TOP > 年齢を重ねてからでも、新しいことははじめられる。中高年世代に伝えたいメッセージ

年齢を重ねてからでも、新しいことははじめられる。中高年世代に伝えたいメッセージ

このエントリーをはてなブックマークに追加

新卒から30年以上花王で働く白石和彦さんは本業以外に、NPO法人二枚目の名刺の運営メンバー、サポートプロジェクトデザイナー(以下、SPJデザイナー)としての顔を持っている。

前編では、白石さんが50代からサポートプロジェクト(以下、SPJ)という2枚目の名刺を持つようになった経緯、活動の中で得たものなどについてお話をうかがった。

後編では、SPJをおこなううえで心がけていることや、今後の目標などについてお聞きする。

メンバーが本音で議論できる雰囲気づくりを意識

参加の動機もバックグラウンドも異なるメンバーがひとつのプロジェクトをすすめるSPJ。白石さんも取り組みの中で、本業との違いを感じることはあるという。

「社内ならば社員はある程度同じ方向を向いているので、ベースの部分は共有できている。SPJはそうではないので、まずメンバー全員で共通の認識を持ったり、目線を合わせたりしてからスタートする必要があります。

また、短期のプロジェクトなのでどうしても、目標や成果があいまいになってしまうことがあります。目標や成果をどこに求めるかもメンバーによって考えが異なりますから、そこをどうまとめていくか。短期間で最大限の成果を残せるよう、期間中に自分たちで完結できる施策と、プロジェクトが終了しても団体さんが続けられる施策という2種類のゴールもあるということを、必要に応じSPJデザイナーとしてアドバイスしています」

白石さんがSPJデザイナーとして大切にしていることのひとつに、『場づくり』『雰囲気づくり』がある。

できるだけ早い段階で、メンバー同士が本音で議論できるような場作りを心がけています。メンバーが納得し合意したうえでスタートすれば、結果として当初設定していたゴールとずれたとしても、それほど大きな問題にはならないと思うんです。

僕の場合は、自分からプライベートなことを話すなど、『自分はこういう人間です』と伝えるようにしています。また、ミーティングをはじめるときにいきなり本題から入るのではなく、今週あった良い話や楽しかった話を一人ひとりに話してもらったり、飲み会などの懇親会の場を設けたり。よりよい雰囲気をつくるためのコミュニケーションを意識しています」

長年の社会人生活を経て、本業ではメンバーをマネジメントする立場の白石さんだからこそ、よい意味で固くなりすぎず、雰囲気をよくしながら目標に向かっていくためのチームづくりができているのだろう。

成果を伝えつづけることで家族からも認められた

本業以外の活動をしたことがない場合、「果たして両立できるのだろうか」と心配する人もいるだろう。白石さんは、無理なく『本業』と『2枚目の名刺』の活動をおこなうことができているという。

P10

「たとえば平日の夜、仕事が終わって家に帰ってからパソコンでSPJの資料をつくったり、土曜日の朝にはオンラインツールを使って、定例ミーティングや打ち合わせを1~2時間程度おこなったりしています。本業はもちろんしっかりとやりながら、それ以外の空いた時間に活動するというスタンスです。会社が終わったあとや休日の時間を活用して、セルフマネジメントをしながらすすめています

50歳を過ぎてからはじめたSPJだが、当初は、家族からの理解があったわけではなかった。仕事以外の時間を割いて活動することに対し、妻からも子どもたちからも「何でお金にならないことをわざわざやるのか?」と不思議がられていたという。

「たとえば自分がSPJでかかわった団体のホームページを見せたり、具体的に『こういうことをやったんだよ』と説明したりしていました。そういうことをコツコツとつづけていって、数年後にはようやく『パパはいいことをやっているんだ』と家族から認められ、今では『パパの部活動』と公認してもらっています(笑)」

自分がやりたいこと、やっていることをすぐに周囲に理解されなくても、あきらめずに伝えつづける。白石さんの真摯な姿勢とSPJに対する想いは、もっとも身近な存在の家族にしっかりと伝わった。

とはいえ、「僕の場合、これがたとえば20年前だったら本業以外の活動をしようとは考えなかったし、できなかったと思います」と白石さんは言う。

「当時はとにかく仕事と家庭のこと、子育てに精一杯でした。もしもあのときに、SPJのようなことをやりたいと妻に言っていたら『外で社会貢献をする前に、まずは家のことをやってほしい』と思われたでしょうし、もしやっていたとしても、きっと応援もされなかったと思います」

子どもたちも成人し、時間に余裕ができた50代の今が、白石さんにとっては、2枚目の名刺の活動をはじめるベストなタイミングだったのだ。

複数の肩書きを持つことが当たり前の時代に

一般的なイメージからすると、白石さんのように一社でキャリアを積み、一定の年齢まで経験を重ねてきた中高年世代の中で「本業のほかに何か違う活動をしたい」と考えている人はまだまだ少ないような気もする。だが、白石さんの考えは異なる。

P7

「確かに周りの同年代でも、昔は一社に長く勤めあげるのが当たり前という考えが根強く、『会社の仕事以外の場で社会貢献をしたい』という人はこれまで少なかった。SPJの活動をしていることを社内で話すこともあるのですが、同年代よりも若手社員の方が、興味を持ってくれることが多いのも事実です。

今の30代前後の人たちは僕らの頃とは働き方も変わってきていますし、阪神・淡路大震災や東日本大震災などを通じ、社会全体が助け合うということを間近に感じている世代ですから、『社会のために何かしたい』という想いを、若い時から持っている人がたくさんいるのではないでしょうか。実際に仕事や家庭と両立しながら、社会のためになる活動をしている人も増えていますよね。

