「この空間、凄くイイよね」―共創が生み出した共感 〜二枚目の名刺×パラスポーツプロジェクト『パラ卓球SPECIAL LIVE』レポート〜
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2017年11月にスタートした『二枚目の名刺×パラスポーツプロジェクト』。異業種の社会人・学生とパラスポーツの競技団体が協働し、PRを始めとした様々なアイデアを実行に移すというものだ。今回は『パラ・パワーリフティング』と『パラ卓球』2つの競技団体とともにプロジェクトを進めてきた。
その中で、2月11日、パラ卓球チームによるイベント『パラ卓球 SPECIAL LIVE』が開催。2016年のリオパラリンピックに出場した2名の選手をゲストに迎え、盛況の内に幕を閉じた。
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(『パラ卓球 SPECIAL LIVE』は、パラ卓球チームのメンバーが一丸となり、一から創り上げたイベントだ。ポスターやチラシの制作も社会人メンバーが行った)
写真、絵画、時々〝卓球〟
東京・原宿。神宮前交差点に面したビルの一室を、道行く人々が覗き込んでは吸い込まれていく。入室すると、壁一面に飾られたパラ卓球選手の写真や絵画が目に入る。部屋の角ではパラ卓球のプレー動画が映写され、部屋の中央に陣取った卓球台では、途切れることなく球が行き来している。
この日行われた『パラ卓球 SPECIAL LIVE』はパラスポーツプロジェクトのパラ卓球チーム『パラ・サー!』がメンバーそれぞれの持ち味を発揮し、協力して企画・運営したイベントだ。メインコンテンツは、リオパラリンピックに出場した吉田信一選手、岩渕幸洋選手との卓球体験やエキシビジョンと、両選手によるトークセッション。合間には、壁面に展示された選手たちの写真や、アーティスト・飛島達也さんによる選手の絵画を鑑賞したり、卓球台で卓球に興じることもできる。
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(左から吉田信一選手、飛島達也さん、岩渕幸洋選手。「大勢の人が集まる原宿で多くの人から感想をいただき、自分の活動の幅が広がったように思います」と飛島さん)
家業の額縁屋と一般社団法人 日本肢体不自由者卓球協会(JPTTA)の広報を両立する立石イオタ良二さんの司会でイベントがスタートすると、まずはゲスト選手2名が自己紹介を行った。障がいに応じて11段階のクラスに分かれるパラ卓球では、クラス1から5までは車いすの部、クラス6から10までは立位の部に分類され、数字が小さいほど障がいの程度が重いことを示している(クラス11は知的障がいのクラス)。吉田選手は車いすの部(クラス3)、岩渕選手は立位の部(クラス9)における全日本王者だ。
紹介を終えると、立石さんの合図で、コンパクトな会場内を行き来していた人々がサッと壁際に張り付き、中央の卓球台に視線を注ぐ。選手と来場者の卓球体験のスタートだ。希望者が挙手制でパラリンピアンと対峙し、サーブ、レシーブのチャレンジを行う。車いすに初めて乗ったというある参加者は、吉田選手から放たれる正確無比なショットに驚きの表情を見せながらも必死に手を伸ばし、岩渕選手のサーブに挑んだ参加者は、強烈な回転と変化に驚き苦笑いを浮かべる。ワンプレー毎にギャラリーからは拍手。一眼レフカメラでパラリンピアンを追う人の姿もあった。
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(「やっぱりプロの球は違います。全然取れない!」と、卓球教室に通う小学生)
体験の後は、立石さんをモデレータに、両選手によるトークセッションが行われ、プレーの裏話や、東京パラリンピックへの想いについて語られた。
大学の授業で障がい者スポーツについて学んでいるという女性は、Twitterで当イベントを知ったという。車いすに乗って吉田選手との試合体験にも参加していた。
「こんなに人が集まるんだ、とビックリしました。授業の一環で障がい者スポーツの競技団体の方と話していても、『やはり集客が一番大変』と仰っていたので。大勢のお客さんがいる中で、映像やメディアで見たことのある選手が自分と打ってくれることに緊張したけど、嬉しかったです。それはオリンピアンもパラリンピアンも変わりません」
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(「東京パラリンピックも会場まで足を運んでみたいと思いました」と、パラ卓球の魅力に魅せられたようだ)
「自分がやらないと失礼だなと思って」
スタッフのカウントによれば、今回のイベントに集まった来場者数は261人。原宿を行き来する人々がメンバーの呼びかけで続々と会場に入っていく。コンパクトな会場はすぐに満員状態になっていた。
大学生メンバーの児島沙也佳さんは体育会のフィールドホッケー部に所属するが、スポーツに携わりたい思いからプロジェクトへの参加を決めた。会場外で呼び込みをしていると、人の入りに驚いた。
「『パラリンピック選手と卓球体験できます』と呼びかけしたら『へ〜!スゴい』みたいな声が聞こえてきたのが嬉しくて。別の場所で建国記念日のイベントがあったので、実はお客さんが来てくれるか不安だったんです。でも、体験イベントの時は会場に入り切らないくらいで(笑)」と安堵の笑顔を見せた。
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(大学生メンバーの児島沙也佳さん。イベントではタイムキーパーと呼び込みを担当した)
プロジェクトメンバーの中でも、役割を大まかに分担した。SNS担当、動画撮影、音響、トークセッション時のタイムキーパー、MCサポート、メディア対応などだ。空き時間は各自が会場の外に出て、精力的に呼び込み。原宿という好立地に各自の働きが連動し、ワンデーイベント(半日)としては多くの人々が訪れたといえる。
SNS担当の宮下祐樹さんは、普段はIT企業に勤務する会社員。スポーツビジネスへの関心から、プロジェクトに取り組んできた。
