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越境学習研究者が説く、2枚目の名刺の学びを1枚目で活かす3ステップ【事例編】

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昨今、次第に広がりつつあるパラレルキャリアの醍醐味の一つは「職場外の活動で学んだことを、職場の活動で活かす」というように、複数の活動の間で学びのシナジーが起こることです。しかしこのシナジーを起こすことは、実は簡単なことではなく、多くのパラレルキャリアの実践者が苦労していることでもあります。

本稿では、そんな「パラレルキャリアに挑戦してみたけど、どうやってその学びを職場で活かせばいいの?」とお悩みの読者の方に向けて、パラレルキャリア研究者である筆者の研究をもとに、学びのシナジーを起こしていく方法をご紹介します。この「3つのステップ」によって、読者の皆さんのキャリアがより刺激的で充実したものになれば幸いです。

今回は事例編として、前回の理論編でお伝えした3つのステップを、具体例に当てはめながらご説明します。

※越境学習とは「普段自分がいるコミュニティ”ではない”コミュニティでの経験から学ぶこと」です。普段自分がいるコミュニティ(普段の職場など)を本稿では「1枚目の(名刺の)コミュニティ」、そうではないコミュニティ(副業やプロボノ、社会人大学院、有志勉強会など)を本稿では「2枚目の(名刺の)コミュニティ」と呼ぶことにします。

メーカーの商品企画職として働く塩村さん(仮名)は、「会社の仕事だけでは物足りないから、社外でも何か活動をしてみたい!」という思いから、NPO法人二枚目の名刺のサポートプロジェクトに参加しました。

※サポートプロジェクトとは、さまざまな業種・職種の社会人がチームを組み、新しい社会を創ることを目指す団体(NPOなど)とともに、団体の事業推進に取り組む有期のプロジェクトです(https://nimaime.or.jp/support-project)。

塩村さんは学生時代、バックパックで途上国を旅行していたこともあり、興味の沸いた国際協力系NPOの支援をするプロジェクトに参加して活動を始めました。以降では、塩村さんがサポートプロジェクトと職場でパラレルキャリアを実践しながら、前回ご説明した3ステップに基づいて振り返った内容をご紹介します。

2枚目のコミュニティでの学びを、1枚目のコミュニティで活かす

この日、塩村さんはNPOとの打ち合わせに参加しました。NPOで働くメンバーとの打合せの中で、塩村さんたちプロジェクトチームは、自分たちにどのような支援が求められているかをヒアリングし議論しました。

ステップ1:2枚目のコミュニティでの経験を内省する

キーワード:学び、違和感

この打合せで塩村さんが「職場に持って帰りたい」と思った学びは、ヒアリングの中でNPOのメンバーから教えてもらった「発展途上国の子どもたちの教育に関する現状」の情報でした。

また、塩村さんがこの打合せで感じた違和感は「なんでNPOの人たちは、自分たちとは関わりの無い遠い世界の人たちのために、こんなに一生懸命になれるんだろう?」というものでした。

ステップ2:コミュニティと自分の違いを整理する

キーワード:コミュニティの価値観、アイデンティティ、活動の目的

塩村さんは、自分が感じた違和感の理由を考えて整理してみました。

塩村さんは、NPOでは「人類みな兄弟。世界のみんなの幸せが、自分たちにとっての幸せ」という価値観が共有されているのではないかと考えました。

それに対し、自分としては「自分に関わる人たちを幸せにしたい」という考え方をこれまで大切にしているから、違和感を感じたんだということに気づきました。(この違いは、どちらが正解というものではなく、あくまでも考え方の違いがあるということです)

そんな違いを踏まえたうえで、塩村さんはこれからNPOとのサポートプロジェクトで自分が活動していく目的を「自分が幸せにしたいと思う人の範囲を、少し広げて考え、動いてみる」ということに設定してみました。

ステップ3:1枚目のコミュニティでの実践方法を具体化する

キーワード:目標、行動、人間関係、伝え方

塩村さんは、NPOでの学びを職場で実践するために、実践の計画を立てました。

まずは職場での目標として「NPOで学んだ途上国の教育の現状を、職場メンバーにも興味をもってもらう」ということに設定しました。この目標は、塩村さんの職場での活動の目的である「SDGsに貢献する商品開発」にも合致すると考えました。

次に、目標を実現するための具体的な行動として「途上国の教育の現場に関する調査レポートを紹介する」ことにしました。さらに、社内でこの話題に興味を持ってくれそうな人は誰だろうと考え、「隣の商品企画チームのリーダーである高井さん(仮名)」がいいかもしれないと思いました。なぜなら高井さんも、昔バックパックで世界を旅していたという話を以前聞いたことがあり、塩村さんのように興味を持ってくれるだろうと思ったからです。

最後に、高井さんがこの話に前向きになってくれるような伝え方や伝える状況を考えました。ちょうど今週、高井さんも出席する「商品企画定例会議」が予定されているので、その場で紹介しようと考えました。そこでの伝え方として、塩村さんの職場で最近注目されはじめている「SDGs」という切り口で伝えれば、会議メンバーにもなじみやすいと考えました。

1枚目のコミュニティでの学びを、2枚目のコミュニティで活かす

この日塩村さんは職場で、「NPOで学んだ途上国の教育の現状を、職場メンバーにも興味をもってもらう」という目標のために、隣のチームの高井さんが出席する商品企画定例会議で、SDGsに絡めながら途上国の教育の現状に関する調査レポートを紹介しました。

