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『ともにいきる』高校生が外国人へ日本語を教えるNPO活動

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高校3年生の松岡柊吾(しゅうご)さんと、名取陸之助さんは、同年代の日本で働く外国人技能実習生のために、無料で日本語を教えるNPO活動を行っています。彼らの取り組みについてお話を伺いました。
松岡柊吾さん(右):NPO法人Adovo代表。元ワンダーフォーゲル部。映画鑑賞が趣味。
名取陸之助さん(左):NPO法人Adovo副代表。ニュージーランドに3年間留学。笑わせ好き。

NPO法人Adovo

二枚目の名刺

二枚目の名刺に、高校生が運営するNPOから連絡があったと聞き、お話を聞いてみたいと思いました。まずは現在の活動内容を教えていただけますか?

Adovoでは、「日本語教室」「交流・講習会」「発信活動」の3つを軸に、技能実習や留学、特定技能という在留資格で日本に来ている同年代の外国人の支援を行なっています。団体名称は、英語の青年期を意味するadolescenceと、主張するという意味のadvocateを掛け合わせた造語で、自分で考えました。

団体の理念は「(外国人と)ともにいきる社会をつくる」です。通っていた学校が仏教系だったので、仏教の精神が少なからず影響していると思います。同世代だからこそ、「教える」「教わる」という一方通行な関係ではなく、お互いに学び合う姿勢を大事にしています。

 

自分たちで作った名刺

2年前に設立した組織は、現在では84名ほどになり、毎月30名程度ボランティアの応募がくるので、近いうちに100名を超えます。高校生が運営していることに親しみを感じてくれるのか、中学生や高校生からの応募が圧倒的に多いです。平均年齢17歳という若さが強みです。

松岡

松岡
二枚目の名刺

若いですね!活動を始めたきっかけを教えていただけますか。

高校1年生の夏頃に、学校の特別講師として外国人技能実習生の駆け込み寺の住職をしているベトナム人のティック・タム・チーさんのお話を聞く機会がありました。同年代のベトナム人技能実習生が、職場での不当な扱いに耐えきれず失踪してしまったり、一方的に解雇されて住む場所も生きる希望も失ってしまったという現実を知り、衝撃を受けました。

松岡
二枚目の名刺

ティック・タム・チーさんは、埼玉県本庄市にある大恩寺で住職をしていらっしゃる方で、メディアでも度々取り上げられて有名ですね。

はい。どうしてこんな理不尽なことが起きているのだろうと疑問に思い、技能実習生の実態について澤田晃宏さんが書いた「ルポ 技能実習生」(ちくま新書)などを読みました。技能実習生を最も送り出している国はベトナムで、志望者はベトナムの中でも北部や中部の農村部に住む貧しい家庭で育った若者です。彼らは、日本に来る前に「送り出し機関」という渡日支援を行う機関に「申込料」や「飛行機代」など様々な名目で100万円以上支払っています。中には、本来必要のない名目で支払いを要求されることもあります。渡日支援をしてくれる人気のある送り出し機関を紹介してもらうには、さらに「ブローカー」に手数料を支払う必要があります。ベトナムの平均月収は2022年7月時点で日本円にして約3万8千円(注1)なので、100万円という金額は、若者が1人で用意できる金額ではありません。両親の貯金を崩し、それでも足りない分は借金をします。技能実習生は、家族の期待と借金を背負って日本に来ているのです。

運よく渡日できても、全員が職場に恵まれて、帰国後は母国に貢献するというサクセスストーリーを歩むわけではありません。いざ日本に来てみたら、思っていた就労と違っていたり、受け入れた日本企業が技能実習生に対して賃金や残業代を支払わないというケースが全国で後をたちません。技能実習生は、制度上、原則転職ができないので、職場を変えたいけど、借金を返すためにはそこで働き続けるしかないという板挟みになり、ストレスを抱え、失踪や不法就労してしまうということが頻繁に起きています。

そもそもこの制度の目的は、先進国として、技能や技術を開発途上国へ移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することでした。しかし、目の当たりにするのは、賃金未払い、パワーハラスメント、人権侵害など、目的と乖離した実態です。

