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四肢欠損の子がくれた最高の祝福⑤パラリンピアンの強靭な肉体と精神の理由に迫る

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はじめに

長濱光とステファニーは、下肢欠損の娘(Mia)を育てる父と母です。そんな私たちが下肢欠損の娘を授かって感じたことの一つに、「世界と日本における四肢欠損の方の暮らしやすさの違い」がありました。

内閣府によると、日本に14万2000人いる(845人に1人)と言われている四肢欠損。身体障害者は360万人(33人に一人)います。でも街で見かけることは、あまりないのではないでしょうか。

「障害を持つ人が街にいることは当たり前のことなのに…」
「四肢欠損の人に平等な機会のある社会を作りたい」

こうした想いをきっかけに、私たち夫婦は、日本で四肢欠損の人々をサポートするプロジェクトを立ち上げたいと思うようになりました。

この連載では、私たちがプロジェクトを立ち上げるまでの過程と、そこで見聞きしたこと、体験したことを、私たちの視点で交互に発信していきます。

そう、私たちの「2枚目の名刺」の始点として。

これまでの記事はこちら

四肢欠損の子がくれた最高の祝福①「四肢欠損の娘・Miaの誕生」
四肢欠損の子がくれた最高の祝福②「娘がもたらした強さと穏やかさ」
四肢欠損の子がくれた最高の祝福③「私たちを変えた出会いと経験」
四肢欠損の子がくれた最高の祝福④「障害を持つ人々への心的・経済的支援を世界中に!」

強靭な肉体と精神を持つパラリンピアンへの関心

2016年1月にMiaは誕生しました。記憶も新しいブラジル・リオデジャネイロでパラリンピックが開催された年です。

私は何気なくリオで開催されているパラリンピックをテレビ越しに見ていました。最初は、ただ、色々な個性を持った人が世界にはたくさんいて、活躍しているんだなと思うくらいで、それ以上に、特に、深くは何も考えていませんでした。

しかし、リオのパラリンピックが終わる頃、こんな思いが私の心に芽生えていました。

「こんなにも屈強な肉体、困難があっても立ち向かうことのできる精神はどんな背景で芽生え、育まれていったのだろうか」

「こんなにも眩しくて、輝いているパラリンピックの選手たちはどのような環境で育ったのだろうか」

私の頭に浮かんだのは、Mr. Leeの姿でした。息子のZyくんが、水泳にチャレンジしたり、歩行できるよう努力している様子を彼がFacebookへ投稿するのを見る度に、凄い父親だなと感じていたからです。

Zyくん同様、強靭な肉体と精神を持つパラリンピアン、アンピュティーにはどんな両親がいるのか知りたくなりました。きっと、学べることがあるのではないかと考えたからです。

Alberto Avila Chamorroとの出会い

2017年10月のある日、そのチャンスはやってきました。

マドリードにある大学院のクラスメイト(Alfonso Munoz Acevedo)に何気なくスペイン人のパラリンピアンに会ってインタビューをしたいんだと話すと、彼は「光、パラリンピアン協会でも有名な人を知っているから、彼なら良い人を紹介してくれるに違いないよ」と言い、すぐに行動に移してくれたのです。

有言実行のAlfonsoの行動力と友情のおかけで、私は、スペイン人の陸上競技で活躍するパラリンピック選手候補のAlberto Avila Chamorroと難なく出会うことができました。

強靭な肉体と精神を持つアンピュティーの両親との対面

肌寒くなってきた10月の末頃、スペイン国スポーツ省が保有する運動施設で軽々とベンチプレスでスクワットをしているAlbertoに初めて会いました。トレーニングの邪魔にならないよう横から覗いていると、彼は優しく微笑み、話し掛けてくれました。

Albertoは、10代の中頃にはスキーでヨーロッパ3位に輝くほどの身体能力を持っていただけでなく、何とも清々しい雰囲気を持ち、モデルもこなす20歳の青年です。現在は、大学へ通いながら、トレーニングを続け、モチベーショナルスピーカーとしても各所で公演活動を行っています。

彼は初めて会ったにも関わらず、丁寧に私のインタビューに答えてくれました。特に、私が気になっていた質問は、Albertoの両親についてでした。どんなご両親なのかと尋ねたところ、「僕をいつも活発に外へ連れて行き、スポーツ活動に参加させる母親です。」と答えてくれました。

Albertoと会話するだけで、素晴らしい人格のご両親に違いないと確信しました。Albertoにご両親と面談の機会を頂けないかと緊張しながら尋ねると、快く受けてくれました。

初めて会ってから4ヶ月後に私一人で、その1年後にステファニーとMiaを連れてAlbertoの実家へ計2度お邪魔し、ご両親にインタビューをさせて頂く機会をいただきました。Albertoのご両親に、どんなことに気を配りながら、Albertoを育てたのかと尋ねたところ、非常にシンプルな3つの答えを得ることができました。

