自治体が後押しする地方公務員の副業・兼業のパターンを探ってみる!調査研究結果から見えた公務員のこれからの働き方
公務員の副業・兼業について、少しずつ景色が変わりつつある。
実践者が増え、その活動自体が世間に露出するようになり、さらには自治体側もこの流れを受け入れる体制が出始めている。
2020年3月、この公務員の副業・兼業について、公益財団法人東京市町村自治調査会から調査研究結果が発表された。NPO法人二枚目の名刺からみた調査研究結果のポイントに触れてみたい。
公益財団法人東京市町村自治調査会(以下、東京市町村自治調査会)
多摩・島しょ地域の自治の振興を図り、住民福祉の増進に寄与することを目的とした市町村共同の行政シンクタンクとして、調査研究や共同事業、地域住民交流活動の支援などを行っている。
●公益財団法人東京市町村自治調査会Webサイト
●「公務員の副業・兼業に関する調査研究」
公務員の副業・兼業は今どこまで進んでいるのだろうか?-二枚目の名刺と東京市町村自治調査会とが考える方向性の重なり
今回発表された東京市町村自治調査会の調査研究は、NPO法人二枚目の名刺がこれまで形作ってきた公務員の副業・兼業への活動と重なる部分がある。
NPO法人二枚目の名刺が「公務員プロジェクト」を立ち上げたのは2017年7月。公務員が2枚目の名刺を持って活動するために、事実として何がハードルになっているかを探り、どんな雰囲気があると促進するのかを考え、プロジェクトを手がけてきた。
2018年には、行政・企業・NPOというセクターを超えた有志プロジェクトであるSOZO日本プロジェクトの一員として参画し、公務員を対象とした『副業・兼業に関するアンケート』の結果を発表した。
また東京中心部だけの動きではなく、地域に根付いて仕事をしている地方公務員が地域に飛び出していく動きはより加速していくだろうと考え、地域・地方公務員との共同プロジェクトとして「作戦会議」をおこなった。
—公務員の副業・兼業は、地方・地域社会の活動そのものを活性化したり、地域活動の担い手が不足している問題を解決したりする側面がある。
このポイントが、東京市町村自治調査会の調査研究結果をもとに検討した考察と、NPO二枚目の名刺が活動してきた部分とに重なる。
調査研究では、地域類型ごとにヒアリングやリサーチを重ね、公務員の副業のあり方と効果的な促進策について提案できるよう、職員・行政・地域、それぞれの場から分析・検討を行っている。
地方公務員の「2枚目の名刺」の実態
今回の調査研究担当者のひとりは、地方自治体からの派遣者だった。今回の調査を行うにあたってある思いがあったという。それは、派遣元の同僚が公務員として、業務外での取り組みでのやりにくさを感じているからだった。勤務外で地域サッカーチームのコーチに取り組んでいる彼は「公務員だから」という理由で他コーチはもらっている謝礼を辞退し、試合会場への交通費、それ以外に発生する諸々の出費は全て自腹で賄っている。もちろん、1回当たりの費用自体はそこまで多額ではない。
しかし、地域のための活動が継続しにくくなる状況に違和感を抱かないわけではなかった。そのような違和感をもつ公務員は少なくないだろうし、地域社会の担い手がそのような違和感から継続が難しくなるケースも出るだろうと感じていた。
地域社会の活動を担う人を取り巻く環境が、果たしてこのままでいいのだろうか。
今回の調査研究チームは、このような同じ場で働く同僚の状況をきっかけに、一部の地方自治体で副業・兼業を後押しする動きに注目。地方公務員の副業・兼業の在り方と効果的な取り組みを提示しようと繋がっていった。
<出典>(公財)東京市町村自治調査会『公務員の副業・兼業に関する調査研究報告書』P26
調査研究では地方公務員の副業・兼業における事例を分析すべく、2020年1月時点で副業・兼業に関して動きのある10の自治体事例を挙げ、先進事例として兵庫県神戸市、奈良県生駒市、宮崎県新富町の3つの場に詳細のヒアリングを行っている。
調査結果は大きく3自治体の地域特色、副業制度の導入背景、制度の詳細、そのリアクションと結果、制度を取り巻く変化や効果、今後の展望などが見えており、それぞれの状況から類型を導いている。
<出典>(公財)東京市町村自治調査会『公務員の副業・兼業に関する調査研究報告書』P46