しかし会議の場で塩村さんが調査レポートを紹介しても、会議メンバーはあまり興味を示してくれませんでした。「これがウチのビジネスにどう関係するんですか?」「ビジネスとして成り立つんですか?」「市場規模は十分あるんでしょうか?」という懐疑的な反応に、塩村さんは答えることができませんでした。しかし会議後、高井さんが塩村さんのところにやってきて「調査レポートありがとう、僕はこういうことって大事だと思うんだけど、今度詳しく教えてくれない?」と言ってくれました。少なくとも高井さんは前向きになってくれたようです。

ステップ1:2枚目のコミュニティでの経験を内省する

キーワード:学び、違和感

この一件で塩村さんが「NPOに持っていきたい」と思った学びは、「社会課題の解決であっても、ビジネスの視点で考えることが重要である」というものでした。

また、塩村さんがこの打合せで感じた違和感は「どうして職場メンバーは、途上国の教育の現状を自分事として捉えてくれないのか?」というものでした。

ステップ2:コミュニティと自分の違いを整理する

キーワード:コミュニティの価値観、アイデンティティ、活動の目的

塩村さんは、自分が感じた違和感の理由を考えて整理してみました。

塩村さんは、職場では「自社ビジネスに直接的に関わる人たちから、ビジネスの機会を得る」という価値観が共有されているのだと考えました。それに対して自分は「今は直接に関わりがなくても、世の中にニーズがある限り、ビジネスの機会になり得る」という考え方を持っているから、ということに気づきました。

そんな違いを踏まえたうえで、塩村さんはこれから職場で自分が活動していく目的を「社会課題解決からビジネスの機会を探索し、自社の事業領域を広げること」と設定してみました。

ステップ3:1枚目のコミュニティでの実践方法を具体化する

キーワード:目標、行動、人間関係、伝え方

塩村さんは、職場での学びをNPOで実践するために、実践の計画を立てました。

まずはNPOでの目標として「社会課題の解決をビジネスの視点で考えることの重要性を理解してもらう」ということに設定しました。この目標は、NPOでの活動の目的である「自分が幸せにしたいと思う人の範囲を、少し広げて考え、動いてみる」にも合致する(ビジネスの視点から途上国の課題解決を考えることに合致する)と考えました。

次に、目標を実現するための具体的な行動として「(職場でビジネス性の検証としてよく用いる)ビジネスモデル・キャンパスのフレームワークをNPOで紹介する」ことにしました。さらに、NPOでこの話題に興味を持ってくれそうな人は誰だろうと考え、「サポートプロジェクトの窓口である山田さん(仮名)」がいいかもしれないと思いました。なぜなら山田さんは「NPOの考え方だけでは社会課題解決は難しい」という問題意識からサポートプロジェクトに参画しており、ビジネスの考え方にも興味を持ってくれるだろうと思ったからです。

最後に、山田さんがこの話に前向きになってくれるような伝え方や伝える状況を考えました。具体的には、ビジネスモデル・キャンバスは(利益を最大化するためのものではなく)「社会課題解決の取り組みをより”持続的”にするためのもの」という切り口で伝えれば、山田さんも前向きに話を聞いてくれるだろうと考えました。なぜならば、NPOでは「世界のみんなの幸せが、自分たちにとっての幸せ」という価値観が共有されており、自分たちの利益を最大化することよりも世界のみんなの幸せが持続することが重要だと考えられているからです。

以上のように、塩村さんは自分のパラレルキャリアの経験を定期的に振り返りながら、NPOでの学びを職場で活かすことと、職場での学びをNPOで活かすことに挑戦していきました。

はじめのうちは、学びを実践しようとしても上手くいかないこともあるでしょう。その失敗自体も、大きな学びになりますし、定期的な振り返りを繰り返していくうちに学びと実践の精度が上がっていきます。

パラレルキャリアと越境学習の実践を通じて、塩村さんは自分のキャリアを自分自身の意思に基づいて作り上げていくことができ、職場やNPOも塩村さんを通じて新たな知識を獲得することができます。

5.最後に

2枚目のコミュニティの学びを1枚目のコミュニティで活かす3ステップのご紹介は以上です。「パラレルキャリアに挑戦してみたけど、どうやってその学びを職場で活かせばいいの?」とお悩みの読者の方には、ぜひこの3ステップを一度試してみて、職場での実践にチャレンジしていただければと思います。

また「パラレルキャリアに興味はあるけど、何から始めたらいいのかわからない」という読者の方には、まずはパラレルキャリアに一歩踏み出してみることをおすすめします。NPO法人二枚目の名刺が主催する「サポートプロジェクト」も良い機会になりますし、他にも二枚目の名刺Webマガジンでは、様々なボランティアに参加できるイベント情報なども発信しておりますので、ぜひチェックしてみてください。

読者の皆さんのキャリアがより刺激的で充実したものになれば幸いです。

 

<参考文献>

・Isomura, K (2019) . “A Method and Tool to Promote Knowledge Brokering in Cross-Boundary Learning for Organizational Learning and Career Development” Review of Interdisciplinary Business and Economics Research, Vol.9(1)

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磯村幸太
ライター
慶應義塾大学大学院SDM研究科・研究員/IAF認定プロフェッショナル・ファシリテーター。企業,NPO,自治体等にて、人材・組織開発,オープンイノベーション,社会課題解決等の変革をファシリテーターとして支援する傍ら、大学研究員として人材・組織分野の研究を行っている。  note: https://note.com/kota1106
はしもと ゆふこ
編集者
女性誌出身の編集者。 「人生100年時代」に通用する編集者になるべく、雑誌とWebメディアの両方でキャリアを重ねる。趣味は占い。現在メインで担当するWebメディアで占いコーナーを立ち上げ、そこで独自の占いを発信すべく、日々研究に励んでいる。目標は「占い師」という2枚目の名刺を持つこと。