一つ目は、他の子と何も変わらず、特別扱いせずに育てること。
二つ目は、スポーツに熱中できる環境を与えること。
二つ目は、両親が強くいること。初めから備えられた強さではなく、強くなるという強い意志を持ち続けること。

強い意志は、持ち続けることと、大胆な行動をとることによって、養われていくということでした。

「強い意志」と「大胆な行動」の効用

私とステファニーの印象に強く残った、Albertoとご両親が実際に経験したスペインのビーチでの思い出をご紹介させて頂きます。

Albertoが10代前半だったころ、夏に家族で海へと出かけたそうです。ビーチでは、家族連れ、カップル、友人グループがたくさんいました。Albertoの右足は義足なので、とても目立っていました。周りの人の視線を感じるので、Albertoは悲しくなったそうです。

その時に、Albertoのお母さんは大胆にも、視線を送っている全ての人に、「なぜ、見ているの? 何かおかしい?」と声を掛けたそうです。その姿を見たAlbertoは、さらに泣いたとおっしゃっていました。

誰もが、経験したことのない困難に直面したとき、落ち込み、将来が不安になるというような経験をしたことがあると思います。このような悲しみは、さらなる悲しみを生み、最後は自分の弱さに打ち勝てないような錯覚に陥ります。

そんな悲しくて、不安なときこそ、Albertoのご両親から学んだ、強い意志と大胆な行動によってどんなチャレンジにも打ち勝つことができると私は確信しています。

そんなご両親の姿を見て育ったからこそ、Albertoは若干20歳にしてスプリンター、モデル、大学生、モチベーショナルスピーカーと多くの才能を伸ばすことができるようになったのだろうなと感じました。

エレベーターでの“悪意ない”体験

アンピュティーにとって、Albertoとご両親がビーチで体験したような出来事は、日常茶飯事です。バス停、電車、学校、クラブ、あるとあらゆる場面で人の視線、思いやりのない言葉にさらされます。

ですが、全ての人が悪意を持っているわけではなく、ただアンピュティーを見慣れていないために、不思議に思い、何気なく思いやりのない言葉を掛けてしまうということが大半です。

私も、例外なく、このような経験を何度もしています。カナダに住むステファニーとMiaは毎日のように経験しているでしょう。

今年の1月にも何気無く掛けられた言葉がありました。

家族で観光旅行のカナダ・ナイアガラの滝へ行った際、景色のいいホテルのレストランでの夕食後のことです。食事も美味しく、家族みんなのお腹が満たされ、幸せいっぱいに会計を終え、Miaをストローラーに寝かせ、エレベーターに乗り込みました。その時、左義足の膝関節を曲げられていなかったようで、靴底が天井を指すように義足がストローラーに寝ているMiaの身体と直角に伸びていました。

すると、同乗していた白人家族の父親がMiaの足が義足とは気付かず、「この子の足が、おかしなことになっている、何てこった!」と大声で笑いながらMiaを見ていました。そして、全員の視線が天を指しているMiaの左義足に集まりました。そして、義足だと気付いた家族全員とエレベーター内の空気は一気に重たくなりました。

ステファニーと私は、エレベーターがその家族が降りる階に止まるまでのほんの数秒間、実は笑を必死にこらえていました。その家族の降車後、寝ているMiaをそっちのけに、エレベーター内で大笑いしていまいました。

アンピュティーとその家族の経験を共有できる社会に!

素晴らしい方々に会い、貴重な経験を共有して頂き、チャレンジを乗り越えるためのアドバイスをもらいながら、少しずつ「強い意志」を育て、どんな状況でも楽しめるようになってきている自分たちに、ほんのちょっとだけ成長を感じた瞬間でした。

タイ、カナダ、スペイン、日本という違った環境で、Miaのアンピュテーションを通して、本当に多くのことを学び、かけがえのない“出会い”という祝福を受けていると感じています。

いつか、そんなアンピュティーとその家族の経験やアドバイス、団体の支援が、世界中のアンピュティーとその家族に届く仕組みができれば、アンピュティーにとってより素晴らしく住みやすい社会になるのではと想像しています。

>続く

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Hikaru Nagahama
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Since my first daughter was born with amputation of her entire left leg, I’ve started to aspire to assist amputation children in different countries and environments around the world who would be able to build their lives with rich experiences and to actively exercise their unique talents in society without any barrier. That is my part of life works to support such children.
はしもと ゆふこ
編集者
女性誌出身の編集者。 「人生100年時代」に通用する編集者になるべく、雑誌とWebメディアの両方でキャリアを重ねる。趣味は占い。現在メインで担当するWebメディアで占いコーナーを立ち上げ、そこで独自の占いを発信すべく、日々研究に励んでいる。目標は「占い師」という2枚目の名刺を持つこと。