オンラインだからできた!サポートプロジェクトの進化
新型コロナウイルスが拡大し緊急事態宣言が発令された4月以降、対面でのイベントは困難な状況に立たされた。NPO法人二枚目の名刺も、NPO団体と社会人の想いが出会う場所であるCommonRoomというイベントや、
チームを組んでNPOの課題解決に取り組むサポートプロジェクトの進め方を模索してきた。
そうした中で2020年7月3日、東京海上日動火災保険株式会社とNPO法人二枚目の名刺の協働でCommonRoomが開催され、3チームのサポートプロジェクトがスタートした。
普段のサポートプロジェクトとのちがい、それはプロジェクトの全工程がオンラインで進むことだ。
初めて会う人たちとチームづくり、経験したことがない社会課題解決型のプロジェクトの推進、すべてが対面せずに走り始めた。
試行錯誤で進んだ取り組みは、「オンラインだからこそできた!」というポイントがいくつも見つかり、結果として新しいサポートプロジェクトの形が生まれることにつながった。今回はそのサポートプロジェクトの進化を伝えたい。
オンラインだから参加できる!場所を越えたつながり
脱毛症、抜毛症、乏毛症、無毛症、治療による副作用など、様々な理由より髪に症状を持つ女性と子どもたちのコミュニティをつくる非営利団体 Alopecia Style Project Japan(アロペシア スタイル プロジェクト ジャパン 以下ASPJ)。ASPJのサポートプロジェクトのチームメンバーは8名。そのうち半数は関東近郊以外からの参加だ。静岡県、岐阜県、愛知県、一番遠くはイギリスのロンドンからの参加者がいる。これだけ様々な地域の参加者がチームを組んだのは、サポートプロジェクト史上初めて。まさにオンラインだからこそ、実現したものだ。
ロンドンから参画した秋田典子さん(あきたのりこさん、以下、チーム内愛称“ののさん”)にインタビューし、どのような関わり方をしているか聞いてみた。
「新型コロナウイルスのため本当は日本へ帰国するはずが帰れず、ロンドンに残ることになりました。だから私、サポートプロジェクトに参加できたのです」
“社会に貢献したい”という想いが芽生えていたののさんは、帰国後何かボランティアを探すつもりだったという。ASPJのプロジェクトデザイナーである平田朗子(ひらたさえこ)さんのSNS情報発信をきっかけにこのプロジェクト参加を決めた。
プロジェクトの中で、ののさんはASPJと同じように、海外で脱毛症に悩む人々を支援する団体事例を調べた。「どんなコンテンツがASPJに役立つか」「どんな情報発信の仕方がASPJの参考になるか」という視点で、チーム内にシェアをしたのだ。
ロンドンでの生活を通じて海外の寄付文化は肌で感じていたし、海外の健康保険制度も理解しているこそ、できたことだ。
ののさんが実際にチーム内にシェアしたアウトプット。海外事例の素晴らしさとASPJにどう活かせるかの視点が合わさる提案書
「この状況になってオンラインミーティングが急速に当たり前になったからこそ、“やりたい”と思っていたことが前倒しでできたような気がしています」
ののさんは現在二枚目の名刺サポートプロジェクト以外にも、日本在住の外国人に対し日本語を教え、さらに学生学習支援を行う東京大田区のNPO団体にも関わっている。
場所を飛び越えて、熱量高く活動しようとするメンバーとつながれたことはASPJにとっても大きい。ののさんは皆と違う環境にいるという違いがチームに新しい価値をもたらすことを体現してくれた。これまで地理的な制約から首都圏や一部の地域に限定せざるを得なかったサポートプロジェクトも、オンラインだからこそ、一気に場所の制約を乗り越え、様々な地域の人たちが参加できる形に進化を遂げたといってもいいだろう。
オンラインだからこそのスピード感!企画から1ヶ月でイベントを開催
今回のサポートプロジェクトにおいて、一般社団法人ハビリス ジャパン(以下 ハビリス ジャパン)は、「子供の“挑戦したい“心を育み、自ら可能性を広げられる」社会を作るため、四肢欠損の子どもたちのためのアクテイビティ義肢貸し出し事業の立ち上げ、団体の認知拡大、そして団体の活動・事業を継続して提供し続けられるような資金調達基盤の強化に取り組んでいる。
ハビリス ジャパンのサポートプロジェクトに参加している近藤雅之さん(こんどうまさゆき 以下チーム内愛称“まささん”)は、前回オフラインのプロジェクトに参加していた経験がある。
「サポートプロジェクトを一度経験していたこともあり、積極的に議論を進める呼び水となるような発言をしようと意識していました。団体に多くの課題があるからこそ、プロジェクトが軌道に乗るよう、方向性を早くつくろうと思っていましたね」
プロジェクトが進む中でチームの中から「子どもの笑顔を見たい!」と声が上がった。これまでハビリス ジャパンは対面のイベントしか経験はなく、一方このコロナ状況下では子どもたちも直接顔を合わせることは難しい。しかしこの制約の存在が、オンラインで笑顔をつくる機会にしよう!と見方を変えるきっかけとなった。
そしてパラテコンドーの選手とともにオンライン体験イベントを開催する企画に発展。構想から実行までわずか1ヶ月で開催にこぎつけた。これまでにない速さのアウトプットは何故できたのか。
