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【共同研究】イントレプレナー”覚醒”の条件vol.1:イントレプレナーは、どのように覚醒するのか?

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日本のイントレプレナーを増やす!3社による共同研究

近年、様々な業界や企業でイノベーションの必要性が叫ばれる中、組織の中で新規事業や変革の担い手となるイントレプレナー(社内起業家)の育成への注目が集まっています。これまでビジネスやアカデミアなどで様々な議論や試行が重ねられていますが、中でも重要かつ育成困難とみられているのが、イントレプレナーのマインドセットです。

そこでNPO二枚目の名刺では、2019年より産学共同研究として「イントレプレナーたる人材のマインドセットに関する調査研究」を行ってきました。本稿では、その調査結果をご紹介します。尚、本調査結果の著作権は三井不動産株式会社に帰属します。

この調査の目的は、イントレプレナーたる人材のマインドセットの状態とその促進要因を明らかにすることで、日本のイントレプレナーを増やしていくことです。この目的に対して想いを同じくした3社が共同で研究を行ってきました。

・大企業のイノベーションを支え、イントレプレナーの知見をもつ三井不動産・BASEQ
・過去10年以上、社会人のマインドが変容する場に立ち会ってきたNPO二枚目の名刺
・複雑で曖昧な物事の構造化を得意とする慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科

研究の末たどり着いた「覚醒」というキーワード

この調査におけるリサーチクエスチョンは、以下の2点です。

リサーチクエスチョン1:イントレプレナーたる人材はどのようなマインドセットを持っているのか?
リサーチクエスチョン2:イントレプレナーたる人材のマインドセットはどのように促進されるのか?

これらの問いについて明らかにするため、私たちはまず15名の活躍するイントレプレナーたる人材に詳細インタビューを行いました。次に、その内容をコーディング、KJ法を用いて構造化をして仮説を抽出しました。さらに、仮説に対して専門家のフィードバックや、文献調査、アンケート調査や実験なども含めて多面的に検証を重ねてきました。

その結果、私たちがたどり着いた1つのキーワードがあります。イントレプレナーのマインドセットは、他の人たちとは異なる特定の傾向を持っており、その状態に至る変化の過程がありました。そこで私たちは、マインドセットが変化した状態を「覚醒」と呼びました。覚醒とは、目が覚めること、意識がはっきりすること、迷いから覚めること。私たちが調査した方々はまさに、ある経験を経て目が覚め、イントレプレナーとしての意識を持ち、迷いなく行動している方々でした。イントレプレナーの覚醒とはどんな状態で、どのように覚醒に至るのか?以下ではその調査結果をご紹介します。

調査結果①イントレプレナーはどのようなマインドセットを持っているのか?

1つ目のリサーチクエスチョン「イントレプレナーたる人材はどのようなマインドセットを持っているのか?」という問いに対する、私たちの調査結果の概要を以下の図に表しています。

 

この図は、イントレプレナーのマインドセットを構成する5つの要素グループと、それらの相互関係を表しています。覚醒したイントレプレナーは、A.社会起点の高い視座を持っており、その視座から、 B.自らの考えに基づいてミッションを掲げます。ミッション達成のために、C.自分自身というリソースを深く理解し適切に他者に伝えた上で、D.社内・社外の多様な、想いを共有した仲間達とともに取り組もうとします。そしてミッションにチャレンジし続けるためのE.活動力の源泉を、自分の中に持っています。さらに詳細として、各グループを構成する要素は以下の通りです。

A.社会起点の視座
A-1. 社会全体を良くしたいという気概を持っている
A-2. 特定の社会課題の解決に貢献したいという気概を持っている
A-3. 自組織のビジネスに対して建設的に批判する
A-4. 周囲の人の思考停止に意識的になっている

B.自ら掲げたミッション
B-1. 自組織の利害を超えて、自身の考えからミッションを導き出している

C.自分を知り伝える
C-1. 自身が何者で、どんな価値を提供するのかについて、自覚している
C-2. 自身が仕事に取り組む理由を、突き詰めて考えている
C-3. 自身のことを、他者に対して適切に表現する
C-4. 自組織の経営者と同じくらい高い視点で語る

D.多様な仲間と共に
D-1. 自身の目的を達成するために必要な仕組みを考えている
D-2. 互いの役割ではなく、想いでつながることで他者との関係性をつくる
D-3. 目的達成を支援してくれるコミュニティが、組織外にある
D-4. 目的達成を支援してくれるように、自組織を動かしている
D-5. 目的達成を支援してくれるような組織を自ら作っている

