実録・越境学習がもたらした、社会人とNPOの変化とは?【前編】
「複雑化した社会課題の解決に向け、ソーシャルセクターとビジネスセクターはどう協働できるのか」
“ソーシャルとビジネスをつなぐ新しい社会への仕掛け”として注目されている、NPO法人二枚目の名刺が実施する「NPOサポートプロジェクト」(以下、「サポートプロジェクト」)。
>二枚目の名刺「NPOサポートプロジェクト」についてはこちら
2016年9月30日、日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2016では、『“2枚目の名刺”が新しい社会を創る』と題し、「今なぜ社会人が本業のほかに2枚目の名刺を持ち、組織を越えた活動に取り組むことに価値を置いているのか。社員が持つ2枚目の名刺が、企業やNPOにもたらすものは何なのか」についてのセッションが行われた。
二枚目の名刺のサポートプロジェクトを“人材育成プログラム”として導入し、2015年8月から11月にかけて若手の有志3名をNPOに送り込んだパーソル(旧インテリジェンス)。
そのメンバーの一人で、プロジェクトリーダーとして認定NPO法人キーパーソン21の新規事業「solo-solo」プログラムのマーケティング立案に向けて取り組んだ金澤万梨香(かなざわまりか)さんと、パートナー団体であるキーパーソン21の代表理事・朝山あつこ(あさやまあつこ)さん、二人の実践者の話をもとに、「サポートプロジェクトが社会人とNPOにもたらす変化」を紐解く。
■認定NPO法人キーパーソン21とは
子どもたちがわくわくして動き出さずにはいられない原動力となる“わくわくエンジン”を見つけ、将来の仕事や生き方について考えるきっかけとなるよう、高校生世代へのキャリア教育プログラムを提供している団体。>HPはこちら
■プロジェクトの背景と内容
これまでやってきた集団でのキャリア教育プログラムに加え、進路決定を控える親子に向けた個別対応の「solo-solo」プログラム(「親は“そろそろ”子を一人の人として尊重し子離れしよう、子も“そろそろ”一人の人として、自らの生き方や進路について考え、自律的に生きることを考えよう」という思いで命名)を始めたいと企画する。このプロジェクトを推進する支援をサポートプロジェクトで実施。「プログラムに共感し、利用者となるのはどんな親子で、どこにいて、どうすれば会えるのかを一緒に考えて欲しい」というのがプロジェクトテーマの概要。
サポートプロジェクトに参加した理由
金澤さん「ベンチャー企業でガツガツ働いて、人よりも早く成長したい」と思い、当時まだベンチャー企業だったパーソル(旧インテリジェンス)に入社して10年。自分の経験だけで成績が決まったり、新しいことをインプットしていかなくなったりする自分に、ものすごく危機感を感じていました」
社内で公募していたサポートプロジェクトへの参加を決意した理由は、“今の自分が社会に出て行ったときに、本当に通用する人間なのか”という、漠然とした不安だったという。
そんな金澤さんが、サポートプロジェクトへの参加にあたり、成し遂げたいと掲げていた目標が、次の3つだ。
・どんな環境でもリーダーシップを発揮できる人間になる
・何もないところから解を導く力を身につける
・新規事業開発経験を積んで自信をつける
長く同じ会社で働いているため、同じ価値観の人を同じようにマネジメントする“自分の型”ができてしまっているのではないか。違う組織に属する人たちをリーダーとして引っ張っていくことで、多様性のあるマネジメントを実践できるのではないか。
また、これまでにあまり経験を積んでこなかった、ゼロから1を作ることや、自分で解を見出す経験をすることで、社会に通用する人間に一歩近づけるのではないか、という思いで参加した。
プロジェクトメンバーに訪れた最初の試練
3ヶ月間のサポートプロジェクトで最も苦戦したのは、最初の1ヶ月目だ。
マーケティングと密接に関わる“お題”だったのだが、プロジェクトメンバーの中に、一人もマーケティング経験のある人がいなかった。営業2人、エンジニア2人、コンサルタント2人という6人のメンバーで、どんなアウトプットが提供できるのか、スコープを決めるまでに1ヶ月程かかってしまう。
