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インクルーシブ社会を生きる小学生が持つスキルは『対話』と『協働』。新たなまちづくりプレイヤーを生み出すSocial Kids Action Project

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2024年、渋谷区では区立小中学校で行われている探究「シブヤ未来科」をより充実させるため、文部科学省の「授業時数特例校制度」の活用をスタート。午前中は通常の授業を行い、主に午後を中心に子どもが主体となる探究的な学びが展開されることになりました。学年やクラスで同じテーマを設定して進める学習もあれば、ひとり一人が自分の興味と社会・地域課題を結びつけて深めていく「My探究」も。渋谷区では区を挙げて「探究的な学び」が推進されています。

二枚目の名刺とKids Experience Designerの植野真由子さんが共催で行っている、小学生が渋谷のまちに住む人、働く人、訪れる人へのインタビューを通じて課題を見つけ出し、解決アイデアを大人に向けて提案する『Social Kids Action Project(以下SKAP)』は、トライアルから数えると早くも9回目に。「探究的な学び」の時代を先行するように行われてきたSKAPで、今回参加した小学生たちはどのような活躍を見せてくれたのでしょうか。

過去のレポートはこちら

正解も不正解もないSocial Kids Action Project。楽しみながら「自分にしかできないこと」を見つけていく

「最高で最強」な小学生が大人と肩を並べて渋谷区のまちづくりに取り組む。Social Kids Action Projectから広がる課題解決の輪

もはや小学生は「未来の街の創り手」ではない⁉ 街づくりの即戦力誕生を実感!

渋谷の「まちの課題」はインバウンド抜きには考えられない時代に

1日目、渋谷区役所に集まった小学生たちに「渋谷ってどんな街?」を話してくれたのは、渋谷公園通り商店街振興組合理事長の川原さん、渋谷センター商店街振興組合常務理事の鈴木さん、東急不動産渋谷開発部統括部長の長幡さんの3名。

↑渋谷公園通り商店街振興組合理事長の川原さん。
公園通りで毎年行っている「フラワーフェスティバル」などの取り組みをご紹介いただきました。

↑渋谷センター商店街振興組合常務理事の鈴木さんは、小学生をはじめ4人のお子さんを育てるパパ。
毎日センター街のゴミ拾いを実施しているほか、若い世代が活躍できる取り組みを次々に立ち上げています。

↑「見たことあるかな?」とCMも流してくれた東急不動産渋谷開発部統括部長の長幡さん。
代々木公園の新エリアにオープンした商業・交流施設『BE STAGE』など渋谷には東急不動産の建物・施設がたくさんあります。

 

渋谷の中心といえるエリアで「いいまちにしよう」と日々汗を流している大人がいることを伝えてくれました。コロナ禍が明けてから「インバウンドが増えている」というのはニュース等でも報道されていますが、2022年、2023年には、日本に来た外国人旅行者が訪れるまちで渋谷が1位になったのだとか。

毎年プログラムの中で、代々木公園や北谷公園で出会った人に「渋谷のいいところ」や「渋谷の嫌なところ」を聞く突撃インタビューを行いますが、今年、北谷公園で休憩をするのは8割ほどがインバウンドでした。もはや「渋谷のまちの課題」を考えるときに、インバウンドをステークホルダーから外すことはできないのだと実感させられます。

まちはすべて「誰かの思い」でできている

室内での座学だけでなく、実際にまちに出かけて課題について知るのもSKAPの重要なプログラム。1日目はオープンしたばかりの代々木公園新エリア『BE STAGE』、そして北谷公園、公園通り、センター街など渋谷区役所周辺を全員で散策。2日目にはふたつの班に分かれて、公園通りやセンター街の店舗・施設にうかがって、「渋谷で働く人」からお話を聞かせてもらいました。

↑北谷公園近くのコワーキングスペース『SLOTH JINNAN』にはこんな素敵なテラスが。
気持ちのよい空間でインタビュー。

↑桑沢デザイン研究所は、建物のすべての箇所にデザイン性が感じられました。
入口の鏡を使って撮影するのが小学生のセンス!

 

渋谷で働く人たちから話を聞くことで見えてきたのは、まちはいろんな人たちの「思い」によってできていること。建っているビルも、その内装も、そこに置いてあるモノも、植物などの自然物以外は、必ず誰かが「こうなったらいいな」「こういうふうにしよう」と考えて生まれている。ある意味、ポイ捨てされているゴミだって、誰かが「捨てよう」と思ったからそこにあるのです。

↑3日目にお話ししてくれた渋谷区観光協会代表理事の金山さんは、
「渋谷を面白くしたい!」という思いから、「起きている時間は常に何かを考えている」。
目の前にあるものについて「なぜこうなっているのか?」を想像するのが思考トレーニングになると教えてくれました。

自分の意見をぶつけるだけでなく、交渉もできる!

