正解も不正解もないSocial Kids Action Project。楽しみながら「自分にしかできないこと」を見つけていく
小学生が渋谷のまちに住む人、働く人、訪れる人へのインタビューを通じて課題を見つけ出し、その解決アイデアを渋谷区長も含めた大人に向けてプレゼンする『Social Kids Action Project(以下SKAP)』。今年度も二枚目の名刺とKids Experience Designerの植野真由子さんの共催で春休み期間に行われました。
渋谷区役所周辺の公園通り・神南エリアをテーマにするのは3回目。今までとの大きな変化として、コロナ禍が終わって渋谷にインバウンドを含めた観光客が戻ってきたことがあります。それに伴って新たに見えてきた課題もありますが、「ゴミ問題」「落書き問題」など変わらないものも。SKAP自体8回目ともなると、同じようなアイデアが出てきそうですが、その子にしか思いつかない、その子にしか生み出せないアイデアに仕上がるのが面白いところです。
今年度は1日目と2日目、3日目と4日目で異なるライターが取材を担当。それぞれ違った目線での見方を感じていただけたら幸いです。
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「最高で最強」な小学生が大人と肩を並べて渋谷区のまちづくりに取り組む。Social Kids Action Projectから広がる課題解決の輪
自由に、鋭く、街の課題を発見する小学生たち
過去にきょうだいが参加していた子が5名、昨年度に続いて参加の子が1名と、ある意味「SKAP慣れ」しているメンバーも多かったですが、1日目の冒頭はやはりみんな緊張した雰囲気が。
SKAPのローカルルールのひとつに「大人も子どももあだ名で呼び合う」があり、最初に全員が呼んでほしいあだ名を決めます。2日目くらいまでは、植野さんに対してクセのように「先生!」と呼びかけてしまい、「ここには先生はいないよ~」と言われてハッとする場面も多くみられました。小学生にとって親以外の身近な大人といえば“先生”なのですね。ただ、あだ名で呼び合ううちにあっという間に距離を縮められるのも子どもたちならでは。1日目のお昼休憩の時間には、大人も子どももまじりあってのボードゲーム大会が始まり、午後にはすっかり打ち解けている様子が見られました。
1日目のプログラムは「渋谷の街を使うのはどんな人?」と「渋谷ってどんな街?」。渋谷公園通り商店街振興組合の川原理事長からは、昔は「区役所通り商店街」と呼ばれていたのが、渋谷PARCOができたことで「渋谷公園通り商店街」と名前が変わったことや商店街の取り組みについてお聞きし、東急不動産の小澤さんからは新しい建物を建てることとまちづくりの関係をお聞きしました。
さらには実際に街を歩いてみます。目的地は新しく原宿にオープンする『ハラカド』。なんとオープン前のところ、東急不動産さんのご厚意で特別に中を見させていただきました。『ハラカド』が建っている場所に以前あったビルは、過去のSKAPの会場でもあり、「ここに新しくできるビルがどんなところだったらいいか?」について当時参加した子どもたちがアイデアを出すなど、SKAPにとっては特別な思い入れのある地です。
昼休みを挟んだ午後には早速「どんな街にしたい?」のアウトプットと翌日に向けたインタビュー練習。練習相手になった大人がぐいぐい押されて困惑するほど初日からパワフルな子どもたちでした。
個性を発揮しながら、連携できる。それが子どもたちの強み!
