社会人が社外活動やイベント参加で知った「ニュースとは異なるLGBTの実際」とは
LGBTの当事者とアライ(支援者)からなる団体、認定NPO法人グッド・エイジング・エールズにNPOサポートプロジェクトのメンバーとして参加した丸井グループ勤務の新倉智宏さんと県立病院勤務の平野恭子さん。
LGBT向けの浴衣が誕生したプロジェクトの模様は>こちら
多様性が謳われる今の社会において、その代名詞の一つとも言える「LGBT」。
「ストレートの方にLGBTを理解し、認知を広げてもらう機会にしたい」ということが、団体側がサポートプロジェクトに参加した理由であった。
確かに、ストレートである筆者が“正しく”LGBTを理解しているかどうかと問われれば、自信がない。偏見を持っていないつもりではいるが、そもそもLGBTであることを公表している人が周囲にいないため、自分の考えが正しいのかどうかということすら分からない。
後編では、「LGBTを理解する」とは、どのようなことなのか。LGBT当事者の輪に加わり、一緒にイベントを作り上げた新倉さんと平野さんにお話を聞く。
LGBTとは
二人の話に入る前に、改めてLGBTについておさらいしよう。
レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(出生時に社会的に割り当てられた性と、違う性で生きたいと思う人)の頭文字をとった総称である「LGBT」。
近年、見聞きする機会が増えたという人も多いだろう。成人約7万人を対象にした調査で、7.6%(約13人に1人)がLGBTの当事者だというデータがある*1が、これは日本人における左利きの人、AB型の人とほぼ同じ割合だ。
しかし、日本はLGBTに対する施策が遅れていて、結婚をはじめとした法整備も進んでおらず、LGBT当事者が暮らしやすい社会の実現には多くの課題があると言われている。
違うのは恋愛対象だけで、みんな『普通』
LGBTの当事者の中で過ごした時間についての感想を求めると、平野さんは第一声で「普通でした」と言ったあとに、「ゲイの人、あなたより全然かっこよかったですよ。イケメンでした」と続けてくれた。
後半の言葉に筆者は軽く傷つきながらも、最初に返ってきた『普通』という言葉が気になった。『普通』とは一体どういうことなのか。
平野さん:「男性が女性を好きになる、女性が男性を好きになる、ということが『普通』で、そうでない彼らは『普通じゃない』という意識が、何となく世の中にあるんじゃないかと思います。でも、恋愛対象が違うだけで、それ以外はストレートの人と何ら異なることはありません。職場で隣の席に座っていても不思議じゃない。仕事ぶりに違和感を覚えることもなく、飲み会でもいつもと同じように、仕事の話や恋愛の話で盛り上がりました」
コミュニケーションの中に何の違和感もないからこそ、出てきたのであろう『普通』という言葉。新倉さんも同じような感想を持っていた。
新倉さん:「実際に、お店の店員さんを見て、『あの人かっこいい!』とか、『あの子、私の好きなタイプ』とか、そんな話をしました。平野さんが言うように、ストレートの僕らと違うのは、恋愛感情を抱く対象が違うだけ。自分がメディアから受けていた印象と違うんだと感じました」
(仕事仲間や友人たちと食事をするのと何ら変わることはなかったという団体メンバーとの交流会)
LGBTを理解する、その次のステップとは
メディアでもLGBTのことがたびたび取り上げられるようになり、その言葉と接する機会が増えている。また、バラエティ番組を見ると、『オネェ枠』という表現が適切かどうかはわからないが、『オネェ』を公言するタレントが出演しているのをよく見かける。
だが、こうしたタレントは、ゲイやトランスジェンダーの象徴的存在である一方、それを分かりやすく表現するために、どこか誇張してキャラクター表現しているのではないかと思うところがある。新倉さんが抱いた違和感は、こうしたところに原因があるようだ。
新倉さん:「LGBTは、その言葉で一括りにできるものではなく、L,G,B,Tそれぞれで違うんです。そして、ストレートの僕ら一人ひとりが違う悩みを抱えているように、彼らも一人ひとりが違う悩みを抱えています。今はまだまだ世の中の理解が足りていないから、まずは『LGBT』のことを知ってもらうことが大切だと当事者の人も言っていました。でも、個々の課題や悩みを理解し、向き合っていかなければならないと思うんです」
その言葉に平野さんもこう続ける。
平野さん:「レズビアン,ゲイ,バイセクシュアルは性的指向の話ですが、トランスジェンダーは違います。トランスジェンダーの中には性同一性障害の人もいます。こういったことへの理解も、世の中に広めていく必要があると思います」
LGBTへの理解を広げるには?
