越境学習者は2度死ぬ~越境学習を組織に導入するポイント~『越境学習による冒険人材の育て方』開催レポート・後編
この記事では、主に人事担当者を対象に開催したオンラインイベント「具体事例から知る! 石山教授と企業人事が語る『越境学習による冒険人材の育て方』~コンフォートゾーンの突破を後押しする新たな社員研修~」の内容を報告するとともに、組織における人材育成の手法として「越境学習」を導入する際のポイントをお伝えしている。
前編では石山恒貴教授(法政大学大学院 政策創造研究科)の講演の内容を中心にお伝えした。後編では、企業の中で実際に実践している堀豪志さん(東京海上日動火災保険)からの報告とパネルディスカッションのもようをお伝えする。
3.東京海上日動火災保険・堀さん事例紹介
続いて、東京海上日動火災保険の堀豪志(ほり・たけし)さんから、人事担当者として越境学習をどのように人材育成に活かしているか、同社のCo-Creation Programについて紹介していただいた。
同社は2020年からNPO二枚目の名刺のSPJをプログラムの中心に据えた研修プログラムを実施している。なぜ同社は、そして堀さんは、人材育成に越境学習を取り入れようと考えたのだろうか?
VUCAと呼ばれる変化が激しい時代に、会社の外でその変化を体感すること。会社の中だけで得られない新しい視点の獲得。まったく関係性のないひとたちとゼロから関係性をつくり価値を生み出していく共創力の向上。D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の重要性の再認識。越境学習に期待することは多い。
まとめて言えば、密度の濃い修羅場経験をつうじて、社内の研修やOJTだけでは得られない強烈な刺激と新しい気付きを得てほしいということに尽きる。
SPJに参加するだけでも学びや成長は得られるが、堀さんたちは、SPJの前後も含めた研修全体を意図をもって設計している。社外での貴重な経験を社内に持ち帰ってもらうステップとプロセスの設計だ。
具体的には、約3か月間のSPJの前後とまんなかにセッションを設けている。これが社員としての成長や気付きと、職場での業務とを接続する仕掛けとして機能している。
SPJ前のセッションでは、自分の軸を探求するためのマインドセットや10名の受講者のチームづくりに取り組む。SPJの最中には、感じているモヤモヤを共有し、終了後のセッションではSPJを振り返り、気づきを共有する。
SPJは強烈な越境学習の経験。堀さんはそう評価する。そしてこう続ける。
「強烈な体験だからこそ、いい経験だった、刺激的な経験だった、で流れてしまう。経験は憶えていても、その中での感情は忘れてしまう」
だからこそ、感情を深掘りし、書き留める機会をつくることによって、社外での経験を社内まで持って帰ってもらう仕掛けが重要だという。
結果として、CCPに参加した社員からはこんな声が寄せられている。
・「自分にもできる事がある」と自分自身を肯定できるようになった。
・何よりも”will”を大切にしようと決意することのできたプログラムだった。仲間の”will”も大切にすることを意識するようになった。
・多様性への許容度・対応力が変化した。自分自身の軸を見直すことができた。
・小さな一歩でも意味があるという視点を持つことができた。会社の中ではすごい成功をしないとそれ以外は失敗のような感覚があった。
・本当の意味でいろいろなひとがいることを学ぶことができた。
堀さんは、これまで2年間CCPを運営しての気づきをこんなふうに振り返る。
①シナリオのないSPJだからこそ得られる経験と気付き
プロボノ的なプログラムの中にはタスクや解決すべき課題が決まっているものも多いが、SPJは課題設定から参加者に委ねられている。シナリオがないからこそ、自分の軸さがしや共創することについてゼロから考えることにつながっている。
②会社に所属しながらの越境学習の意義
複業や転職など越境の機会はいろいろあるが、会社に所属しながらでも越境できる環境は必要だ。今の仕事にも好影響があったり、個人と会社がwinwinの関係になれる。所属しながら取り組むからこその意義がある。
