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三阪洋行さん(ウェルチェアーラグビー日本代表コーチ)×野澤武史【前編】「ケガを負ったラグビー青年がパラリンピアンになるまで」
【今月の二枚目ラグビー人】
三阪洋行(みさかひろゆき)氏
ウィルチェアーラグビー日本代表アシスタントコーチ。ウィルチェアーラグビーチームBLAST(千葉)所属。 高校生の頃、ラグビー中の事故で頸髄を損傷し、車椅子生活に。 ウィルチェアーラグビーと出会い、日本代表として3大会連続でパラリンピックに出場。昨年より日本代表アシスタントコーチに就任し、リオパラリンピックでの銅メダル獲得に貢献。自身の経験を生かし、障害者に対する理解を得る取り組みをしている。
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第4回のゲストは、昨年9月に行われたリオパラリンピックで見事銅メダルを獲得した、ウィルチェアーラグビー日本代表コーチの三阪洋行さん。人生の転機となったニュージーランドへの単身留学で、彼が得たものとは? そして、今後彼が目指そうとしている道とは? 凍えるような東京の寒空のもと、話を聞いた。
リオパラリンピックでメダル獲得!その勝因とは…
野澤:まずは、リオパラリンピック銅メダル獲得おめでとうございます! 3位決定戦は、ずーっと点差が変わらないという、緊迫した試合展開でした。
三阪:ありがとうございます。そうした展開も珍しいことではないのですが、メダルのかかった大一番で、あの展開はしんどかったです。
野澤:4年間の集大成と呼べる試合でしたね。
三阪:ロンドンパラリンピックでは、ブロンズメダルゲームまで行くことはできたのですが、そこで勝ち切れませんでした。「何となくできている」で、詰め切れていなかった部分が露呈しました。今思うと、明確なビジョンがなかったと思います。
野澤:今大会のメダルへの山場はどこでしたか?
三阪:準決勝でオーストラリアに力負けした後でしょうね。精神的にはしんどい状態でした。
野澤:準決勝と3位決定戦とでは、どれくらいの期間が空いているんですか?
三阪:めちゃくちゃ短かったです。準決勝の試合が終わったのが18時くらいで、翌日の試合が朝9時開始。とにかく気持ちのリセットとリカバリーが大変でしたが、そこはキャプテンに委ねました。実際それで勝てましたし、僕は次のカナダ戦の準備をしなければと、冷静に分析を始めていました。
野澤:準決勝の日は選手ミーティングで締めたのですか?
三阪:はい。スケジュール上、準決勝の夜にミーティングをやらざるを得ないなと思いました。翌日の朝に詰め込むよりも、伝えるべきことは伝えておいて、咀嚼してもらいたいという想いもあったので、22時頃に選手に集まってもらい、戦略的な落とし込みをしました。
野澤:そこでの組み立てが、メダルへの分かれ道の一つでしたね。
三阪:実はあの試合には色々な要素があったんですよ。最後の2試合に向けて、組織委員会がフロアをクリーニングして、スリッピーなコートコンディションになっていたんです。フロアが滑りやすい状態だと、車椅子が空回りしやすくなり、操作が難しくなります。このことは日本にとってもカナダにとっても懸念事項でしたが、カナダのパフォーマンス力の高い選手のストロングポイント(こぎ出し)のスプリント能力が落ちたので、今回は日本にとって追い風になりました。
野澤:そんな裏話があったんですね。
ラグビー青年がケガを負い、ウェルチェアーラグビーに出会うまで
野澤:話を巻き戻して、ラグビーとの出会いを教えてください。
三阪:花園の近くに生まれたものですから(笑)、草野球ならぬ草ラグビーで育ちました。最寄り駅は東花園で、正月になると花園の歓声が聞こえてくるんです(笑)。
野澤:ラグビー始めるには絶好の環境ですね(笑)
三阪:布施工業に進学を決めた理由は、中学3年の時に見た花園の大阪予選の決勝(対啓光学園戦)でした。その試合を見て、「公立の工業高校があんなにすごいレベルで戦っているんだ」と衝撃を受け、「ここでラグビーをやってみたい」と思ったんです。
野澤:一目ぼれですね。
三阪:はい。それで布施工業に入学して、ラグビーに打ち込んでいたのですが、高校3年生の6月、花園出場をかけた全国大会・大阪予選を控えた練習中の事故で首の骨を脱臼骨折し、頸椎損傷を負いました。そこから車いす生活になったのですが、多感な時期だったので、現実を受け止められず、ネガティブな状況が続きました。いきなり体の自由が奪われたショックで、自分で食事を摂れなかった時期もありました。
野澤:そうでしたか。
三阪:リハビリの病院へ移る時も、心のどこかで“元通りになる”という期待を抱いていたのですが、その病院で、再び歩けるようにはならないことを知りました。それから、車いすで日常生活を送るためのリハビリをすることを告げられたのですが、この瞬間に全ての希望が絶たれましたね。前向きな気持ちなんてなく、ただただリハビリをこなす毎日でした。
野澤:そこから、どうウィルチェアーラグビーと出会ったのでしょう?
