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【連載】「兼業・副業・複業」実践企業のいまを追う 株式会社エンファクトリー後編

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兼業・副業・複業を解禁する企業がここ数年でじつに増えた。「2枚目の名刺」を持つ働き方を選ぶ人の増すなかで、会社組織と個人の双方にはどんな化学変化が起きているのか。また、双方のあり方は今後どう変わっていくのか。
今回、すでに兼業・副業・複業を組織として取り入れ活躍する企業の現在を追いかけ、その背景や変化、課題などを聞き、そこに生きる組織と個人の関係性を見つめ直す連載としてスタートする。

「専業禁止!!」。そんな斬新なポリシーを掲げ、社員の兼業・副業・複業を薦めてきた株式会社エンファクトリー(以下、エンファクトリー)。いま、全社員の半数近くがパラレルワーカーとして従事している。後編となる今回は、同社で「2枚目(あるいはそれ以上)の名刺」を駆使し活躍する二人に、日々の奮闘ぶりや本業以外に従事することで見えた価値、生じた課題点などについて、ざっくばらんに話してもらいながら、個人と組織の関係性がどのように変わっているかを探ってみる。

【連載】「兼業・副業・複業」実践企業のいまを追う 株式会社エンファクトリー前編

 

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■(写真右側)清水正樹さん(しみず・まさき 以下清水さん 31歳)
エンファクトリーの親元会社「AllAbout」に新卒入社、2011年のエンファクトリー分社創立時から同社で事業戦略、新規事業開発に従事。現在、執行役員副社長・兼ショッピングユニット長。本業以外に3つの仕事を持ち、「4枚の名刺」を駆使する日々。
■(写真左側)山崎俊彦さん(やまさき・としひこ 以下山崎さん 35歳)
2012年エンファクトリー入社。前職での経験を活かしカスタマーサポートに従事。現在、ショッピングユニットCSマネジャー・兼モール運営マネジャー。本業以外では、犬用の手作りグッズ・洋服のインターネット販売「はなペチャ家」を運営。共同経営者の妻と共に奮闘中。

本業と他にどんな仕事を並走させているか

ここ1、2年、「うちも社員に兼業・副業・パラレルキャリアをやらせます」と手を上げる企業が増え始めている。エンファクトリーは会社立ち上げ当初から「専業禁止!!」を掲げる先駆者。そこで専業していない実践者たちに、本業ではどんな仕事をしているか、また本業以外にどんな複数の仕事を持っているかを聞いてみた。

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清水さん:「僕が本業でメインとしてやっているのは『eコマース』(ウェブ上のショッピングサイト)の運営全般。あとは、俗にいう企画とか営業という職種になるんですけど、他事業も含め横断的に事業を見ています。
僕、名刺を4つ持っていまして。1つは2013年に『合同会社フラスコ』という会社を立ち上げ、メッセージカードのASPサービス*1をやっています。ECサイトで買い物する時、お客さんが自分でデザインを選び、写真やテキストを入れて購入時にカートに入れれば、商品を配送する倉庫で業者がデータを一括ダウンロード・印刷し、プレゼント商品に添えてメッセージカードを届けますよ、というギフトサービスです。
それから個人でコンサル業。僕の周りにいるような、副業をやってもいいような人と一緒にやっているコンサルなんです。もう1つは、ハリネズミカフェを渋谷・宮益坂にオープンすべく、株式会社飼育係という会社をつくりました」

山崎さん:「私は清水の部下にあたるんですけど、エンファクトリーではインテリア雑貨やアパレルを扱っているショッピングサイト『スタイルストア』のカスタマーサポートを中心にやっています。もう1つは『はなペチャ家』というインターネット上のお店を運営しており、昨年8月に『Blu Sky Dogs合同会社』という会社を立ち上げ法人化しました。パグ、フレンチブルドッグという犬種をターゲットにした犬の洋服、お散歩グッズを手作りしてネット販売しています」

 
お二人に収入を聞くと清水さんは、エンファクトリーとその他で分けると、今年は6:4くらいでまたハリネズミカフェがオープンした後に変動するだろうと予測し、山崎さんは8:2であるという。
お二人とも収入バランスも違えば、そもそも複数の仕事への関わり方も全く違う。清水さんは経営者目線を持って「こんなサービスが世にあればいいのではないか」という着眼点から複数の仕事を持つアプローチを行なっている。一方、山崎さんは顧客目線で、自分の愛犬を可愛くしたい!という身近な目線から問題解決に向けて事業を展開している。
一言に“兼業・副業・複業”という言葉でも様々な視点からスタートしていることが見える。
 

複数の仕事を持つ上で大切にしていることは何か

清水さん、山崎さんが複数仕事を持ちながら進めていく上で何が大事になっていくか、それらを尋ねていく中でお二人から同じような言葉が重なることがあった。
それがタイムマネジメントとマインドマネジメントの2つである。

ーそれぞれ、お二人の1週間のサイクルは?

