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その道一筋の“プロフェッショナル”に勝つための極意~なぜ僕が2枚目の名刺でチャレンジするのか(後編)

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経営とラグビーそれぞれのマイミッション実現策をお聞きした「前編」はこちら

本業にも生きる新たな学びの効用

廣:MBAに行ったことで、ゴリの思考の仕方が変わったって話だったね。以前取材させてもらった講演の中でも、社内での評価に変化があったって話をしていたけど、仕事のスタイルがどんな風に変わったのかな。

野澤:MBAに行く前は、感情の赴くままに、思い立ったことを熱くやるだけ(笑)。MBAではじめて戦略思考や知識の掘り下げ方を学んだことで、その時の状況や感情に任せるのではなく、長期的な視野で物事を判断できるようになったんだと思う。

廣:いつもとは違う環境で得た視野の広がりや物事への取り組み方が、本業にも還元されていったと。ラグビーの指導の仕方に何か変化はあった?

野澤:2つあったと思う。一つは、「フレームで考えられるようになった」こと。MBAに行くまではラグビーをフロー(一連のプレーの流れ)でしか考えられなかったから、何かうまくいかないことがあった時に、一からやり直すしかなかった。それが、全体像が見えるようになったことで、その時の問題点がどこにあるのか、ポイントとして捉えられるようになった。

それで改善の打率は格段に上がったと思う。スラッシーさん(田邊淳さん)がコーチングをする時に、「3つの視点」で物事を見るようにしているという話があったけど、複数の角度から物事を見て、問題を捉えようとする力が身についたかな。

廣:視座を変えて見ることができるようになったということだね。

野澤:もう一つは、「誰のためのコーチングなのか」ということを突き詰めて考えられるようになった。これは、マーケを学んで気づいたこと。僕の場合、お客さんは選手たち。スポーツをやっていると、指導者はとかく優勝を目指しがちなんだけど、本来目指す先は、選手たちが求めるところであるはず。それがベスト4であれば、そこに連れて行けばいいんだよなってことに初めて気がついた。

廣:選手が望んでもいないのに、無理に優勝を目指したりするのは、指導者の自己満足と言えるのかもしれないね。

野澤:そう、それは指導者の目標であって、目的ではない。それに、選手たちが目指す先も価値観もそれぞれ違うし、違っていいとも思えるようになったかな。そのことに気づいてからは、グラウンドで選手と話す時間を大切にするようになった。

野澤武史のゴリ推し

社員が2枚目の名刺を持つことにマイナスはない

廣:経営者の中には、社員に対して「本業だけに専念して欲しい」って人も結構いるんだよね。経営の立場で、社員が2枚目の名刺を持つことって、ゴリにはどう映るのかな?

野澤:会社にマイナスになることはないし、やってみればいいと思う。ただし、甘くないよってことは伝えたいね。2枚目の名刺で価値を出すのって、聞こえはいいけど大変なことだよね。二ノ丸(友幸)も対談の中で言っていたけれど、スポットコーチであれば、リピートオファーをもらうため、お客様の満足度を高めなければいけない。僕も1万円を稼ぐことの大変さを痛感してきた。そういった経験が、主体的に業務に当たることにつながるんじゃないかと思う。会社の名前に頼らず、お金を稼ぐってこんなに大変なことなんだと知る経験は、きっとプラスになるはず。

もう一つ、僕は、1枚目の名刺と2枚目の名刺って地続きだと思う。本業でしっかりアウトプットできていないと、2枚目の名刺って持ち続けられない。

廣:少し言い換えると、本業で責任を果たせなくなると、組織には居づらくなる。当たり前のことなんだけど、その覚悟は必要だよね。

野澤:そう。でも、最初に戻るけど、やりたいことがあるんだったら、1枚に絞らなければならないということはない。挑戦してみるといい。だから、僕なら後押しする。実際、うちの会社は就業規則上、兼業ができる抜け穴が作られます(笑)。若い人の挑戦は俄然後押ししたい。

野澤武史のゴリ推し

社員が外に出ることで、会社にプラスの変化が起きる

廣: 2枚目の名刺を持つことを受け入れられていない経営者に何かメッセージを送るとしたら?

