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SPJ参加者パネル調査報告(Kick Off /最終報告 / 半年後)〜SPJで2枚目の名刺を持ち続ける人が増える!〜

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調査の目的

これまで多くの社会人が参加してきた二枚目の名刺のサポート・プロジェクト(以下、SPJ)。実際のところ、SPJに参加した人にはどのような変化があるのでしょうか。このパネル調査は、SPJデザイナーたちのこんな問いから始まりました。

この問いを解明すべく、大学院の博士後期課程に在籍しており(2023年7月現在)、SPJデザイナー経験もある筆者(谷口ちさ)に声がかかりました。

筆者はその後、NPO法人としてSPJを受け入れる立場も経験しています。この記事では、分析の結果出てきた数値と、筆者とSPJデザイナーたちとの討議も含めた経験の両面から考察していきます。

結論から申しますと、SPJ参加を通じて社会課題解決や社会変革に対する意識・行動の具体性が高まり、それがSPJ終了後も持続することが明らかとなりました。つまり、それぞれのフィールドで「2枚目の名刺」を持ち続ける人が増えていることになります。

1.アンケート実施のタイミング

SPJ参加者の変化・成長を確認するために、SPJ参加者を対象にパネル調査を実施しました。アンケート取得のタイミングは全3回。①SPJ Kick Off終了後、②最終報告会終了後、そして③最終報告会から半年後です。

2.回答者内訳

有効回答数は101名です。コモン・ルーム74〜86(2020〜2022年)の参加者のうち、上記3回のアンケートとその項目すべてに回答した方を分析対象としています。

年齢別では、25〜44歳で77.3%を占めています。この分布は従来のアンケート集計結果にも類似しています。

図1. 回答者内訳(年齢)

図2. 回答者内訳(職業)

図3.回答者内訳(業種)

図4. 回答者内訳(職種)

3.SPJへの参加動機

この項目は今回に限らず、①のアンケートで常に取得しているものです。せっかくなので分析に含めました。以下、アンケートはすべて5件法(1.あてはまらない、2.ややあてはまらない、3.どちらともいえない、4.ややあてはまる、5.あてはまる)で取得しています。

参加者のほとんどが「自己成長」を目的としてSPJに参加しています。また特筆すべきは、参加者の多くが「社会課題解決」を参加動機に挙げていますが、特定の「NPO/団体支援」を目的としている方は少ないようです。

<考察>

何か社会に役立つことをしたいがどのNPO/団体を支援すれば良いかわからない、というSPJ参加者の意識をくみ取ることができます。二枚目の名刺は、SPJを通じて社会人とNPO/団体をつなぐ重要な役割を担っていると言えるでしょう。

4.アンケートに使用する尺度の選定

結果の信頼性を担保するため、論文などで実績のある尺度からアンケート項目を選定しました。SPJ参加者やSPJデザイナーからこれまでヒアリングしてきた内容(例えば、SPJ終了後は会社での考え方や行動に変化があった等)を参考に、以下の尺度を選定しました。

  • 自己理解(3項目)
  • キャリア自律行動(4因子15項目)
  • 仕事充実感(6項目)※うち、1項目は欠損値が多かったため5項目で分析
  • 社会変革へのレディネス(5項目)

(※)「社会変革へのレディネス」…社会問題を理解したり問題を表明したりすることを意味し、「社会に潜んでいる問題について、自分の意見を表明する」など5つの質問項目が含まれます。

5.各因子の変化

上記2で挙げた因子について、各回の平均と差を表2にまとめました。

表 2 因子(平均と差)

<考察>

参加者は自らの意思でSPJに参加しているため、1回目の調査から全体的に平均値が高いのは納得です。一方これまで、参加者本人およびSPJデザイナーから、SPJ参加によって参加者の意識・行動が変化したという声も多く寄せられています。数値からは大きな変化はないように見えますが、意識・行動の「質」には変化があるのではないかと予測できます。
また、筆者は企業の従業員を対象としたキャリア自律調査の分析を行うことがありますが、キャリア自律行動各因子の平均値は3.0前後です。それと比較すると、SPJ参加者のキャリア自律度合いはかなり高いと言えます。

また1〜3回の平均の差について、統計的に意味がある(有意)かどうかを調べました。1〜2回目の差については、「社会変革へのレディネス」(※)のみが有意でした。また、1〜3回目の差については、「自己理解」「社会変革へのレディネス」が有意でした。

(※)「社会変革へのレディネス」…社会問題を理解したり問題を表明したりすること

<考察>

「社会変革へのレディネス」が有意に伸長していることは特筆すべき変化でしょう。SPJを通じて社会課題解決や社会変革に対する意識・行動が具体的になってきたと考えられます。SPJ終了後も引き続き「2枚目の名刺」を持ち続ける人が増えることにつながっていくでしょう。

