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働き方の枠組みが変わる ~働き方改革最前線の現場から~【1】

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「パラレルキャリア」「兼業・複業」という言葉をここ数年で耳にすることが多くなってきた。個人、企業双方にとって「働き方」が変化し始めており、その動きは都市部から地方にも広がり始めようとしている。

日本の「働き方改革」の政策立案に携わり「内閣府プロフェッショナル人材」を通し地方へも働き方のワークシフトとして実践をし続けるみずほ情報総研株式会社(以下みずほ情報総研)・社会政策コンサルティング部・雇用政策チーム シニア コンサルタントの田中文隆(たなかふみたか、以下田中さん)さんに個人や企業の実例とともに、日本全体に少しずつ拡大しつつあるワークシフトの話を中心に5回の連載で寄稿をいただきます。

「LIFE SHIFT」の始まり

政府の「人生100年人材構想会議」の委員に就任したリンダ・グラッドン氏らの著書「LIFE SHIFT」では、これまでの「教育→仕事→引退」というステージが変わり、知識やスキルを再習得する「Explorer」、組織に雇われずに独立した立場の「Independent producer」、異なる活動を同時並行で行う「Portfolio stage」を行き来するようになると予見している。

本連載では、職業柄、政策アドバイザリーや実証事業事務局という立場で政府の働き方改革最前線の現場で筆者が見聞きしているわが国におけるその始まりの一端だと思われる実情をご紹介できれば幸いである。 以下のような連載で、まさに現在生れ出る動きについて事例・データを踏まえながら紹介していきたい。

第1回目:「働き方の枠組みが変わる」

最近注目を浴び始めているフリーランサー(雇用によらない働き方)に焦点を当てる。

第2回目:「わが国における働き方改革の動きについて」

労働市場の流動化など政策現場に近い立場でコンサルティングを行う筆者の所感も踏まえて言及する。

第3回目:「内閣府プロフェッショナル人材事業」から見えてきたビジネスプロフェッショナルによる地方へのワークシフト

全国事務局としてみずほ情報総研が直接携わっているプロフェッショナル人材について整理する。

第4回目:兼業・副業の可能性と課題

昨年度に経済産業省で立ちあがった「雇用によらない働き方」に関する研究会でも報告した、「新たな働き方4,000人を対象としたWEBアンケート調査結果(弊社が調査受託)」や設計に携わったNPO法人二枚目の名刺「大企業人事担当368名に聞いた、副業・兼業に関する意識調査」「大企業の正社員1,236名に聞いた、副業に関する意識調査」の結果、企業事例調査も活用して論じたい。

第5回目:働き方の変革における変化と期待

「2枚目の名刺」の動きが社会へ起こすインパクトや今後の変わりゆく未来への期待について言及したい。

フリーランスが特別でなくなる〜雇用関係一辺倒からのシフト〜

「長時間労働の是正」、「生産性向上」、「ダイバーシティ」などの働き方改革を示すキーワードは、ニュースや記事などで見ない日はない。筆者が今後、わが国の雇用契約重視の働き方に身を投じてきた社会人の働き方に最もインパクトのあるワードとしては「フリーランス」があると思う。

フリーランスという働き方が特別なものでなくなる時代が到来しようとしている。すでに配車アプリUberや民泊情報サイトAirbnbに代表されるように、ICTの活用の進展等によって、働き手は時間や場所、雇用関係という従来の制約から解放され、必要に応じて必要なサービスを提供できることが可能な環境に置かれている。いわゆる「シェアリングエコノミー」の台頭である。

また、企業も雇用だけに頼ることなく、不特定多数の働き手に対して業務委託先を募集する「クラウドソーシング」と言われるような就労形態の活用も広がっている。

民間調査の推計によると、米国と欧州におけるIndependent Worker(雇用関係を持たないフリーランサー)は労働力人口の20~30%(約1億6,200万人)存在するとされている。注1

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(2016 McKinsey Global Institute survey of 8,000US and European respondents をもとに2枚目の名刺webマガジン作成)

また、「Freelancing in America 2016」(Upwork Global Inc. and Freelancers Union)によると、米国では労働力人口1億5,700万人のうち、35%の5,500万人がフリーランスとして仕事を受注している。さらに、2020年には労働力人口の約50%がフリーランスとして働くとの予想もある。注2

いずれの推計にも、このような雇用によらない働き方を能動的に選択する者もいれば、やむを得ず選択する者がいる、また主たる収入としている者もいれば、副次的な収入としている者もいることが含まれていることには注意が必要だ。

わが国においては、フリーランサーを補足した統計は限定されるが、クラウドソーシング事業者のランサーズの調査によれば、日本における広義のフリーランス数は、1,122万人(2017年)と推計されている。注3

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(ランサーズ株式会社「フリーランス実態調査2017年版」・UPWORK「Freelance in America」の2016,2017をもとに2枚目の名刺webマガジン作成)

また副業についてみると公統計では、総務省「平成24年就業構造基本調査」によれば副業を営む者は、約234万4,000人であり有業者全体の約3.6%を占めている。正確な割合は分からないが、わが国においてもフリーランスに類似する働き方を選ぶ者は一定数存在し、クラウドソーシング市場の拡大を背景に、選択の幅も広がりつつあると思われる。