その一方で、最近は働き方改革や副業解禁、パラレルキャリアなどが話題になっていますから、若手だけでなく、それに感化されている中高年の人たちも必ずいると感じます。僕がSPJなどでかかわる人の中でも、ここ数年で40代、50代の人が増えてきている実感もありますし、これからさらに増えるんじゃないかなと思いますね。

今の時代、50代なんてまだまだこれからですし、昔に比べたら、仕事以外の活動ができる環境は整ってきているはずですから。今後は、ひとりが複数の肩書きを持つことが当たり前の時代が来ると思います

白石さんが会社を定年退職するまで、あと5年。定年後は、どのようなビジョンや目標を持っているのだろうか。

「今は、入院中の子どもたちを支援している団体の助けになることができないかなと、団体の方と情報交換をおこなったり、他の団体さんのお話を聞いたりして、何ができるかを考えています。

定年退職後は『2枚目の名刺』ではなくなりますが、現在おこなっているようなNPO等での社会課題解決への取り組みはずっと続けていくつもりです。例えばひとつのNPO団体の中に入って取り組むのか、現在のように、SPJデザイナーとしてより多くの人に2枚目の名刺の活動を広めていくことに取り組んでいくのか、自ら団体を起業するのか、どうしていくのかはまだ迷っていますね。ただ、SPJデザイナーという立場から発信していくほうが自分には合っているのかな、とも思います」

定年退職をしてから『第二の人生』を考える人も多い中で、白石さんは在職中の今からすでに次にやりたいことを見つけ、思案している。

本業での立場は忘れ、ゼロベースからスタートすべき

白石さんは今後、自分と同じ中高年世代の人たちの活動のサポートをしたいとも考えている。

P8

僕もそうでしたが『興味はあるんだけれど、何からはじめたらいいのかわからない』という人は多いと思います。僕がCANnetという団体を知ったときのように、最初のきっかけがあればいいと思うんです。

今後はNPO法人二枚目の名刺の運営メンバーで、50代を対象としたCommonRoomなどを開くことを予定しています。そこで、僕や他の同年代の人の経験を話し、共有することができたらと考えています。まずは考えるより、やってみませんか? と提案したいです」

中高年世代が2枚目の名刺の活動をはじめるときは、どこに気をつければよいのだろうか。

「僕も、はじめてSPJに参加するときは正直、躊躇もありました。おそらく僕のようなおじさんはいなくて、きっと若い子たちが集まるんだろうなと思っていましたし。案の定、自分以外のメンバーは全員20代・30代でした。

でもそこで、たとえば『俺は会社で部長だから』と上から目線になるつもりもなかったですし、仮にそういう態度で取り組んだところで、絶対に失敗するなと思ったんです。リーダーも他の20代のメンバーに任せて、僕は全体の調整役という役割に徹しました。

会社で役職についていたり、偉い立場であったりしたとしてもそれは、社外に一歩出ればまったく関係のないこと。SPJに限らず社外で活動をするときは、自分が若かった頃の成功事例ばかりを持ち出したり、若い人の意見を否定したりするのではなく、全くゼロベースから入って、他のメンバーと目線を合わせること。過去の経験を活かすとしたら、何か他のメンバーが困った時に、これまでの知見からアドバイスをするとか、そういう立ち位置がいいと思います」

ある程度の年齢になると、会社以外の場で新たなことをはじめることに対し、ややハードルが高いと感じる人もいるかもしれない。

「たとえば釣りをしたり、映画鑑賞をしたり、プラモデルをつくったりと、人によってさまざまなプライベートの時間の使い方があると思います。大げさに考えるのではなく、自分の時間を有効活用する方法のひとつとして、SPJのような『社会に向けた活動』という選択肢もある、という捉え方でもいいと思います。

たとえば先日は西日本で豪雨がありましたが、そういうときに、現地にボランティアとして駆け付ける人たちもいますよね。素晴らしい行動であると思いましたし、参加されている方たちに心より敬意を表したいと思います。でも、すべての人が同じことができるわけではないし、僕もできない。『今回は具体的に動けないけど、今後違う形でできる範囲で社会の役に立てる活動をして、その結果、どこかで誰かが喜んでくれたらいいな』くらいの気持ちで良いのではないかと思います。

SPJに取り組んだあと、どうしていくかも人それぞれ違うと思います。活動を続ける人もいれば、SPJをきっかけに自身の今後を考えたり、自分の原点にあらためて立ち返ったりする人もいるでしょう。少しでも興味がある方は、まずはぜひ一度やってみることをおすすめします」

中高年世代が2枚目の名刺の活動をおこなう上でもっとも大切なのは、所属する会社や役職などの肩書きやキャリア、経験の有無ではなく、柔軟な考え方とフラットな立ち位置であるということが、白石さんを見ているとよくわかる。

「何かをはじめるのに、遅すぎることなどない」。この言葉は、これから2枚目の名刺の活動をはじめたいと考えている中高年世代の方々にぴったりと当てはまるのではないだろうか。

※このたびの西日本を中心とした豪雨災害により、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災されました皆さまには心よりお見舞いを申し上げます。また、被災地の一日も早い復旧をお祈り申し上げます。

写真:ハラダケイコ

このエントリーをはてなブックマークに追加
ライター

ライター

編集者

編集者

カメラマン

カメラマン

手塚 巧子
ライター
1987年生まれ。日本大学芸術学部卒業後、出版社勤務等を経て、ライター・編集者として活動中。ビジネス、社会問題、金融、女性・学生向け媒体など、幅広いジャンルにて記事を執筆。小説執筆も行い、短編小説入賞経験あり。