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2枚目の名刺を持ったパーソルキャリア営業マネジャーが『社内ダブルジョブ』を立ち上げた理由

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パーソルキャリアでは今年10月から、人材開発部門の施策として『社内ダブルジョブ』が採用される。

公募制で集まった社員が、現業務と並行してパーソルグループ内の別の業務にも携わることによって、将来のキャリアに対する新しい考え方への気付きや、個人の成長・能力開発を促すことが目的だ。プロジェクトは4カ月間で、コーディネーターとメンターがつき、定期的に進捗確認や学び・気づきを引き出しながら、参加者と携わる業務の双方をサポートする。これまでに、計4回の社内ダブルジョブが実施された。

このプロジェクトを立ち上げたのは、パーソルキャリアで営業部門のゼネラルマネジャーをしている油谷大希さん。2015年にNPO法人二枚目の名刺のサポートプロジェクト(以下、SPJ)に参加したことをきっかけに、SPJから約1年後、社内ダブルジョブを企画した。

SPJをきっかけに社内兼業の仕組みを作った

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「SPJに参加した当時は、ちょうどマネジャーになったタイミングでした。プロジェクト期間中はしんどいこともありましたが、自身の能力が非連続に開発されたり、キャリアに対する考え方が変わったりと、すごく良い経験ができたと感じていました。

一方、マネジメントをする立場になった中で、メンバー(部下)のキャリア開発に悩んでいました。『自分の実力は社外でも通用するのか』『今の業務が向いているのかどうかわからない』などの相談を受ける機会があったのですが、それに対して、具体的な解決方法や手段が提示できなかったんです。たとえば本人のことを考え、新規事業や企画などの業務を経験した方が良いのではないかと思ったとしても『他の部署に異動してみたらどうか』という提案は、立場上しづらかった。

そこで、『社内で兼業をする』という方法を思いつきました。当時、二枚目の名刺ラボ(二枚目の名刺というスタイルを、企業、行政、ソーシャルセクター、研究者と協働して展開する取り組み)に定期的に参加していて、ロート製薬さんの『社外チャレンジ制度』のお話を聞き、そこにSPJで得た経験や知見を加え、社内ダブルジョブの仕組みを作ることにしたんです」

SPJで得た経験を社内に還元する形で、社内ダブルジョブはスタートした。2016年8月に企画、同年10月には第1回目の社内ダブルジョブを実施と、企画から実現まではスピーディーに進んだ。

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「最初は僕と、同じ部署の女性メンバーの計2名でスタートさせました。まずはトップにアプローチをしようと、社長に直接『社内ダブルジョブをやりたい』という話をしました。『よくわからないけれど、まずはやってみたら』と言ってもらえたので、立ち上げを決めました。

第1回目では自分の部署内で参加者を募り、5名を社内の新規事業を行う部門とマッチングさせました。参加者が行ったのは、新しいオウンドメディアの企画立案。普段は営業畑にいるメンバーが企画職を経験するという取り組みでした。

純粋な成果という面だけでいうと、明確なアウトプットはあまり出せなかったのですが、参加者の気づきや学びを与えるという点では、初回から手ごたえがありましたね。『自分の本業のやり方をどう変えて行けば良いか分かった』『普段とは違うフィールドで実力を試すことができて良かった』などの声がありました」

プロジェクト期間中は、社内向けに中間報告会と最終報告会を開催。報告会の様子を見て、社内ダブルジョブの運営メンバーが増えたり、「自分の部署のメンバーにも経験させたい」「社内ダブルジョブの参加者を受け入れたい」と申し出たりする部署も増えた。油谷さん自身も、直接他部署に声をかけるなど働きかけたという。

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9月7日にパーソルキャリアで実施された、第4回社内ダブルジョブ最終報告会の様子。

社内の枠を超えグループ会社へ拡大

第2回目まではパーソルキャリア内のみで社内ダブルジョブを行っていたが、第3回目からは社内の枠を超え、パーソルグループ全体へと、受け入れ部署の対象を拡大していった。

「目の前の仕事に追われると、他部署のこともそうですが、グループ会社が実際どのような仕事をしているのか知る機会はほぼありません。受け入れ部署を社内だけではなく、グループ会社に広げることで、グループ全体で協業が進みシナジーが生まれるのではないかと思ったんです。弊社には『キャリアチャレンジ制度』という社内異動希望制度があるのですが、その選択肢もパーソルキャリア社内のみならず、グループ全体に視野を広げて促進していきたいという考えもありました」

自分が所属する会社だけでなく、グループ全体のキャリア開発に貢献したいという油谷さんの想いが、社内ダブルジョブを拡大させていった。

社内ダブルジョブは、希望者は誰でも応募できる。アンケート内容や、所属する部署のマネジャーと相談したうえで、応募者を絞り込む。

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「選定では、基本的には『なぜ応募したのか』『キャリアに対する課題』『どういう能力を伸ばしたいのか』『現業にどう生かしていきたいと考えているか』という部分を重視しています。ただやってみたいという人よりは、社内ダブルジョブを通じて自分が今抱えている課題を前進させ、現業に活かすところまで視点がある人を選ぶようにしています。

