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「2枚目の名刺」というスタイルの広がりとこれから【対談連載】米倉 誠一郎 ×二枚目の名刺代表 廣 優樹

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2枚目の名刺webマガジンの対談連載をスタートします。毎回ゲストをお迎えしながら、NPO二枚目の名刺のメンバーとの対談をお届けしていきます!

第1弾のゲストは『2枚目の名刺・未来を変える働き方』を出版した米倉 誠一郎さん(一橋大学イノベーション研究センター教授/六本木アカデミーヒルズ「日本元気塾」塾長)。

著書出版のご縁から、昨年はNPO二枚目の名刺の夏のイベント「夏フェス2015」で基調講演をしてくださいました。出版から1年経った今、社会の変化と、「2枚目の名刺」というスタイルのこれからの広がりについて、NPO法人二枚目の名刺 代表の廣 優樹とお話しさせていただきました。

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「2枚目の名刺」で殻を破り、自分の役割を見つめ直す。

NPO二枚目の名刺 代表 廣優樹(以下、廣):今日は、アフリカからお戻りになったところですよね。お忙しいところありがとうございます。

米倉誠一郎さん(以下、米倉):日本は結構ヤバいところにあるね。アフリカにいると思い知らされるんだよ。このままでは日本はアフリカ進出で存在感なんか持てない。そんな危機感を持つわけなんだよね。で、今日のテーマ「2枚目の名刺」なんだけど、そんな日本のビジネスパーソンの殻を打ち破って、コンフォートゾーンを抜け出させたい。

廣 :ビジネスパーソンが「2枚目の名刺」を持つ効果、意義、米倉先生はどのようにお考えですか?

米倉:そうだね、大きく3つある。1つ目は、人間には本来もっと潜在的な力があり、2枚目の名刺は、それを引き出す作用があるということ。多くのビジネスパーソンは「一つの企業のみで働くこと」を過度に刷り込まれている。ビジネスマンに生まれたわけではないのに、ビジネスマンにさせられてきた。その殻を破るきっかけが2枚目の名刺だと思うよ。自分に適したフィールドを見つけ、持っている能力を会社の外でも発揮すると、社会は変わるよね。

2つ目はIoT(Internet of Things:モノのインターネット接続)やAI(Artificial Intelligence:人工知能)への対応でも、力を発揮する。今後あらゆるサービス、家電や車から住宅まで私たちの生活や仕事における様々なモノはインターネットを介してつながっていく。

そうすると考えなくても物事が進んで行くので、人間がやるべき仕事は減っていく。家電が相互接続するとテレビと冷蔵庫とエアコンと照明器具が相談してその日の最適な過ごし方を提案し、自動運転が実用化するとタクシーや物流トラックの運転手は過去の職業となるわけだよね。

近い将来にそれが現実化した時「本当に人間がやらなければいけない仕事」は何か、という課題に私たちは直面する。単に雇われて考えることなく仕事をしていては、果たすべき役割を失うことになる。「2枚目の名刺」は自ら考え行動するトレーニングとして、未来の仕事や生活への備えとなるんだ。

3つ目は、2枚目の名刺によって自分の生き方、真のキャリアを発見できること。会社に頼らず自分が何を蓄積し発揮できるのかを考える機会になる。キャリアへの意識はより明確になり、そこで初めて「就社」ではなく「就職」することができる。

ソーシャルビジネスのマザーハウス社を創業した山口絵理子さんの「裸でも生きる」というフレーズのように、覚悟を決めて自分の役割に邁進する姿勢が大切。「2枚目の名刺」は自分が世界や社会の中でどのような役割を果たすのかを考える機会になるよね。

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廣 :自分の価値観、軸のようなものを中心にもてるか、というのも欠かせないポイントですよね。1枚目の名刺(=本業)がうまくいかないから、それ以外の2枚目をやる、ということではなく、自分の価値観を表現する手段として、1枚目も2枚目もある、という形になると、素晴らしいと思います。

とはいえ、自分の価値観とか軸とか言われても、「これっ」て明快に人言えないときは、先生もよくおっしゃってますけど、まずは2枚目の名刺を作っちゃうことをお勧めしたいですよね。名刺をまずは作ってしまう。その名刺を渡す時に、何をしているのか必ず聞かれるから、自分の問題意識を語らなきゃいけない。

名刺を配るたびにそれを繰り返すことで、自然と自分のやりたいことや理念が明確化していく効果があると思ってます。日本人は、名刺というアイテムへの思い入れ強いから、物理的な2枚目の名刺にも力があるように思ってます。

