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公認会計士が持つ2枚目の名刺 ~専門人材こそ2枚目の名刺で楽しみ、広げて、伏線を張る~

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※この記事は、公認会計士の生涯支援を目的としたプロジェクト「CPASS」(https://cpass-net.jp/)のCAREER COLUMN(https://cpass-net.jp/career-column)との同時掲載記事です。

 

本業とは異なる「2枚目の名刺」を持ってソーシャルセクターで活動するとき、企業や行政など組織に勤めるひとたちの多くは「何の専門性もない自分にどんな貢献ができるのだろう」と不安を覚えます。そして、活動を通して徐々に必ずしも専門性によらない、また別の「自分の強み」に気づく体験をしていきます。

一方で、そもそも極めて高い専門性を持っている人は、どのようなことを感じながら2枚目の名刺を持ち、そこでどのように貢献し、それが本業とどのように結びつくのでしょうか。

そんな疑問を思い浮かべたとき「公認会計士として働きながらNPO二枚目の名刺の立ち上げに携わったあのひとなら、ヒントとなる話を聞かせてくれるかもしれない」。そう思って、そのひと――「矢冨健太朗様」と待ち合わせた初夏の代々木公園に向かいました。

 

プロフィール
矢冨健太朗(やどみ・けんたろう) 様
島根県出身 公認会計士・税理士
2004年に公認会計士試験第二次試験合格、あずさ監査法人(現有限責任あずさ監査法人)入所。監査部門にて日本基準、米国基準、国際財務報告基準での会計監査を経験。アドバイザリー部門へ異動し、M&Aや事業再生支援業務に従事。その後、海外の提携先事務所へ駐在し、日系企業の進出支援や現地日系企業の各種支援業務に従事。帰任後は、会計アドバイザリーサービスを中心に、海外子会社管理高度化支援や海外事業の買収に関する統合後支援などに従事。有限責任あずさ監査法人退職後、スタートアップ企業の監査役に就任。また、公認会計士・税理士事務所を開設し、株式公開支援、M&A関連サービス、会計・税務アドバイザリーサービスなどを提供している。業務の傍ら、日本公認会計士協会の専門委員や一般社団法人シェアリングエコノミー協会の税制委員に就任している。NPO二枚目の名刺立ち上げメンバーの一人。

 

狭い世界で仕事をしている感覚……「このままでいいのか?」

――矢冨さん、お忙しいところありがとうございます。本日は公認会計士であり、NPO二枚目の名刺の立ち上げメンバーでもある矢冨健太朗さんに、「公認会計士と2枚目の名刺」というテーマでお話をお聴きします。どうぞよろしくお願いします。

矢冨さん:よろしくお願いします。

――矢冨さんはNPO二枚目の名刺の立ち上げメンバーだったり、SVP東京にも参画していたりしたわけですが、ソーシャルな活動にはいつ頃から興味があったのですか?

矢冨さん:ソーシャルという点では、元々、漠然と国際協力に関心がありました。監査法人に就職して5年程度経った頃に、具体的に行動してみようと思い立ち、JICAの海外協力隊の説明会に行ってみました。ですが、その時点では、残念ながら私が貢献できることが多くはないなと感じました。

その頃、たまたまテレビニュースで、SVP東京※1の活動が放送されていたのが目に留まりました。自分と同世代の本業を持つ社会人が、ソーシャルな課題に取り組んでいるのを見て、自分もやってみたいと思いました。

 

※1 特定非営利活動法人ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京
社会的な課題の解決に取り組む革新的な事業に対して、資金の提供と、パートナーによる経営支援を行っている。投資協働を行うソーシャルベンチャーのミッション達成に貢献すると同時に、パートナー自身が、投資・協働団体への支援に参画し、地域や社会への関与を通じて、イノベーションに貢献することをその使命としている。米国シアトルに本部を持つ、SVP Internationalの北米外で最初の加盟団体(アフェリエイト)。2003年創立。(SVP東京HP(https://www.svptokyo.org/)より)。

 

当時、ソーシャルアントレプレナー(社会起業家)という言葉が認知され出して、同世代の起業家が注目されはじめていました。そういったこともあり、20代、30代の人達が、この分野に入りやすい雰囲気が醸成されつつあったと思います。

ソーシャルな活動を開始した2009年頃は、私自身キャリアの方向性について悩んでいた時期でもありました。会計や監査の専門家として、自分自身の専門的知見や能力が日進月歩で向上している実感は持てていましたが、一方で専門性が強い業務に従事しているが故に、何か狭い世界で仕事をしている感覚がありました。「このままでいいのか」と感じることもありました。

個人的な事情もあり、一旦、監査法人を退職して公認会計士としての仕事から離れてみようかと考えたりもしました。ただ、色んなご縁が繋がって、アドバイザリー事業部のパートナーから声をかけていただき、監査部門から異動し、M&Aや事業再生支援業務に従事することになりました。

また同じ頃、社外でソーシャルな活動に携わるようになりました。当時、自分が接していた会計や監査の世界での仕事は、今となっては狭い世界などではなかったと思いますが、当時の私の視野ではそう見えていました。

前職マニラ事務所の同僚の方々と(一番左側が矢冨さん)

 

立ち上げ段階から関与できるのは面白そう

――矢冨さんがNPO二枚目の名刺に参画したのは、どういったきっかけだったのですか?