6.因果関係

因子同士の因果関係についても分析しました。統計的に意味のあるもの(有意)の中から、興味深い結果に絞ってご紹介します。

「自己成長」を動機としてSPJに参加した場合、「社会変革へのレディネス」(※) にマイナスの影響を与えています。

(※)「社会変革へのレディネス」…社会問題を理解したり問題を表明したりすること

<考察>

多様な解釈が存在すると思います。SPJデザイナーの皆さんとの議論では、「自己成長をきっかけにSPJに参加する人は社会変革に興味がないのではないか」等の意見が出ました。

また、「社会課題解決」を動機にSPJに参加した場合、「ネットワーク行動」にマイナスの影響を与えています。一方で、「社会変革へのレディネス(2回目)」は「ネットワーク行動」にプラスの影響を与えています。

<考察>

この2つの結果は示唆に富んでいます。「社会課題を解決したい」という参加動機はKick Off終了後のアンケートで取得しています。つまり、まだ社会課題解決の具体的な行動に踏み出す前の段階です。しかし、最終報告後、つまり実際に社会課題を解決する取り組みを行なった後、「社会変革へのレディネス」は上昇し、これが半年後の「ネットワーク行動」にプラスの影響を与えています。

こちらもやはり、多様な解釈があるでしょう。SPJデザイナーの皆さんとの議論も白熱しました。まず、ネットワークの意味がSPJ参加によって変わる可能性があります。例えばSPJ参加前のネットワークといえば「飲み友だち」を指す言葉だったのが、参加後は「社会課題解決をともにする仲間」に意味が変わったという方がいました。

また、関心のある社会課題が絞られてくると、関係のないネットワークを切ることもあるようです。これはネガティブな行為ではなく、課題解決のための一行動としてポジティブに捉えることができそうです。

SPJを通じた視野の広がりに言及する方もいました。その方は、SPJ参加直後は自分のスキルを使って課題解決をするという意識が高く、飲み会なんてやっていないでさっさとプロジェクトを進めよう、という気持ちが強かったそうです。しかしプロジェクトが進み具体的に社会課題が見えてくると、一人では解決できないことを知り、ステークホルダーを巻き込むためにさまざまなネットワークを駆使し始める、とのことでした。

◾︎おわりに

調査報告を最後までお読みいただきありがとうございました。この調査・分析を担当した筆者自身も、SPJデザイナーを経験した一人です。SPJを通じた変化について興味深く分析させていただきました。

これは3度にわたるパネル調査に前向きに取り組んでくださった方々のデータであるため、SPJ参加者の中でも特に高い数値になっている可能性は否めません。しかし、SPJに前向きな態度で取り組まれる方がどのような変化を遂げるのかという観点からは、参考になる結果だと考えます。

日本企業のキャリア自律調査では、特にネットワーク行動は群を抜いて低い値を示します。しかし転職の一般化や複業解禁など、雇用の流動性の高い現代においては、自身のキャリアにとって大切なネットワークを見極め、関わっていくことが強く求められています。

SPJデザイナーの皆さんと調査結果を見ながら議論した際に、SPJに参加することで自身に必要なネットワークの絞り方、見つけ方、つなぎ方などを体得しているのではという考察が印象的でした。社会課題に具体的な関心を示すだけでなく、自分のキャリアを自分で開拓していけるという側面からも、SPJ経験者は社会で頼もしい人材となりそうです。

最後になりましたが、「3回のアンケートすべてに回答した人を100名以上集める」という大変な仕事をやり遂げてくださった二枚目の名刺(元スタッフ)のゆかさん、全データを整理し分析しやすい形にまとめてくださった二枚目の名刺・事業管理部門のやまもっちゃん、そしてご回答いただいた101名のSPJ経験者の皆さまに、心より感謝申し上げます。

 

《ライター紹介》

谷口ちさ

人事×キャリアコンサルタント×研究者の知見を軸に活動するフリーランス。法政大学大学院 政策創造研究科 博士後期課程在籍。『地域とゆるくつながろう! -サードプレイスと関係人口の時代』(石山恒貴編著)の第5章を執筆。調査・取材に関わった書籍は『越境学習入門 -組織を強くする「冒険人材」の育て方』(石山恒貴・伊達洋駆 著)、『ほんとうの定年後 –「小さな仕事」が日本社会を救う』(坂本貴志 著)、『カゴメの人事改革 -戦略人事とサステナブル人事による人的資本経営』(石山恒貴・有沢正人 著)。

https://researchmap.jp/chisa

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二枚目の名刺 編集部
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