拝啓、お父さん。あの頃の「将来の夢」、覚えてますか?
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突然ですが質問です。皆さんは小さい頃、何になりたかったですか?
憧れていた職業がパッと出てくる人も、当時の夢を叶えた幸せな人も、はたまた「そんなの思い出せないよー」なんて人もいるかもしれません。
でも、誰しも小学校の卒業文集で、「将来の夢」を書いたことがあるはず。
コンビニの店員さんにも、会社帰りにすれ違ったお姉さんにも、居酒屋で楽しく飲んでいるビジネスマンにも、「夢」はあったはずなのです。
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そこで今回は、子どもの頃の「将来の夢」と、「もしも自分がもう1人いたら、どんな仕事を選ぶか」をサラリーマンのメッカ・新橋で聞いてみました。
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8月某日、夜8時。
SL広場はスーツを着たお父さんたちで溢れかえっています。
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さっそく、待ち合わせをしていたこちらの方に声をかけてみることに。
「子どもの頃の夢を聞きたいんですけど…」と切り出すと、
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「……夢?」
この表情。
怪訝そうにしながらも答えてくれました。
◆たかゆきさん(51)の場合
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子どもの頃の夢:サッカー選手
自分がもう1人いたらしたいこと:歌手
今のお仕事は建築関係だというたかゆきさん。
お仕事について聞くと、「大変だけど、やりがいはすごくある」とのこと。ちょうど仕事で滞在しているシンガポールから一時帰国していた(!)そうです。
自分がもう1人いたら歌手、というのはどうして?と聞くと、「やっぱり普段が裏方の仕事なので、人前で歌ったり踊ったりしてみたい気持ちはどこかにあるよね」とちょっと恥ずかしそうに話してくれました。
◆トシさん(60)の場合
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子どもの頃の夢:医者
自分がもう1人いたらしたいこと:やっぱり医者
続いては、同じくSL広場で待ち合わせしていたトシさん。
子どもの頃の夢を聞くと、「夢!?うーん。うーん……」とかなり考え込んでいました。「そういえば医者になりたかったかもなあ」とポツリとこぼされたので理由を聞くと、「人の役に立てるし、先生って呼ばれてみたかった」とのこと。
今は引退されたものの、少し前まで金融業界に勤めていたそう。「仕事はまあまあ、楽しかったですよ」。
待ち合わせのピークが過ぎ、徐々に人が少なくなってきたSL広場。
駅前のタクシープールに場所を移してみると、お客さん待ちの運転手さんたちが雑談していました。
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◆タクシー運転手さん(60)の場合
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子どもの頃の夢:昆虫博士
自分がもう1人いたらしたいこと:パイロット
子どもの頃は昆虫が大好きで昆虫博士になりたかった、という運転手さん。
今のお仕事は好きですか?と聞くと、「んなわけねえよもう辞めたいよ―!」と食い気味の回答が。
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「バブルはじけた直後くらいまではお客さんバンバン乗ってきたけど、今もうそんなことないからねえ。同じ輪っぱ(ハンドル)なら飛行機運転してえわ」とのこと。
繁華街に移動してみると、スーツ姿の人の数は落ち着き、途端に赤提灯の飲み屋さんが増えてきます。
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お店の前で呼び込みをしていたお姉さんにも、聞いてみました。
◆あゆさん(40代)の場合
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子どもの頃の夢:幼稚園の先生
自分がもう1人いたらしたいこと:女子アナウンサー
普段はアパレル関係の仕事をしているというあゆさん。この日は、「弟のお店のバイトの子がお休みなので、急遽、私がピンチヒッターしてるんです(笑)」とのこと。
自分がもう1人いたら?と聞くと、とても恥ずかしそうに「女子アナとかやりたかったかなあ……」と話してくれました。
そのまま、「あ、いろんな人に聞かれてるんだったら弟にも聞きます?」と、お店に案内してもらうことに。
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階段を上ってゆくと、小さな和食屋さんのカウンターの中には弟・ジロウさんが。
てきぱき料理をしながらも、質問に答えてくれました。
◆ジロウさん(38)の場合
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子どもの頃の夢:サッカー選手
自分がもう1人いたらしたいこと:大学に行きたかった
長年勤めていた飲食店から独立し、自分のお店を開いて3年目だというジロウさん。
「小さい頃はサッカー選手になりたかったけど、板前だった父親の背中を見てたら料理人になりたいなあと。親父も新橋のお店でやってたので……そうか、俺、同じ場所でまったく同じ仕事に就いたことになるのか(笑)」
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「今の仕事は大好きだし楽しいけど、大学行くっていう選択もしてみたかったなあ」とポツリ。
ジロウさんのお店を出て飲み屋街を歩いていると、ザ・新橋といった趣の居酒屋さんが。
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その軒先で通りゆくサラリーマンたちを眺めていたお父さんに、声をかけてみました。
◆のぶひろさん(73)の場合
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子どもの頃の夢:石原裕次郎
自分がもう1人いたらしたいこと:海外支援
子どもの頃の夢は「裕次郎!」と言い切ってくれたのぶひろさん。飲食業界歴は30年以上で、自分のお店を持ってからも長いのだそう。
自分がもう1人いたら「海外支援をしたい」。その回答にびっくりして理由を聞くと、「もう日本だけに目を向けてていい時代じゃないからねえ。ミャンマーあたりでシェアハウス事業とか、そういうことしてみたいね」。
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夢を書いてもらえますか?とホワイトボードを渡すと、「いやいや」とのぶひろさん。「俺ね、ろくに学校行ってないから字書けないのよ(笑)。ごめんね」。
のぶひろさんは、今のお仕事について「天職って言うか、まあこれしかできないからねえ」と話してくれました。
それぞれの仕事があって、夢があった
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取材を終え、いつの間にか夜も深まっていた新橋の街を歩いていると、たくさんの(わりとお酒の入った)お父さんたちとすれ違いました。
この人にも、あの人にも、きっと「夢」はあったんだなあ……。ついそんな目でお父さんたちを見てしまいます。
「小さい頃の夢は?」なんてちょっと意地悪な質問をぶつけたのは、「みんなやっぱり夢、叶ってないんじゃん」と結論づけたかったからかもしれません。でも、今回質問に答えてくれた多くの方は、「今の仕事、楽しいですよ」と胸を張って答えてくれました。
それでももし自分がもう1人いたら、パイロットになりたかった。大学に行きたかった。海外支援がしたかった。……そんな言葉をこぼすみなさんは決まって「もうそんな歳じゃないし」と笑っていたけれど、本当にそうかなあ?とも思いました。
病気をきっかけにライフワークを見つけた人や、学校や職種を転々としまくったのちに起業した人などを見ていると、やっぱり何かを始めるのに遅すぎることなんてない、と思えてきます。「未来は僕等の手の中」ってブルーハーツも言ってたし。
今のお仕事が楽しい人もそうでない人も、いつか「ホントはあれになりたくてさ……」なんて後悔しない選択をしてくださいね。
皆さん、今日もお仕事お疲れさまです。
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ライター
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編集者
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カメラマン
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