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【商社×2枚目の名刺】イノベーションを組合から仕掛ける。丸紅「U-35プロジェクト」が目指すものとは

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総合商社といえば就職活動の人気ランキングで常に上位にいるなど、華やかなイメージのある業界だ。そんな総合商社の一角を成す丸紅で、従業員組合が主導となり丸紅社員が社内外で社会課題やビジネス課題の解決に取り組む「U-35プロジェクト」が立ち上がった。

大企業では、会社にどことなく閉塞感を感じる若手は少なくない。一方すぐに会社の体制を変えることも簡単ではない。そんな中、U-35プロジェクトは、会社から半歩離れた組合という枠組みを使って、若手/中堅をメインターゲットに、イノベーション創出機会を提供しようとする試みだ。

このユニークなアプローチを、自身も商社社員であるNPO法人二枚目の名刺の代表・廣優樹が丸紅従業員組合・中央執行委員長の植松慶太さんに聞いた。

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丸紅従業員組合をイノベーションエンジンに

廣:U-35プロジェクトは、従業員組合が旗振り役となり、丸紅社員がいつもの仕事とは別の取組みを行うことを後押しするものだと聞いています。まずは、丸紅従業員組合が同プロジェクトを立ち上げた経緯から教えてもらえますか。

植松さん(以下、植松):これまで従業員組合の役割といえば、報酬や労働条件の交渉が主でした。一方で組合員への意識調査などを通じて実感したのが、若手から中堅社員を中心に価値観が確実に変化しているということです。そして、企業のビジョンと個人の価値観のずれがすり合わなくなってきている。

そこで従業員にとっての従業員組合がどうあるべきかという視点に立ち返って、従業員組合の役割を再定義することにしました。報酬や労働条件の交渉だけでなく、社員のやりがいや生きがい創出やエンゲージメント向上を目指していくことが、これからの従業員組合に求められるのではないかと考えたのです。

廣:なるほど。どのように再定義したのですか?

植松:私たちは従業員組合の役割を「イノベーションエンジンになる」と再定義しました。従業員組合ならではのアプローチで、大企業における新たなチャンレジを起こす起点になる、チャンレジを促す原動力になるという意味です。

廣:御社のような大企業では、会社が主体となってイノベーションを創出する取り組みも行われているかと思います。従業員組合なら、それとは違うアプローチができるということでしょうか?

植松:確かに関連部署などが主体となって、ビジネスにおけるイノベーションを創出する取り組みは行われています。しかし、会社がピラミッド型の組織なのに対して、従業員組合は数千名の従業員がフラットな社内唯一の組織です。

イノベーションの定義を、「新たな価値の発見」や「新たなサービスの創出」、「新たなビジネスモデルの構築」とした時に、よりフラットで自由な発想を許容する組織形態と人材層を考えると、従業員組合の立ち位置とその人員構成(管理職層以下)は面白いんじゃないかと考えています。

組合の、オープンで多様性のある組織形態を活かせば、会社とは異なった方法でイノベーティブな取り組みができるのではないかと考えました。またイノベーションというテーマだけでなく、これからの社会のトレンドに沿った働き方や人のマネジメントの仕方など、大企業では導入しづらい制度や施策なども、従業員の個人の可能性を開くことであれば、会社に先駆けてどんどんトライアル導入を仕掛けて会社へフィードバックして気づきを与えるなどの機能とも合わせて「エンジンになる」という再定義をさせてもらいました。

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商社業界を取り巻く環境と社員の価値観の変化

廣:冒頭で従業員組合の役割を再定義したきっかけとして、若手・中堅社員の価値観が変わってきているというお話がありました。具体的にどのような価値観を持っていると感じますか?

植松:社会への貢献欲求や自己成長意欲が非常に高いと感じます。退職者にアンケートをとったところ、彼らが求めているのは、社会への価値創出、成長や自己実現、仕事へのワクワク感といったものでした。

一方で、丸紅従業員組合の意識調査で、「仕事へのやりがいやキャリアに満足している」と答えた社員は約3割。自分の仕事が、どう会社や社会に貢献できているのかが分らず、満たされない想いがあるのだと思います。

廣: そうなってしまうのは、なぜでしょうか?

植松:時代とともに総合商社の役割が変わってきていることが要因のように思います。昔は「商品を上手に仕入れてたくさん売る」というシンプルな役割を全うすれば、会社の成長や社会の需要に貢献しているという実感を味わうことができました。

一方で今の総合商社は事業投資が主要な収益源です。大きなプロジェクトに関わることはあっても、実際にやるのは事業会社管理や統制といった仕事が多くなってきている。それが会社の利益にどこまで直結しているのか分かりづらく、「自分が会社に貢献している」「社会へ価値を創出している」という手触り感やライブ感に欠けているという声も多く聞きます。

廣:業界外の方から見ると、総合商社の社員がそのように感じているのは意外に思われるかもしれません。

植松:そうかもしれませんね。ただ、同級生が起業したなどの話を聞くと、ただひたすら事業会社管理や社内資料作りをしているともやもやした気持ちを抱える、という面もまた事実です。

U-35プロジェクトの発足と新しいキャリアビルディングの形

廣:そのような背景も踏まえて、U-35プロジェクトを立ち上げたというわけですね。

植松:はい、今年6月にビジネス課題や社会課題などを広く募集し、組織セクションを横断したプロジェクトチームを発足させました。普段の業務では接する機会のない案件に携わることで、社員が“気付き”を得ることを目的としています。気付いて、社内外のイノベーションやオポチュニティーを捕まえて、キャリアビルディングにつなげて欲しい。

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廣:今まさに取り組んでいる最中とのことですが、プロジェクトには何名の社員さんが参加されましたか?