なぜこのようなことが起こるのか、何をどうしたら良いのか。根本的な解決は、技能実習生制度そのものの在り方や、行政機関の役割、複雑に絡み合う関連法令を見直さないといけないですが、それを待っていると、目の前の技能実習生を救えません。思い出されるのは、2年前、妊娠したベトナム人技能実習生が、妊娠が判明すると帰国させられると思い込み、病院に行っても「日本語ができない」というのを理由で診察を断られ孤立出産し、乳児の死体を庭に遺棄し逮捕されたという事件です。逮捕された女性は、ベトナムの送り出し機関で半年間学んだけど、簡単なあいさつができる程度で、日本人社員との会話はなく、職場で孤立していたとのことでした。もし、その女性がもう少し日本語ができたら結末を変えられたのではないか?もし女性に相談できる日本人の知り合いがいたら女性と乳児の未来は変わっていたのではないか?そんな思いから、技能実習生に日本語を教えることから始めたいと思いました。

注1)独立行政法人日本貿易振興機構.“雇用はサービス業中心に微増、平均月収の増加続く(ベトナム)”.ビジネス短信. 2022年7月15日. https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/07/5d6e53bdb7a83f28.html.(2023年1月)

松岡
二枚目の名刺

なるほど。技能実習制度の根本的な問題はどこにあると思いますか?

難しい質問ですね・・・。社会のこともわかっていない高校生が、制度や構造の問題点を指摘することは難しいと思っています。それぞれの立場で、それぞれの主張があるので、団体活動として問題の追求や提言などを行うつもりはありません。Adovoとしては、同い年の技能実習生が、いかに楽しくて学びの多い時間を過ごしてもらうことに徹しています。

ただ、個人的には興味があるので、この4月から政治学科に進学して、先進国の外国人政策を研究したいと思います。特に韓国やドイツの外国人政策に興味があります。韓国は、技能実習生にとって日本より魅力的な実習先なので、いつか現地に視察に行ってみたいです。そのためにも、今は毎日6時間くらい韓国語の勉強をしています。

松岡
二枚目の名刺

Adovoと同じような活動をしているところは既にありますが、どうしてそこに所属しようとせず、自分たちで活動をしようと思ったのですか?

恥ずかしい話なのですが、そういう団体の正会員になろうと思ったら会費1万円が必要でした。日本語教室にも行ってみたけど、「先生」と「生徒」の垣根があって何か違ったんです。技能実習生は年が近いので、先生というよりは友達という感覚で接したかったんです。

やりたいことが固まったら、すぐに書き起こして、一緒に活動する仲間をダイレクトメールで募集しました。その中に、今の副代表を務める名取がいました。

松岡
二枚目の名刺

お二人は以前からお友達でしたか?

いいえ、この活動をするまで全くでした(笑)。僕の妹と松岡君の妹が幼稚園からの幼馴染で、家族ぐるみの付き合いをしていて、4回くらい会ったことがあるくらいでした。松岡君からメールをもらった時は、素直に凄いなと思ったので、「お前凄いな」って返信しました。(携帯をかざして当時のメッセージを見せる仕草)そしたら、後日知らない間にNPO団体の副代表に任命されていました。僕はニュージーランドに留学中でしたが、松岡君の考えに共感するところがあり、留学先からAdovoの活動を始めました。

名取
二枚目の名刺

お二人のやりとりを見てると、とてもそうには思えないです。いざ活動を始めようとしても、松岡さんと名取さんは教える資格もなければ教える相手もいないですが、どうしましたか?

まず、教える対象となる技能実習生については、アジア各国にある送り出し機関にアプローチしました。送り出し機関では半年から1年の長い間、日本語教育や入国前の社会ルールなどのオリエンテーションを行っています。送り出し機関であれば技能実習生への直接的アプローチがしやすいと思いました。でも、これがなかなか大変で、現地の送り出し機関のHP経由で問い合わせても、送信エラーで帰ってくる。そこで、僕たちは、翻訳アプリを使って現地の言葉で「日本語がわかる人はいますか?」というのを完全に再現できるようにしてから、アジア各国に国際電話をかけることから始めました。現在ではベトナムとミャンマーの合計4団体と、日本企業3社と連携していて、生徒数は全部で38名です。卒業した方を含めると70名を超えるかもしれません。連携先の企業からは、定評のある日本語の教材「みんなの日本語」などをご提供いただいています。おかげさまで、Adovoにも少しずつノウハウが溜まってきています。