社会全体でLGBTのことを真に理解する道のりは、まだまだ遠いようだ。では、『LGBTへの理解をストレートの人に広げる』という今回のNPOサポートプロジェクトの目的は、どの程度達成できたのだろうか。
新倉さんも平野さんも、家族や職場の人にこの取り組みについて積極的に話し、認知を広げられたという実感はあるそうだ。
この活動についての、お二人それぞれのお子さんとのやり取りが印象的だった。
平野さん:「うちの子たちは皆、成人しているのですが、『お母さん、最近こういうことしているんだ』とLGBTの取り組みについて話をすると、『あー、(LGBTの人たちのことを)知ってる知ってる』と、何気ない会話の中の一つの話題として、違和感なく受け入れていました。自分とは違う部分があることも認めつつ、偏見なく他の人の個性をちゃんと受け入れられるような大人になっていたことは、親として嬉しかったですね」
新倉さん:「うちは小学3年生と6年生の子どもがいます。新聞でもこの活動を取り上げてもらいましたが、その記事を見た子どもが、僕が何をしているのかと聞いてきたんです。そのとき初めて『男の人の中には男の人を好きになる人もいるし、女の人の中には女の人のことを好きになる人もいるんだ』ということを、できるだけ平易な言葉で説明しました。下の子はまだよくわからないのか、『ふぅーん』という感じでしたが、今はそれでいいと思っています。小さい頃から、そうした人たちもいるんだということを伝えておけば、子どもがいつか当事者の方に出会ったときに、偏見なく接することができると思うので」
日本人は、社会的課題について、家族やまわりの人と話をする機会が少ないと言われる。平野さんのお子さんのように、成長する過程で自然と多様性への理解が形成されることもあるのだろうが、子どもの頃からそうしたテーマに触れ、考える機会が多ければ多いほど、当たり前にあることとして受け入れることができるだろう。
(丸井グループの多様性推進プロジェクトで講話をする新倉さん。このプロジェクトは社内の関心も高かったようだ)
新倉さん:「どちらかというと、年配の方の価値観を変えるのは難しいと思います。頭では理解できても、気持ちがついてこない方が多いのではないでしょうか。彼らが育ってきた時代は、今ほど多様性が謳われることもなく、同性婚についての議論などもありませんでした。恋愛は異性同士がするものだという価値観を、時代が植え付けていたのです。誰が悪いとかではなく、『そういう時代だったから』という、ただそれだけの話。でも、その世代の人たちが会社の幹部や上司だと、当事者が働きづらいと思うので、年配の方々への理解も諦めずに広げていきたいですね」
平野さん:「『カミングアウトする』ことが抵抗にならないよう、受け止める私たちの姿勢を変えていかなければなりません。価値観を変えるためには、やはり自分自身がその輪に入り、直接接する機会を持つことが大事なのだと、改めて思いました。今回のプロジェクトに参加して、これまでに知らなかった世界を知ることができました」
誰とでも「恋バナ」ができる世界を目指そう
私たちが暮らす社会では、いつの間にか「男らしさ」や「女らしさ」が定義され、無意識のうちに生活や行動もそれに従っている。例えば、あなたの友人・知人に子どもが生まれたとき、出産祝いに乳児用の服を贈ったとしよう。そのとき、何色の服を選ぶだろうか? 男の子なら? 女の子なら?
気付いていただけただろうか。私たちは自然と、男の子には青、女の子にはピンクの服を着せようとする。教える遊びも、男の子なら戦隊もの、女の子ならおままごとだ。学校の制服も、当然のように男子はズボン、女子はスカート。こうしたジェンダーの価値観が溢れた中で、私たちは生きている。
この価値観が世の中のマジョリティーである以上、セクシュアル・マイノリティであることをカミングアウトすることの心理的なハードルの大きさは、簡単に想像できるものではない。
だが、新倉さんや平野さんのように『そうなんだね』と自然と受け入れ、当たり前のように接してくれる人の存在が、その一歩を踏み出すのに、大きな後押しをしてくれるのだろうと思う。
(当事者と触れ合うことで、理解が深まることを実感した平野さんは、友人を引き連れて団体メンバーとの交流会に参加した)
2017年度から、高校で使われる教科書に『LGBT』の言葉が登場した。セクシュアル・マイノリティへの理解を促すには、大きな一歩だ。日本においてはジェンダー論やLGBTのことを学校で学ぶ機会が多くはなかったが、これからの時代はきっと変わっていくのだろう。
誰もが自然体で、自分自身のこと、自分の恋愛観を語れる社会へ。一緒に恋バナができる社会へ。
そんな仲間を増やすため、認定NPO法人グッド・エイジング・エールズと一緒に歩み始めた新倉さんと平野さんの道のりは、まだ始まったばかりだ。
*1電通ダイバーシティ・ラボ調べ 「LGBT調査2015」による
ライター
編集者
カメラマン