米倉:そうだよね。まずは、「2枚目の名刺を持ってみよう」だよ。加えて大切なのは「コンフォートゾーン」から出ること。居心地の良い場所に留まっていては、周囲の危機的な状況には気づけない。大革命でなくてもいいので、外に飛び出して小さな一歩を踏み出すことに価値がある。

ウィルソン・ラーニング社の三浦英雄さんが手掛けている「越境リーダーシッププロジェクト」のように、既存の枠組みを越えて共創的な関わりを持つことで、新たな価値を創造できる。それが私たちがこれから取り組むべきことなんだよ。

イノベーションに必要なことは、まず実践すること

廣 :ところで、米倉さんが塾長を務めている「日本元気塾」でも、本業を持ちながら、何か新しい刺激を得たい、新しいことに取り組みたいという方が集まってきてますよね。

米倉:日本元気塾は、5期目を迎えてて、自分の真のキャリアを創ることに受講者は向き合っているよ。これも2枚目の名刺と同じでコンフォートゾーンを抜け出せるかどうかがカギ。日本元気塾では「勉強したい人」ではなく「行動したい人」を求めている。言葉にできる「形式知」ではなく言葉にできない「暗黙知」を体現し、即座に行動に移しながらイノベーションを生み出すことに価値を置いているんだ。

例えば、元気塾講師の奥山清行さん(カーデザイナー・工業デザイナー)からは、デザインの真の魅力を伝えてもらっている。国内のどんなメーカーにとってもデザインは必須課題なんだけれど、様々な反応を見ているとビジネスパーソンの感度が低くなっているなあと正直感じている。

忙しさを理由に、大切なことに時間と手間を割くことをしなくなっている。みんなそれぞれ忙しいわけ。忙しさを理由に行動を先送りしてはいけない。とにかく実践することから全ては始まるので、思ったら自分がやる、というのが大事。

廣 :動くことに躊躇しないようになりたいですよね。会社員としての名刺を持つ自分にとっては、自戒も込めてそう思います。動いてみて始めて、見えてくることがあるし、行動して、もしかしたら失敗もあるかもしれないけど、前向きな失敗は必ず次につながりますから。

米倉:2枚目の名刺ということでいうとさ、1枚目の名刺があり生活のリスクヘッジができている状態にあるわけ。そうすると、2枚目はチャレンジできる場でもある。退路を絶つことなく始めて、十分に効果が発揮できることが魅力。前向きな失敗も含めて、どんどん挑戦してもらいたいよね。

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「2枚目の名刺」の広がり

廣 :昨年米倉先生は『2枚目の名刺・未来を変える働き方』(講談社α新書)を出版されましたけど、その後の反響はいかがですか?

米倉:まだまだだよ。企業も個人も短期的な視野で「2枚目の名刺」の効果を捉えがちで、良くないね。働き方のパラダイムシフトは一朝一夕ではできない。時間がかかることでもあるから、まずは続けて積み重ねていくことが大事。実践者それぞれがバラバラに「自分は凄い」と主張していても社会は変わらないので、お互いが連携して本気でやっていかないといけないね。

ところで二枚目の名刺夏フェス(※)、今年もやるんだって?こういうのは続けることが大事なんだよ。今年はどんな仕掛けでやるの?

廣 :ありがとうございます!今日是非お話ししたいと思ってたんです!

昨年基調講演をお願いしたのが2回目で、今年は3回目の開催となるのですが、「超える」をテーマに色々仕掛けていきます。2枚目の名刺というコンセプトに賛同する企業がますます増えてきています。そこで、今回は、8月7日開催の1Day イベントに加え、その前2週間にわたり、様々な企業やNPOなどとのコラボイベントを開催することにしました。まさにこれまでの二枚目の名刺夏フェスを「超える」です。

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米倉:企業とはどんなイベントやるの?

