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2017.03.10

田邉淳さん(サンウルブズアタックコーチ)×野澤武史【前編】「コーチの既存枠を抜け、新しい文化を創る!」

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【今月の二枚目ラグビー人】
田邉淳(たなべあつし)氏
ヒトコム サンウルブズアタックコーチ。現役時代はフルバック。中学卒業後ニュージーランドに渡り、現地のクラブチームでプレーする。2001年に三洋電機に入社し、小柄ながらスターティングメンバーとして活躍。日本代表キャップは3。2013年に引退し、パナソニックワイルドナイツのバックスコーチに就任。2016年よりサンウルブズに参加している。ニックネームはスラッシー。

いよいよスーパーラグビー2017シーズンが開幕! ヒトコム サンウルブズのアタックコーチ、田邉淳さんに話を伺った。世界の最前線で戦う指導者は、日本が世界と互角に戦うために、どの様なビジョンを描いているのか―。自身が目指すコーチング哲学とは? 海外と日本を行き来する慌ただしいスケジュールの合間を縫ってインタビューを行った。

――――

3歳でラグビーを始め、15歳で単身ニュージーランドへ

野澤:まず、現在のスラッシーさんのラグビーへの関わりについて教えてください。

田邉さん(以下、敬称略):パナソニックからの出向で、一般社団法人ジャパンエスアールが運営するラグビーチーム、ヒト・コミュニケーションズ サンウルブズに所属し、アタックコーチを担当しています。昨年はパナソニックとサンウルブズでコーチングをしていて、2枚の名刺を持っていました。パナソニックではバックスコーチという肩書きでした。

野澤:日本代表にも帯同していましたよね?

田邉:サンウルブズからの派遣という形で参加していたので、2.5枚目の名刺という感じかな。

野澤:スラッシーさんとラグビーの出会いについて教えてください。

田邉:もともと親父がラグビー好きだったことがきっかけで、3歳からラグビーを始め、15歳の時にニュージーランドに渡ることになりました。3男だったから、ラッキーなことに留学させてもらえたんだよね。

ニュージーランドが強い理由と日本の強化策

野澤:ニュージーランドに行って、日本と差を感じたところ、逆に日本のこの部分は世界に通用するなと感じたところはありましたか?

田邉:ラグビーに関して言うと、草ラグビーのすごさはものすごく感じるね。サッカー強豪国のブラジルも、別にすごい指導者がいてすごい施設があるってわけじゃないでしょ? 子どもたちが裸足でストリートサッカーをやっているような環境が至るところにあるだけで。ニュージーランドのラグビーも一緒で、昼休みになったら生徒たち全員がグラウンドに出てラグビーをやる。あれはうまくなる一番の理由だと思う。

野澤:遊びの中にラグビーがあるというか。

田邉:まさにそこだと思う。ニュージーランドの子どもたちは、昼間はラグビーをして遊び、夜は地元のスタジアムでスーパーラグビーを応援し、6月になればオールブラックスの試合を観に行く。日本とは違って、身近なところにラグビーがあるんだよね。あと、あれやね。日本には「こうやってラグビーをするんだ」という指導しかないから、選手はそれだけが正しい方法だと思ってしまう。結果として対応力が身につかない

野澤:僕も教育業界にいますが、言われてみれば「答えを答えなさい」という問題ばかりです。

田邉:そう。”How are you?”と言われたら、”I’m fine,thank you”が正しい答え。これを”I’m good”で書くと日本の中学校では×なんだよね。そういう教育というか、国民性で、それがスポーツにも出ているんじゃないかな。

野澤:ニュージーランドは一問一答ではなく、“一問多答”ということですね。

田邉:でもそれを変えるのは難しいし、逆に僕は、それが日本の良さでもあるから、その「正しいと思っている」答えを徹底して練習するということが日本のラグビーには必要なのかなって思う。

野澤:なるほど。

田邉:それをやったのがエディ(エディ・ジョーンズ、前日本代表ヘッドコーチ)だよね。ジェイミー(ジェイミー・ジョセフ、現日本代表ヘッドコーチ)も「絶対これだけやれ」と指導しているところがあって、違うことをやると雷が落ちてくる。「お前の役割は何だ?」と。彼はバランスをうまく取っていくタイプだと思う。選手の言うことを受け入れて、採用するところは採用しているしね。

ラグビーはチームスポーツ。決まりを徹底してこそ強くなる

野澤:スラッシーさんは高校、大学と日本のチームでプレーしていないわけですよね? 日本に帰ってきてショックだったことってありますか? スラッシーさんが入ったのは、三洋が強くなる前ですよね?