E.活動力の源泉
E-1. 好奇心に突き動かされて行動を起こしている
E-2. 楽しいという気持ちに動かされて行動を起こしている
E-3. 考えたことを即行動に移している

イントレプレナーは、会社人でもあり、かつ起業家でもあるという特有の性質を持っています。多くの会社人は、会社の発展のためという視座で物事を考えがちである一方で、覚醒したイントレプレナーは、社会全体を良くする(A-1)、という高い視座を持ちます。このような視座を持つからこそ、自組織のビジネスに対して建設的に批判する(A-3)ことや、自組織の利害を超えて自身の考えからミッションを導き出す(B-1)ことができます。
また、アントレプレナー(起業家)は一から会社を立ち上げていく一方で、イントレプレナーは既にある組織という巨大なリソースを動かそうとします(D-4)。そのためには、ミッションに対して自分ができること、やりたいことを、組織を動かしている経営者と同じくらいの高い視点で解釈して語る(C-4)必要があります。
さらに、好奇心(E-1)楽しい(E-2)という純粋で前向きな気持ちと、社会を良くしたい(A-1)という公共性が、社外も含む多様な仲間たちと想いでつながる(D-2)ことを促します。

調査結果② イントレプレナーはどのように覚醒するのか?

次に2つ目のリサーチクエスチョン、イントレプレナーたる人材のマインドセットは、どのように促進されるのか?という問いに対する調査結果は以下の通りです。この結果におけるポイントは2点です。1つは、マインドセットの各要素(A,C,D,E)を促進する特定の経験があること(図中、外側の部分)。もう1つは、特定の経験によって促進された要素が、さらに他の要素の促進に波及していく、という相互関係があることです(図中、要素間を結ぶ線)。

尚、「自分の生死を身近に感じる」についてインタビューでは、実際に自分自身が生死をさまよった方や、身近な人との別れを経験した方、社内研修で自分の将来について想いを巡らせたことがきっかけになった方など、様々なケースがありました。

以上を総合すると、イントレプレナーのマインドセットを覚醒させるためには、以下のような経験が有効であることが示唆されます。

A.価値観を揺るがすような人に出会う、普段と異なる環境に身を置くこと。
C.困難な状況の中で自分と向き合い、自身や仕事に対する捉え方を変えること。
D.自分の能力だけで孤軍奮闘することに限界を感じ、仲間と互いに認め合うこと。
E.命(時間)が有限であることを実感し、出世よりも大切なことに気づくこと。

イントレプレナー”覚醒プログラム”へ

以上でご紹介した調査結果をまとめた全体像がこちらです。改めてこの研究の意義は、従来漠然としていた「イントレプレナーのマインドセット」について、その構成要素を可視化して構造化した点にあります。

 

私たちは、この調査結果を社会の役立つものにしていきたいと考えているため、社会実装に向けて覚醒度合いを客観的に評価する方法覚醒度合いを促進する方法の開発にも、併せて取り組んできました。評価方法と促進方法を開発することで、イントレプレナーの再現性高い育成に寄与します。

具体的な展開として、この調査結果をもとにしたイントレプレナーのマインドセット”覚醒プログラム”を開発しています。このプログラムでは、社会に向き合う越境と、自分に向き合う内省を繰り返すことを通じて、マインドセットの覚醒を促していきます。今後、BASEQの主催するコミュニティ活動であるIntrapreneurs Networkの中で、実装していく予定です。

続くvol.2では、文献調査を通じた考察として、様々な既存理論とこの調査結果の関連から、イントレプレナーが覚醒するとどうなるのか?という点について紐解いていきます。

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ライター

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編集者

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カメラマン

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磯村幸太
ライター
慶應義塾大学大学院SDM研究科・研究員/IAF認定プロフェッショナル・ファシリテーター。企業,NPO,自治体等にて、人材・組織開発,オープンイノベーション,社会課題解決等の変革をファシリテーターとして支援する傍ら、大学研究員として人材・組織分野の研究を行っている。  note: https://note.com/kota1106
海野 千尋
編集者
2枚目の名刺webマガジン編集者。複数の場所でパラレルキャリアとして働く。「働く」「働き方」「生き方」に特化した取材、記事などの編集・ライターとして活動している。