「最高で最強」な小学生が大人と肩を並べて渋谷区のまちづくりに取り組む。Social Kids Action Projectから広がる課題解決の輪
小学生が渋谷区内の「街」をテーマに、その街に住む・働く・訪れるなどさまざまな形でかかわる人へのインタビュー、フィールドワークを通じて課題を見出し、それを解決するアイデアを、区長をはじめとした大人に向けてプレゼンテーションする「Social Kids Action Project(ソーシャルキッズアクションプロジェクト、以下SKAP)」。2023年春も二枚目の名刺とKids Experience Designerの植野真由子さんの共催で行われました。
同じ「街」をテーマにし、同じ方に話を聞いても、参加する子どもひとりひとりが異なる課題を見出し、課題が同じ「ゴミ問題」だとしても、違った着眼点からのアイデアが出てくるのは、まさに「ちがいを ちからに 変える街」という渋谷区のビジョンそのもの。2023年は前年に続いて、舞台となったのは渋谷区役所周辺の公園通り・神南エリアです。
広大な敷地を持つ代々木公園、Park-PFI(公募による選定された民間事業者に都市公園の整備管理を委託する制度)公園である北谷公園があり、公園通り沿いには渋谷PARCOをはじめ、最先端の文化を発信する施設が。また、高いビルが立ち並ぶ合間には、長くこの地で商売を営み、渋谷の昔の姿を知る人たちがいるという「多様」な街です。今年のSKAPでは、公園通り・神南エリアの様相そのままに、大人と子どもがシームレスに交じり合う空気感が生み出されていました。
大人との間に「壁」を作らない! 最高で最強な小学生たち
SKAPでは「子どもが主役」です。メンターとして子どもたちをサポートする大人たちはいますが、そこに上下関係はありません。みんながあだ名で呼びあうフラットな関係で、朝のプログラム開始前や、昼食後の休憩時間には、メンターと子どもが一緒になってカードゲームで遊ぶ輪がいくつもできていました。大人との間に壁を作らず、楽しむ時は大人も巻き込みながら力いっぱい楽しみ、アイデアを創出してワークシートにまとめる時にはメンターの力を借りながら全力を取り組む。今年のSKAPに参加した小学生からはそんな姿勢を感じました。
今回、大人と小学生の間に壁を感じなかったひとつの背景には、現役大学生がメンターとして参加していたこともあるかもしれませんSKAPの取り組みに興味を持ち、自らコンタクトを取って参加したというもっちーさん、あきらさんの2人は、年代が近いこともあり、子どもたちも友達のような感覚でコミュニケーションが取れているように見受けられました。社会人メンターと小学生をつなぐハブの役割を担ってくれたのでしょう。
大人に対して「壁」を作らない子どもたちの強みが発揮されたのは、3日目に行われた突撃インタビューでした。
1日目には、渋谷区の郷土博物館学芸員の田原さん、東急不動産の小澤さん、渋谷公園通り商店街振興組合の川原理事長にお越しいただき、「渋谷はどんな街?」について話をお聞きしました。そして2日目には、公園通り周辺の店舗や施設を訪問し、渋谷で働く人たちにインタビューを行いましたが、いずれも事前にアポイントを取り、小学生に「渋谷の街」について伝えるべく準備をしてくれている方ばかり。突撃インタビューでは、本当に街を歩く一般の方に、その場でSKAPの趣旨を説明して質問に答えていただくという難易度の高い試みです。2日目の午後にじっくり準備はしたものの、大人でも躊躇してしまうようなチャレンジを今年参加した子どもたちは難なくクリア。北谷公園では、その時間、公園内にいた方全員にインタビューをしてしまったほど!
これこそ植野さんがSKAPにおいて「小学生は最強で最高!」と力説する理由のひとつ。大人なら「いやいや。できるわけないでしょう!」と、どうにかしてやらずにすませようとすることも、小学生は最初こそ「えー!」「無理―!」と言いながらも、やってのけてしまうチャレンジ精神があるのです。そんな小学生を前にすると、大人が小学生に教わることは決して少なくないと実感させられます。
「どんなことも一生懸命になれるのが小学生のすごいところ。特に自分たちがやりたいと思ったことに対してはパワーが止まらないですよね」と、小学生の頑張りを間近で見ていた大学生メンターのもっちーさんも話していました。
撮影する写真に、イラストに。ビジュアル表現はお手の物?