矢冨さん:SVP東京主催のイベントで二枚目の名刺に出会いました。2009年当時、二枚目の名刺はまだ構想段階で、立ち上げのメンバーを募っている状況でした。NPOの立ち上げ段階から関与できるのは面白そうだなと思い参画しました。

 

――NPO二枚目の名刺では、どんなことをされていたのでしょうか?

矢冨さん:二枚目の名刺がNPO法人化する前は、主に法人設立に関わる業務に携わり、NPO法人化時は理事に、最終的には監事に就任しました。

また、法人設立の業務と並行してサポートプロジェクト※2の設計にも加わり、試験的に実施したサポ―トプロジェクトにはメンバーとして参加しました。「議論ばかりしていても分からないからやってみよう」ということで、パイロット版として設立メンバー自ら体験したプロジェクトでしたが、とても面白い経験でした。

2 SPJ(サポートプロジェクト)
サポートプロジェクトは、様々な業種・職種の社会人がチームを組み、新しい社会を創ることを目指す団体(NPOなど)と共に、団体の事業推進に取り組む有期のプロジェクト。通常、5人程度の社会人チームが3〜4か月の期間で行う。プロジェクトテーマは、パートナー団体と社会人チームで協議し、柔軟に設定して実施している。(NPO二枚目の名刺HP(https://nimaime.or.jp/)から)。

 

――とても面白かった?

矢冨さん:サポートプロジェクトの協働先となる非営利団体とのディスカッション一つをとってみても、自分が本業で接していた営利企業とは異なる点も多々あり、興味深く、面白かったです。また、非営利団体の代表をはじめとする幹部の方々は自身の価値観や信念をストレートに語ってくれることも多く、とても新鮮でした。非営利団体との接点を通じて、私自身の価値観が更新されたり、視野が広がっていったりしたと感じました。

 

 

団体へ進言――伝わらない、響かない

――公認会計士というご自身の専門性を意識することはあったのでしょうか?

矢冨さん:非営利団体と接する中で、その団体のガバナンスに関する課題や経営管理上の課題に気づくことが多くありました。自分の公認会計士業務から得た経験や知識から、ある程度、模範的な解答を用意することができ、非営利団体へ進言したこともありましたが、「伝わらない」、「響かない」、あるいは、結果として課題の根本的な解決策になっていなかったという経験を何度かしました。

当時、主に本業で接していた営利・大規模組織とは異なる非営利・中小零細組織の特性に十分な理解が及んでおらず、自分の浅さを認識しました。一方で、この経験は、専門家としての業務を行う上での貴重な糧となりました。現在は、自分の会計事務所を開設して色々な企業や組織に関与する機会がありますが、当時の経験が活きていると感じます。

 

――NPO二枚目の名刺以外で本業外の活動(プロボノ等)のご経験は?

矢冨さん:本業と本業外での活動の境目が曖昧なのですが、現在、直接的な金銭報酬を受け取っていない活動としては、「特定非営利活動法人ブラストビート」(監事)、「日本公認会計士協会」(専門委員)、「一般社団法人シェアリングエコノミー協会」(税制委員)があります。(カッコ内が各団体での役職)

日本公認会計士協会関連では、日本公認会計士協会、ミャンマー公認会計士協会、その他関係機関とで締結された覚書に基づき実施されているミャンマー公認会計士支援事業に参画しています。(ミャンマー国内での政治情勢等に鑑み、現在は中断)
また、一般社団法人シェアリングエコノミー協会では、政府官公庁とシェアリングエコノミーが関連する税制についての政策討議や政策提言や、シェアリングエコノミー利用者に向けた税務申告を中心とする税制の普及・啓発の活動に取り組んでいます。

こういった活動は2枚目の名刺を持って活動する経験がなければ、関与していなかったかもしれません。本業以外で非営利団体と関わる中で、自然とソーシャルな領域へ近づいていき、本業の公認会計士(税理士)業務と近接するところで、ご縁もあり上記活動を行うようになりました。

2018年11月、国民民主党古川代表代行(当時)、小林総務会長(当時)との懇談、シェアリングエコノミーと税制についての要望書を提出、一般社団法人シェアリングエコノミー協会税制委員として(一番左側が矢冨さん)

 

一歩踏み出すことで、想像を超えた未来につながる

――矢冨さん自身は2枚目の名刺にどんな意義や価値を感じていますか?

