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弁護士の2枚目の名刺 法律相談を超えたNPO支援「BLP-Network」

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「弁護士の2枚目の名刺」とは何だろうか。

BLP-Network(以下、BLPN)では、ビジネス法務を本業とする弁護士が、NPO法人や一般社団法人などに対し、2枚目の名刺としてビジネス法務を主としたサポートをおこなう。現在同団体の副代表をつとめる鬼澤秀昌さんが、2012年にNPO支援などをおこなっていた弁護士同士をつなげるネットワークとして立ち上げたのが、設立のきっかけだ。

今回は、BLPNの初期メンバーであり現在代表をつとめる瀧口徹さんに、BLPNの活動内容や、BLPNがNPOなどの団体にどのようなメリットを与えるのかなどについてお話をうかがう。

「ビジネス法務」という強みを活かした2枚目の名刺

BLPNが受ける相談は、主に3種類。ひとつは、これからNPO法人や一般社団法人を立ち上げたい人からの相談。ふたつめは、すでに団体を運営している人からの、新規事業などに関する法的な相談。最後に、団体の中で起きたトラブルの相談だ。なかでもふたつめの、特に契約書や利用規約の作成・見直しなどに関する相談が多いという。

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「もともと、アメリカの弁護士の慈善活動を指す言葉として、プロボノという言葉が使われていました。日本でも自治体における無料法律相談や災害に遭った方への法的支援など、弁護士が無償または著しく低額で自分たちの業務を提供するという活動自体は、古くからおこなわれています。

そのような一般的なプロボノとBLPNの大きな違いは、個人を直接支援するのではなく、NPOなどの団体への支援をおこなっているという点です。BLPNのメンバーのほとんどが『ビジネス法務』を専門にしている弁護士で、本業では一般の方から法律相談を受けるというよりも、企業などを主なクライアントとしていることが多い。そのような弁護士にとっては、NPO支援は本業で培った専門性を生かせる分野だと思います。

BLPNのようなNPO支援を本業以外で弁護士がおこなうというのは、過去にはあまりありませんでした」

BLPNのメンバーは、現在50名ほど。大手法律事務所のパートナーやアソシエイト、企業に所属する弁護士などのほか、司法修習生などもいる。年齢層もさまざまで、若手からベテランまで幅広い。

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BLP-Networkのメンバー。2014年に山中湖で合宿をおこなったときの1枚。(写真=瀧口さん提供)

瀧口さんは「弁護士は2枚目の名刺を持ちやすい」と言う。弁護士の多くが個人事業主であるため、会社員と比べると自由な働き方ができ、いわゆる「二足のわらじ」を履きやすいのが理由のひとつだ。

そのような環境の中で、BLPNのような活動をおこなう動機はどこにあるのだろうか。

BLPNのメンバーは、漠然と『社会の役に立ちたい』と思っている人というよりは、特定の社会課題に関心がある人が多いと感じます。『海外の貧困問題を解決したい』『子どもの教育問題に関心がある』など、自分なりに、気になる社会課題を持っているのが特徴です。

BLPNのメンバーの中には、独立して自身の法律事務所を立ち上げ、本業の中でもNPO支援などをおこなうようになっていく人や、いずれはそうしたいという想いを持っている人もいます。

一方で大手の法律事務所に所属しながら、事務所の中で、たとえば日本における難民支援などのプロボノや、BLPNなどのNPO支援ができるような仕組みをつくる取り組みをしているメンバーもいます。大手事務所の場合、何百人もの所属弁護士が、それぞれ数%ずつでもプロボノの活動に充てるようになるだけで、すごく大きなインパクトになりますよね」

BLPNを通じて本業でも関連した業務をおこなうようになったり、プロボノを取り入れる活動をおこなったりするなど、2枚目の名刺が、結果としてさらなるソーシャルセクターの支援につながっているといえる。

NPO業界で広がるリーガルサポート

BLPNへの相談件数は徐々に増加しており、2017年には、NPO法人や一般社団法人などから20件以上の相談があった。相談のあった案件については、希望者による挙手制で担当する弁護士を決め、月1回のミーティングで進捗確認をおこなったり、案件を担当する弁護士同士で集まったりしてすすめる。支援は数週間程度で終わるものもあれば、数年にわたることもある。

「3年ほど前からはBLPNのサイト上からも相談を受け付けていますが、立ち上げ当初はホームページすらありませんでした。初期メンバーはもともと各自がNPO支援にかかわっていたので『このNPOで弁護士の支援が必要らしい』『ここの団体がこういうことで困っている』という情報交換をして、対応できるメンバーが担当するという形でした。

その後、BLPNが主催するオープンイベントで知り合った方が相談に来るようになったり、企業とのコラボレーションで実施したNPO向けの法律相談会で知り合ったりして、相談の件数は増えていきました」

