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【千葉県鴨川市×二枚目の名刺】スポーツと観光の概念を一新する「地域おこし」始動!(前編)

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「スポーツを通した地域おこし」始動

千葉県鴨川市。
房総半島の南東部、「チーバくん」で言うと、太ももの裏側あたりに位置するこの温暖な都市で、旧来のスポーツの概念、観光業の概念、さらには曜日の概念まで打ち破ろうという、極めて先鋭的なプロジェクトが始動した。

その目的は、「鴨川市に平日のスポーツツーリズム(スポーツと観光を組み合わせた取り組み)を作り、スポーツを通して地域おこしをする」こと。

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鴨川市のスポーツコミッション(スポーツを通じた地域振興を目指す組織)が推進する同プロジェクトは、いかにして立ち上がり、どのような未来へのビジョンを描いているのだろうか。そして、ここに『NPO二枚目の名刺』が参画し、協働することを決めた背景とは──。

スポーツの力で、鴨川は“一皮むける”

まずは、コミッションの中心人物である鴨川市・スポーツ振興課の岡野大和さんに話を聞くが、本題に入る前に、その興味深い経歴を紹介しておくべきだろう。

「830年前の移住組なんですよ」

そう言って笑う岡野さんは、1184年に創建された鴨川の由緒ある古社「天津神明宮」に代々奉職する社家(神職の家)の長男として、1976年に生まれた。父は現在第66代宮司で、伊勢神宮の神主だった初代がおよそ830年前に移り住んで以来、この地に根を張り続けてきたのだという。

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(鴨川市・スポーツ振興課の岡野大和さん)

岡野さん自身は大学4年の時にITベンチャー企業を仲間数名と立ち上げ、2000年には株式会社かっぺを設立。代表として経営に携わるが、体を壊して2006年に故郷に戻ってきた。

その後は神主をやっていくつもりだったが、そのクリエーターとしての才能を地元が放っておかなかった。2008年に鴨川ポータルサイト「かもがわナビ(かもナビ)」の開設に中心的に関わると、翌年には鴨川ポータルマガジン「KamoZine」を創刊。地域メディアに絡みながら、まちづくりの現場に足を踏み入れていく。

そうした中で2014年に創設されたのが、女子サッカークラブ「オルカ鴨川FC」だった。岡野さんはここで3年間、フロントスタッフとして働いた。

「僕なりの視点でスポーツ業界の良い部分、悪い部分を見てきましたが、なにより実感したのは、『スポーツには力がある』ということ。そこからですね、スポーツを通してまちづくりができるんじゃないかと考えるようになったのは」

サーフィンで有名な鴨川市だが、「それまで行政はほとんどノータッチだった」(岡野さん)という。大きな国際大会があっても行政が把握していないような状況に危機感を抱いた岡野さんは、ここ数年、鴨川市にスポーツコミッションを立ち上げるよう働きかけてきた。そしてようやく今年、予算が下りて、岡野さん自身も市の臨時職員としてコミッションの一員に加わることになったのだ。

「スポーツイベントをやるにしても、それまでは主催者側と市との連携もなくバラバラでした。ここには立派な運動施設があって、アウトドアスポーツをやるのに理想的なマリン、ビーチ、それに山もある。そうした資源、自然環境を一枚岩になって活用できれば、きっと鴨川も“一皮むける”と思ったんです」

目指すは平日に集客する「コツコツ型」の観光

では、冒頭の目的にある「平日に」こだわったのはなぜなのか。岡野さんはこう説明する。

「鴨川はまだ、旧来の観光から新しい観光にステップアップできていないんです。
旧来の観光とはつまり、『観光客=宿泊客』といった考え方で、イベントをやるにしても、いかに宿泊客を増やせるかがひとつのKPI(重要業績評価指標)になっています。

けれど、土日のイベントに頑張って多くの人を呼んでも、その対応に追われてサービスが疎かになってしまうケースも少なくありません。日帰りのお客さんも立派な観光客だと、今一度、認識を改めるべきなんです。それに日帰りの観光客だって、将来的には宿泊客にもなり得るわけです」」

だから、だろう。スポーツ文化という新たな切り口を提案することで、鴨川の観光をステップアップさせようという岡野さんが目指すのは、「メガ型」ではなく「コツコツ型」の観光だ。

「人の価値観が多様化している昨今、ひとつのイベントに何千人、何万人を集めようというのはもう時代遅れの考え方だと思うし、呼べば呼んだで、結果的に地域も疲れてしまう。ならば3万6,500人を一日で呼ぶのではなく、100人を365日、コツコツと呼ぶことを考えましょうと。そっちのほうがよほど持続可能な仕組みができますし、地域も疲弊しなければ、サービスのクオリティも保てるんです」