田邉:そう。三洋がトップリーグで戦えることが決まった年、2001年の10月に日本に帰ってきた。当時ヘッドコーチをしていたマレーヘンダーソンがクライストチャーチ出身だったから、何かのタイミングで映像を見てくれたんだろうな。三洋は僕が帰ってから3年目までは勝てなかったよ。7位、7位、5位だったかな。

野澤:トニーブラウンもいたけどフィットしていませんでしたよね。僕が神戸製鋼で対戦した時も、他の外国人選手より彼が出てきてくれたほうが嬉しいほどでした。

田邉:その経験から、ラグビーってチームスポーツで、1人2人すごいのがいても全体力がないとまったく機能しないということがわかったよね。

野澤:当時のトニーブラウンはチーム内でどんな評価だったのですか?

田邉:彼の本質を誰も理解できていなかった。当時彼が必要としているラグビーに俺らついていけていなかったなって、今となってはよくわかる。俺自身もよく怒られてたよ(笑)。

野澤:ある年を境にトニーブラウンが機能し始めて、急に勝つようになりましたよね? あれは何かが変わったんですか?

田邉:宮本勝文さんが監督の時だね。「決まりごとを守る」ことが徹底された。それまでも決まりごとは一応あったんだけど、しっかりと守られてはいなかった。

野澤:なるほど。内容が腹落ちしてはいないけれど、表向きは決まりを守ることって、日本人にはよくありますよね。

田邉:「守ってる風」ってやつね。言われたことはやるけど“ただやってるだけ”の奴もいるから、そういうのを見極めて同じ方向に向かわせるのもコーチの仕事の一つやな。

多角的な視点を持ち、選手の目線を合わせるのもコーチの仕事

野澤:以前スラッシーさんから、コーチングで大切にしている「3つの視点」の話を伺いました。あれもニュージーランドの発想なのでしょうか。

田邉:そう。虫メガネ、ヘリコプター、人工衛星という3つの異なる視点から、物事を見る。「視座を変えろ」という話だね。

野澤:具体的な例でお話し頂けますか?

田邉:例えばディフェンスなら、人工衛星からの視点は目に見えないマインドセットの設定、ヘリコプターの視点はシステム、戦略、戦術、虫眼鏡の視点は個々のテクニック、マイクロスキル、になるんじゃないかな。

野澤:この思考法を知っておくと、修正もしやすいんですよ。ディフェンスが上手くいっていない時に、どこを修正するべきなのかが見えやすい。一つの結果が思わしくない時に、いい部分まで変えてしまって、さらに状況を悪化させてしまうことってありますよね。

田邉:そう。何が理解できていないのか、どうしてそっちに行ってしまったのか、を考えることが大事やな。

野澤:僕自身、全然できていないかも…。指導者が理解できていなかったら、選手は混乱してしまいますよね。スラッシーさんのコーチングを見ていてすごいなと思うのは、その人の目線に合わせているところ。

田邉:コーチが80%なら選手も80%、50%なら選手も50%しか理解できないだろうと思ってる。目線を合わせられるようになるのは経験やな。

野澤:以前「同じ絵(same picture)を見ることの大切さ」を説くために選手全員にお相撲さんの絵を描かせたことがあったじゃないですか。選手はそれによって皆、目線を合わせることの重要性に気付いたようでした。

田邉:「相撲」という日本人なら誰でも知っている言葉でも、実はみんな違う絵を見ている。シコを踏んでいる力士を想像したり、組み合っているところを描いたり、酷いやつになると土俵しか書かない奴がいたり(笑)。それじゃあ力を発揮できないよな。選手が同じ絵を見て、同じ方向へ導くのはコーチの仕事だね。

後編へ続く

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写真:ハラダケイコ
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野澤武史
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歴史教科書で有名な山川出版社で経営に携わる一方、日本ラグビーフットボール協会リソースコーチとして若手選手の強化・発掘を手掛ける。テレビ解説や、新聞・雑誌ので執筆も行い、著書には『7人制ラグビー観戦術-セブンズの面白さ徹底研究』(ベースボールマガジン社)がある。グロービス経営大学院卒業(MBA取得)。
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