矢冨さん:単純にやっていて楽しいと思える活動の場や機会を増やせる点でしょうか。また、先程、述べた通り、活動を通じて、自分自身の価値観が更新されたり、視野が広くなったりすることを感じることができました。こういった点に価値を感じています。

活動を行う中で、私自身、必ずしも社会課題に直接向かっていくことが原動力になっているわけではないということが分かってきました。むしろ、社会課題に立ち向かっている人達を、自分なりに支援したいというのが動機になっていると自覚するようになりました。

自分の公認会計士としての知識や技能を活かせる場が仕事だけで終わってしまうことに、モヤモヤすると言ったらいいのか、「もう少し社会の役に立てるのではないか?」という想いがあり、そういったところが原動力になっています。2枚目の名刺によって、自分なりに支援できる場を持てるという点に意義を感じています。

 

――では、広い意味での公認会計士やその他専門人材にとっての2枚目の名刺の意義や価値はいかがでしょうか?

矢冨さん:公認会計士を始めとする専門人材は、文字通り専門性があるため、自身の持つ専門的知見で社会貢献ができる可能性が大いにあります。専門人材が広く専門的知見を提供していくことで、社会的厚生を高めていけるという点で意義があるのではないかと思います。

また、専門人材の立場に立つと、繰り返しになりますが、視野を広げることができる点に価値を感じます。専門人材は、専門性を追求するあまり、ともすれば、専門領域に閉じてしまうこともあります。2枚目の名刺を持つ活動を通じて、多様な組織、活動、価値観などに触れ、視野を広く持つことを手助けしてくれるのではないかと思います。

 

――最後に、一歩を踏み出そうか悩んでいる公認会計士の皆さんに

矢冨さん:2枚目の名刺を持って活動することは、本業の垣根を越えて人や組織と交わることになるため、伏線を張るような側面があります。例えば、私自身、前職の海外駐在先は新興国・途上国を希望しましたが、本業外での活動で国際協力NPOと出会ったことが少なからず影響しています。海外駐在を経て、新興国・途上国の会計実務の実情に精通し、課題意識も芽生え、結果、ミャンマー公認会計士支援事業に関与することにも繋がりました。

また、NPO二枚目の名刺の創業メンバーとして一緒にやっていた仲間の一人が起業し、ご縁がありその会社の監査役に就任しました。その後、会社は上場を達成することができ、私の職業人生にとっても非常に貴重な経験となりました。

2枚目の名刺を持つことで、ミャンマー公認会計士を支援することになるとは思っていませんでしたし、スタートアップ企業の社外役員として上場を経験するとも想像していませんでした。これらは、一歩踏み出すことからご縁が繋がって起こったことです。一歩踏み出すことで、皆様ご自身の想像を超える未来が待っているのかもしれません。

 

【編集後記】
2022年5月。爽やかな風と日差し、そして公園の緑の中でのインタビューはさぞかし気持ちいだろう、そんな能天気な気持ちで代々木公園を訪れた私の質問に、矢冨さんは穏やかな笑みを浮かべながら一問一問、とても丁寧に答えてくださいました。心のどこかでは、専門性があれば本業と相乗効果のある活動もでき、NPOなど団体にも大きく貢献ができるものだと思い込んでた気がします。実際には、専門性を持つがゆえにモヤモヤすることもあることや、2枚目の名刺のおかげでそのモヤモヤとの向き合い方のヒントが得られる場合もあることなど、様々なヒントが得られるインタビューとなりました。引き続き、自分の専門性に悩むひとにも、高い専門性を持つ人にも、2枚目の名刺を持つ機会をつくっていきたいと思います。

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ライター

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編集者

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カメラマン

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島田正樹
ライター
編集者
さいたま市役所に勤めながら、NPO法人二枚目の名刺「2枚目の名刺webマガジン」の編集者として活動。その他、地域コミュニティづくりの活動や、公務員のキャリアに関する活動などにも取り組む“公務員ポートフォリオワーカー”。『仕事の楽しさは自分でつくる! 公務員の働き方デザイン』(学陽書房)著者。ブログで日々情報発信中。https://note.com/shimada10708 https://magazine.nimaime.or.jp/shimadamasaki_interview/
NPO法人二枚目の名刺 代表。組織や立場を超えて、社会を創る活動に取り組む「2枚目の名刺」を持つことが、人の変化と社会の変化を同時に生み出すことを提唱。2009年に二枚目の名刺を立ち上げ、NPOサポートプロジェクトを展開。もう1枚の名刺では、日本銀行、経済産業省を経て、現在は商社で事業開発に取り組む。4児の父。
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