金澤さん「うだうだ言っていても進まないので、“所得が高めの教育熱心な保護者に、このプログラムの利用者になる方が多いのではないか”というNPOメンバーの仮説をもとに、世帯数が多く、世帯年収が高い方々が住む地域はどこなのかを、様々な統計データを集め、集計し、マッピングしてみました」
こうして第一段階のアウトプットをしたものの、「本当にこの仮説は正しいのか」という疑問がプロジェクトメンバーの中でふつふつと沸き上がる。そこで第二段階は、仮説に合う親御さんへのインタビューを実施し、ヒアリングの内容を分析、団体側に結果を共有することにしたのだ。
この検証により、「プログラムを利用するであろう保護者の層が、仮説とは異なる」という結果が現れる。また、ターゲットとしていた高校1年生の保護者にだけクローズするのではなく、「保育園児の保護者に向けたアプローチを仕掛けた方が良いのではないか」という、新しい提案も生まれた。
金澤さん「こうして口で話すことは簡単ですが、実際に想いを持って活動されているNPOの方々に外部の者が提案をすることは、かなり勇気がいることでした。何度も悩みましたが、団体のことを本気で考えると、自分たちにできることは、外部からの意見をお伝えすることだと思い、団体が想定していたターゲットとは異なる提案をさせていただいたのです」
本気のぶつかり合いで、新しいモノの見方がうまれた
金澤さんの話から“本気”という言葉が出たが、パートナー団体であるNPOの側にも、それなりの時間の確保や覚悟が必要で、“本気”で向き合うことが求められたという。特に、プロジェクトメンバーに団体の理念や取り組みの根底に流れているものを理解してもらうための努力を要し、そこが最も大変だったと朝山さんは振り返る。
朝山さん「キャリア教育について、“子どもたちが将来を考えるために様々なインプットや体験をすることが大切”というのは、誰もが理解できることだと思うんです。でも、私たちがやっているのはそれにプラスして一人ひとりから“わくわくエンジンを見つける”という内面的な支援。子どもがどう感じるのか、どんなことだったら頑張りたいと思うのか、といった部分を引き出しているんです。そこを伝えることに時間がかかった気がします。」
朝山さんのこうした言葉に深く頷きながら、金澤さんは「団体の想いにはとても共感していましたが、本当の意味で理解できているのかは正直わからなかった」と返している。ここに、短期間のサポートプロジェクトの難しさがあるのかもしれない。
そんな中、団体の仮説とは異なるターゲットをプロジェクトメンバーが打ち出してきたことで、団体側のスタッフが再度仮説を見直し、発展的な議論をする場が持てたという。
朝山さん「まずは、“そもそものターゲットは困っている親子全員だ”という原点に立ち戻りました。プロジェクトメンバーからの意見は、“教育熱心な家庭には、このプログラムは必要ないのではないか”というものでしたが、私たちNPOのメンバーからは、“そういう保護者だからこそ、子どもへの接し方を見直す必要があるし、教育環境に恵まれて育った子どもたちは日本の未来を担うリーダーになるという使命を持っているので、むしろアプローチすべきではないのか”という新しい視点がうまれました」
社会人が本気で議論し、価値観をぶつけ合い、その中から答えを導き出したことで、NPOの内部に風を起こし、新しいモノの見方がうまれたのだ。
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一度頓挫しかけたプロジェクトがうまく回り始めた理由とは?
「サポートプロジェクトが企業にもたらす価値」についてはこちら>パーソル(旧インテリジェンス)の挑戦。社外活動で人材を育てる。
※2016年9月30日に行われた日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2016のセッションをもとにまとめたものです。
文:はしもとゆふこ(二枚目の名刺)
ライター
編集者
カメラマン