社内ダブルジョブの参加者の満足度は高く、参加者が社内ダブルジョブの良さについて拡散し、他の社員も興味を持ってくれるというという流れができています。現在、社内には100名以上のマネジャーがいますが、社内ダブルジョブの認知度は92%。マネジメント側からも、異動を考えているメンバーに対し『まずは社内ダブルジョブでトライしてみたらどうか』と提示できるようになってきたという面もあります」

認められるために「継続してやり続ける」

順調に拡大していったように見える社内ダブルジョブだが、現在の状況になるまでには苦労もあった。

自身の想いやビジョン、やりたいことを伝えて共感してもらい、協力者を増やしていくことには腐心しました。また、本業を持ちながら、社内ダブルジョブに関するスケジューリングやタスク管理、運営メンバーをどう増やしていくのかなどに対し、多くの時間を費やし労力を注ぐ必要がありました。

また、本業は営業ですが、社内ダブルジョブは何もないところから企画をしたので、頭の使い方が全然違いました。ゼロから物事を作る経験は本業ではしてこなかったので、すごく勉強になりましたね」

自分が実現させたいことに対する共感者を増やしていくことで、油谷さんは協力の輪を広げていった。

油谷さんには、2016年に社内ダブルジョブを開始した当初から、正式な会社公認の施策にしたいという想いがあった。

「最初は、社内ダブルジョブは『有志の集まり』という扱いでした。今年の4月からは『部活』という扱いになったのですが、私としては、きちんとした会社公認の施策にしたいという想いはずっとありました。

そのために、スタート当初から休みなく社内ダブルジョブを続けてきました。いずれ会社公認の施策にすることを考えると、継続してやり続ける必要があると考えていました。また、社内ダブルジョブの価値を目に見える形で表現するために、人事のメンバーに協力してもらって参加者にアンケートを取りデータとして残したり、社内の広報と連携して取り組みや報告会の様子を記事にしてもらったり。

外からも環境を温めていった結果、社内ダブルジョブの認知度も上がり、参加を希望する社員の数も増えていき、認めざるを得ない状況をつくっていきました」

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第4回社内ダブルジョブ最終報告会で、参加者の発表を真剣な眼差しで見つめる油谷さん。

社内ダブルジョブが自己肯定感を持つきっかけに

社内ダブルジョブは、社員や会社にどのような影響をもたらすと油谷さんは考えているのだろうか。

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「SPJに参加する前は『自分のキャリアは本当にこれでいいのだろうか』という葛藤がありました。

ですが、SPJに参加したことで『自分の力は社外に出ても通用するのだ』と自信を持つことができましたし、自分の立ち位置も理解でき、本業にもプラスになりました。他の社員も、自分がこの会社で働いていることに納得感を持ち、自己肯定感を高く持って働くことができれば、個人にも会社にも良い影響をもたらすことができるのではと考えました。

社内ダブルジョブでは、プロジェクトのテーマの抽象度も高く正解のないことに取り組んでもらうので、プロジェクト終了後は、新しいことにチャレンジすることへのハードルがそれまでよりも下がると感じます。

また、一般社員ではなくマネジメント層が社内ダブルジョブに参加すると、マネジメントのバリエーションが広がるというメリットもあります。たとえ自分の部署ではハイパフォーマンスを出していても、別の領域に行くと、自分のやり方が通用しないことも多い。そうなったときに周囲の人を活かしたり、得意な人に頼んだりする経験をすることで、本業でのマネジメントが楽になった、という声もありました。

今後はパーソルグループ全体に、社内ダブルジョブが広がっていったら良いなと思います。マネジャーが、メンバーのキャリア開発の選択肢として、当たり前に社内ダブルジョブを促進できるようなアクションを定着させていきたいですね」

油谷さん自身も、SPJの参加や社内ダブルジョブの立ち上げという活動を通じて変化があったという。

「私も、SPJに参加したことをきっかけに自分の視野やアクションが広がり、本業でも楽しく働くことができるようになりました。何より、SPJは社内ダブルジョブをつくるきっかけとなりました。社外の人と協業するSPJは、一見ハードルが高いように見えるかもしれないですが、何かしら必ず得られるものがあります。私もSPJの参加から3年が経った今、当時の経験が活かされているなと実感しています。

社内ダブルジョブの取り組みをはじめたことで、自分が属するコミュニティや関わる人たちが変わり、知見も広がりました。これは、本業だけでは得られなかったことだと思います」

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SPJや社内ダブルジョブという、本業とは異なるフィールドでチャレンジに邁進したことが、結果として個人にも、会社にもよい影響をもたらした。

SPJなどの二枚目の名刺の活動を行っても、すぐに本業や自身のキャリアに活かせるわけではないかもしれない。しかし、社内を飛び出して自身の実力を試し、バックグラウンドの異なる人たちと協業してプロジェクトを成し遂げるという経験は、油谷さんのように、数年後に大きな実りにつながる第一歩であると感じた。

写真:AUSTIN Studio(インタビュー)

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手塚 巧子
ライター
1987年生まれ。日本大学芸術学部卒業後、出版社勤務等を経て、ライター・編集者として活動中。ビジネス、社会問題、金融、女性・学生向け媒体など、幅広いジャンルにて記事を執筆。小説執筆も行い、短編小説入賞経験あり。