JCDA×NPO二枚目の名刺共催セミナーレポート~50代のキャリアで大切なのは“内省”と“意味付け”(前編)
2021年9月5日(日)NPO二枚目の名刺はJCDA(特定非営利活動法人 日本キャリア開発協会)と共催で「50代のキャリアを考える~「越境学習」と「キャリアカウンセリング」の可能性~」と題したセミナーを開催した。
今回の記事では、前編でこのセミナーのレポートを、後編でNPO二枚目の名刺が今「50代のキャリア」に着目する理由について、それぞれお伝えしていく。
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今回のセミナーはJCDAの会員であるキャリアコンサルタントが対象。定員250名の枠が募集開始後数時間で満員となり「締め切るのが早すぎる」という声も寄せられるなど、「50代のキャリア」「越境」というキーワードへの注目の高さは予想を超えていた。
セミナーの前半では、国の動向やJCDAとNPO二枚目の名刺それぞれの代表からのメッセージを伝え、後半ではNPO二枚目の名刺が実施するサポートプロジェクトの体験談や50代へのキャリアカウンセリングの事例をお聞きいただき、最後に参加者同士が対話する時間を設けた。
サポートプロジェクトとキャリアカウンセリングの組み合わせに期待
最初の登壇者は、NPO二枚目の名刺の活動にも参画している富田望氏(厚生労働省大臣官房審議官)。富田氏からは「高齢法改正など最近の政策動向とキャリア自律」というテーマで国の政策動向が紹介された。
「高齢法改正で企業には70歳までの雇用確保措置が努力義務として課せられるようになった。ただしそれは企業の受け皿の話であって、大切なのは働く個人の主体的なキャリア形成。そこでは伴走者としてのキャリアコンサルタントの存在が重要になる」
一方で「キャリアコンサルタントの伴走が大切とはいえ、どうアプローチをしたらいいのか課題がある」とし、「NPO二枚目の名刺の《サポートプロジェクト》ですそ野を広げるとともに、キャリアカウンセリングを組み合わせるといった議論も深めてもらいたい」とNPO二枚目の名刺とキャリアコンサルタントの双方に向けて期待のメッセージを伝えた。
人生の意味付けこそキャリアコンサルタントの重要な専門性
「自分の人生、これでいいの!? 私って何者? そんな風に悩む中高年に、キャリアコンサルタントとしてどうアプローチするのか」
そう投げかけたのは、JCDAの理事長の大原良夫氏。
大原氏によればキーワードは《役割》と《意味》だという。
《役割》は「今の仕事がなくなったときに、どこでやりがいを感じられるのか」という問題。大原氏は「特にミドルの場合、ライフロール※にヒントがある」と語る。
また、《意味》については「キャリアコンサルタントは《意味形成支援人》。内省を促すプロであり、職業マッチングだけではなく人生の意味付けこそキャリアコンサルタントの重要な専門性」と参加者に投げかけた。
そして、食べていくために専門性を高める《エンプロイアビリティモデル》と、他者と繋がり相手のために活動する《Coハピネスモデル》の両方を意識する重要性を強調する。
その言葉は、職業マッチングを図る役割に加え、その人が何のために生きるのが幸せなのかという本来の意味のキャリアに寄り添う役割の重要性を、改めてキャリアコンサルタントである参加者たちに確認していたように聴こえた。
※人には勤労者としての役割だけでなく誰かのパートナー(夫・妻等)としての役割、親としての役割、地域人や余暇人としての役割があり、それらを統合してキャリア形成を考えるというキャリア理論。ドナルド・スーパーが提唱。
良質な越境の機会を提供したい
「近年、スキルベースのプロボノ活動が広がってきているが、NPO二枚目の名刺がしかけるのは共感ベースの越境経験」
そう語るのはNPO二枚目の名刺からは代表の廣優樹。廣からは、NPO二枚目の名刺が取り組むサポートプロジェクトについて紹介した。
サポートプロジェクトは、社会人とNPOがチームをつくりNPOの課題に3か月ほどの有期で取り組むプロジェクト。
近年、プロボノを含め越境の機会として様々な選択肢がある中で、NPO二枚目の名刺としては《良質な越境経験》を提供することを意識している。
サポートプロジェクトは「多様なバックグラウンドのメンバーとチームを組む」という稀有な経験、そして参加者が変化する仕掛けを組み込むことで、質の高い越境経験を実現している。
廣は最後に「良質な越境経験を提供するために、キャリアコンサルタントの皆さんと連携して参加者の内省を促し、参加者により一層の変化をもたらすことができたら」と参加者に呼びかけた。
様々なコミュニティとつながることで人生が豊かになる
50代のキャリアについて当事者として語ったのは、大手消費財メーカーを早期退職して、今はNPO二枚目の名刺でサポートプロジェクトの統括を務める白石和彦だ。
白石は社内のキャリア開発研修がきっかけでサポートプロジェクトに飛び込んだ。参加する前は躊躇したが、参加した後は”サポートプロジェクトロス”になるほど、そこでの学びと社外の仲間とのつながりを楽しんだと語る。
なぜ白石は、自分よりもひと回りも二回りも下の世代の”仲間”と、充実した時間を過ごすことができたのか。