「イベントの様子をSNSに投稿して反応を見てたんですが、来た人が早速『まだやっているので行ってみて下さい』と投稿してくれていて。入り口でも、事前の告知を見て来たという方もちらほらいて、有難かったですね」
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(2枚目の名刺ではSNS担当の宮下祐樹さん。1枚目の名刺はIT企業の営業だ)
イベントポスターとパンフレットのデザインを担当し、当日は動画撮影を行った井上章さんは、美大出身で印刷会社に勤める。普段の仕事ではデザインのディレクションは行っているものの、大学卒業以来、自身でデザインソフトを使用することはなかった。イベント準備の中で「17年ぶりにIllustratorを立ち上げた」という。
「立石さんが大会のパンフレットをご自身で制作していると聞いたのが一番の起爆剤になりましたよ。『これは自分がやらないと失礼だな』と思って。正月からIllustratorをインストールしまして(笑)」
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(自身が制作したチラシを配る井上章さん。「パラ卓球の見どころや選手を紹介するツールがあると、観戦や選手応援がしやすくなりますよね」)
パラスポーツイベントの成功モデル
今回のイベント自体の目的が『パラ卓球のPR』であるならば、イベント開催までのプロセスも含めると、そこにはプロジェクトメンバーのもう1つの思いが込められていた。キーワードは『持続性』である。
イベントで配布されたパラ卓球のパンフレットや、壁面に飾られたフォトパネルは、今後も利用可能な汎用資産でもある。
JPTTA広報の立石さんもメンバーの働きに感無量の表情だった。
「たくさんの人が来てくれたのも嬉しいんですけど、今回のメンバーが最高で。イベントをやって終わりという自己満足じゃなくて、パラ卓球の為に何ができるかを常に考えてくれていました。2次利用、3次利用できるパンフレットをしっかり作ろうとか、そういったアイデアが一番嬉しかった。僕一人じゃ絶対にできなかったことです。これまでやりっぱなしになっていたことが、今回のプロジェクトのおかげで整理できた。そんなことがたくさんあるんです。有難いどころの話じゃないですよ……」
立石さんとともにJPTTAの事務局を務める佐藤麻依子さんも「メンバーが俊敏に動いてくれて、イベントが何事もなく進んでいることに驚きです」と舌を巻きつつも「皆キャラが濃いですけど」と笑った。
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(JPTTAの立石イオタ良二さんとイベントでMCを担当したプロジェクトメンバーの山本紗友里さん)
プロジェクトメンバーから口々に聞かれたのは「このメンバーだからこそできた」という言葉だ。
「奇跡的なメンバーとタイミングでした。本業があるのは周知の事実なので、誰か時間が作れなくても皆でカバーしようと、険悪なムードにもならずに進んでこれたかな。立石さんは本当にガッツのある方で、旗振りをしてくれました。プロジェクトのメインは形式上は僕らかもしれないですけど、実質は立石さん中心に進んできたなという感覚ですね」と宮下祐樹さんが言えば、
「立石さんも、すごく行動力のある方。でも、基盤整備が苦手なので、誰かがフォローしなくてはいけません。基盤と持続性が大事です。基盤が整わないと、大きい花火だけが打ち上がり続けて、後には残らない状態になってしまう。イベントはまだ花火の1つだと思いますけど、パンフレットやフォトパネルは、継続的に使い回しができる」とは井上章さんの言葉だ。
他方で、ゲスト参加したパラリンピアンたちは今回のイベントをどう感じていたのか。聞くと、こんな言葉が返ってきた。
「最初はイオタさんに、細かい内容も言われず『この日空いてる?』と言われて(笑)。でも実際に来てみたら人も沢山来てるし凄いなと。東京パラリンピックは盛り上がるとは思うんですけど、その前から人の目に触れることで緊張感も変わってきますし、こういった機会をきっかけにして、試合会場にも足を運んで欲しいですね。運営メンバーの方々も、事前に一度だけ打ち合わせをさせて貰ったんですが、本業もしっかりされている方々なので、段取りも丁寧でとても助かりました」(岩渕選手)
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「沢山の人が来てくれて、正直驚いてます。まず興味を持って頂いたのが凄く嬉しい。自分は負けず嫌いで、少しでも多く勝ちたくてトレーニングをしてます。だから卓球を楽しいと思うのは、逆にこういうイベントの時なんですよ。選手はトークをしたりプレーをして終わりですが、それまで準備をしてきたスタッフの尽力は、大舞台でも小さなイベントでも同じですよね。原宿で開催することにもビックリ。『若者の街で私が?』と(笑)。でも、若い人が少しでも注目してくれたら、この先明るくなる。これから東京2020もありますから、どんな形であれ、参加してくれたら成功に導かれるのかな、と」(吉田選手)
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熱量のある競技団体スタッフと、一枚目のスキルを効果的に活用したプロジェクトメンバー。双方の共創が生み出した『パラ卓球 SPECIAL LIVE』は、大成功の内に終了した。この共創は、数多く開催されているパラスポーツイベントの中でも、1つの成功モデルと言えるのかもしれない。
「来てくれた人が口を揃えて言ってくれたのは『この空間凄くイイよね』ということでした」
立石さんのこの言葉が、それを表しているのではないだろうか。
撮影/吉田直人、杉谷昌彦(NPO法人二枚目の名刺)
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ライター
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編集者
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カメラマン
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