2日目はあいにくの雨でしたが、ふたつの班に分かれて「街で働く人にインタビューしよう!」。お店や企業、学校、施設などを巡り、「渋谷の好きなところ」「困っていること」をお聞きするSKAPの醍醐味ともいえるプログラムです。小学生は立ち寄る機会がまずないコワーキングスペースの『SLOTH』には興味津々! また『シダックス』では「子どもならでは」の視点や発信へ期待する応援を受けました。1日目に自分たちの目で見た「渋谷」に加えて、働く人たちの声を聞き、さまざな視点を知ることで、街の見え方がさらに広がっていきます。午後にはそれをふまえた課題解決アイデアを発表しました。
「もっとアイデア考えられる!」「もう1枚紙ちょうだい!」とものすごい勢いでアイデアを生み出していた子どもたちもアイデア発表の後は若干燃え尽きた感が……。ここで昨年度も参加していた子から「“電車”がやりたい!」の声が。キャスターつきのイスを活用して、みんなで電車のように連結するSKAP恒例のアトラクションです。うまく息を合わせないとすぐに連結が外れてしまうので、連帯感が重要になってきます。今年はうまく成功するかな……?
「電車遊び」でリフレッシュした後は、3日目の突撃インタビューの準備を。大盛り上がりのチーム分けの後は、じっくりと質問内容や作戦を考えるチームがあれば、次々に大人に声をかけて実践を積み重ねていくチームもあり、子どもの個性がくっきり。
SKAPでは正解も不正解もありません。大事なことははしゃぎすぎて、自分もまわりの人もケガをさせないことだけ! 元気いっぱいに動き回る子もいれば、メンターとじっくり会話をする子もいて、それぞれの楽しみ方、取り組み方をしながら、その子にしか思いつかないようなアイデアにたどりつくのを目の当たりにしました。
学校では先生に怒られてしまうかもしれない行動も、ここでは個性のひとつ。それぞれの個性が発揮されるからこそ、今までにない新しいアイデアが出てくるのです。まさに渋谷区の基本構想である「ちがいを ちからに 変える街」のあり方がここに凝縮されていると感じました。
フルパワーで挑んだ突撃インタビュー、言葉の壁も乗り越える⁉
2日目には渋谷の街で働く方々に話を聞いてきた子どもたち。子ども同士はもちろん、メンターともすっかり打ち解けた室内は小学校の教室のような賑やかさ。同じ区内とはいえ、別々の小学校から集まった4〜6年生たちはまるで以前からのクラスメイトのようです。
3日目は街ゆく人に声をかけ、SKAPの趣旨を説明して渋谷についてどう思うかを質問する突撃インタビューの日。「おやつ持っていっていい?」なんて軽口を叩きながら、3つの班に分かれていざ代々木公園と北谷公園 へ。
最初はどう声がけするか戸惑っていたものの、あっという間にスイッチが入って「あの人に声をかけてみよう!」と駆け寄って突撃インタビューがスタートしました。
声をかけてもせわしなく先を急ぐ人もいるものの、「犬の散歩をしてる人はヒット率高いね」といった発見もあったようです。
海外からの旅行者も多く、彼らにも話を聞きたいとなったら英語を話せる大人を巻き込んだり、スマートフォンの翻訳アプリをメンターに借りたり、中には自らの英語力で質問をしていく子もいて、臨機応変に対応していくたくましい背中がたくさん見られました。
子どもたちの勢いに押されて、足を止めてインタビューに応えてくれる人も多く、「子どもが頑張ってると協力したくなる」「(SKAPを)知らなかったけれど、子どもたちが街をよくしようとしているのを応援したい」といった声も聞かれ、子どもの声に応えてくれる大人の存在の大切さも改めて感じました。
インタビュー後は各チームの報告を聞いて、各自が感じた課題とそこに対するアクションを発表しお互いにフィードバックをします。
例えば、ゴミのポイ捨てを減らすためにゴミ箱を設置すると何が課題になるかを皆で検討します。まず「行政からの許可が必要」。「落書きされるだろうからどう対処するか」。「ゴミの回収には人手が必要になり、そこには人件費がかかってくる」。「ゴミに爆弾などを仕掛けられてしまうかもしれない」といったテロを含む安全面の課題も。ゴミの分別やゴミ箱まわりの衛生面や環境問題。想像するだけから一歩も二歩も踏み込んで考えることが求められます。