植松:まだ担当の案件が決まっていない社員を含めると160名近くですね。元々50~80名ぐらいと考えていましたが、想定よりも膨れ上がりました。

廣:やはり自分の力を何かに役立てたいと考える方は多いのですね。ちなみに35歳より上の社員は、プロジェクトに参加できないのでしょうか?

植松:U-35を掲げているものの、年齢制限などは設けていません。35歳より上の社員や社外の丸紅OBなどもアドバイザーとして参加が可能です。35歳以下の社員などに混じり、アドバイスやメンタリング、ネットワークの提供など、豊富な経験を活かしてプロジェクトの推進をサポートしてもらっています。

またU−35プロジェクト活動費も過去40年以上積み立てた余剰金で賄い会社組織からの独立性を保ちながら、いかに参加者個人が新たな取り組み課題に向き合うのかチャレンジしてもらえればと考えています。また自分で意思決定を行うということを通じて更なるキャリアビルディングへ繋げて貰えればと思っております。

スキルと資本を活かした商社らしいアプローチ

廣:予算もつけているんですね! 活動費はどのように使われるのですか?

植松:地方の自治体や団体の案件もあるので、寄り添った活動をするとなると定期的な出張が必要です。また、各自のテーマを追求していく中で専門家などを起用したくなる場面も想定されます。そういった費用に充てていく予定です。

廣:知識やスキルを持つ人材がボランティアで頑張るだけでなく、そこに予算があることで取り組みの選択肢がずいぶん広がっていきますね。今はどのくらいの案件が動いているのですか?

植松:2018年は最終的に社外から40件、社内から10件の応募がありました。その中から8~9件を採択し、各プロジェクトチームで取り組んでいます。

テーマは在宅医療、フードロス、企業再生や自治体経済再活性化など様々です。中には東京医大の研究室と取り組んでいる睡眠の案件もあります。これは今の世の中にスリープテックなどにより蔓延している誤った睡眠に対する理解をより医学的に科学的に正しいものを広めるために、ビジネスの力を借りたいという内容です。

廣:睡眠は誰もが共通で抱えている課題ですよね。単にボランティアでサポートしているというのではなく、そこに丸紅の方がビジネスの観点を持ち込んでいる分、テーマが必ずしも弱者保護のようなストーリーに偏っていない点が興味深いです。

植松:そうですね。商社のような事業会社が、睡眠という社会の全員に関わるテーマをひたすら研究している人たちと組んだ時に、どのような化学反応が起こるかというのは楽しみです。

廣:他にも商社らしいアプローチで取り組んでいる案件はありますか?

植松:宮崎県日南市の案件でしょうか。日南市は独自のローカルベンチャーという組織をつくって積極的に外部人材を登用するなど、高い意識で地方創生に取り組んでいる自治体です。商店街再生や企業誘致して雇用創出など大きな成果を上げているものの、全国的な人口と地方経済が縮小していくスピードにはやはり抗い切れておりません。

日南市はそういった答えの見えない全国的な社会課題に対して恐れることなく先頭ランナーとして答えを模索している自治体です。我々総合商社として持つ機能と規模感で何かお手伝い出来るような構想を描けないかと日南市と伴走しながら考えています。

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U-35プロジェクトを継続性のある取り組みに

廣:想像以上に多彩なプロジェクトがあって面白いですね。U-35プロジェクトに参加している社員の反応はいかがですか?

植松:まだまだ走り始めたばかりですが、悩みつつも面白さを感じながら取り組んでいる社員が多いようです。課長や部長などの管理職がいない中で、自分たちで課題設定や意思決定をしていくというのは決して容易ではありません。仮に明確な成果に結びつかなかったとしても、参加した本人たちにとってはキャリアビルディングにつながるのではないでしょうか。

廣:最後にU-35プロジェクトの今後の展開について教えてください。

植松:今動いている案件については、中間報告などの機会を設けて経過をアナウンスしていきます。個人的には、U-35プロジェクトは今後も継続して続けていきたいです。そのためには、いくつかアピールできるような結果を出して、会社の協力を得ることが必要だと考えています。

そしてこのような取り組みを他の商社の組合などと連携して会社の枠を超えた取り組みにできたら面白いと思っています。きっと、他社のやり方見ながら、色々感じるところが出てくる。一緒にやっていたメンバーが会社に戻って、その案件を事業化したなんていったら、刺激になるし、そして悔しい気持ちになる。大風呂敷広げますが、こんなことあれば商社業界変わると思うんです。

廣:そんなことができたら面白いですね! 楽しみです。本日はどうもありがとうございました。

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SunagaYuichiro
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フリーライター・フォトグラファー