政策を検討する際も、また個人が就労先を選ぶ際、また企業が人材活用を検討する際にも、このフリーランスという働き方は特別なものでなく、「雇用関係」一辺倒という従来の働き方の枠組みを変えるものとなり得ると考えられる。

枠組みが変化する際の留意点

働き方の枠組みが変わる際には、よくよく「雇用によらない」働き方ということが何を意味することなのか整理する必要がある。例えば、冒頭の配車アプリにおいては、英国にて運転手が「従業員」としての身分保証を求めて起こした裁判で、ロンドン労働裁判所は運転手が「被用者」(被用者とは…他人に雇われている人。労働契約に基づき、使用者から賃金を受け取って労働に従事する者)としての権利を持つとする判決を下すなど、「労働者性」を巡る議論が活発化している。

ドイツや英国では、「自営」と「被用者」の中間にあたるような働き手を制度として認める動きも出てきており、これまでの社会保障システムの中での位置づけ(ポジション)を再考する契機ともなっている。

上記が政策検討サイドの主な留意点とするならば、個人や企業にとっての留意点は、新たな働き方における①市場の形成、ルール化をどのように図るか、②働きぶりや成果の評価や能力開発は誰が何のために行うのか、ということである。

① 市場の形成・ルール化とは、働き手と仕事とのマッチング機能をどのよう に強化すべきか、取引環境の健全化をどのように図るのかという論点である。 いくら有能なフリーランサーでも、病気等で業務を遂行できなくなるケースは想定され、そのような場合に双方がどのようにリスクをヘッジしていくのかという点も現実的に問題となる。

②働きぶりや成果の評価や能力開発とは、マッチング時や働き手の報酬等や品質の担保という面でも重要となるが、マッチング機能、決済機能等を果たすプラットフォーマー(クラウドソーシング事業者等)が市場を適切に機能させるために、どのような役割を果たしていくべきかという論点でもある。

いずれの論点も、業界内においても政府内においても議論の端を発したばかりであるが、枠組みが決まりケースが誕生するような世界でなく、新たな事例が生まれ続けているのが現実である。

 

この「フリーランス(雇用によらない働き方)」問題であるが、おそらく既に会社に雇用されているサラリーマンとっては、いきなりフリーランス一辺倒になるのではなく、週末やアフターファイブ、または役職定年後などの副業や兼業に関する問題として今後直面する方もおられるだろう。

第3回目の連載で触れる予定であるが、筆者は「内閣府プロフェッショナル人材事業」において、都心部のビジネスマンが地域企業や地域商社やDMO等の地方創生に貢献するプロジェクトに、現業を持ちながらもこれまでの経験やネットワークを活かしている姿を垣間見てきた。その姿は、地方出身の私にもある意味まぶしいものがあった。

現業の会社との関係性をゼロ・イチで考えるところから企業も社員ももう一段抜けたところに、人生100年時代のキャリアの紡ぎ方のヒントがあるかもしれない。

 

注釈1 2016 McKinsey Global Institute survey of 8,000US and European respondents INDEPENDENT WORK:CHOICE, NECESSITY,AND THE GIG ECONOMY OCTOBER 2016

注釈2 Freelancing in America 2016― Upwork Global Inc. and Freelancers Union (https://www.upwork.com/press/2016/10/06/freelancing-in-america-2016/)

Forbes Five Reasons Half of You Will be Freelancers in 2020 (https://www.forbes.com/sites/michakaufman/2014/02/28/five-reasons-half-of-you-will-be-freelancers-in-2020/#4c13b0de6d39

注釈3 広義のフリーランサーとは、副業系すきまワーカー、複業系パラレルワーカー、自由業系フリーワーカー、自営業系オーナーの4タイプ (http://www.lancers.jp/magazine/29878)

 

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田中 文隆
ライター
【みずほ情報総研株式会社 社会政策コンサルティング部 雇用政策チーム 雇用政策第1課長】 早稲田大学政治経済学部卒業、大手銀行勤務後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程修了(国際関係学修士)。 2001年10月、みずほ情報総研株式会社(当時:富士総合研究所)に入社。 2004年~2005年 厚生労働省政策統括官付労働政策担当参事官室に出向(労働経済白書執筆に従事)。 地域雇用創出政策、産業人材政策(成長分野・グローバル等)、多様な働き方に関する政策等の官公庁関連の受託調査研究業務、実証事業等に多数従事。 <その他> ◇労働政策研究・研修機構「雇用ミスマッチ解消のための人材ニーズ研究会」委員(2014年) ◇政策分析ネットワーク主催「地方創生シンポジウム(シニア人材×移住)『シニア人材の活用を通じた「地方創生」の可能性』~まち・ひと・しごと創生総合戦略の閣議決定を受けて~」パネルディスカションファシリテーター(2014年) ◇中小企業庁「地域中小企業の人材確保・定着支援事業検討会」委員(2014年) ◇総務省「地方のポテンシャルを引き出すテレワークやWi-Fi等の活用に関する研究会」ワーキンググループ構成員(2014年) 【MHIRコラム】 2016年8月16日 プロフェッショナル人材の地域還流 https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/column/2016/0816.html
海野 千尋
編集者
2枚目の名刺webマガジン編集者。複数の場所でパラレルキャリアとして働く。「働く」「働き方」「生き方」に特化した取材、記事などの編集・ライターとして活動している。
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