今年参加した子どもたちに気付かされたことはほかにもありました。1日目~3日目のフィールドワーク中に子どもたちがデジカメで撮影した写真です。
「気になったものがあったら撮影してね」と各チームに1台渡されたデジカメで撮影されたのは、花壇に咲く花、植え込みに放置されたゴミ、シールだらけの電柱、案内表示など。いずれも1日目~2日目のプログラム内で街にかかわる人たちから聞いた内容と関連づくものです。
デジカメで撮影された写真は、そのまま子どもたちが「街を見る目」でもあります。1日目、2日目、3日目とプログラムが進んでいくとともに、少しずつ写真でとらえるものの幅も広がっていくとともに、「こんなところに目が留まったんだ!」と発見させられるものもありました。今年参加した子どもたちだからなのか、現代を生きる子どもたちの特徴なのか、写真の構図の切り取り方もなんだか様になっていて、ビジュアル表現への感性の高さもうかがえました。
ビジュアル表現といえば、4日目の最終発表会でアイデアをまとめた模造紙もイラストを巧みに使ったものが多数見られました。写真も含めてですが、自分の中にあるアイデアや構想、気づきをアウトプットする際に、どのようにすると伝わりやすいのか、その手段を自然と身に着けているのかもしれません。
大人から聞いた情報、友達のいいところを吸収し、短期間に成長
SKAPのプログラム内で推奨されることのひとつとして、「友達のいいところを見つけて認める。そして、いいところはマネして取り入れる」があります。ワークシートにまとめたアイデアについて発表を行った後は、参加する子どもたちも、メンターも、撮影するカメラマンも、取材する記者も、その場にいる全員が「よかったところ」をふせんにメモし、発表した子どもにプレゼントします。渡した子どもから「今日一番うれしかったふせん」として紹介してもらえると、書いた人もまたうれしくなり、誰かを認める気持ちが循環していきます。
人のいいところは取り入れ、自分のいいところはさらに伸ばしていく。行き詰った時にはメンターや友達の手を借りて打破していく。自分自身にも、他人との間にも「壁」を作らない小学生たちは、わずか3日間のうちにたくさんのことを吸収し、日に日に成長していきました。
大学生メンターのあきらさんも「1日目には、なかなか自分から発言できなかった子が、プログラムが進むについて堂々と発表し、友達とも話すようになり、その変化のスピードと度合いにはこちらが驚かされました」と感想を話します。
渋谷に住む人、働く人、訪れる人に聞いたことに加えて、「ハチポ」や「玉川上水旧水路緑道再整備」など現在渋谷区で進められている取り組みをアイデアに取り込んだ子も少なくありませんでした。ヒントになったのは、渋谷区の取り組みがまとめられた広報紙『しぶや区ニュース』。『しぶや区ニュース』をめくって、自分が見つけた課題と組み合わせていきました。その結果、アイデアがリアリティを増すとともに、実現のためのネクストアクションも、「区の◯◯課に相談する」など、より具体的になっていました。
小学生にしかない感性、スキルが「まちづくり」で求められている?
最終発表会では、昨年度の発表会以降のSKAPの活動として、毎年11月に代々木公園で開催される渋谷区民の交流イベント「ふるさと渋谷フェスティバル」での出店の報告や、発表会以降にアクションを広げている先輩参加者の報告もありました。アイデア発表から約1年かけて、さまざまなアクションを行ってきた小学生からは「最初に思っていたのとは違う方向に進んだとしても、結果的にやりたいことにつながる」という力強い応援の言葉が。
「小学生」とは、これから「大人」になる未完成の存在なのではなく、「小学生」しか持てない感性や視点、スキルによって、各所の「まちづくり」で活躍を切望されている一員なのでしょう。特に渋谷区やSKAPとかかわる企業は、小学生や中学生が、大人と肩を並べて「まちづくり」に参加することを待望しているとすら感じます。渋谷区立小中学校で進められている「シブヤ未来科」の取り組みでも、小中学生が商店街と連携する事例が聞かれています。
SKAPは「将来まちづくりに参画するためのトレーニング」ではなく、子どもたちが現在進行形で渋谷区の「まちづくり」にかかわる入り口のひとつとして、ますます重要な役割を担っていくと強く感じました。
今年参加した小学生のアイデアはこちらからご覧いただけます。
ライター
編集者
カメラマン