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【企業対談シリーズ vol.3:後編】NTT西日本×二枚目の名刺 越境社員が会社の未来を創る!

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2017年の連携企画をきっかけとして、越境プロジェクトを全社へと発展させたNTT西日本様との対談【後編】をお届けします。
本記事では、実際に越境活動を継続している社員がどのようにキャリアを変化させているのか、NTT西日本がどのように越境プロジェクトを全社へ浸透させているのか掘り下げます。

ゲスト:


及部 一堯 さん
NTT西日本 総務人事部 プロフェッショナル人材戦略部門 担当部長 / Culture Producer
NTT西日本において社員の越境活動を推進。新たな挑戦として、E-1グランプリ2024を企画し、社内で越境を称賛する文化づくりに取り組む。自らも株式会社パラレルパートナーズや一般社団法人パラレルプレナージャパンを設立し、精力的に越境活動を行っている。


藤木 位雄 さん(プロジェクト(認定NPO法人Homedoor)参加者。愛称:「きんぐさん」)
株式会社NTT西日本ルセント 関西支店 京橋第二センター センター長
2017年に山下さん(※vol.3前編参照)とともに二枚目の名刺プロジェクトへ参加したことをきっかけに、二枚目の名刺にジョイン。二枚目の名刺では事業推進やプロジェクトデザイナーを担当している。NTT西日本で2024年度開催のE-1グランプリでは優秀賞を受賞。

インタビュアー:


坂田 美佳(愛称:「みかさん」)
役割:二枚目の名刺 プロジェクトデザイナー
事業推進チームの一員として、藤木さんと一緒に企業様との協業・連携に取り組む。藤木さんが参加したプロジェクトメンバーの一人に親友がいたことを最近知り、何かとご縁が繋がっている二枚目の名刺仲間。

自立支援活動への越境。藤木さんが得た自分自身の可能性

坂田: 藤木さん、二枚目の名刺と出会う直前の2017年当時は、ビジネスデザイン部でWi-Fi設置を地域に広めるといった営業をされていたそうですね。この時40代後半だった藤木さんが考えるキャリアや、仕事へのモチベーションはどのようなものだったのでしょうか?

藤木: 実は、何も考えてなかったというのが正直なところなんです。二枚目の名刺の企画担当者(山下さん:vol.3前編参照)が同じ総括担当の仲間で、「こんな企画やるからどう?」と声をかけてもらったのがきっかけでした。
その企画のスタート時、協働先の課題を聞き参加プロジェクトを決定する「Common Room(出会いの場)」にも、なんとなく参加したんです。しかし、そこで最初のプレゼンを聞いた時に「自分でできることがもっとないのかな」って思うようになりました。

坂田: そのプレゼン内容をもう少し詳しくお伺いできますか?

藤木: 私が参加したのは、ホームレスの自立支援をしている「認定NPO法人Homedoor」のプロジェクトについてのプレゼンでした。
それまで、ホームレスは自己責任と考え、大阪の路上生活者には目もくれませんでした。しかし団体代表から、多くの路上生活者は怠惰ではなく社会制度の狭間で路上に出ざるを得なくなったこと、自立支援の制度はあっても繋げる仕組みが不十分なためNPOの役割が重要だと学びました。自分の認識誤りや無知に気づき、何か行動したいという思いが生まれました。

坂田:Homedoorのボランティア活動はプロジェクト終了後も自主的に活動を続けられたそうですね。


(※2017年の活動風景)

藤木: 4ヶ月で終了したプロジェクトの後、夜回りやボランティアとして活動を開始しました。相談に来られる方は「数10円しかない」という方も多く、そんな方々の相談に乗り、住居確保や生活保護申請のサポート、就労支援まで自立への全過程に関われて、とても新鮮な気持ちでした。自分にもできることがある!と実感できたのも大きな喜びです。

坂田: プロジェクト期間の4ヶ月はどのような活動だったのですか?

