ワーキングマザーが語る、自分スタイルの仕事と人生の楽しみ方。
妻としての顔。母としての顔。そして、社会人としての顔。ワーキングマザー(ワーママ)の皆さんは、いろいろな顔を持ちながら働いています。
しかし、女性のほうが家事や育児に対する負担が圧倒的に大きい日本では、ワーママとして働くのも難しく、さまざまな苦労に直面することもしばしば。
そうした日本の中で、「仕事と育児」のバランスを取り、家族や会社、そして社会と向き合うことは、たやすいことではありません。
今回は、ワーキングマザーとして働かれている女性に集まっていただき、座談会を開催。家事に育児、そして仕事をこなすためのタイムマネジメント術から、日本が抱えるワーママに関する問題まで、いろいろな話をしていただきました。
「幸せに生きるために大切なのは、自分の気持ちに耳を傾け、自分の“我”をないがしろにしないこと」
現役ワーママが語る、働き方の提言は必聴です!
データ参照元:
ISSP国際比較調査「家庭と男女の役割」
■登場するワーママの皆さん
安川 こころさん:
サムライト株式会社勤務。Web広告の運用やバックオフィス系のシステム管理を行う。お子さんは、3歳の女の子。
橋本 恭子さん:
NPO法人フローレンスの障害児保育事業部。訪問型の保育士として勤務。
お子さんは4人。16歳の長男、6歳の長女(7年前に他界)、10歳になる双子の女の子。
小林 愛子さん:
NPO法人フローレンスの障害児童育事業部。障害児保育園ヘレンの入園に関する事務を担当。お子さんは、12歳と10歳の男の子2人。
中村 咲子さん:
株式会社ココナラ勤務で、カスタマーサポートを担当。お子さんは、4歳の男の子と、8ヶ月の女の子。
会社のサポート体制ってどんなもの?
―:本日は、お集まりいただきありがとうございます!さっそくですが、皆さんの会社では、ワーママに対してどのようなサポート体制が導入されていますか?
中村さん:私の会社では、「一人ひとりが自分のストーリーを生きていく世の中をつくる」というビジョンのもと、個人のスキルを売り買いできるサービス「ココナラ」を運営しています。
例えば、弊社では、子ども関連で急な事情ができたとしても、リモート勤務に切り替えることが可能です。会社のビジョンにも通じますが、「自分の生き方やプライベートを大切にできる働き方」を実現できているなと感じます。実際にワーキングファザー、ワーキングマザーの数は増えてきているんですよ。
小林さん:認定NPO法人フローレンスは、「みんなで子どもたちを抱きしめ、子育てとともに何でも挑戦でき、いろんな家族の笑顔があふれる社会」を目指し、病児保育事業(共働き家庭やひとり親家庭で子どもが病気の時に保育をする事業)や障がい児保育事業などを行なっています。
そんな会社だからこそ、育児と仕事を両立するための制度はかなり整っているかと。子育てをしている人も多くいるので、16時or17時までなど人によって変動する短時間勤務や在宅勤務はもちろん、週4勤務で正社員という働き方も導入されています。例えば、代表である駒崎の秘書は石川県に在住し完全リモートで業務を行なっているんですよ。
男性の育児休業取得率が100%というのも大きなポイントですね。
安川さん:サムライトでは、「広告を情報に変える」をミッションに掲げ、さまざまな企業様のオウンドメディアやネイティブ広告の制作や運用支援を行なっています。
弊社では時間の融通をきかせることができる“フレックスタイム制度” (コアタイムは11時~15時)や、“時短勤務制度” があります。通常の勤務時間は8時間ですが、私の場合は6時間勤務にしてもらっています。連続での勤務が原則にはなりますが、特別な用事の場合は、勤務時間を分けたり、時間をずらしたりすることができるんです。
子どもの行事が14時からであれば、早朝に3時間やって、夜中に3時間やって6時間の計算。子どもの急な体調の不良にも対応できるので、ワーママの私にとってはとても助かっています。
―:チームのマネジメントや、コミュニケーションの取り方など、仕事の際に気をつけていることはありますか?
安川さん:ワーママとして働いていると、子どもの体調不良で数日間休むといった突発的なことが起こりがち。なので、私がいなくても問題がないように、運用やシステム系のものはマニュアルを作成しています。
あと、弊社は社内連絡用にChatworkというチャットツールを使っているので、そこで逐一
“報告” しています。「今日はここまでやりましたよ」、「これはまだ残っていますよ」というように、リモートワークでも仕事の進捗が他の人に見えるように意識しています。
橋本さん:私の場合は一対一で担当する保育の現場ですが、考え方は同じです。やはり、子どもの都合で休むことが多いので、いつ誰と交代しても支障のないように、普段からの共有や進捗事項のまとめを大切にしています。
ー:ワーママの皆さんは、妻、母、そして社会人という3つの役をこなしていることから、仕事の管理などもすごく上手そうですよね……。タイムマネジメントなど、何か工夫されていることはありますか?
