じた。
「日本型雇用システム」そのものが大きく変わろうとしている。ここでは3つの柱が伝えられた。
「日本の働き方は、上司から“これやって!”と頼まれたらやらねばならないという仕事のスタイルが多いですよね。でもこのような働き方は仕事の範囲が明確に決まっている海外では一般的じゃないんですよ。日本のこのような仕事の仕方は長時間労働につながりやすいというデメリットもあり、しかし、いろんな仕事が経験できるメリットもあった。ただ、もう現実にこれを続けていくことが難しくなってしまうんですよね。これからは、出産・育児はもちろん、介護に関わる人がもっと増加し深刻化する。残業できて当たり前ということにはなりえなくて、“一億総制約“の社会になっていく。だから長時間労働の是正は、働き方改革を進める上で大きな点だと考えています」。
長時間労働を是正する、というイメージは確かに共有できた。だが実際はどのような解決方法を持っていくのだろう。これに伊藤さんは法的な部分で制限をかけていくパブリックセクターでのアクションを伝えてくれた。
「今までは労使協定によって残業時間をどこまでも設定ができた。でもそれだと働き手を守れないんですよね。次の国会で設定が決まれば、ある一定時間以上は残業時間を伸ばせないよう法改正をする。年間720時間として、どんな繁忙期でも月間100時間を超えないように法律で規定していく」
確かに残業の時間を国として制限をかけていくことによって、今まですり抜けられていた企業側も制度設計を再構築する必要が出てくる。法律を変えていくことで働き方をまずは変えていくという熱意を感じた。
パブリックセクターからの視線だけではなく伊藤さん個人の知見からも話が展開される。
「一方で、それによって働き手も企業側も向き合わなければならないことが出てきます。労働時間を短くして成長できなくなった、ということにならないようにするためには、生産性とモチベーションを高めていく必要がある。例えば、企業側も生産性を上げていくために場所や時間を選ばず働ける環境を作ったり、兼業・副業しやすい環境をつくらなければならないかもしれない。そして働き手側もそれぞれの立場に応じてプロフェッショナルである必要性も出てくる。常にスキルをアップデートしていかなければならないんですよね」。
ルールを変えるだけでは当然意味がなく、それを現場に落としていくためには企業側の努力、そしてもちろん個人側の努力、双方必要なのだという言葉が心に響く。
人生100年時代「生涯現役」のこれからにどのように働くか
「日本の働く環境の中での人材育成、教育といえばOJT(On The Job Training)というものがありますよね。この仕組みはこれまで優秀な働き手が育ち、大変よく機能していたと考えられます。ただ、このAIやIoTなどが出てきた第4次産業革命と言われているこれからの時代、自分の会社の中だけで閉じてスキルをトランスファーすることは不可能になってきた。先に働き手側のスキルアップと言いましたが、海外では25歳、30歳になっても大学で学び、またそれを働く場所に生かすという常にスキルアップができる教育の環境があります。
日本でも『人生100年時代』だと言われている。100歳まで生き続けることを考えると60歳で定年、という形ではなく、”働く”ということと”学び続ける”ということは一体化するのだと思います」。
伊藤さんは1枚のスライドを見せながら、パブリックセクターが考えている“働き方改革”の本質という内容に触れ、まとめた。
働き方改革は行政が法で長時間労働是正するだけが目的ではなく、「何時間働いたか」「何年勤続しているか」という評価ではなく、「成果」や「生産性」を含めた企業や個人の評価に対するマインドや取り組みのセットアップが必要であること、働き方の「選択肢」を広げるために、兼業や副業、テレワークなど働き方のバリエーションを増やすこと、個人が「プロフェッショナル化」して働きながら学び「持ち札」を増やせるようにしていくこと、この3点が語られた。
伊藤さんご自身をも含めたこれからの働き手のマインドに話はシフトしていった。
「話題になった経産省の次官若手プロジェクトによって私の後輩たちが訴えていたことは、もう『昭和の人生すごろく』的な生き方から変わっているんだということ。たこつぼのように1つの企業に長く居続けて、勤め上げるのがゴールというレールを壊していくことが必要。現在はそういった概念前提で決まった労働法令の規制や社会保障の制度になっていますが、それらを少しずつ手直ししていかなければなりません。それと同時に働き手自身もキャリアの設計を変化させることになるでしょう」
キャリアラダー型というキャリアの梯子を順番に登り続けて頂上を目指す、という従来のキャリア設計では、もう時代の背景とかみ合っていないのだと伊藤さんは伝えてくれた。
「すごろくではなく『ポケモンGO』のようなキャリア設計になってくるのではないでしょうか。自ら色んな新しい世界に出かけてポケモンをゲットするように、自分の『持ち札』は今何があるか、キャリアを通じてどんな持ち札を増やしていくことができるか。どこにどんなモンスターがいるかはもちろんですが、自分が今どこにいるかという自身のGPSを搭載しなければなりません」。
最後に伊藤さんからは2つの提言でプレゼンテーションを締めていた。
1 広い分野でプロフェッショナルとしてpro bonoを行う
2 官庁や教育機関と民間企業やNPOの「人の出入り」を徹底的に増やす
国の政策提言の場にいる人たちが、“働き方改革”の現場の温度感というものをどれほど理解してくれているのだろう、と思うことがある。
それくらい“働き方改革”というと遠いイメージを持つ人もいれば、政策と現場とのギャップを憂う人もいるかもしれない。
だが、この伊藤さんの言葉やイメージの端々に、「パブリックセクターも戦っている!」という熱意が感じられた。
改革とは本来戦いだ。
既存のルールを変えるということはなんらかの痛みを伴うこともあるだろう。
でもその改革の先にどんな未来を見据えているか。
それはパブリックセクターの場所からも、ビジネスの場所からも、そして個人の場所からでも描ける未来があるし、そこに向かって歩んでいる人がいるんだという事実を実感できるプレゼンテーションだった。
レポート②に続く>
写真)海野千尋
ライター
編集者
カメラマン