教える資格については、日本語教師の資格をとる時間ももったいなかったので、まず僕たちが日本語教師のプロに教わって、その授業を完全コピーできるように練習をしました。この点については、独立行政法人国際協力機構(以下”JICA”)の方に日本語教師の方をご紹介してもらうなど、様々なご協力をいただいて本当に感謝しています。僕たちの教室では、「日本語能力試験(JLPT)」の級合格を目指した授業を行なっています。でもこれだけだとつまらないので、オリジナルで実用性と遊び心を兼ねた教材を作っています。初版は酷いけど、それを日々試行錯誤しながらアップデートしています。僕たちのボランティアに応募する人は大半が中・高生なので、技能実習生に教える前に、必ず用意した研修を受けてもらうことにしています。日本語を教えるボランティアも、生徒数もそれなりの数になってきたので、ほぼ毎日マンツーマンで日本語教室を開催できています。

 

企業からご提供いただいた教材。日本語教育における定番のシリーズ。

 

 

名取
二枚目の名刺

マンツーマンの日本語教室を見学させてもらおうとしたら、肝心の生徒さんが現れませんでした・・・。そういうことは、よくあるのですか?

そうですね、最初は時間通りに来てくれても、だんだん来なくなるケースはあります。ただ、僕らとしてはそれを放置するのではなく、出席状況をしっかり把握し、授業の終わりに、必ず次の授業の約束を取り付けたり、15分待っても現れなかったらリマインドメールを送るということをしています。連携先の日本企業には、月1回、出席状況や取り組みについて報告しており、出席率が悪いと会社から生徒さんへ指導が入るので、また授業に来るようになります。

松岡

国民性の違いもあると思います。日本人は、疲れてても、遅刻せず、サボらず通うのが当たり前ですが、他の国では当たり前ではないのです。

名取
二枚目の名刺

設立して2年になりますが、手応えはありますか?

日本語教室では、座学だけでなく、対話を重視してロールプレイング形式を取り入れたりしています。参加した生徒さんからは、「活気があって面白い」「ただ座っているよりも、短時間で学びが多い」という感想をいただいて嬉しくなりました。

団体の活動としては、具体的な数値目標や指標などはまだありません。技能実習生は3年から5年の期間を経て母国に貢献して初めて成功したといえますが、活動歴2年なのでそのような実績はありません。いつか技能実習生に「Adovoのおかげで日本にいる時間が楽しかった」と言われるようになるのが夢ですね。

 

松岡

僕らが実現したい社会は、パンフレットにも書いてあるとおり「同世代の若い外国人が安心して働ける日本を作る」ですが、目標が大きすぎて、その中継地点をどう定めていいのかよくわかっていません。今は、日々自分たちにできることを積み重ねながら考えているところです。

名取
二枚目の名刺

最近では、活動が目立ってきて新聞に取り上げられたりしているそうですね。JICAが主催する「責任ある外国人労働者受け入れプラットフォーム(JP-MIRAI)の会員活動報告会において優秀賞を受賞されたと伺いました。おめでとうございます!どういう点が評価されたと思いますか?

そうなんです!昨日、表彰状が届きました。(携帯で表彰状を見せる仕草)
AdovoのHPにも発表の様子を掲載していますのでぜひご覧ください。
Adovo優秀賞受賞活動報告
同世代とともに助け合いながら生きようとしていること、同世代だから深く繋がれる点が良かったのかなと思います。
松岡

高校生が活動しているという理由で贔屓目に見られる点もあると思いますが、それに甘んじず活動を続けてゆきたいです。

優秀賞を受賞して、新聞などに取り上げられたおかげなのか、この間初めて寄付が振り込まれました。信じられなくて、いまだに誤送金ではないかと思っていて、手がつけられません。

名取
二枚目の名刺

寄付はなかなか集まらない?

