14歳の彼女はなぜ起業をしたのか?――GLOPATH ファウンダー仁禮さんが語る、子どもたちとこの国の未来
1997年。ミニスカートが流行し、ポケモンとたまごっちが社会現象だったあの年――。その1997年に生まれたひとりの女性がいま、スタートアップのCEOとして日本を変えようとしています。
彼女の名前は、仁禮 彩香(にれい あやか)さん。
中学2年生だった2011年に「子どもによる子どものための子どもの未来創造企業」として株式会社GLOPATHを立ち上げ、CEOに就任。以来、「子どものアイディアを実現する」「未来志向の学校を創る」「頑張る大人を子どもが応援する」という3つのミッションを軸に、小学校の運営や企業との共同商品開発など、さまざまな事業に取り組んでいます。
今回はそんな彼女に、起業した目的、GLOPATHファウンダーであり、「CEO」と「大学生」という2つの名刺を持つことの意味、そしてこれからどんな大人になりたいかについて、お話ししていただきました。
インタビュアーは、「二枚目の名刺」の高校生メンバー・植村瞭。これからの社会を担うであろう10代同士の対話の様子を、たっぷりお届けします。
「みんな違って、みんないい」ではなかった日本の教育。小学1年生のときに覚えた“違和感”が起業の原点
――今日はよろしくお願いします。まず、仁禮さんが起業に至ったきっかけを教えてください。
仁禮:きっかけは、小学1年生のときに覚えた“違和感”でした。
私は湘南インターナショナルスクール(SIS)という幼稚園に通っていたんですが、そこは多様な価値観があることを認め合える環境で、先生たちも「みんな違って、みんないい」と教えてくれていたんです。けれど、小学校に進学したらそうではなかった。質問に対する答えがひとつしかなくて、その答えを出さなければ「不正解」というような……。
そんな環境に耐えられなくなり、2年生のとき、当時のSISの学長に「私たちのために小学校を創ってほしい」とお願いしたんです。学長はすぐに頼みを受けて、本当に小学校を創ってくれました。
小学校を創るって決して簡単なことじゃないと思うんですが、その先生は子どもたちを“未来”と捉えてくれていたんですよね。未来のためならいくらでも挑戦するし、投資する。親や先生といった周りの大人が、私を「子ども」でなくひとりの「人間」として見てくれる人ばかりだったので、恵まれた環境だったなと思います。
そんな経験がきっかけになって、中学2年生のときに「大人と子ども、そして人を繋ぐ企業を創りたい」と起業をしました。
――中学生で起業して、CEOに……。環境や気持ちの変化も大きかったのではないでしょうか。
仁禮:意外と、家族は「やりたいならやれば」という反応でした(笑)。いまお話ししたとおり、私は周りの大人にとても恵まれているので。母も、私が何かやりたいと相談するとそれが本当に実現可能かどうか、きちんと論理的に考えて判断してくれる人なんです。その母が、起業の話をしたときに「面白そうだね」と言ってくれたので、迷いはなかったですね。
でも実は、学校の友達には起業したことを話さなかったんです。自分たちの事業が社会的に広まっていけば、自然とどこかで知られて、クラスメイトにも届いてくれるんじゃないかなと思って。
ただ、朝日新聞に取材していただき、新聞に載ってバレちゃいましたね(笑)。通っていた中学校はアルバイト禁止だったので、ストック・オプションの機能を使うなど工夫もしました。起業したことを知った同級生は、驚くというよりも「仁禮たちならやりかねないよね」って感じでした。
――「仁禮たち」と言うと?
仁禮:起業は私ひとりではなく、幼稚園からの同級生で親友の斎藤 瑠夏(さいとう るか)と、1学年後輩の斎藤 未月(さいとう みつき)と3人でしたんです。私は人と話すことが何よりも好きなので、GLOPATHでもリーダーであるCEOという役割を担いました。私がそんな性格である一方で、瑠夏はフォロワーシップの部分が非常に優れている。自分の得意なことでお互いを補い合えるというのは、起業をして始めて知ったことかもしれないですね。自分の何が強みなのか、客観視できるようになりましたし。
「私は、みんなに私になってほしいわけじゃない」
――仁禮さんにとって、「CEO」と「大学生」という二枚の名刺はどのように繋がっているのでしょうか。
仁禮:私たちはGLOPATHを「第三の学校」と位置づけています。もちろん仕事なので業務をこなす責任はあるのですが、“学業優先”がGLOPATHのルールですし、自分にとっての「学びの場」であるのは学校もGLOPATHも同じですね。……仕事をしていると、学校で学んだことのうち、実際に何が社会で役立って、反対に何が役立たないかがよく分かります(笑)。
――(笑)。そんな中で、仕事をしていない、ごく普通の同級生はどう見えましたか?僕もいま、まさに高校に通う学生なのですが。
仁禮:高校生の頃までって、大人と関わる機会がとても少ないですよね?