藤木: 社内から3名、社外の一般募集で4名、計7名の社会人チームで、「HUBchariハブチャリ)というシェアサイクル 自転車の駐輪ポートを作る・探す」(vol.3前編参照)をテーマとして活動しました。私はNTT所有のビルへの設置を個人テーマに掲げて社内調整を開始しました。最初は安易に考えていましたが、駐輪ポート設置まで8ヶ月を要しました。
この過程で、社会貢献など前例が無い事を始めるためには誰かが声を上げ続けなければ実現しないこと、そして粘り強く取り組めば成果が出ることを学びました。この経験から本業への向き合い方に変化が生まれ、また様々な社会課題へ継続的に関わっていこうと決意が固まりました。

計画的偶発性がもたらした成長の循環。越境体験で豊かになる仕事力と人間力

坂田: 活動を通じて自分自身に対する新たな気づきはありましたか?

藤木: 本業で培った営業企画のスキルが会社以外でも活かせることに気づき、仕事も楽しくなりました。課題への向き合い方や人との関わり方が変化し、「対人支援」への興味から、良好な関係構築の大切さも意識するようになりました。これにより同僚や上司・部下から良い情報を引き出せる環境ができ、本業でも良いアイデアが生まれスピード感が増しました。

坂田: 藤木さんの変化に周りからの反応はいかがでしたか?

藤木: 職場が以前よりうまく回せた感覚があります。様々な世代や立場の社員の悩みを聞きながら、一緒に前進できたと感じています。二枚目の名刺に参加していなければ、もっと雑な関わり方をして悩みに気づかず、組織としてうまくいかなかったのではないかと思います。

及部: 藤木さんとは、以前は同じフロア内ながら別部署だったり、私自身も2015年から他社への出向をしていたりで、直接の接点はあまりありませんでした。
ところが、NTT西日本で行った「E-1グランプリ2024」で藤木さんと再会した時に、非常に柔らかく、優しくなったという印象を受けました。Homedoorの取り組みのことは知っていましたが、その後も多様な活動をされているのを知って驚きました。
藤木さんは統括業務の担として厳しい面もありましたが、今は人間的な深みと柔らかさが増しています。社会貢献活動を通じて人間力を高め、私から見ると「藤木さんファン」が増えているように思いますね。


藤木: プロジェクト参加前は社内だけの世界だったのですが、社外との接点で知らないことの多さに気づき、もっと知りたい・関わりたいという意欲が湧きました。ジョン・D・クランボルツ教授の「計画的偶発性理論」のように、興味を持ち関わり続けることで新たな経験が生まれ、それがまた別の機会につながります。まさに、ここ数年はこうした経験が増え、活動範囲も興味も広がりました。二枚目の名刺のプロジェクトに参加して本当に良かったと思います。

越境活動から新たな越境活動へ。個人の挑戦が社内貢献へとつながる

坂田: その後、藤木さんはさらに活動を広げていかれたそうですね。

藤木: はい。対人支援への興味から、趣味レベルではなく「支援」のために専門的に学ぶ必要性を感じたので、キャリアコンサルタントの資格を取得しました。
取得後「社内ダブルワーク」制度を通じて社員向けキャリアサポートに携わり、法人営業組織でミドルシニア層向けキャリアセミナーや社内シンボルチーム(スポーツ採用社員)の現役アスリートとのキャリア面談も経験しました。
本業と異なる領域でこうした機会を得られたことに感謝しています。

坂田: 社外での越境活動によって興味が広がっただけでなく、藤木さん周辺の人にも良い刺激が与えられてるのかなと思いました。ちなみに、会社員として本業と越境活動のバランスはどのように取られているのですか?

藤木: 時間管理の面では、頭の中の比率は本業50%、副業・ボランティア25%、プライベート(家族)25%くらいです。物理的な稼働では、土休日や平日早朝で副業に関する作業をし、日中は本業、平日夜は時々ボランティア活動という感じで工夫しています。
土日も朝6時からボランティア関連のミーティングがあったりしますが、スケジュールを調整して活動が重ならないように気をつけています。

坂田: 外での経験が継続的に本業に活かされていそうですね。

藤木: はい、工夫やアイデアの引き出しが増えている感覚があります。外を知ることで気づくヒントが本業に活かせることがたくさんあります。この引き出しやきっかけを活用できるのも、外での経験があるからこそだと思います。

NTT西日本が推進する4つの要素。「E-1グランプリ」に見る、越境を「称賛する文化」の醸成

坂田: 及部さん、藤木さんのようにNTT西日本では越境活動に対する温度感が高まっているようですが、以前はどうだったのでしょうか?

