「公務員の兼業を後押しする!」SOZO日本プロジェクト~公務員が直面する課題~【後編】
2018年7月31日に行われたSOZO日本プロジェクト(以下SOZO日本)が主催する「兼業で公務員がどう変わるのか~人生100年時代の働き方と学び直しを行政・企業・NPOで考える~」第二部のレポートをお届けする>第一部のレポートはこちら
第二部のテーマは「“公益兼業”で自分と社会を変える」。
モデレーターはユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社の取締役であり人事総務本部長の島田由香さん。スピーカーとして、経済産業省参事官の伊藤禎則さん、農林水産省で働くとともに早朝勉強会「霞が関ばたけ」の代表を務めている松尾真奈さん、NPO法人クロスフィールズの代表理事であり、NPO法人新公益連盟の理事でもある小沼大地さんが登壇した。
国家公務員の労働環境は「ハッピー」とは遠い現実
今年7月まで経済産業省で人材政策の責任者として「働き方改革」を推し進めてきた伊藤さんから「公益兼業が認められた意義」が参加者に向けて語られた。
伊藤:本来の働き方改革とは、働く人の選択肢を増やすことだと私は捉えています。そもそもキャリアは自分で作るものであり、天から降ってくるものでも、人事から与えてもらうものでもありません。どう自分が学ぶかの選択肢のひとつが、副業兼業やリカレント教育です。
伊藤さんによれば、「副業兼業は認められるか」という議論は、すでに政府がかかわる形で決着がついているということ。2018年2月にモデル就業規則が改訂され、「副業兼業を禁止する」項目がなくなったからだ。民間企業に向けては、国の意志表示として「原則として副業兼業は認められる」「認めないことももちろんOKだが、会社に一定の説明責任がある」となっている。
伊藤:これからは企業とそこで働く人の関係が相対化してきて、働き手はどうプロフェッショナルになっていくかが重要になってきます。公務員も無関係ではありません。公務員も副業兼業を含めて、持ち札を増やしていくべきでしょう。ただ、公務員には民間企業とはまた違うルールがある。そこでまずは、公益性のある兼業であれば認めてもいいのではないかとなったのが今回の流れです。
パブリックセクターの立場から、「働き方改革」に取り組んできた伊藤さん。
話し終えた伊藤さんに対して、島田さんが投げかけたのは「伊藤さんはハッピー?」というひとこと。伊藤さんは「今はまだゴールではないが、公務員も自分のキャリアを自分で切り拓いていけるようになってきたことに対して」と付け加えて「ハッピーです」と答えた。
島田さんがこんな投げかけをしたのは、自身が公務員に向けてトレーニングを行った際に「志を持って行政の仕事をしているはずなのに、輝いていない」と感じたことがあるようだ。では、現役の国家公務員でありながら、早朝の勉強会である「霞が関ばたけ」の代表という別の肩書も持って活動している松尾さんはどうなのだろうか。
松尾:最初は私も「霞が関ばたけ」の参加者でした。今6年目ですが、最初に参加したのは入省して何年か経ってからですね。それまでは業務に慣れるのに必死だったので。特に1年目は一度も外にランチに行けず、帰宅はいつも夜中。日の光を浴びない日が続いていました。働く意味を見失いかけたこともある。そんなときに友達から誘われて「霞が関ばたけ」に参加しました。立場に関係なく自分たちの意見が言えて、民間の方とも意見交換ができたことが、本業へのモチベーションに跳ね返ってきました。
国家公務員の就労環境についてリアルな現実を伝えてくれた松尾さん。
松尾さんから聞く若き国家公務員の現実に、「いい人生を送って、いい社会を作るために仕事をしているはず。行政で働く人は、その社会を作っているはずなのに!」と、島田さんも相当な衝撃を受けたようだ。
自分の「時間」「エネルギー」を大切なことに使うようシフトチェンジを
小沼さんからは、NPO/NGOから公務員に対してどのようなニーズがあるのか、どのような観点から協働したいと考えているのかが伝えられた。
小沼:公務員の方々が志を持って法案を書き、社会を変えていこうとしているように、NPOも社会を変えようとしています。そのNPOと公務員が手を組むことですごい変化が起こせると思います。僕がNPOの立場で伝えたいことは2つ。ひとつは、NPOが公務員の力を必要としているということ。NPOは想いを持って現場で活動をしていますが、どう仕組みを変えていったらいいかがわかりません。仕組みの変え方を知っている公務員が入ってくれれば社会を変えるスピードが加速します。ふたつめは、ぜひNPOの声を聞いて現場を知っていただきたいということ。現場を見ずに、机上で法案を書くのではなく、現場を見て、一緒に汗をかいたうえで書いてもらえると、さらに魂がこもるのと思うので。
公務員のNPO/NGOへの参画が、社会課題解決に大きな意味を持つことが小沼さんの話から理解できた。
就労時間も長く、業務もハードであることは重々承知しながらも「それでも一歩踏み出してもらいたい」と小沼さんは強調した。
小沼:SOZO日本も多忙なメンバーばかりな中、朝7時半からなら集まれるのではとなって、月イチで集まるようになりました。会ってみるとおもしろいし、どんどん効率的に時間が使えるようになるんです。
島田:「会うと面白い」を知るのって大事ですよね。私もよんなな会発起人で神奈川県観光部長の脇さんにお会いして行政のイメージが大逆転して、伊藤さんにお会いして「こんなに素敵な方がいるんだ!」と驚いた。これからは「人の魅力」がもっと大切になっていくと思います。
だからこそ、魅力のある公務員の方々が今の組織の中に埋もれてしまい、外への一歩が踏み出せないのは大きな損失に違いない。
島田:民間の中にも、公益性の高いビジネスはありますし、そういった事業を行う部署はありますよね。公務員の方々と協働する道はあるのではないでしょうか?