清水さん:「最近はエンファクトリーとハリネズミカフェの仕事がほとんど。朝の9時半から、多少残業もして午後8、9時ぐらいまではエンファクトリー。コンサルの仕事は週1回ぐらい、1時間ぐらい中抜けして従事しています。土日は『ハリネズミカフェ』のオープン準備で、アルバイトさんの面接や業者さんと打ち合わせです。
エンファクトリーでは、平日の業務時間内に何らかの副業的なことをやりたい時は、本業に支障のない範囲で行い、PC上で勤怠管理を打ち込むシステムがあるんですが、そこで1時間『休み時間』として他の業務に充てた時間を入力する仕組みとなっている。そこで休んで別の仕事に従事し、そのぶん夜遅くまでやるような調整はしています」

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山崎さん:「僕も平日は基本的にエンファクトリーの業務がメイン。朝9時半ぐらいから、午後8、9時までは社内にいます。カスタマーサポートですから、常にオフィスにいる状態なんです。その間にちょこちょこ、副業のメール対応をやることはあります。メール1通2、3分、ちょっと対応をして。『はなペチャ家』は基本的に、土日の作業がメイン。ほぼ自宅で、犬と触れ合いながらできる」

一週間のサイクルを聞く中で、エンファクトリーのルールとして複数に仕事を持っている人に特別対応をしているわけではなく、複業していようがいまいが、皆同じように本業に当然のようにコミットし、基本は個人のタイムマネジメントが必須であることが理解できる。つまり自分自身で業務管理、時間管理ができないようであれば、そもそも副業/複業することは難しいという前提条件が透けて見える。
そして2つ目はマインドマネジメントについてだ。

―お二人ともどうやって精神的なメリハリをつけているのでしょう。公私の区別、2枚ないし4枚の名刺を持っていて、心がけていることはありますか。

 

清水さん:「僕の名刺は4枚あるんですけど、力をここ(エンファクトリー)に入れている。注力するタイミングは残りの3枚に関してはそれぞれ違うんです。あと、僕が今住んでいるのは90人が住むシェアハウスで、ハリネズミカフェを一緒にやる役員も住んでいるので、そのシェアハウスのワークスペースで打ち合わせする。『働き方』もそうなんですけど、暮らし方も含めて住むスペースも変えてみて、それが仕事に直結して、という実験的な状況です」

山崎さん:「公私の区別がない状態、私の場合は逆にそれが悩み。本業のカスタマーサポートも1年365日、常に対応する必要がある。家に帰っても頭の中にあるので、ずっとメール見ちゃったりするんですね。そこを無理して分けようとしても性格的に無理。今はいかに生活になじませるかと考えています。しいて分けるとすると、本業終了後に、1杯お酒を飲んで区切りをつける。家に帰っても妻がいて、基本的に『はなペチャ家』の話になることが多いです。そこまで仕事が自分の人生に入り込んでいる」

清水さんは“実験的”と言えるくらいこの暮らしを楽しみ、それらを含めて客観的に自分を見ている。山崎さんは“それが悩みだ”と言いながらも自分の性格を熟知し、現在の働き方をいかに自分の人生に馴染ませることを意識している。「自分の性質をどれだけ理解しているか」ということが、複数の仕事に取り組みながらも、それらに振り回されないために大切だと気付かされる。

複数仕事を持つ個人と組織の関係性について

兼業・副業・副業・パラレルキャリア。この言葉は、ともすればそれを選択する個人だけにスポットライトが当たるイメージがある。複数の場所を持つことで本人に変化があることは当然推測できるが、一方、それが会社や組織にとってどのような価値となるかについては、まだまだ語られる事例が少ない。エンファクトリーの個人と組織の関係性について聞いてみた。

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―副業/複業することによって、その個人を抱える組織・会社にとってどのようなメリットがあると思いますか?