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実際、鴨川シーワールドという人気のテーマパークもあり、土日は黙っていてもある程度の集客が見込める。だとすれば、やはり「平日」をいかに開拓できるかが、今後のテーマになるだろう。

とはいえ本当に、平日にまとまった数の観光客を呼べるのだろうか。この点に関して、岡野さんはまったく楽観的だ。

従来の曜日の概念は、ここ5年で確実に崩れると思っています。すでに東京ではオフィスレスが進行していますし、企業にしても超フレックスで、コアタイムすらなくなってきている。平日に時間を持て余す人が、これから必ず増えると僕は思っているんです。土日に混んだ観光地に行くのではなく、平日に悠々自適にスポーツやレジャーを楽しみ、美味しいものを食べて、リフレッシュして帰る。そんな生き方が主流になってくる。そういった意味で、今から平日の可能性を探っていくのは絶対にありなんです」

不動産会社やディーラーなど、平日休みの業界は意外に少なくない。「神社も曜日ではなく、六曜で見ますからね」と岡野さんは笑うが、確かにこれまでは観光業界がそこに注目してこなかっただけ、とも言えるだろう。

「コツコツ型、曜日の概念が崩れる、平日にお客さんを呼べる──。そうなれば、鴨川にとってもすごくプラスなんです。遊んでいた施設も使ってもらえるし、例えば平日であれば、企業が福利厚生の一環として利用してくれる可能性もあります。そこでスポーツというのは、とても使いやすい素材なんです」

もうひとつ、岡野さんが注目しているのは「外国人観光客」だ。浅草や京都に飽きた人たちが狙い目で、「羽田と成田から西へ向かっていた観光客を、南に向かわせたい」(岡野さん)という。

地域おこしの要「ビーチスポーツパーク構想」

では、実際にどんなスポーツを通じて地域おこしをしようと考えているのだろうか。

房総丘陵を北側に抱え、東と西に太平洋を望む鴨川は、非常に変化に富んだ土地でもあり、サーフィンはもちろん、トレイルランニング、サイクリングと、さまざまなアウトドアスポーツを楽しむための自然環境が整っている。ただ、そんな中でも岡野さんがとりわけ注目しているのが、「ビーチスポーツ」だ。

「鴨川はサーフィンなどのマリンスポーツは盛んなのですが、せっかくある砂浜が活かされていないんです。ビーチスポーツがなぜいいかというと、老若男女、幅広い人たちが参加しやすいから。怪我のリスクも少ないですしね。それに、かなり厳しいルールの中で女子サッカークラブの試合運営などに携わってきた僕から見ると、その“緩さ”も魅力的に映るんです。勝っても負けても、みんな楽しそうにしているし、これがスポーツの原点なんじゃないかと。すでに女子のビーチサッカーチームを僕は立ち上げましたが、来年にはビーチバレーやパラスポーツも含めたビーチスポーツのフェスを開催したいとも考えているんです」

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(ビーチサッカーの練習会に初参加したSONNE Kamogawa B.S.の選手たち)

岡野さんを中心とする鴨川市のスポーツコミッションの描く未来像は壮大だ。掲げるのは、「ビーチスポーツパーク構想」。浜辺にきちんと管理されたサンドコートを造成するだけでなく、その周りにショッピングモールを作り、ひとつのアミューズメントパークにするのだ。ビーチサッカーの公式戦はもちろん行うが、試合がないときは子どもたちも自由に遊べるし、母親たちは近くのカフェでゆっくりとお茶もできる。そんな施設だ。

「東京オリンピック・パラリンピックがある2020年をひとつの目標に準備を整え、5年後の2023年までにある程度のモデルを作りたいと思っています。そして、これは個人的な夢ですが……10年後にはおそらく女子のビーチサッカーのワールドカップが行われていると思うので(現在は男子のみ)、その日本大会を開催し、ここ鴨川を会場にしたい。たとえワールドカップが日本で開催されなくても、その時点では鴨川に、ビーチサッカーを核とするビーチスポーツの文化が出来上がっているはずです」

後編に続くーーー

【千葉県鴨川市×二枚目の名刺】スポーツと観光の概念を一新する「地域おこし」始動!(後編)

 

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吉田 治良(よしだ・じろう)
ライター
サッカーダイジェスト、ワールドサッカーダイジェストの編集長を歴任し、現在はフリーのライター兼エディター。1967年生まれ。