三阪:リハビリを担当してくれた作業療法士に、「ラグビーをしている時にケガをしたのだ」という話をすると、「車いすでやるラグビーがある」と教えてくれたんです。その時、初めてウィルチェアーラグビーの存在を知りました。たまたまその先生がビデオを持っていて、次の日に見せてくれたのですが、その夜、久しぶりにワクワクして寝られなかったんです。事故後、こんな目に遭ってつらいだとか、先が不安だとか、ネガティブな感情が渦巻いて眠れない日は多くあったのですが、「車いすでラグビーって、どうやってやるんやろ?」と、初めて興奮して眠れなかったのを今でも覚えていますね。
野澤:ウィルチェアーラグビーは三阪君にとってどんなものになりましたか?
三阪:最初、大阪のクラブチームでプレーを始めたのですが、そこが僕にとって憩いの場になりましたね。まず、同じ境遇の仲間がたくさんいることが嬉しかった。彼女がいる人や結婚している人がいて、希望を抱きもしました(笑)。“生きている”という実感や自分の存在意義、その全てを彼らに当てはめていましたね。「障がいを抱えながら生きていく世界にも、こんなに素敵なことがあるんだ」というのを身近な人たちが体現してくれていたことは、障がい受容していく上での大きなきっかけになったと思います。
野澤:障害受容?
三阪:「障がいを受け入れる」ということです。
野澤:そこで、徐々にウィルチェアーラグビーにハマっていったんですね。
三阪:とは言うものの、健常者のラグビーに一生懸命取り組んでいたこともあり、最初は小馬鹿にしていたところがあったんですよ。始めから「すべてを注いでウェルチェアーラグビーをしよう」と思えていたわけではありませんでした。でも、簡単にできると思っていたら、女性選手も1対1で抜けないという…。スタートはそんな状況でした。
ニュージーランドへの留学が、人生の転機に
三阪:人生で一番の転機は、ウィルチェアーラグビー連盟総務長の塩沢さんから「留学してみない?」と声をかけてもらい、ニュージーランドに4か月ほど留学したことです。プレーヤーとしても、障がいを持って生きていくことを考えるうえでも、この留学がものすごく大きなターニングポイントになりました。
野澤:ご両親に反対されませんでしたか?
三阪:反対されましたよ。「留学生活は健常者でも大変なのに、車いすのあなたにできるわけがない」と言われて。そこで天秤にかけたのが、「変わりたい気持ち」と「今の環境に甘えて生きていく」という2つの選択肢でした。当時、親やまわりに甘えて生きている自分の事がすごく嫌いだったんです。そんな状況を打破するためには、「誰も助けてくれないところで一か八かの事をするしかない」と思ったんですよね。それで、ホームステイ先も何も決まってないまま、日本を飛び出しました。ニュージーランドのチームが受け入れてくれるかも分からないのに、出発してしまったんです。
野澤:えー!
三阪:最初の一週間だけ塩沢さんがサポートしてくれましたが、そこから先は自分で交渉するしかありません。でも幸いなことに、ホームステイ先、語学学校、車、クラブチームへの加入と、一週間で留学中での主な環境を整えることができました。タイミング良く、素敵な人たちと出会えたんです。
野澤:引きが強いですね!
三阪:でも、カルチャーショックや言葉の壁に突き当たり、ホームステイ先の部屋に引きこもっていました。意気揚々と行ったのですが、いざ異国で生活を始めると人とコミュニケーションをとるのがこわくて…。
自室に引きこもった三阪さんが、どのようにその状況を打破したのか、障がいを受容し、自分に自信を持てるきっかけは何だったのか――。
ライター
編集者
カメラマン
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