「オフラインだったら“場所どうする?”“受付手配どうする?”など多くの調整ごとが発生していたところですが、場所にまつわる準備が不要となったため、イベント開催の敷居が低かったです。参加する側もお子さんがいたら自宅から入れた方が参加しやすい。イベント参加の敷居も下がったと思います」
イベント開催に向けて準備・調整中にチームがうまく機能した理由をまささんはこう語る。
2020年10月10日に開催したハビリス ジャパンのオンラインイベント・パラテコンドー体験のチラシ
「何か困ったことがあったときの『相談しようね!』の敷居もだいぶ下がったと思いました。対面だと『いつ・どこで』の日程・場所の特定までしないと話し合うこともできなかったのが、『話した方がいいね』『じゃ明日21時からzoomでやろうか』とすぐに小さく調整できる。対面の時よりも会話をしていると思いました」
オンラインという制約を乗り越えて生まれたイベント。もしオフラインで同じイベントを行うとしたら、実行・開催までもっと時間がかかっていただろう。
同時に、イベント開催に向けて加速した小さなコミュニケーションの積み重ねも、イベントの早期実現と成功の欠かせない要素だったようだ。
オンラインだから生まれる関係性!リーダー不在のフラットなチーム
最高品質のバラをアフリカから世界に届けることでアフリカから貧困をなくす。この理念のもと、フェアトレードのバラをケニアの農園から直送し、バラ生産者と購入者とを繋ぐAFRIKA ROSE(以下、アフリカローズ)も店舗販売に影響を受けている現状であり、オンライン販売の推進や店舗以外の販促を考えたいという課題があった。
アフリカローズのプロジェクト・デザイナーである前田宏美さん(まえだひろみさん 以下、チーム内愛称“ひろろ”)が、チームの様子について教えてくれた。
「個人の特性がオンラインだと顕著に出ますよね。たとえば、どんどんコミュニケーションを深めようとする人、関係性づくりに時間が必要な人など。話す人と目を合わせることや頷き・笑顔といった言語で表されないコミュニケーションがしにくいので、zoom画面の会話ではギャップも起こりやすいと思います」
アフリカローズチームでは、メンバー間のコミュニケーションギャップを埋めるための工夫が行われていた。zoomで話す場合もその場で皆が同じクラウドツールを使って議事録を書き込んで意図的に共通言語を増やしたり、slack(チャットツール)内では、意識して「今自分は何に取り組んでいるか、何をやったか」を誰もが伝え合えるような後押しをしたり。
また、ひろろさんだけでなくメンバーそれぞれも、オンラインで起こりうるコミュニケーションギャップを縮めるために、皆がこまめにコミュニケーションを取るようフォローし合っていた。
オンラインで全工程が進むプロジェクトで、全員が「初めまして」という状況のチームにおいて、どのように関係性を構築していけば良いのだろう。
メンバーの一人がプロポーズするというプライベートな話が企画に繋がりプロジェクトに組み込まれていくことも!
「リーダーシップまたはその肩書きって特定の人だけに必要なのだろうか?を考えました。旗を振る人や、全体を見るということは、一人一人の特性で前に進められる。メンバーそれぞれがリーダーに求められる役割を分担して持っていたらいい。その時大事なのはお互いの関わりだなと思います。」
———オンラインで、初めて会う人たちとチームを組んで、答えのないアウトプットを出そうとする。
このような状況では、ひろろさんの言葉にもあったよう、コミュニケーションギャップが起きやすいだけではなく、ゴールも簡単には見えないし、手探りで進まざるを得ない。
前に進むためには、コミュニケーションにおける小さな工夫を積み重ね、メンバーそれぞれが自分の頭で考え、具体的に行動し、そのトライからお互いが学び、アウトプットを形成していく、というプロセスがフィットしたのだろう。
このプロセスにおいて、ひとりのリーダーシップに依存するよりもリーダーシップをシェアする形が奏功した。
物事を進めていくリードもあれば、人を巻き込んでいくリードもある。“リーダー”と呼ばれるものの役割を分解して、メンバーそれぞれがその役割を持って、場面場面でリードすることができる“Shared Leadership(シェアド リーダーシップ)”の在り方が、力を発揮したのではないだろうか。
「対面じゃないとできない」よりも「オンラインだからできる」に目を向ける
「オンラインでもオフラインでも一緒だな、と思います」
今回インタビューした3名は、実は同じ言葉を発していた。
仕事に取り組む姿勢や、プロジェクト推進するチームビルディングなど、その対象は様々ではあるが、異なるプロジェクトに異なるメンバーで関わった人から同じ言葉が聞けたことは印象深い。
オンラインはあくまで、状況であり手段である。
一見制約と思われるこの状況も「どううまく使うか」の視点に立つことができれば、プロジェクトはその制約を乗り越え、むしろ進化していく。
この3つのプロジェクトはサポートプロジェクトの新しい形を体現してくれたといっていいだろう。
ライター
編集者
カメラマン