若いメンバーの中でどんな役割を担えばいいのか不安を感じていた白石。そこで心がけたのは「前に出ない、リーダーにならない、でも、いざというときにアドバイスができるチームの《アンカー(碇)》になろう」ということだった。
白石は経験者として、同じ50代に向けてこう助言する。
「《会社=社会》だと退職後《社会ー会社=ゼロすなわち孤独》になる。定年退職に向けた助走として50代から会社以外のコミュニティをもつことが大切」
「会社でのキャリアは組織が決める。でも、人生のキャリアは自分が決めるもの。何がやりたいのか、よくよく考えて舵を切るのが大切」
越境経験をきっかけにキャリアチェンジを果たした彼の言葉を、参加者であるキャリアコンサルタントはどのように意味付けしただろうか。
この先のライフとキャリアが充実するように
50代のキャリアカウンセリングの現場のことを紹介したのは、JCDA会員で日ごろ企業内での研修・キャリア相談や自治体の就労支援機関でキャリアカウンセリングに取り組むキャリアコンサルタントの新井香子氏。
「こだわり上等! そのこだわりがあるから今のあなたがある」
50代の相談者とのキャリアカウンセリングにおいて大切にしている想いを、新井氏はそう表現した。
様々な経験をしてきて、一人ひとりに多様な背景があるのが50代。時間をかけてその背景に丁寧に耳を傾けることが大切だと新井氏は語る。
ときにライフイベント(出産、子育て、介護)と仕事を両立してきたことへの労いの言葉をかけながら、こだわりやゆずれないことは何なのか、あきらめきれない想いに耳を傾けながら、働くことで何をかなえたいのかを確認していくのだという。
「この先のライフもキャリアも充実するように一緒に頑張りましょう」
新井氏のキャリアカウンセリングは、グイっと背中を押すのではなく相談者の背中にそっと手を当てるような場なのかもしれない。そんな暖かさを感じる言葉だった。
200名でのブレイクアウトセッション
5名の登壇者の話を聴いたうえで、200名を超える参加者がグループワークに参加した。
グループワークでは、「キャリアカウンセラーとしてどんな気づきがありましたか?」という問いが立てられ、5名前後のグループの中で参加者同士での対話が行われた。
一方的に話を聴くだけではなくグループワークを行うことで、自分の気づきを言葉にすることで気づきを得たり、他者と語ることで自分の気づきを深めたり、新たな気づきを得たりすることができる。
グループワークのあと、各グループで語られたことを全体で共有してもらった。
「いろいろなコミュニティをもつこと。何かあったときに助け合える仲間をつくっておくことが重要だと気付いた」
「軸をいくつももつことの大切さをもっと社内に広げたい。社内のキャリアコンサルタントを集めて勉強会をやりたい」
「50代は行動を起こすのが難しい。実行に移せない人が多く、ハードルがある。何でもいいから一歩目を踏み出すことが必要」
セミナー参加者にも、越境して仲間をつくることや自分で決めて行動することの大切さを感じてもらえたことがコメントからうかがえる。
それとともに、やはり現場のキャリアコンサルタントとして、もしくは50代の当事者として、行動を起こすことの難しさとそこへのサポートの必要性も確認することができた。
「越境経験」と「キャリアカウンセリング」の可能性
50代のキャリアにおいて、定年後に向けて今何ができるかという課題は無視できない。一人ひとりが自分なりの「定年退職後の在り方」を考えるとき、恐らく最も重要な材料が「自分のこと」だろう。
NPO二枚目の名刺の白石がそうだったように、サポートプロジェクトのような「越境経験」をつうじて自分を知ることの価値はそこにある。
ただし、越境経験から一人で内省できる人ばかりではないだろう。白石のように自ら「何がやりたいのか、よくよく考える」ことができるのは、むしろ少数かもしれない。
そこで富田氏やNPO二枚目の名刺の廣が期待するように、キャリアコンサルタントが関わることで越境経験を内省の場にできたら、「キャリア」という観点からより一層価値を高められるのではないだろうか。
JCDA(特定非営利活動法人 日本キャリア開発協会) 大原良夫理事長のコメント
今回初めてNPO二枚目の名刺様との共同企画によってセミナー「50歳代のキャリアを考える~越境学習とキャリアカウンセリングの可能性~」を開催いたしました。このことは、貴団体の益々の活動の推進にも繋がりますでしょうし、何よりもキャリアカウンセラー自身にとっても、越境学習の深い理解と我々の活動分野の視座が広がったに違いありません。
50歳代のキャリアは「社会」との接点を再吟味するステージに位置します。今回のセミナーを通して、両団体が、それぞれの強みを生かし、「生き生き」と輝ける 50歳代のミドルを支援していかなければと強く感じた次第です。
また、弊会の理念は「共に生きる社会」の確立です。貴団体の廣代表が「共感」をベースとした活動を大切にしていきたいとお話しされました。共に生きるとは、互いに共感があってからこそ成り立ちます。よって、両団体は「共感」という言葉を、共通のキーワードとして、共に社会貢献できる存在でありたいと願います。
最後に、今回のセミナー開催にあたり、貴団体の大勢のスタッフの方に大変ご支援をいただいことに深く感謝申し上げます。
後編へつづく
ライター
編集者
カメラマン