伊藤:公務員の持ち札を増やすためにも、そういったことも重要ですよね。おそらくこれからは「官」の世界ですべてができる時代ではありません。NPOの役割も大きくなっているのに、人材が足りない。それなら大企業の人材や官の人材を含めて、いろいろな人が行き来をしていく必要がある。今、本当にやるべきことは、セクターを超えて人が行き来をしてくことでしょう。
伊藤さん自身も、「入省直後に、君の仕事は誰よりも早く来て遅く帰ることだ。その間は何をしていてもいい」と上司に言われ、夜中の2~3時まで働いていた経験があるという。ただ、「そんなことでいいわけがない」と思ったことで、今があるとも。
伊藤:「働き方改革」が公務員だけには関係ないわけがない。来年からは民間企業も公務員も労働時間をめぐる状況が変わります。民間企業に適用されるルールが場合によっては公務員にも適応されます。空いた時間をどう使って、自分の生き方にどう活かすか考えてもらいたい。
島田:私が心から願うのは「Work Anytime Anywhere」。仕事はどこだってできるし、いつだってできる。どうして全員が9時に出社しなければいけないのか。みんな自分のエネルギーを大切なことに使ってほしいです。そうじゃないと生きてることがもったいないじゃないですか。
本来、働くことそのものが「ハッピー」であるべきなのだと、島田さんの言葉から考えさせられる。
「現行制度でもNPOでの有償兼業は可能」の一言に空気が変わった!
第二部でも質疑応答の時間が設けられた。ここで内閣人事局の方から手が挙がり、会場を揺るがす発言が。「実際にNPOで兼業している人を調べると申請があったのは20件でした。制度的には有償でも兼業は可能なんです。にもかかわらず“できない”と思っている人が多い。この情報をどう広げるかが課題だと思っています」
内閣人事局の方が「有償でもNPOでの兼業可能」とはっきり述べた瞬間、会場の空気ははっきり変わった。伊藤さんも「内閣人事局が有償でいいと言ってくれたことが、うれしい!」と顔をほころばせた。
公務員の兼業があたり前になるとどんな社会になるのか
地方公務員で「働き方改革」の業務に携わる別の参加者からは「公務員の副業兼業が当たり前になったときに、どんな社会に変わっていくことが見えているのか」との質問が。
松尾:私は「霞が関ばたけ」の活動をすることで、自分が入省した原点を取り戻せています。NPO、行政、民間どの立場でも、社会課題を解決するという目的は変わらないはずです。国家公務員はどうしたら法律を作れるか、制度を変えられるかといったことを知っている強みを活かすことはもちろんですが、所属している組織の仕事やリソースだけにとらわれることなく、社会課題の解決をしていくことができる社会というのが理想ではないでしょうか。
伊藤:東京大学の柳川範之先生は「遅くとも20年後には、副業兼業していない人は間違いなくいない」と仰っています。仕事がプロジェクト化して、ひとつの部署や企業では解決しないことが増えています。プロジェクトごとに必要な人が集まってタスクを完了する形に仕事が変わっていくでしょう。
小沼:僕はソーシャルセクターに関わるための選択肢を増やしたいと思っています。人がセクターを超えて行き来することで、同じビジョンを共有していくことが必要になるでしょう。それぞれが一歩アクションを起こすことで、世の中が変わっていくのです。その一歩のために欠かせないのが、副業兼業というわけです。
第三部はネットワーキングタイムとして、公務員の副業・兼業・出向・プロボノを歓迎する団体がショートプレゼンテーションを行い、その後参加者が興味のある団体と対話ができる時間と場が設けられた。
NPO団体のプレゼンテーションを聞き入る参加者たち。
NPO団体のスタッフに話を聞く参加者の姿が会場中に。
会場を見渡してみると、どの団体のところにも何名かの参加者が集まり、熱心に対話する様子が見られた。組織やセクターを超えて働くことが、自らの「学び」にもなるとともに、社会課題を解決することにもつながる。ひとりひとりにとっては小さな一歩であっても、ここに集まった参加者それぞれの一歩がコレクティブインパクトにつながっていくことは間違いないだろう。
写真:二村友也
ライター
編集者
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