 

山崎さん:以前自分が勤めている会社が無くなった、ということを経験しているんです。『来月、会社が無くなりますよ』と突然言われたんですね。当時は、もちろん本業しか持っていなかったので、途方に暮れました。文字通り、公園のベンチでうつむいているみたいな精神状態。既婚ですし、新築マンションを買う契約もしていた。そんなことがあったので、『一つしか仕事がないと、また同じようなことが起きる』というリスクが今なら容易に想像できるんです。もう1つ仕事を持っていれば、仮に会社が無くなったりしても、食いつないでいけるという最低限の安心感が生まれるんです。吹っ切れる。『じゃあ、もう1回、他の会社で働こう』、あるいは『副業1本で頑張っていこう』という選択肢も取れる」

清水さん:「事業を自分のお金でやって、全責任を負わなければいけないという状況に置かれると、一つひとつの対応や、会社のお金を使う必要のある時などに、真剣に考え、動くと思うんです。『失敗しても何とか大丈夫でしょう』みたいな状態から外れる。そういうスタンスが、本業にも活かされてくるというのはありますね。また、経理や社会保険労務などは、自分で作った会社では全部自分でやらなきゃいけない。それを理解する契機になり、いろんなものの相場感が分かったりします」

二人の話から見えるのは、組織や会社に甘えない個人の自立である。
それは前編でのエンファクトリー代表の加藤さんからの話にピタリと当てはまっていく。

————————
「何よりも大事なのは自分で考え、自分をデザインすること。そういった自立した人材、プロの人たちが集まって、一緒に積極的に仕事をするようになれれば、すごく気持ち良いじゃないですか。それを目指したかったのです」
————————加藤さんの言葉より引用

個人が組織に寄りかからず自分個人で立っていくことは、個人が成長するだけにとどまらない。結果、それらを抱えている組織に還元されていくのだ。

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―お二人はお互いをどんな風に思っていらっしゃいますか。

 

山崎さん:「清水さんは私より年下なんですけど、ただただ凄いなと。常に新しいことにチャレンジしている。しかも、それを楽しんでいる。そして、結果を出している。いつ休んでいるのかな、と思いますし、プロの経営者だと本当に感じますね。自分に足りないところなので見習わなければいけないなと思っています」

清水さん:「山崎さんは最後での踏ん張りが効く人。日々、かなりの件数にのぼる問い合わせを、クオリティとスピードのバランスを保ちながら次々と解決していく。『はなペチャ家』は本当にすごいと思います。いろんなメーカーさんがいるなかで、一番理想的。自分たちで商品をつくって、それを自分たちのサイトに乗っけて、それが売れて、ちゃんとサイクルとして成立している」

 
このお二人のやりとりを聞いて、“会社に副業/複業を隠していない人たち”は、こんなコミュニケーションが取れるのか、と驚いた。
お互いを実によく見ているし、何より共に働く人に対する圧倒的なリスペクトがある。

自分が複数仕事をしていることを組織に公言できるということはどんな行動変容につながるのだろうか。

自分が働く上で大事にしていることや働く価値観を他者に伝えていく必要があるだろうし、
自分が今何に興味があってどういうことが好きなのかを話すきっかけも増えるだろう。
結果的に個人をよりオープンにしていくことが自ずと必要になってくるはずだ。そしてそれによって同じ会社で働く人をより深く知ることができる。

共に働く人が自分とは違う働く価値観を持って生き生きと働くということを目の当たりにするとしたら。

彼らがそれぞれのフィールドで培ったノウハウや人脈、課題はすべて本業へと昇華し、新たな「縁」を紡ぎ出す。彼らのような「パラレルワーク」という働き方の選択が、いま筋肉疲労を起こしている多くの企業にとっても、新たな前進を促すヒントを探る好機となり得るかも知れない。

 

*1 ASP《application service provider》:インターネットを経由し、サーバー上のアプリケーションソフトを利用するサービス。また、そのようなサービスを提供する業者のこと(小学館デジタル大辞泉)

写真:海野千尋

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加賀 直樹
加賀 直樹
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ノンフィクションライター兼、韓国語翻訳家。週刊AERAの連載「現代の肖像」執筆メンバー。同誌の各特集の取材にも携わる。元・朝日新聞記者。手がけた著書は「戦争体験・朝日新聞への手紙」「吹奏楽の星」など多数。
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