野澤:企業が既存ビジネスに集中しているだけだと、次のステップに行きづらい。特に変化を求めているような会社の場合、社員が2枚目の名刺を持つことが、会社にとってプラスに働くんじゃないですか?ということかな。

廣:僕が思うのは、社員は経営者のスタンスをよく見ているってこと。これまでの自分の枠を取っ払って挑戦しようとしている経営者のところには、自然と変化を楽しめるような人材が集まってきている。逆の見方をすると、組織の外で勝手に動くことはまかりならんとなると、結構悲惨で、自社内で閉じこもったり、部門の枠を超えないような人が集まってくる。

野澤:その考えは面白いね。僕も16年間ずっと同じ環境で教育を受けて、ある程度結果が出ていたから、そのやり方に固執して、お山の大将になっていた。

廣:でも変化を起こすために新しい環境に飛び込んで、そこでも失敗して、もがいたからこそ、今のゴリのスタイルがある。

野澤武史のゴリ推し

野澤:そうだね。でも、そんな僕自身、「2枚目の名刺じゃフルタイムのコーチに勝ってこない」って思っていた時期もあった。でも、廣から「2枚目の名刺の取り組みは、必ずしもスピードが速くないんだよ」という話を聞いて、そうだよなって。

廣:かけられる時間が1枚目に比べて少ない面は否めないからね。

野澤:きっと1枚目の方が、成果にしても成長にしてもスピード感はあるんだと思う。でも、2枚目でやってることも、諦めないでやり続けてたらちょっとずつ自分の身になっていく。「土日だけのコーチじゃフルタイムのコーチに勝ってこない」ってふてくされるより、90歳までやって、価値を生み出し続けることもありなんだって、今は思ってるよ。

「プロフェッショナル仕事の流儀」に挑む野澤武史の戦略

廣:出版事業とラグビーの2つでミッションに向かっているわけだけど、これからもずっと2枚目の名刺でやっていこうと思ってるの?

野澤: 自分の中で決めているのは、40歳まではとにかく何でもやる。40歳を一つの区切りに、自分の中で「やりたいこと」「できること」「必要なこと」の選別をする。

廣:それまでは経営以外のことをあえてやっているってこと?

野澤:そうだね。今は何にでもチャレンジして、新しい領域を意識的に広げたい。だからどんな仕事も、声がかかれば一回やってみる。「ゴリ推し!」もそうだったけど、やってみたら必ず新たな気づきがあるし、新たな人間関係が生まれるから。

廣:何がゴリをそこに向かわせるんだろう?

野澤:2つの側面があって、一つは「楽しいから」だよね。廣が前に言ってたじゃん? 「計算して生まれたシナジーは、たいしたシナジーじゃない。所詮想定の範囲内、いつもの枠の中の話」だって。

廣:そう、思いもよらないことがやってきて、そのチャンスを逃さなかったとき、はじめて想像もしなかったような面白いことができるんじゃないかと思ってる。

野澤:その話を聞いて、意識して何かを求めて何かをしたり、関係性を作ったりすることをやめたんだよ。頭で考える前に、受けたいなと思うことを受けるようにしてる。やってみた中から、どれかとどれかが響き合うみたいなことって絶対にあるから。

もう一つは、先日の講演でも話したことだけど、それが自分の戦い方であり、スタイルだからかな。僕だって「プロフェッショナル仕事の流儀」で特集されたい(笑)けれどこの道何十年で、一つのことを極めている人を見ていると「これは叶わないな」って思う。だから、野澤武史という一隻の船にいろんな経験を乗っけて、積載重量で勝負しようと考えたのね。ラグビーもそうだけど、ルールの範囲内で、戦い方は自由なんだから。

野澤武史のゴリ推し

廣:なるほど。ラグビー選手として世界を目指し、それが叶わなかった。そこで終わりにするのではなく、今度は世界に挑戦する人をサポートする側に回り、そこに全力を傾ける。ゴリのように、自分のミッションを意識できるって素敵なことだと思う。

連載してくれたラグビー関係者のストーリーと合わせて、たくさんの刺激がラグビー界にも、それ以外の人たちにも届いているといいなと思うよ。13歳でB組で出会った時に、まさかこんな話をするようになるとは思わなかった(笑)。今日はありがとう!

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はしもと ゆふこ
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女性誌出身の編集者。 「人生100年時代」に通用する編集者になるべく、雑誌とWebメディアの両方でキャリアを重ねる。趣味は占い。現在メインで担当するWebメディアで占いコーナーを立ち上げ、そこで独自の占いを発信すべく、日々研究に励んでいる。目標は「占い師」という2枚目の名刺を持つこと。
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