BLPNの活動の成果もあり、NPO業界では、リーガルサポートが広がってきている。

NPOはもっと法律面の足場を固めた方が良い

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NPOや一般社団法人などを専門に法律相談をおこなうBLPN。団体の存在意義は、どこにあると考えているのだろうか。

「NPOの場合は寄付者の方々から寄付金を受け取ったりしながら運営しているので、営利企業と比べると『人からの信頼』で成り立っている部分が格段に大きいと思います。その『信頼』を裏切らないようにするためにも、早期に弁護士などの専門家のアドバイスを受けて、法令遵守やトラブルの事前予防といった観点を持ったり、法的リスクを事前に把握できる体制を整えたりすることが必要と考えます。

法的な視点を入れることで、NPOがきちんと社会的な使命を果たすことにつながったり、拡大して事業が大きくなったりする。NPOももっと法律面での足場を固めることが必要で、そのことを、きちんと認知していただけることを目指しています

「有償」でも引き受けるという選択

プロボノというと、無報酬のボランティアというイメージがあるが、BLPNでは、相談者が、無償・有償を選べるようにしている。NPO業界の今後の発展や、社会課題の解決につなげるためにも、お金がまわる仕組みにチャレンジしていきたいというのも団体の考えのひとつだ。そのため、あえて有償でおこなうという選択肢も設けている。

瀧口さんはそもそも、完全な無償か通常の弁護士報酬を支払うかという2択しかないのはおかしいのではないかと考えている。そのため、相談者の無償・有償の判断に対してメンバーがどのような対応をするかは、各弁護士の判断にゆだねているという。

「無償でご依頼を受けたときにお金を請求することはもちろんありませんし、『お金を支払います』と先方が言ってきても、弁護士側が無償でやるという判断をすることもあります。また、少しでもお支払いをいただける意思があるのであれば受け取る、という弁護士もいます」

「団体に寄り添って伴走する」存在でありたい

設立から6年、ビジネス法務を専門とする弁護士による国内唯一のNPO支援団体として精力的に活動するBLPN。活動を通じて、どのような手ごたえや成果を感じているのだろうか。

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ひとつは、今まで法律に関するお困りごとがあったとき、どこに相談してよいかわからなかったNPOが、法律相談ができる窓口をつくれたということ。現在、ご相談の大部分はホームページの相談フォームからのものが占めています。団体に対して適切なアプローチができて、適切な人材がサポートするという体制がつくれたことは成果としてもっとも大きく、私たちも誇りに思うところです。相談を受けた団体が新しいサービスや新規事業を立ち上げたことをメディアなどで目にすると、やりがいを感じますね。

ふたつめは、弁護士業界へのインパクトを少しずつ与えることができているという点です。『NPO支援のプロボノ活動』は、当初は弁護士の中ではあまりメジャーではありませんでしたが、おかげさまで徐々に認知されるようになってきました。BLPNのメンバーも増えましたし、BLPNを知っている弁護士の数も多くなってきていて、少しずつですが手ごたえを感じています。

また、2016年にはBLPNの書籍(『NPOの法律相談――知っておきたい基礎知識60』英治出版)を出版し、本を読んでBLPNのことを知ってくださったり、新たにメンバーになったりした方もいます。

私個人のことでいうと、BLPNがきっかけで、多くのNPOの人たちや、事務所を超えた弁護士とのつながりが持てたという点が大きいですね」

最後に、BLPNの存在が、NPO団体にとってどういう存在でありたいと考えているかについて聞いてみた。

BLPNは単に法的な問題を解決するだけでなく、結果としてNPOやビジネスの形を変えていく力になれるという、法律相談以上の役割を持っていると思っています。

単純な法務のサービスのみならず本当にNPOのことを想っていて、みな社会課題の解決に関心があり、親身になって取り組みたいと考えている弁護士が集まっている組織を目指したいですね。

弁護士に相談するということはNPOに関わらず、敷居が高いと感じる人も多いと思います。BLPNは『自分たちに寄り添って、一緒に伴走してくれる弁護士がいる』という心強さを感じていただけるような団体でありたいと考えています」

NPOなどが社会課題を解決するために、2枚目の名刺として自分たちの強みを役立て、団体の発展に寄与する。BLPNの取り組みは今後も、志を持つ多くの団体の助けとなる存在でありつづけるだろう。

写真:松村宇洋(Pecogram)

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手塚 巧子
ライター
1987年生まれ。日本大学芸術学部卒業後、出版社勤務等を経て、ライター・編集者として活動中。ビジネス、社会問題、金融、女性・学生向け媒体など、幅広いジャンルにて記事を執筆。小説執筆も行い、短編小説入賞経験あり。