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美容スキルを得た孤児たちが働く場を創出したい!ー美容師のプロボノ「ハサミノチカラ」の今(前編)

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前回の記事では、北原義紀さんに「ハサミノチカラ」発足とアカデミーを作るまでの経緯、そしてこれから目指す方向性をお聞きした。

北原義紀さんインタビュー>孤児や貧困地域の子どもにプロのカット体験をー美容師のプロボノ「ハサミノチカラ」発足前夜

今回は、ボランティアカットツアー最多参加数を誇る小山﨑裕士さん(美容室「canvas.」オーナー)に、ハサミノチカラに参加することになったきっかけや、これからフィリピンに設立予定というサロンのことについてお話を伺った。

ハサミノチカラとは

フィリピンの子どもたちを支援するNPO法人アクションが主催する子どもたちへの職業訓練・能力向上プロジェクトの一つ。フィリピンではスキルさえあれば、資格なく美容師という職業を得ることができるため、日本のヘアカット技術を習得し、プロの美容師になるためのプログラムを実施している。

また、この活動に賛同した日本の美容師による孤児院や貧困地域でのボランティアカットツアーを行っている。

なぜ美容師はフィリピンでプロボノ活動をするのか?ハサミノチカラプロジェクト同行レポ

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(2017年11月、ボランティアツアーで子どもたちの髪をカットする小山崎さん)

はじめは勢いで参加したハサミノチカラ

ーーーずは、小山﨑さんがハサミノチカラに参加することになったきっかけをお教えください。

小山﨑:きっかけは、キタさん(北原さんのこと)と美容メーカーの人たちの集まりに参加することがあって。そこでハサミノチカラの話を聞いて、酔っ払った勢いで「僕、行きます!」と言っちゃったんです(笑)。

ーーー勢いで?(笑) 

小山﨑:完全に“勢い”ですね(笑)。その飲み会は2012年の5月か6月頃だったと思います。

その年の11月にハサミノチカラツアーでフィリピン行きが計画されているという話を聞いて「行きます!僕も連れて行ってください!」って。

だから、実際に行くまで半年くらい時間があったんですよね。勢いで行くって言っちゃったけど、半年の間に考えも変わってくるじゃないですか。「なんで行くって言っちゃったんだろう」って、実はフィリピン行きの前日まで気が重かったんですよね、行きたくなくて(笑)

ーーーちょっと面倒くさいなぁって思っちゃいました? 

小山﨑:そうなんですよ。でも、約束しちゃったもんはしょうがない!と思って。初めは先進国の人間としてフィリピンに何かしに行ってあげるというような驕りが自分の中にあったと思います。

ーーー北原さんからは事前にどんなお話を聞いていたんですか?

小山﨑:フィリピンの貧困地域の子どもたちの髪をカットすると、みんなすごく喜んでくれると。日本からプロの美容師が来てくれてカットしてくれたら、子どもたちからしてみたらすごく嬉しいことですよね。そういう話を聞いて、「僕もその笑顔が見たいな」とそのときは思いました。

ーーーそのときは?

小山﨑:酔ってた勢いがあるんですよ(笑)。でも僕、ボランティアには興味があったんです。実は美容師になって1年目から2年目ぐらいのときに、老人ホームにカットしに行ったりしてたんです。でも美容師になって3年目にお店を移ったというのもあって、すごく忙しくなって。それからクリエイション(作品撮り)にも興味が湧いてきてたので、休みの日はそっちに時間を使ってました。だからハサミノチカラに参加するまではボランティアはずっとやってませんでした。

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「またここに来なければならない」使命感が芽生える

ーーー北原さんに誘われて、久しぶりにハサミノチカラとしてプロボノをしてみていかがでした?

小山﨑:最初にマニラ空港に到着した時のことをすごく覚えています。まず空気が悪いなと思いました。それから暑い。これは本当に大変な国に来ちゃったなぁと。観光で来たわけじゃないですしね。

NPO法人アクションのスタッフさんが空港へ車で迎えに来てくれて移動したんですけど、アクションの事務所に向かう途中に「一番貧しいスラムを通りますので、みなさん見てください」と言われたんですね。テレビなどで見たことがあるから、だいたい想像はしていたんですけど、やっぱり実際に自分で体験すると、そこにある音や臭いが直に感じられて、雑誌やテレビで見るのとは全く感じ方が違いました。

自分の五感で見て感じたときに「自分に一体何ができるんだろう?何しに来ちゃったんだろう?」と思いました。

ーーーこの状況を何とかしたいと思ったんですか? 

