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ごく普通の夫婦がろう児のための学校を設立。社会の変化に挑むための広報戦略とは? (後編)

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「NPO法人バイリンガル・バイカルチュラルろう教育センター(BBED)」代表理事の玉田雅己さんとディレクターの玉田さとみさん。二人は支援者とともに、ろう者が手話で学べる日本で初めて、そして唯一の学校「明清学園」を設立し、その後もろう者を取り巻くさまざまな課題の変革に動いています。

前編から見る(認知と支援者獲得のための“1分プレゼン” とは?)

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6回目の特区提案で国とマッチング

―新聞での発信、講演での質問など地道な活動を通じて様々なネットワークができ、支援者が集まり、そして学校の設立に向かっていくわけですが、活動の中で転換点だと感じる出来事はありましたか?

雅己:構造改革特区の提案に参加したことですね。今のろう児を取り巻く教育環境の問題点を明らかにして、手話で学べる学校の必要性や実現方法を提案しましたが、政府は簡単には首を縦に振ってくれません。合理的理由がない、経済的効果がないなどの課題が次々に指摘されました。当時内閣府のホームページには提案された内容や却下された理由などの情報が公開されていので、指摘項目をクリアしていくという作業を繰り返して、ようやく6回目の提案でマッチングしたのです。

やっと国への提案が通ると、次は都道府県に対する提案をしなければなりません。そこでは石原慎太郎元都知事との出会いが大きかったですね。どの部署にも当てはまらない案件は、知事直轄の知事本局で対応するのですが、組織を作り、色んな関係部署と連携をとりながら、一緒に動ける環境を用意してくれました。

さとみ:時間はかかりましたが、教育特区の申請にこぎ着け、多くの方に支援していただいたことにより、聞こえない子供たちが日本手話を学び、日本手話で学べる日本で初めて、そして唯一の私立ろう学校が誕生したわけです。

―多くのサポーターを作られてきたと思いますが、興味を持ってくださった方でも一人ひとり温度差が違うと思います。そのあたりのご苦労は?

さとみ:初めてお会いする方だと思いの強さは分かりませんよね。でも味方になっていただきたいので、相手の方が私の言葉にどうリアクションをされるのか注視していました。もちろん私たちの考えに「それは違うのでは ?」と思われる方も当然いらっしゃいます。その方が何について「違う」と思っているのかを探るのに、少しずつ色を変えるような感じで話して、その方に合わせた内容の膨らませ方をするようにしました。一つとして同じ発信はなかったと言えます。

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人が少なく時間がないのだったら、次につながる発信をする

ーブログなど、自社メディアでの発信も上手く活用されていますよね。

雅己:2007年からブログで寄付の状況を毎日発信することを続けていたところ、日本財団のブログ大賞をいただきました。

さとみ:今でこそ誰もが気軽にブログを持っていますが、当時はそんな状況ではありませんでした。でもとにかく写真と一緒に毎日発信すると決めて、コツコツとアップしていたのです。ブログ大賞をいただいたことで、日本財団が紹介し、授賞式のことも記事にしてくれるので、一つも二つも輪が大きくなりました。さらに受賞者はエンブレムのようなマークをブログに貼れるので、信用も大きくなります。また日本財団が何かを行うときに声をかけてくださるようにもなりました。

もう全部が繋がっていて、全部が広報になるんですよ。人数が少ない、時間がないのだから、一粒で何度でも美味しい、一石二鳥じゃなくて三、四鳥といった具合で次につながることをしなければならないと思い、動いてきましたね。

雅己:私たちは幸いにも様々なメディアに取り上げていただいています。その中でも東京都の協力が得られて寄付集めを開始するという時に、ずっと見守ってくれていた朝日新聞の記者が、夕刊の一面トップに写真入りで記事にしてくださったことがありました。

さとみ:あれは大きかったね。彼女は何度も取材を重ねるうちに龍の子学園のファンになってくださっていた。それで記事を温めながら、発信するタイミングを見極めてくれていたのです。平日では大きくなりようがないマイナーなテーマだったので、あえて土曜の夕刊というベストなタイミングを狙って出してくれたのです。そういうところにも出会いを感じますね。心と心で通じ合うことができれば、本当に応援していただけます。

