パラレルキャリアを実践するママ看護師が語る「2枚目の名刺のメリットと課題」椿原千里さん
「ボランティアや社会貢献活動に興味があるけれど、どう始めれば良いのかわからない……」
千葉県習志野市で行われた「パラレルキャリアスタートアップ講座」は、まさにそうした“2枚目の名刺予備軍”に向けて企画された講座だ。
「本業以外で何かしたいけれど、どうすればいいの?」「大変じゃないの?」といった悩みや疑問に、NPO二枚目の名刺のメンバーほか、パラレルキャリアの実践者が回答した。
16名の参加者うち、半数以上が女性であったこの講座で、パネリストの一人として登壇した2児の母、椿原千里さんの話を紹介しよう。
※この記事は、椿原千里さんが「パラレルキャリアスタートアップ講座」でお話しした内容に編集を加えたものです。
わたしが2枚目の名刺を持った理由
はじめまして。椿原千里と申します。
習志野市で夫と6歳、2歳の娘の4人で生活をしています。
看護師として大学病院に5年間勤務し、長女を出産する前に退職。退職後すぐに習志野市に引っ越ししました。そして、今は習志野市内の病院で看護師として勤務しています。
本業以外に、ママ向けのイベントなどを行う「どんなぽぽろ(Donna Popolo)」のスタッフとして活動しています。
どんなぽぽろは、習志野市のママたちを応援する、ママたちによる市民団体です。ママがママだけでなく「わたし」のことを考えたり、「わたし」として学ぶための講座やイベントを企画運営しています。
具体的には、ママだけじゃない「わたし」でいられる場を持っている方をゲストに呼んで座談会をしたり、習志野市の男女共同参画センターと協働して夫婦を対象に子育て講座を開催したり、身体が喜ぶ料理教室を開催したり。仕事、子育て、料理など、さまざまな分野のイベントを年間5~6回程度開催しています。
私がこの団体に参画したきっかけは、長女出産後、専業主婦をしていた頃に遡ります。看護師として仕事をしたいという気持ちがありつつも、その一歩が踏み出せず、モヤモヤしていた時期がありました。そんな時に、この団体のことを知り、イベントに参加しました。そして、ママという役割だけではなく「わたし」も大事にする考え方に共感し、スタッフとして参画しました。
復職してからもずっと続けています。実際の活動内容は、月2回の打ち合わせやイベントで、可能な限り休みを合わせて参加しています。それ以外はメールのやり取りなどがメインです。
また、次女の育休中には、習志野の魅力を伝える「習志野HAPPYプロジェクト」という1年間のプロジェクトにも携わりました。これは、海外のアーティストの「HAPPY」という楽曲に合わせて、習志野を舞台に習志野に関わる人々が踊る動画を撮影し、YouTubeで配信するプロジェクトです。
この活動を通じて、地域で生活している幅広い年齢や職業の方に出会うことができました。また、習志野市に素敵なスポットがあることを知りました。そして、動画を撮ることの大変さ、資金調達の大変さなど、看護師の仕事だけでは決してわからなかった側面を体感することができました。
パラレルキャリアで得た4つのメリット
私が、どんなぽぽろの活動に参加したことで得たものは、大きく4つあります。
一つ目は、「年齢、性別、職業、考え方の異なるいろいろな方とつながりができた」ことです。
一つの出会いがまた別の活動に参加するきっかけとなり、さらに広がることもあります。〇〇だったらあの人に相談してみようと、頼れる方も多くいます。また今回のように、パラレルキャリアの講座に登壇する機会をいただくなど、ただ出会うだけでなく、つながりも生まれています。
個人的なことですが、出産直後から習志野市で生活を始め、現在6年目になります。両親などの頼れる親族・友達がいない中での初めての子育てでした。
知り合いがいないところからのスタートでしたが、「何かあれば頼ってね」と気にかけてくれる方が今ではたくさんいます。一人ではないことを感じ、とても心強いです。子どもたちが私の活動を通して多くの方と関わることができていることにも魅力を感じています。