中村さん:「自分だけが知っている」という状態じゃないようにしようと気をつけていますね。例えばココナラではSlackというツールを使っていますが、今やっていることや終わったことなど「日報」ならぬ「分報」として、こなしたタスクを書くなど情報開示するようにしています。
安川さん: 意識しているのは、今日はこれとこれは絶対やるけど、ここから先はやらなくても良い、といった境界線を決めること。やはり、ワーママとして働く以上、他の人より仕事にまわせる時間は少なくなるので、少ないタスクでいかに結果を出すかが大切だと思っています
子どもの世話と家事といったように、いつも何かしらの物事を同時進行で進めなければいけないので、こうした経験の積み重ねが、仕事にも活きているという感じですね。
中村さん:“やらないことを決める”って大事ですよね。あるとき、「この施策は、だれが喜ぶんだ?」って疑問に思うことがあり、かかる工数に対して、どれぐらいの売り上げが見込めるのかを調べて上層部にプレゼンして、その施策を一個やめたってのがありましたね…。
一同:すごい!!良い仕事しましたね。
ワーママとして、社会復帰したきっかけは?
―:出産後、ワーママとして仕事に復帰しようと考えたきっかけはありましたか?
小林さん:私の場合は、再就職ですね。出産後働き続けることが難しく、一度退職していたのですが、もともとは金融業界で働いていました。自分の中でいろいろな葛藤があって、現実的には赤ん坊がいるのに、自分が身ひとつで働いていたときのイメージをそのまま引きずっていました。
壁に何度もぶち当たらないと、自分でも社会とのギャップに気づけなくて。そうこうしているうちに、「自分はこの子を夜中まで預けてでも、元いた金融の分野で働きたいのか」と自問自答するようになって……、悩んだ結果、今の働き方は違うことに気づきました。
その葛藤の中で、「私は、この小さい子どもたちが生きていく社会が、もっと良くなる仕事をしたい」と思うようになりました。その会社がなにか社会に対して正しいことをやっているところであれば、どんな雑用でも引き受けようと思い、今の会社にいます。
確かに“妻、母、社会人”という3つの顔を持っていますが、その中でもやはり母親であることをベースにした働き方をしないと、自分が納得して仕事を続けられないだろうなと思ったんです。
橋本さん:私は、自分の子どもの存在が大きかったですね。2人目の子どもが障がいを持って生まれてきて。医療ケアの必要な重度の障がい児だったので、預かってくれる保育園はどこにもなかったんですよね。
自分が当事者になってはじめて見える社会の問題点や、経験があるからこそ分かる部分。そうしたことを発信したり、誰かと繋がりたいと思っていました。もともと編集の仕事をしていたのも影響しているかもしれません。
そうして探し当てたのが、「みんなで子どもたちを抱きしめ、子育てとともに何でも挑戦でき、いろんな家族の笑顔があふれる社会」をミッションに掲げているフローレンスでした。
―:実際に復帰されて、働いてよかったなと思うことは、どういった部分でしょうか?
小林さん:毎日忙しいですけれど、仕事にパワーをもらえていることですね。これまでは子どもを通した“ママ”という立場でしか社会と関わることがなかったですが、“自分自身”で社会とコミットできる、という感覚が体感できることはすごく嬉しく思っています。
安川さん:そうですね。私も自分にはまだまだ可能性があって、いろいろな人と繋がれるんだ、と思えるだけでも嬉しいです。子どもが大きくなってからでも、自分の人生は続きますからね
小林さん:あと最近は、子どもに自分の仕事の話や、その社会的な背景など、“ママ”ではない、“私”という人間が社会と関わっていることを話せるようになったことに、ちょっと嬉しさを感じています。母と子の会話ではなく、お互いに一人の人間として話すのは、また違ったコミュニケーションになって、それに楽しさを感じています。
橋本さん:子育てを通じて自分自身も育てられたと実感しています。その経験を土台に再び社会と繋がれていることは嬉しいです。また、子どもたちに仕事で悩み喜ぶ姿を見てもらうことで、働く意味を理解し応援してくれているので、頑張ろうと力が湧きます。
日本のワーママが抱える問題はたくさん…でも助けてくれる場所はたくさんある!