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情報保障に関する取り組みと発信、企業との連携も深めていきたい

―さらに社会に対するアプローチという新たな段階なのだと思います。今後取り組んでいきたいこと、発信していきたいテーマを教えてください。

さとみ:今後力を入れていきたいのは、「情報保障(※普通高校に在籍するろうの高校生に対する情報支援)」についてです。私たちが研究実践しているのは「遠隔による文字通訳システム」ですが、最近は自動音声認識というものも注目されています。それぞれの特徴やメリット・デメリットを検証して、次に繋げていきたいですね。

雅己:この発信をどうしていくかは重要です。まず、“自動音声がパーフェクトではない”ということを伝えなければなりません。コンピュータの性能がどんなに良くなっても、人間の耳のようにノイズの中から必要な声や言葉だけを拾ったり、言葉の意味を正確に訳したり、助詞を直して正しく伝えることはできません。

その一方で自動認識は、多少間違いはあるけれど、低コストで手軽に利用できます。そうした特長を理解して、使い分けをすることが大事だと思うんです。例えば進学や就労の段階で「この機械を渡しておけば大丈夫」だと思われ、間違った情報が与えられていた。ということは避けなければなりません。それはろう児やろう者にとって非常に不利益で、情報保障の意味がなくなってしまうからです。

もう一つが企業との連携で、今までの経験からとても大切なことだと思っています。私はNTTデータに勤めていますが、社長に“1分プレゼン”をする機会がありました。それで手話で学べる学校を創ったことを話したところ、大変興味を持ってくれて、その年の社長特別賞に選んでくれました。そのことがきっかけで、社内向けのサイトに取り上げてもらえ、広報担当が社外に向けたサイトでも紹介してくれました。これもテレビや新聞と同じように、第三者評価の一つになっています。

さとみ:企業のダイバーシティをテーマにした社内セッションにスピーカーとして呼んで頂くことがありますが、それもひとつの信用になります。だから企業とのお付き合いはものすごく大事なんですよ。

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叶えるは“夢の実現”。そのことを相関図に示せば、誰とでもつながれる

―そうした活動の中での学びを一つ挙げていただけますか?

さとみ:「聞こえない子供たちの未来を明るくする」というテーマについて、相手の方が応援したくなるような見せ方、伝え方、アプローチの仕方を考えることが大事なんです。それは行政に対しても同じで、担当者が上に持って行ける資料を私たちが揃えるということも、その一つかもしれません。

―なるほど。自分たちの夢に、相手が参加しやすい環境を用意するわけですね。

さとみ:そうですね。私はアサザ基金の飯島さんを勝手に師として追いかけてきたのですが(笑)、最も感銘を受けたことは「相関図の真ん中に夢を書く」ということです。アサザ基金の相関図の真ん中には「100年後の霞ヶ浦にトキが戻る」と書いてありました。団体の名前を真ん中にかいてしまうと、その瞬間に活動は終わるのだと言われました。

「ろう児の明るい未来」という夢を真ん中に置くことで、考え方が違う団体であっても、ろう児に関係のある団体であればつながることができるんです。だって「聞こえない子供達の明るい未来を作る」という夢に反対する人はいませんよね。私たちBBEDという団体を、その夢を実現するための一つの組織として相関図の一角に置くことで、他の団体ともつながることができるのです。

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ろう児たちが学ぶ明晴学園の教室。低い位置まで壁一面がマジックボードになっており、授業の開始や終了はランプが点灯して知らせてくれる。「子供たちがいる時間も、聞こえる人にとっては静かですが、聞こえないに人にとってはうるさいくらいにぎやかなんですよ」とさとみさん。休み時間の廊下は、子どもたちの笑顔であふれ、あちこちで可愛い手がひらひらと舞っていました。

写真:奥田耕平
文:今井浩一
聞き手:安東直美・はしもとゆふこ(二枚目の名刺)
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