小山﨑:いえ、そういうのではなくて。スラム街を見るまでは「やってあげる」「カットしてあげる」という考えがあったんだと思います。だから面倒くさいなぁって思っちゃってました。

でも、実際に自分の目で現地を見たときに「果たして自分は役に立つんだろうか?」と。やってあげると思っていたものが「自分にできるのか?」という思いと「自分はここに何をしに来たんだろう?」という思いに変わりました。カルチャーショックをガツンと受けたというか。

アクションの事務所に着いてから、美容師は二人ずつペアを組んで現地のホームステイ先に割り振られました。そこでまずは家族の髪を切ってくださいと言われました。とにかくやるしかない、自分ができることをがむしゃらにやろう!と炎天下の中、汗ダラダラかきながら髪を切りました。言葉が通じないから、日本のヘアカタログを持っていったのですが、子どもたちがカタログを見ながら「こういう髪型にしたい!」と言ってくれるので、夕方までペアになった美容師と二人で18人くらい切りました。

そのときにみんなの笑顔を見ながら「ちょっとだけ役に立てたのかな」と感じて、そこから少しずつ自分の中で何かが変わっていきましたね。

ーーー小山﨑さんがハサミノチカラ最多参加数だとお聞きしているのですが、毎回参加し続けている理由は?

小山﨑:マニラ空港から日本に帰るときに「またここに来なければならない」という使命感みたいなものを感じたんです。日本には何不自由ない生活があります。サロンがあって、通ってくれるお客様もいて、美容師という自分の好きな仕事ができて、その仕事でご飯を食べることができている。とても幸せなことですよね。でも、それが当たり前になってしまって、いつのまにか感謝の気持ちがなくなってしまってた。それを気づかせてくれたのがフィリピンでの体験でした。

ーーー当たり前の生活だと思っていたけど、実はとても恵まれていて幸せなことだったんだと?

小山﨑:そうなんです。このまま日本での生活をずっと繰り返していると、またその幸せを忘れてしまうと思ったんですよ。だからそれを再確認しに行くような気持ちでいます。もう12回フィリピンに行ってますね。

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体験することで感謝の気持ちが生まれる

ーーーフィリピンには、小山﨑さんのサロンのスタッフさんも同行されていますよね? ハサミノチカラを体験したスタッフさんにも何か変化はありましたか? 

小山﨑:去年11月に一緒に行ったのは、うちのお店の店長なんです。その年の7月に店長になったばかり。もともと彼はいろいろなことを気にしすぎちゃう性格なんですね。店長になってからさらに神経を使いすぎちゃって、周りが見えなくなってるなと思うところがありました。お店がちょっとヒマだったりすると元気がなくなっちゃったり。

ーーーお店がヒマなのは自分のせいだと? 

小山﨑:そうなんです。自己嫌悪に陥っちゃうというか。11月はお店もそんなに忙しい時期ではないですし、彼の気持ちも落ちてる時だったので、フィリピン行きを勧めました。現地に着いてからもしばらくは元気がなかったんです。でも、その夜に孤児院の子どもたちをカットして、子どもたちを抱っこしたり一緒に遊んだりして触れ合って。翌日は貧困地域の小学校で10人以上カットして。そんな中でどんどん彼の表情が変わってきているというのは見ていてわかりました。彼の変化はお店のスタッフたちも感じています。フィリピンから帰ってきてから、店長の雰囲気が軽くなったとか積極的になったとか、スタッフたちもみんな話してますよ。

ーーー他にもハサミノチカラに参加したことのあるスタッフさんはいらっしゃるんですか?

小山﨑:他にも何人かいますね。

ーーーどんな変化がありました?

小山﨑:人や環境に感謝するようになりましたね。今、日本で普通に生活できているということに対して感謝する気持ちができたと思います。以前とは全然違うと思いますよ。だから若いスタッフたちをこれからもどんどん連れていきたいと思います。

ーーー12回フィリピンに行き続けている中で、小山﨑さんから見てフィリピンの状況は変わってきていますか?

小山﨑:ハサミノチカラが支援しに行く田舎の方は、そんなに大きな変化はないですね。ただ、フィリピンという国自体はすごく経済的に成長していると思います。あちこちで建設ラッシュが起きていて、特にマニラはどんどん新しいビルやコンドミニアムが建ってますし、道も整備されてきています。

ーーーでも、貧困地域にはその恩恵はまだ届いていない? 

小山﨑:正直、あまりないですね。逆に物価は全体的に3〜4%ほど上がってきているので、貧困地域の人たちからしてみると、収入は変わらないけど物価は上がって行くから、余計苦しい状況になってきていると思います。

 

後編に続く

後編では、フィリピンにサロンを作るべく現地を視察したことで見えてきた現状や、サロンオープンへの思いをお聞きします。

 

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ライター

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編集者

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カメラマン

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遠藤真耶
ライター
美容業界誌2誌の編集長を務めた後、2017年3月よりフリーランスの編集者として独立。撮影のキャスティング業も並行して行なっている。