及部: 越境の取り組みは当初、他企業出向やMBAトレーニー、社外研修など本業時間内の人材育成制度が中心でした。一部の関心の高い社員が個人的に兼業・副業を行う中、ビジネスデザイン部が初めて組織的にプライベート時間を活用した副業・兼業を支援し、管理者向けプロボノからスタートしました。(前編参照
現在NTT西日本では「普段のコミュニティ以外の別コミュニティでの活動」を全て越境と定義しています。別のコミュニティでの活動とは、ボランティア、社外副業、社内ダブルワークなど、幅広い活動が含まれます。

坂田: 越境活動を推進するために大切にされているポイントは何ですか?

及部: 越境活動には「マインド」「スキル」「実践」「風土」の4つの要素が重要だと考えます。

まず「マインド」では、社内キャリアイベントを通じて藤木さんのような様々なロールモデルを紹介し、「あんな人になりたい」と憧れを持ってもらうことが第一歩です。

「スキル」では、越境活動ノウハウや技術習得、ポータブルスキルの獲得を支援し、通信教育や資格奨励金などを提供しています。

「実践」では、公募型人事、社内ダブルワーク、ゼミ活動、副業・兼業など試せる場を提供します。例えば「課題解決の実践ゼミ」では、2024年に大阪の遊園地“ひらかたパーク”の課題解決に、NTT西日本グループ社員と社外の社員、学生が共創を実践しています。

そして、「風土」として、他者貢献やMy Challenge +(「変革マインド」の醸成を目的に、「未来志向の変革・新たな価値の創造・自身の成長」につながるチャレンジについては、チャレンジ自体を評価し、賞賛する仕組み)E-1グランプリなどがあります。E-1グランプリは風土とマインド醸成の両方に貢献しています。

坂田: 体系的に捉えられているのですね。風土にあるE-1グランプリとはどのようなものなのでしょうか?

及部: E-1グランプリは越境活動を「称賛」するための取り組みです。越境者は外部の知識・人脈・経験を持つ貴重な人材ですが、隠れて活動している方も多くいます。また社内よりも社外で認知されていることが多く、社内評価よりも社外評価が高いと、退職リスクが高まり、会社の損失になります。そこで、越境で得た知識や経験を公開し、称賛できる文化をつくろうと考えました。

藤木: 私自身、越境活動について社内では控えめにしていました。ホームレス支援も公言を迷っていましたが、E-1グランプリで情報を共有したところ多くの反響があり、自己肯定感とモチベーションが更に高まり社内還元にも繋がっています。

及部: 2024年度のE-1グランプリには51名がエントリーし、12名が決勝に進出。参加者の97%が取り組みに対し肯定的な評価を示しました。
「こんな人材がいるのか」「越境は重要だ」という気づきが広がり、登壇者から評価の喜びや「自信がついた」などの声があり、また視聴者からは「越境への意欲向上」「誇りに思う」といった感想がありました。
決勝に進めなかった人々も決勝進出者のレベルの高さに驚き刺激となったようです。草の根活動をしている人たちの可視化は大きな価値があったと思います。

坂田: E-1グランプリの参加者はどのような方々だったのでしょうか?

及部: 年齢、性別、会社ともに様々です。決勝プレゼンに残った方は26歳から64歳まで幅広く、バランスの良い構成でした。

坂田: 審査には外部の方も呼ばれていたのですよね。反応はいかがでしたか?

藤木: 外部審査員の方とイベント終了後に話していたのですが、「会社としてこれだけの規模で社外活動を称賛する仕組みは他で聞かない。画期的ですね」という評価をいただきました。

及部: この取り組みは草の根活動としてではなく、経営の中心で行われていることが大きな強みです。越境活動はこれからの企業成長に欠かせないものだと、経営層も理解しています。

坂田: E-1グランプリの今後の発展予定はありますか?

