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【医師の2枚目の名刺】CANnetに学ぶ、“温かい”ボランティア・コミュニティをつくるコツ

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“2枚目の名刺”として携わるボランティアスタッフのみで運営されている一般社団法人CANnet。自らも医師としての1枚目の名刺を持ちながら組織運営を行う杉山絢子さんに、所属したくなるコミュニティを創るための工夫をお聞きしています。

前編から読む

【医師の2枚目の名刺】病気になっても自分らしく生きられる社会を目指す~北海道の医師が本業とは別にソーシャル事業を立ち上げたワケ

 

前編では、医師である杉山さんが、CANnetを立ち上げた理由や、団体がメンバーにとって心地良い場所であるように杉山さんが常日頃発信しているメッセージをお聞きしました。

「あたたかいコミュニティ」にするための共有

廣:CANnetと協働したサポートプロジェクトに参加したメンバーが、「CANnetのミーティングは、必ずチェックインで始まりチェックアウトで終わる」のだと話していました。これもコミュニティのあり方を意識してのことなのですか?

杉山さん:そうですね。「コミュニティをデザインしている」というとおこがましいのですが、設立当初から「あたたかい場所にしたい」と思っていて。適度な距離は保ちつつも、メンバー同士が理解し合えるコミュニティこそが、あたたかい場所であると定義して、集まった時には必ず近況報告をし、最後には感想を言って終わるということを続けてきました。

廣:全員が発言されるのですか?

杉山さん:はい、全員です。普段の仕事では、自分の状況や考えを口にすることがあまりないからか、入られたばかりの方は面食らうようですね。「この時間は無駄じゃないか」と言う方もいるのですが、毎回の積み重ねの中でその方についての理解が深まり、自然と気遣い合えるような関係性が築けてくると考えています。

私が参加しないミーティングでも、CANnetでは「チェックインの近況報告は必ずしてください」ということはお伝えしています。テーマは何でもいいのです。仕事のこと、家族のこと、体調のこと、今の気分など、人によって話す内容が違ってもいいと思っています。

本業と家庭の次に大事な「第3の場所」

廣:プライベートなことでもいいのですね。

杉山さん:はい。「ここは“3番目の場所”なので、まずは本業と家庭を大事にしてください」というメッセージを常に発信していますが、それぞれの仕事や家庭、趣味などのことを自然な形で共有し合っておくことで、お互いに無理をしなくて済むし、大変な時にはサポートしたり、気遣ったりできる部分もあると思うのです。

ただ、コミュニティも密度が濃くなってくると、居心地の悪さを感じてしまったり、新しい人が入って来づらくなったり、メンバーに流動性がなくなってしまう可能性があるので、詮索しない、言いたくないことは言わなくても良い、個人情報は置いて帰るということも大切にしていますね。

(画像:杉山さん提供)

廣:「3番目の場所」ということですが、2枚目の名刺メンバーだけで運営することのご苦労もおありなのではないですか?

杉山さん:はい、このようなやり方なので、動いてくれる人が少なくて、正直しんどい時期もあります(笑)。でも絶対に「うちを優先してください」とは言いません。メンバーに対しても、「どうして来ないんですか?と訊ねるのはNGです」と最初の段階で伝えています。「人が来ないなら、来ないなりにやろうね」って。

そうは言っても、オフィシャルな活動が増えて来たので、バックオフィスといわれる機能を一部分でも担ってくださる方がいるといいなと今、思ってはいるのですが……。

廣:では、募集してみましょう(笑)。

CANnetのバックオフィス業務に興味のある方はこちら

廣:全国にメンバーがいて、色んな職業の方がいる。活動できる時間もバラバラだったりしますよね。そこはどのようにして乗り越えられているのですか?

杉山さん:顔を合わせることも大切にはしていますが、Webミーティングなど、インターネット上でのコミュニケーションがメインになっています。年に一度、札幌で合宿を行っていますが、各地域に仲間がいることがメンバーのモチベーションにもなっているようで、楽しみにしている方も多いんですよ。

ボランティアメンバーの目には見えない“報酬”とは?