―:今、日本が抱えるワーママに関する問題点は、どういうところでしょうか?
小林さん:例えば、子育ての問題だけではなく、自分自身やパートナーが病気になったり、親を介護しなければならない場合もありますよね。
そうした、家族によって何か問題や課題を抱えた状態で働き続けることについてきちんとした考察がないまま、長時間働くという根性主義があるんじゃないかなと思っています。少子高齢化が進んでいる今、子育てに限らず、短い時間で働かざるを得ない人は今後ますます増えてくると思うので、根本から見直すべきなのかもしれません。
安川さん:あとは、凝り固まったキャリアの定義付けもなくなったらいいなと思います。
私が住んでいる区だと、保育園に預けるときに、「正社員でフルタイム」だと加点されるんですよね。でも、正社員で8時間働くのと、パートで8時間働くのとは、結局一緒じゃないですか。でも世の中の多くの認識はそうではない。
実際、私も子どもを預けたいがために、正社員の職を得るためだけの就活をしてしまった時期もありました。
中村さん:ワーママを取り巻く問題はいろいろありますが、一方で受け入れてくれる場所もあることを知ってほしいですね。
例えば、私は、ひとり目を産んだあとに復帰した以前の会社では、子どもがいることをマイナスとしてしか扱われなかったんです……。それがココナラは「子どもがいることは全く問題ない。妻、母として何時から何時まで働けるの?」と、逆に聞かれるぐらい理解のある場所で、転職時も「家族(夫、子ども)を連れて面談してもいいよ」と代表が声をかけてくれて、働くことは家族の支えがあるという前提をわかってくれている、そういう環境をつくる会社もあるんですよね。
橋本さん:子どもがいることがマイナスになるという価値観は残念ですよね。時間の制限などがいろいろあるでしょうけれど、仕事以外の経験が仕事に還元されてプラスになっている部分も絶対あると思うんです。今の社会には、その価値を低く見るところがあるような気がします。
―:小林さんのパートナーは、働くのに反対だったそうですね。そこからどうやって説得したんですか?
小林さん:もう、強行突破ですよ(笑)働き始めたときは週4、10~16時まででしたが、始めたら仕事が楽しくて週5に変えたんですね、勝手に。そのときは怒られましたが、今思えば、結果オーライかなって思います。
橋本さん:確かに相手の価値観を変えるぐらいだったら、自分の状況を変えるほうが早いですよね。子育てや家事って、行政やいろいろなサービスを使えば夫じゃなくても外注できる部分があるから(笑)。もっと気軽に、ママが他の人やサービスに助けを求めることができたら良いのになって思います。
自分の”核”は何だろう?今生きていて楽しいぞって言える環境を探そう。
―:出産後、本人は仕事に復帰したくても家族の理解が得られず、「本当は働きたいけど、働ける状況じゃない」という理由で仕事への復帰を諦めているママも多いかと思います。そういった方に、何かアドバイスはありますか?
安川さん:働きたいと思っているにもかかわらず、周りの環境のせいで働けないんだとしたら、後押ししてくれる人たちはいっぱいいる、ということを知ってほしいですね。例えば、区の家庭福祉員さんに助けてもらったり、とか。保育園以外にも手を貸してくれる場はあるので、もっと周りを活用しても良いのではないでしょうか。
小林さん:ママになった自分と、独り身だった昔の自分って、立場も考え方も変わりますから、「ここだけは譲れない」という“核”は大事にしてほしいですね。
それを軸に、どんな生き方をするか考えていくと、選択肢は自然と絞られてくるのではないかと思います。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「子どもを産んだ後の社会復帰は難しい」「日本は、働くママに優しくない」……。
インタビュー中にもあったように、日本の労働環境の改善はまだまだ道半ばであり、多くの問題や課題が残っています。
しかし、少しずつ良くなってきているのも事実。
働き方改革の中で、ワーク・ライフ・バランスを整えようと邁進する会社や、個人の働き方を尊重するベンチャー企業などが増え始めており、思っている以上に、さまざまな選択肢が存在します。
この座談会に参加したワーキングマザーの共通点として「自分が選択した道は、これで良い」と思えていること。今自分が何を一番大切にするかを考え、その中で納得できる環境を探してアクションし続けている。そんな皆さんが生き生きと子育てしながら働いているという状況をこの座談会で聞くことができました。
もし、仕事に復帰するか悩んでいるのなら、あなたも自分は今何が一番大切なのかを見つめて、そのための一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。
ライター
編集者
カメラマン