及部: NTT西日本グループでは次年度も開催予定です。現在は越境コミュニティを創設し、越境活動に関するノウハウを学ぶイベントや越境活動に興味のある人・実践している人が集まる交流イベントを企画していきます。
さらにHR系アワードへのエントリーを通じて評価を得ながら、国やメディアを巻き込んだ社会的な取り組みへと発展させていく構想があります。

経営陣が越境活動を積極的に推進するNTT西日本。自己実現が組織の成長へ

坂田: 人事として越境活動を推進する上で大事にしていることや、社員にどうなってほしいという思いはありますか?

及部: 第一に社員の幸せを願っています。VUCAの時代においては、安定的な企業経営は難しく、新たな価値創造が必要になります。そして新たな価値創造には「人」が大切です。社員のモチベーションの向上や自己成長により、社内外の知識・人脈・経験を得ること・活かすことが重要です。
新たな価値創造の中心となっている社員は個人として幸せでなければ、周囲に幸せは届けられません。個々が主体的に越境活動をすることで自己理解と社会理解を深め、目標を定め、実現をしていくこのプロセスが結果的に社員ひいては企業や社会の幸せに繋がると考えて推進しています。

坂田: 越境活動を推進するための背景には、NTT西日本としての経営課題もあるのでしょうか?

及部: NTT西日本では、新しい価値を創出していかなければ会社として持続が難しくなるという経営的な危機感があります。
それを改善するために様々な取り組みをしていますが、越境活動もその一つです。経営層の方々も理解してくださり、E-1グランプリは総務人事部長表彰ですが、社長も挨拶に来られるなど、経営の中心となる取り組みになっています。

坂田: 越境活動によって社員はどのように変わるのでしょうか?

及部: 越境活動はWill(したいこと)、Can(できること)、Result(実績)を磨くことができます。以前は会社の所属と役職などが社会から信頼される手段の1つでしたが、現在は所属や役職より個人の意思・知識/特技・実績信頼を生む世界感に変わってきたします。越境活動でWill-Can-Resultを磨けば人生の選択肢が広がり、自己実現と幸せにつながります。

及部: 私自身は「世界中の人に元気と笑顔をつくり続けられる人になる」という人生のパーパスを持っていて、ここに本業と副業の区別はありません。NTT西日本で生み出したE-1グランプリのような新しい取り組みを社会に広めたいと考えています。
理想的な会社と個人の関係は、社員のワクワクした行動と成長が、企業の成長に繋がり、その先の社会の発展に貢献することだと思っています。個人のWill-Can-Resultと会社貢献を融合させれば適材適所で活躍し、全体が良い方向に進むと信じています。

越境活動がもたらす好影響は、個人の豊かな人生と会社の発展

坂田: 最後に、越境活動を躊躇している社会人へのメッセージをお願いします。

藤木: 私たちは会社員でありながら、社会に生かされていることを感じてほしいです。一人一人が少しでも社会課題を解決しようとするマインドがあれば、苦しんでいる人の苦しみが取れたり、笑顔が増えたりします。
私自身、これからも社会に目を向けて活動を続けていきたいですし、私が発信することで同じような人が一人でも増えればいいと思っています。

及部: 越境活動は豊かな人生を歩むための選択肢を増やすことだと思っています。社員一人一人がワクワク働くことで、企業としても新しい価値を生み出すことができます。
個人にとっては豊かな人生の選択肢を、企業にとっては発展に必要な社内外の知識・人脈・経験を得るものです。誰もが社会に対しての「挑戦者」であることが重要だと思います。今日、話した内容が皆さんの活動のヒントになれば嬉しいです。

坂田: 藤木さん、及部さん、ありがとうございました!

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宮内 めぐみ
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長野県出身。会社員を経て、自らを試すべくフリーランスへ転身。 デザイナー・ライター・イラストレーターの3つの肩書を持つ、”描ける×書ける デザイナー”として活動中です。「自分の人生を楽しむ」がモットー。