③密度の濃い経験が生み出すNext Action
CCPが他の研修に勝っているのは密度。密度の高いからこそ深い気付き、深い振り返りが生み出され、結果として半径5mでのネクストアクションにつながっていく。
「すべてのひとが大きく変わる保証はないが、このプログラムを続ける意義も大きい。社員にもいい経験を提供できているし、そこから得られるものも大きいのではないだろうか」
堀さんは自社での取組の紹介の最後をそう締めくくった。
4.パネルトーク
最後のパートは、石山さん、堀さん、廣さん(モデレーター)の3人のパネルトーク。
■CCPでの工夫
パネルトークは、このCCPという研修プログラムの工夫している点から始まった。
堀さんは、研修プログラムの中で10名の受講者を「チーム」にすることの意義を強調した。特にSPJの途中でのモヤモヤと向き合う際も、終了後の振り返りも横でシェアすると気付きが倍になる。仲間と振り返ることで新しい気付きが得られる。また、支え合えるメンバーがいるのも大きい。
それに対して石山教授は、越境学習における人事の関わり方の「成功パターン」として、振り返りの工夫について解説した。どのような越境学習体験を得ても、終了後に1回だけ成果発表会をやって終わったら定着はしない。それに対して東京海上日動の堀さんらの取組では、自分の軸をしっかりと振り返りするようにしている点に大きな意義がある。
加えて、10人の受講者が「仲間」になる工夫があることで、深い経験をしたひとが孤立しない仕組みになっている点を効果的だと評価した。
■越境学習による組織への影響
続いてテーマは「組織への影響」に。
正直に「なかなか難しいところ。まだ模索している」と答える堀さん。そのうえで、参加者が研修参加後にまた異なるチャレンジをしていること、そして参加者がこの研修を周囲に薦めて「次にバトンを渡している」ことなどを組織の変化として嬉しく感じていると続けた。
また、NPOの方々と何かをするというのが、社内で別の取組に波及している。リサイクル活動が始まったり、別の視点でNPOの支援をしようという取組に波及していて、組織としての発想を広げるということにも効果が出ている。
一方で越境学習には石山教授が指摘する「越境者は二度死ぬ」という課題もある。その点について石山教授はこう助言した。
「関心をもって味方になってくれる上司がいることが大切。人事と上司と越境学習者と、できれば経営者が組んで一緒に動けるといい」
■越境学習の今後の展開
パネルトークの最後のパートは今後の展開について。
堀さんは「今年3年目。NPOの数がたくさんあり、課題もたくさんある。今は10名の規模で、東京で取り組んでいるが、もっと各地で取り組むようになったり、広がっていくといい」と語る。
石山教授は、振り返りの大切さと伴走者の可能性について語った。
「分かってきたのは、越境をしたときに振り返りをしているから学びがあるということ。今回のSPJ場合は、プロジェクトデザイナーとの振り返りと東京海上日動の人事側の振り返りの機会と、ちゃんとした仕組みがあって振り返りができていた」
最後に、越境学習を導入したいと思っているひとへの助言を求められ、堀さんは「いくらパワーポイントにきれいにまとめても伝わらないものがある。何より人事の方ご自身が越境を経験していただくことですよね」と参加者に呼びかけた。
二枚目の名刺は「サポートプロジェクト」の取り組みを通じ、これらの実現の場を企業の人材育成・組織開発の一環としてもご提供しています。
これまでに実績のある企業・団体の皆様
・東京海上日動保険株式会社 様
・三菱商事従業員組合 様
・パーソルホールディングス(旧インテリジェンス)株式会社 様
・SCSK 株式会社
・NTT データシステム技術株式会社 様
・GAP ジャパン 様
▶ NPO二枚目の名刺HP「企業のみなさまへ」(https://nimaime.or.jp/to-company)
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