今年参加した小学生たちに感じたのは「インクルーシブ」ということです。「大人」とか「子ども」とか、年齢や肩書きにとらわれず「対個人」として接していると筆者の目には映りました。

 

SKAPではインタビューの練習相手、まちに出かけるときのアテンド、アイデアをまとめる際の相談など、メンターと子どもが協働する場面が多いです。メンターも普段から子どもと接する仕事をしている人ではなく、企業や行政で働いている大人たち。しかも4日間同じメンターがいるわけではなく、日によって入れ替わっていきます。大人だって初対面の相手にはなかなか声をかけられないのに「クイズ出すから答えて!」と遊びに誘ってみたり、「鉛筆削って~!」と頼みごとをしてみたり、子どもたちからの声かけで距離が縮まっていくのを感じました。

↑「鉛筆削って~!」「私も!」と次々お願いされ、メンターのひとりが「鉛筆削り屋さん」状態に。
自分でも削れるけど、誰かにお願いして削ってもらうとなんだかうれしいんだよね。

 

また、大人からの指示を聞くだけでなく、自分たちの要望をぶつけるだけでなく、対話・交渉ができているのも発見でした。毎日午後に行っていたアイデアをまとめる時間、「あと1分で終わろうか」と植野さんが伝えると「ムリ!」とある子から反応が。「じゃああと2分?」という植野さんの提案に「あと3分で!」と交渉し、話がまとまった場面がありました。「ここにいる大人は対等に接してくれる」と頭で理解しているのか、感覚的に感じ取っているのかわかりませんが、はっきりと自分の思いを伝えるが、相手の言い分も聞く。自分たちもサポートしてもらうが、大人が困っていたら助ける。そんな子たちが集まっていたように思います。助け合う、協働しあうことに大人も子どももない。生まれながらにインクルーシブ化が進む社会で生活している小学生だからこそのスキルなのかもしれません。

↑「その場にいる大人はメンター以外も使ってよし!」がSKAPのルール。
筆者も用紙にまとめられたアイデアに意見言ってほしいとお願いされました。

 

SKAPでは、大人と子どもが混ざり合うきっかけがあるように感じます。朝や昼休みのカードゲームもそうですが、今年は「じゃんけんぽん」でした。「最初はパー!」ならぬ「最初はチョキ!」など独自のじゃんけんでいきなり大人に勝負を挑む小学生。毎日あちこちでじゃんけんの声が響いている今年のSKAPでした。

↑「じゃんけんしよう!」と子どもたちに囲まれているメンター。
反射神経では大人は小学生に到底勝てません!

SKAPで出会った仲間との協働が「まち」につながる

子どもたちが作る「対話」の雰囲気は、4日目の発表会でも続いていました。発表の後の質問・感想タイムでも「こういう場合はどうするの?」「一緒に何かできそうだから相談しよう!」と子どもから、大人からさまざまな質問、提案が。過去にSKAPに参加した中学生や、渋谷区の伊藤教育長からも感想やコメントが寄せられました。

↑区にお願いしたいことがあれば「教育委員会に言ってもらえたらお手伝いします!」と言ってくれた伊藤教育長。

 

発表会では今年参加した小学生だけでなく、これまでSKAPに参加した小学生・中学生からの活動報告も。年々内容が濃くなっていきます。まず「渋谷区 くみんの広場」に出店したチームは、たくさんのアイデアを出した中から、来場者に楽しんでもらえる6つを厳選した出店について報告してくれました。続いて報告した、子どもたちが楽しめるゴミ拾いへの参加と、アップサイクルアクセサリーの制作や販売を行う「キラ渋」は、渋谷サステナブル・アワード2024を受賞したそうです。さらに、渋谷区で集めた繊維のゴミから卒業証書などに使う紙を作ろうとクラウドファンディングに挑戦した「SCSFTプロジェクト」はSIW IMPACT PICK UP賞を受賞しました。でも、発表した小学生・中学生たちは「すごいことをやってやろう!」という気持ちで動いているのではないのでしょう。「仲間と一緒にやるのが楽しいから」「面白いから」が原動力なのではと感じます。楽しみながらまちを、社会を良くしていけるのなら、まさに「最高、最強」ですよね。

↑発表会が始まる前、久しぶりに集まったSKAP経験者の子どもたちがカードゲームで遊ぶ姿も。学校の友達とは違った仲間との出会いも貴重です。

 

4日目に「いいアイデア」を出すことがSKAPのゴールではありません。4日間のプログラムを通じて得た「まちの見方」「物事への考え方」を活かしながら、年齢や肩書きの関係ない「仲間」との対話や協働を通じて、自分が楽しく取り組める課題を深めていくこと。つまりはまちをテーマにした「探究」を続ける人を多く生み出すのがSKAPの存在意義なのかもしれません。参加した子どもたちが、さまざまな壁を取り払って、まちの人たちをつなげてくれる存在になるのが楽しみです。

 

今年参加した小学生のアイデアはこちらからご覧いただけます。

http://social-kids-action.jp/suggest/

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古川 はる香
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フリーライター。女性誌や育児誌を中心に雑誌、書籍、WEBで執筆。
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