そうですね。Adovoの登記の住所が南青山なのですが、あれはヴァーチャルで、事務所はありません。でも名刺を見せるたびに、大人の方から「南青山?君は裕福なんだね」と思われて寄付をもらえませんでした。近いうちに住所を変更しようか考えています。

Adovoの活動は、なるべくお金をかけないように運営していますが、それでもヴァーチャルオフィスの利用代や、対面式交流会を行うときの貸し会議室代、HPの維持費、パンフレット印刷代、参加者への交通費などが発生し、僕らのお小遣いだけではやりくりができません。

Adovoはこれまで3回クラウドファンディングに挑戦していますが、3回とも失敗しています。人事を尽くしましたが天命は来ませんでした・・・。

(参考情報)
1回目:2021年4月 目標金額21万円 実績38,000円
2回目:2021年9月 目標金額15万円 実績82,000円
3回目:2022年4月 目標金額10万円 実績16,500円

まとまった活動資金で何をしたいのか?まずは、ベトナムやミャンマーなどの現地に行って、日本語教室を行いたいですね。画面越しでしか会ったことのない技能実習生に会ってみたいですし、彼らの育った環境をこの目で確かめてみたいです。また、「技能実習生」という言葉を知ってもらうためにも、全国規模で作文コンテストを行いたいです。僕自身もつい2年前までは「技能実習生」という言葉を知らなかった。まずは同世代に技能実習生を理解してもらい、それにまつわる現状を知ってほしいと思います。

松岡
二枚目の名刺

パンフレットを拝見しました。ご自分で作成されたのですか?

はい。噛み合わせがおかしくて恥ずかしいのですが、自分で作成しました。作成した300部は全て使い切り、増刷予定です。ホームページも団体活動資料も全て僕が作成しています。運営面でお手伝いしてくれる人をしばらく募集していたのですが、応募がなく、プロボノの力を借りたいと思っています。

松岡
二枚目の名刺

二枚目の名刺をぜひご利用くださいね。パンフレットにとどまらず、Adovoの更なる発展をみんなで一緒に考えましょう!

 

【取材後記】
二枚目の名刺に高校生から連絡があったと聞いて、すぐにお会いしたいと思いました。技能実習生という扱う問題の難しさ、既にNPO法人として活動している行動力からして、眼光鋭い高校生を想像していましたが、お会いしたら、高校生らしい素直な好青年でした。技能実習制度の問題に踏み込むというよりは、目の前の困っている存在を知り、いてもたってもいられなくなったというピュアな心が印象的でした。松岡さんと名取さんにお会いするまでは、技能実習制度において、マッチングがうまくいかなかったり、適応できない人は必ず一定数いるだろう、そういうものだろう、と他人事のように思っていたのが、一気に身近になりました。
この取材を通して気がついたのは、松岡さんや名取さんのように、社会貢献がしたい、学校以外の場所で挑戦してみたいという学生が数百人規模でいるということです。二枚目の名刺は、これまで、その名の通り、働いている社会人を対象に活動してきましたが、必ずしも働いた経験がなくても社会貢献はできるのだということを気づかされました。松岡さんや名取さんのユニークなところは、他人が決めた役割の中で言われたことをこなすのではなく、自ら課題を定義して、アプローチを考えていることです。
松岡さんや名取さんのように、自ら社会に働きかける若者に対して、私たち大人ができることは、大人の正論をぶつけることではなく、若者の意見に耳を澄ませて、試行錯誤や失敗を許容し、実現したいことに力を貸してあげることではないでしょうか。
松岡さんと名取さんには、これから社会の荒波に揉まれて自分を見失うことがあっても、この記事に書かれた、思いやりの心やまっすぐな志をいつまでも忘れないでほしいという思いを込めてこの記事を書きました。Adovoの更なる発展と、お二人のご活躍を願い続けています。
【団体概要】
団体名称:特定非営利活動法人Adovo
事業内容:日本で働く外国人技能実習生向け日本語教室の企画・運営、交流会の企画・運営、外国人労働者に関わる調査・発信
設立年月日:2020年12月26日
理事:松岡 柊吾、名取 陸之助、佐藤 匠、的場 舞、丸尾 侍音、横山 結海
住所:〒107-0062 東京都港区南青山2-2-15 WIN531
HP:https://adovo.or.jp/

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ライター

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編集者

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カメラマン

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一般企業に勤めながら、NPO法人二枚目の名刺の広報担当として活動。