調査研究では、副業・兼業の制度類型として、都市部のスキルアップ型と郊外部の地域貢献型に分類をしている。
都市部の特徴は「地域貢献」しながらも、例えば、生駒市は人材育成の方針として副業・兼業によって地域で活動することが、求める職員像に近づけるという人材戦略とつながっている。
一方、郊外部の宮崎県新富町は、地域課題の解決や活性化のニーズが高い。例えば、公務員の副業実績として「神楽の舞い手」をおこなっている職員が複数名いる。 新富町は地区ごとに神に奉納する歌舞・神楽が伝承されている地域であり、現在は多くの舞い手が高齢化、子ども神楽も減少傾向で、世代交代が難しいという課題に直面している。伝統文化を守っていくという側面を含めて地域の課題を直接的に解決する人材と位置付けられているのだ。
地域活動の担い手不足はどの地域でも課題には上がるものの、都市と郊外部で地域の課題感や実際の副業活動実績に違いがある。それゆえ公務員の「地域貢献に資する副業」も、その地域ごとの社会課題が浮き彫りになると感じた。
今後もっと地方自治体が副業・兼業を取り入れ、地方公務員が地域に飛び出していくとしたら、地域活動の担い手に留まらず、直接的に社会課題の解決に向かう公務員も増えていくかもしれない。
多摩・島しょ地域の特性と公務員の副業・兼業のパターン
東京都の多摩・島しょ地域のケースを見てみたい。多摩・島しょ地域では、先に挙げた神戸市や生駒市のような都市型の自治体もあれば、郊外型の自治体も含まれる。各地域の特性を図式化した調査結果がある。
<出典>(公財)東京市町村自治調査会『公務員の副業・兼業に関する調査研究報告書』P132
人口15万人の境目とした横軸と、市域内に都市部が多いか農地・山林が多いかの縦軸かで4区分とし、①大規模都市型、②中規模都市型、③中山間・島しょ型、④郊外大都市型に各地域を分けている。
4つの区分は地域課題のギャップもあるが、その自治体が抱える課題も明示されている。
例えば、③の中山間・島しょ型の場合は先の郊外型の地域課題に重なる部分が多く、地域の担い手不足の課題が大きく、公務員がより柔軟に迅速に副業・兼業によって地域をサポートできる人材を増やすという仕組みが求められる。
対して②は自治体職員そのものが少なくなっているという課題感があるため、副業・兼業ができるということを人材戦略に使い、自治体が抱える課題を解決する仕組みに使っていくことも検討できる。
特色が異なる各自治体が副業・兼業の仕組みをどのように設計するのか。
先の都市部「スキルアップ型」と郊外部「地域貢献型」で副業・兼業の在り方が変わるということが見えてきたわけだが、この調査結果から2パターンの副業・兼業の基準モデルも作成している。実際に各地域が「副業・兼業の制度の検討をしたい!」となった時にその検討材料やたたき台として活用できるようになっている。
そして2020年10月には東京市町村調査自治会がこの調査研究結果を報告し、かつ、有識者や実践者をゲストとして呼び、多摩・島しょ地域の活性化を促進するシンポジウムを開催する。
地域活動の担い手は減っていく傾向にあり、かつての地域の活力は失われつつあります。一方、自治体においても、減少していく職員をどう育成し、人材不足をどう補うかが課題となっています。そこで、自治体職員が副業・兼業として公益的な活動の担い手となることを推進することで、行政にも地域にも好循環を生む可能性が指摘されています。
このシンポジウムは、基調講演や事例紹介等を通じ、多摩・島しょ地域の活性化と自治体職員の人材育成につなげてもらうことを目指して開催します。
日時:2020年10月20日(火)13:30-16:30
場所:府中市市民活動センタープラッツ・バルトホール
参加人数:先着40名
申し込み:https://req.qubo.jp/tamasympo2020/form/tokyo
時代の流れを積極的に捉えていくと、公務員の副業・兼業を求める声は今以上に高まっていくだろう。
地域貢献。地域課題の解決。職員のスキルアップ。人材戦略。
公務員の副業・兼業でそれらを好循環させ、地域としての経営力を高めていく視点を持てるのだとしたら。
東京市町村調査自治調査会の調査研究結果はよりそれらを後押しするだろう。
私たち二枚目の名刺は、組織が変容していくことを後押しできるよう、それぞれの場に生きる公務員たちの一歩を支援し、共にその流れを促進していきたい。
ライター
編集者
カメラマン