――少ないですね。とても。だからいま、「二枚目の名刺」の活動に参加しているというのもあります。
仁禮:うんうん、すごく分かる。もちろん学校での勉強に強い意義を感じている人もいて、それは偉いと思うんですが、高校生って、身近な大人が学校の先生か家族くらいなんですよね。その人たちとたまたま相性が悪いせいで「大人ってつまらない」「学校ってつまらない」と思ってしまう子どもがたくさんいる。それはすごくもったいないことだなって思います。
実は、高校の友達の3分の2くらいは、ワークショップなどを通して、私たちGLOPATHの活動に一度は参加してくれているんですよ。……私はどうやらずっと、同級生たちから「あやかは世界が違う、あやかには絶対なれない」って思われてたみたいなんです。遠い存在みたいな。でも、私は、自分になってほしいわけじゃない。私はただ自分のやりたいことをやっているだけで、あくまでみんなと同じなんです。
たまたま私には10代での「起業」が向いていたけど、何か行動を起こすのに適した時期というのは、人によって違う。だから、まさにSISの先生たちが私に教えてくれたように、「みんな違って、みんないい」ということを普段から発信するようにしています。
――大人と仕事をする中で、世代が離れている難しさを感じることはありますか?
仁禮:うーん…そうだなあ。世代が離れていても仕事しやすい人もいれば、同い年で仕事しにくい人もいますよね(笑)。あえて「大人」と「子ども」を分けるならば、大人には知識や経験という強みがあるし、子どもにはフットワークの軽さや固定概念のなさという強みがある。やっぱり、個人個人がそれぞれの強みを発揮することによってイノベーションは生まれると思うので、「難しい」と言うよりは「楽しい!」と思います。
もちろん、中には中学生で起業した私に対して「所詮、子どものお遊びでしょう」って姿勢の人もいましたよ。ただ、そういう人は自然と離れていってくれるので、お互いがハッピーですよね(笑)。
(写真左:イベント前で、たまたま一緒にいらしていた仁禮さんのお母様)
ただ、そういう人もいる一方で、自分たちと一緒に仕事することを幸せだと言ってくれる人もいるので。嬉しいですよね。
GLOPATHはもう退任の時期。大学生になって、“守られていた”自分に気づいた
――仁禮さんは、大学生になられたばかりですよね?大学に進学して変わったことはありますか?
仁禮:そうですね。いろんなことがすごく大きく変わりました。
まず、“制服”がなくなったというのが大きくて。たとえば空港の出国検査でも制服を着ているとチェックが少し甘くなるように、私は「高校生」という立場に守られてたんだなって最近気づきました。
でも、いまは制服を着たらコスプレになっちゃうし(笑)、服装で「若い」というアピールはできないわけです。社会的にも大人として見られるし、すべて自己責任で、自分のことは自分で決めなくてはいけない。そんな自覚が芽生えたのが、一番変わったところだと思います。
GLOPATHは“子どもによる子どものための企業”なので、「20歳になる前日までに退任しなければいけない」というルールがあるんです。私はそろそろ、自分が次の世代をバックアップするときに来ているなと思っていて。実はつい先日、新しく「Hand-C」という会社を立ち上げて、代表取締役に就任しました。HumanityとCourtesyの頭文字を取っていて、日本語にすれば「仁」と「礼」の意味が込められています。私の名前も「仁禮」ですし、家族や周りの人への感謝を表した会社名です。
――では最後に、仁禮さんはどんな大人になりたいですか?
仁禮:そうだなあ、「待つことのできる大人」になりたいですね。なぜなら、自分が周りの大人たちにたくさん待ってもらった自覚があるから。
やっぱり会社を立ち上げた当初はビジネスのことが何も分からなかったので、大人がやれば1週間で終わることを、私たちは3週間かけてやっていたわけです。でも、役員である大人たちは効率性よりも“学び”を取って、私たちのことを待ってくれた。同じことを、自分もこれからの世代の子どもたちに返さなければと思っていますね。
……あ!それにもうひとつ、「楽しむことができる大人」になりたい。少し前に、小学校に講演に行かせていただいたんです。GLOPATHでの取り組みについて話したら、子どもたちに「すごく楽しそうで、仕事じゃないみたい!」と言われて。
そこで「あ、この国では小学生でも“仕事=楽しくないこと”と思ってるんだ」と気づいて、すごくショックでした。私の周りの大人たちは、仕事を、人生を楽しんでいる人たちばかりです。そういう人の背中を見て育ってきたから、私もそうでありたい。「自分がやりたいことをやれば、仕事ってこんなに楽しいんだよ」と子どもたちに見せられる大人になりたいし、私たちの事業を通して、そう思える子どもが少しでも増える社会になればいい。そう思います。
――仁禮さん、今日はありがとうございました!
ライター
編集者
カメラマン