廣:モチベーションというお話が出ましたが、ボランティアメンバーの“報酬”を、どんな風にご覧になっていますか? 本業や家庭がある中で、なぜCANnetで活動されているのでしょう?

杉山さん:得られる“報酬”を、居場所や安心感だと感じる方、学び・成長だと感じる方、社会貢献や誰かの役に立つことのやりがいだと感じる方の3パターンがあるのではないかと思います。全部の方もいれば、「これを得たい」というポイントが明確な方もいるので、それぞれの目的が叶えられるようにマネジメントすることを目標にはしています。難しいですけれど……。

(画像:杉山さん提供)

廣:実際には、杉山さんお一人で全ての方に“報酬”をお渡しすることは難しいのではないかと思います。他にもマネージャーのような立場の方はいらっしゃるのですか?

杉山さん:「役職はあだ名です」とは言っているのですが、「事務局長」という役職を置いています。人の感情に気付いたり、困りごとに寄り添ったりするのが得意な方っているんですよね。そうした方の手を借りながら運営しています。

金銭ではない、目には見えない“報酬”をやりとりする上では、どうしても個人個人とのコミュニケーションを密に取りながら、それぞれの気持ちを拾っていく必要がありますね。事務局長とのミーティングの半分くらいは、メンバーの近況報告で占められたりもするくらい、とても大切にしていることでもあります。

廣:金銭以外の“報酬”をお渡しすることの方が難しいのかもしれませんね。

杉山さん:本当にそうですね。だからこそ、「人と成果のどちらを採るか」という選択をする際には、絶対に「人を採る」というのをCANnetの判断基準の上位に置いています。たとえ成果が出ないとか、失敗したりだとか、上手くいかないことがあったとしても、その人の人生を採るようにしているのです。

団体のビジョンである「自分らしく生きられる社会」には、メンバーが自分らしく生きることも含まれているので、その人らしさが損なわれてはいけないんです。

廣:ビジョンやバリューズには、その組織のカルチャーがすごく表れていますよね。二枚目の名刺のものは、CANnetのものとはタイプが違う。

杉山さん:CANnetはほわんとしているかもしれませんね(笑)。

本業だけでは得られない「自分らしさ」を2枚目の名刺で

廣:ここまでは、団体のことだったり、メンバーのことだったりについてお聞きしてきたのですが、医師としての本業を持つ杉山さんが、代表理事としてCANnetを運営するにあたり心掛けていらっしゃることを教えてください。

杉山さん:医師として病院や患者さん、その他の関係者にデメリットになることがないように、CANnetの運営にあたっても社会的な倫理観を守ること、そこを行動の軸とするということは意識していますね。双方にとってメリットがあれば両者をつなぐこともありますが、プロとしてしっかりと線引きをすることも大事にしています。

廣:ではこの記事の締め括りとして、杉山さんにとって「2枚目の名刺とは何か」をお聞かせいただけますでしょうか。

杉山さん:「自分らしくいるための活動」ですね。活動を始める前は、本業だけではやりきれない部分があることが、自分にとってつらくて仕方がなかったのです。本業をいくら頑張っても拭いきれなかった不全感のようなものが、2枚目の名刺を持ったことでスーッと消えました。

それに、2枚目の名刺の活動で様々な人と知り合えたことで、病院の中にいる医師として以外の自分の側面を発見し、生きているという実感が高まりました。忙しくとも、今とても充実しています。

廣:ありがとうございました。

CANnetの活動に興味のある方はコンタクトしてみてくださいね!

(画像:杉山さん提供)

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はしもと ゆふこ
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女性誌出身の編集者。 「人生100年時代」に通用する編集者になるべく、雑誌とWebメディアの両方でキャリアを重ねる。趣味は占い。現在メインで担当するWebメディアで占いコーナーを立ち上げ、そこで独自の占いを発信すべく、日々研究に励んでいる。目標は「占い師」という2枚目の名刺を持つこと。