廣 :いくつかパターンがあるのですが、リーダー育成を狙ってNPOサポートプロジェクト(注:社会人5名程度でチームを組み、数ヶ月間NPOと協働するプロジェクト)を導入するテンプグループ/インテリジェンスでは、サポートプロジェクト立ち上げに向けたNPOと社会人のマッチンセッション。

また、サポートプロジェクトのユニークネスの一つとして、Diversify されたチームで取組むという点があるのですが、そこに面白さを感じてくださっているGAP Japanでは、人事の方が、Diversity & Inclusionのセミナーを開催し、二枚目の名刺を応援してくださっています。

パソナや富士ゼロックスでは、社員の方々から、「2枚目の名刺をもつことを後押しするイベントを一緒にやりたい」という提案をいただき、2枚目の名刺実践者の生の声をお伝えしたり、NPOとのマッチングセッションを共催イベントとして開催します。

米倉:いいですね。こうやって企業も巻き込みながら前に進めていくことが大事だよね。それから、こういう新しい取り組みというか、既存の枠を超えることについて、社員が自発的に動いて、会社に変化をもたらそうとしている、というのは面白い動きだよね。

廣 :ほかにも、第1回に登壇いただいたライフネット生命の出口さんと、第2回のクロージングスピーチをお願いしたグローパスの仁禮さんの対談を企画しています。仁禮さんは高校生で起業して、自分の出身の小学校、中学校を経営している女性で、現在は大学一年生。出口さんはもう皆さんご存じですが50代でライフネット生命を立ち上げているわけです。「世代を超える」お二人の仕掛人たちの刺激的なお話、僕自身も楽しみです。

米倉:なるほど、それもいいですねー。あと、昨年、会場の後方に子どもスペースがあったじゃない。子供たちも一緒にワイワイやっているのが僕は凄く良いとおもったな。

廣 :はい、実は子どもスペースは、子どもがいるから夏フェスへの参加を躊躇してた人にも好評なんですが、こういう場所に子どもがいることの方が自然だよね、と感じてくださる方からも支持があって、あえてお子さんと一緒に来て下さるという方もいますね。

ちなみに、今年の子どもスペースの企画・運営は、小学生ですよ。ここでも、「世代を超える」です。未来の2枚目の名刺ホールダーたちと、これからはもっと一緒にやっていきたいと思ってます。

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米倉:基調講演の元ラグビー日本代表主将の廣瀬俊朗さん。彼もプレーヤーとしてだけでなく、選手会を立ち上げてラグビー全体の盛り上げにも尽力されたんだよね。まさに2枚目の名刺。少し前になるけど、プロ野球の再編問題で揺れた時、ヤクルトスワローズの古田敦也選手が昼間は選手会長としてプロ野球連盟と交渉し、夜は選手としてガンガン打っていた時と似ているね。こういう行動できる人たち、素晴らしいよね。

廣 :2枚目の名刺は社会との接点を模索する場になるので、会社のためだけでなくもう一つ目線を上げて社会をどうしたいか、という視点で物事を考えることができるのが魅力ですね。そのことも今回の夏フェスを通じて多くの人たちに感じて欲しいです。

米倉:あとね、こういうイベントで、人のつながりが横に広がるのはとても良いことだと思うよ。志を共有できる人たちがつながる場だね。

廣 :今回のイベントシリーズでは、プロボノ推進のNPOサービスグラントさんとも共催しているんです。NPO同士が連携していくプラットフォームに、NPO二枚目の名刺がなりたいと思っています。

米倉:ぜひ排他的にならずに、協力した方がいい。NPO業界にも良い刺激になる。

廣 :NPO業界への刺激という意味では、実は今回は参加費をアグレッシブに設定しています。日本のNPO業界では価値に見合った対価を払う・得るという考え方が薄いと思っていまして、ここに切り込むことにしました。

なぜNPOイベントなのにこんなに高いんだ、値上げしましたね・・等、ありがたいコメントが寄せられたんですが、たいていその指摘をくれるのってNPO関係者ばかりなんですよね。誤解を恐れずに言えば、このような議論を起こすことにも僕らの存在する意味があると感じています。参加費無料にするのはそう難しくないのですが、NPO業界に刺激を届けたいと思ってます。

米倉:そういうチャレンジはいいね。でもワンドリンク付きにしてね!

廣 :大丈夫です、イベント後の懇親会は無料です!

米倉:日本を創る大事な取組なのでぜひ頑張ってください。

廣 :はい、頑張ります。米倉先生、本日はありがとうございました。

 

(芦沢 壮一)

※二枚目の名刺・夏フェスとは、NPO二枚目の名刺が主催する、組織を越えて活躍する新しい働き方「2枚目の名刺」と出会う日本最大のイベントです。社会人・企業・行政・NPO・アカデミアがそれぞれの立場から「2枚目の名刺」というスタイルを発信していきます。

二枚目の名刺・夏フェス2016の詳細はこちら:http://nimaime.com/2016/07/summer2016-2/

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