二つ目は、「自分が住む地域で学ぶ場を企画したり、イベントを開催したりできる」ことです。
これはどんなぽぽろという団体の力あってのことです。団体の活動や他のスタッフのおかげで、さまざまな知識・経験を得ることができています。仕事とは違う作業を通して、自分の得意・不得意なこともわかり、自己理解も深まりました。復職への後押しをしてくれたのも、どんなぽぽろのイベントです。
三つ目は、「自分が住んでいる街を好きになれた」ことです。地域の方とのつながりができたこと、活動を通じて習志野の魅力に触れることができたことで、習志野市のことが大好きになれました。
四つ目は、「街づくりの当事者になれた」ことです。私は3回引っ越しをしていますが、これまではただ住んでいただけでした。今は自分が住んでいる地域をより楽しく生活しやすいところにしたいという気持ちがあります。そして、こうした活動に一市民の私でも関わることができるのだということを知っています。
パラレルキャリアは本業にも還元される
本業以外の活動が、本業である看護師としての仕事にプラスになったこともたくさんあります。
まず、本業以外の活動で、いろいろな価値観や職業を持つ方と話をしているため、患者さんやご家族の発言に対して、より深く理解できるようになったと感じます。
地域を知り、地域の人と接する機会も多いので、「病気を持ちつつも、その人らしくこの地で生活できるようにするにはどうすれば良いのだろう」といった視点で、患者さんやそのご家族に向き合うことが多少なりともできるようにもなりました。
また、病院はおもてなしの感覚が薄くなりがちですが、イベントを通じておもてなしの大切さを実感しているので、患者さんやご家族に少しでも快適に過ごしてもらえるような環境づくりを意識するようになりました。患者さんへの接し方も変わったように思います。
パンフレット作りなど通常の看護業務以外のパソコン業務に対しても苦手意識なく素早くできるようになったのも、団体の活動を通して、普段からパソコンを使っているからだと思います。
パラレルキャリアを実践するうえでの課題
ここまでは利点ばかりを述べてきましたが、課題もあります。
一つは、「子どもたちとの時間の過ごし方」です。夫の仕事は、土日関係なく日勤夜勤がある不規則勤務なので、本業以外の活動には、子どもたちと一緒に参加することになります。
予定の前後で公園に連れて行き、思いっきり遊ぶなど、罪滅ぼしをしていますが、せっかくの休日に私の予定に付き合わせてしまい、申し訳ない気持ちになることもあります。
子どもたちは母親以外の役割で活動している私の姿を見る機会が多いので、いずれは彼女たち次世代の女性の働き方のモデルの一つになれば嬉しいなと思いながら、今はまだ目が離せない時期でもあるので、自分ができる範囲を見極めながら活動しています。
「時間管理」も課題の一つです。本業があるため、どんなぽぽろの打ち合わせや活動に参加できないことややるべきことが溜まってしまうこともあります。
なるべく仲間に迷惑をかけないように、時間に限らずできることは積極的にやるようにしたり、前もって行ったりと、調整しながら両立しています。
椿原さんが感じる、パラレルキャリアの効用
時間管理は課題であると同時に、以前よりもうまくなったとも感じます。
やらなければならないことは当然増えるので、それらをやり遂げるために、一つ一つにかける時間を短縮し、効率よくできるようになりました。判断も素早くできるようになっています。どれもやりたいことなので、時間配分を工夫しながら、楽しんでやることができています。
また、どんなぽぽろの活動は、私に充実感や達成感をもたらしてくれています。
病院に来院する患者さんは、痛みや苦しみ、辛さや不安を抱えており、本業先で笑顔に接することは多くありません。しかし、どんなぽぽろの活動をしていると、たくさんの笑顔に出会えます。
さまざまな地域の方とのつながりや貴重な経験ができる2枚目の名刺の活動があるからこそ、私は今、とても充実しています。
ライター
編集者
カメラマン