「実現させるためにぼく/わたしは何をする?実現させるために、誰に何を頼む?」を、より具体的にするために、区報と併せて区と民間事業者から協働発行している、“暮らしに役立つ情報”が掲載されている『しぶやくらしの便利帳』をチェック。現行でどういったサービスがあるのか、区との連携制度を締結している企業なら協力をしてくれるかもしれないなど、どんな人や会社、既存の取り組みを巻き込んだらいいか。具体的なことを話し合い解決策の解像度がどんどん上がっていきます。
植野さんによると、今年の小学生たちは例年よりもさらにパワフルで発言も積極的。課題についての問題意識も高い印象を受けたそうです。子どもの個性はさまざまなので、それぞれの興味を尊重し、子どものアイデアにあえて大人の手を加えないというスタンスはSKAPをスタートした当初から変わらず守り続けていることだといいます。
すべてのアイデアが唯一無二。急発展する「渋谷のまち」に欠かせない小学生パワー
最終日には各自、模造紙に発見した課題とそのためのプロジェクト内容をまとめます。全て手書きで、大きさやバランス、色彩なども考えます。
「発表には自信ある!」と言いながらもちょっと不安そうな顔を見せ、メンターに発表内容を相談する姿もちらほら。発表の持ち時間は各自3分。「全然足りない! 5分は話したいのに」という頼もしい声もありました。
さて、最終的な発表は11人11色。前日までに行ったフィールドワークやリサーチから、渋谷の街の課題としてゴミ問題を取り上げる子が多いのかと思いきや、地域交流や落書き対策、危険横断防止に地下都市建設と着目点もスケールもさまざま。一つとして同じアイデアはありません!
今年のSKAPには兵庫県の淡路島と北海道の中富良野町からもメンターが参加していました。
淡路島でウェブディレクターとして働きながら地域の活動や環境問題をテーマに活動をされている高木さんからは「渋谷区、東急不動産といった企業や地域の大人のサポートが素晴らしいですね。子どもの自由を尊重し、大人が見守ることを徹底することで子どもが主体的に動ける。フィールドワークを通して自分たちの街を好きになるきっかけに繋がるのも魅力的です。今年度は、海と環境に関するプログラムを行う予定で、SKAPの取り組みを参考に、子どもたちの主体性を活かしたいと思っています」と、参加した感想と今後の展望を話してくれました。近い将来、淡路島でも主体的な学びの場がスタートするかもしれません。
全員の発表が終わると、先輩参加者の活動報告が行われました。毎年11月に代々木公園で開催される渋谷区民の交流イベント「ふるさと渋谷フェスティバル」での出店の報告をはじめ、1年を通してどのようなアクションをしてきたのかを聞くことができました。地域の大人のみならず、渋谷区外の企業も巻き込んだプロジェクトもあり、「渋谷が環境問題に取り組むと世界がシフトする」という呼びかけは印象的でした。
継続してSKAPの活動に協力してくれている渋谷公園通り商店街振興組合の川原理事長は「毎年レベルアップをしているのでもっとアイデアを出していってほしい。大人はすぐにダメな理由を探すけれど、これからも変わっていく渋谷についてアイデアがあったら、さらに想像を膨らませて周りの大人に相談していってください」とエールを送ります。
プレゼンテーションを終えた子どもたちは「ホッとした〜」「考えていたセリフが飛んじゃったけど、楽しかった」など感想はさまざま。すでに今後どう自分のプロジェクトを実現していくのかを考え出している子どももいました。
発表会に参加した保護者の中には、いつもとは違うわが子の一面を見ることができ、その発表内容の着眼点に驚いたという声も聞かれました。
全てが実現可能だという前提で話す子どもたちの言葉はとても力強く、大人を動かすエネルギーがあります。
まさに「小学生って最高! 最強!」
SKAPのホームページをご覧いただくと発表内容やその後の活動を見ていただけるのでぜひご覧ください。
取材・執筆/古川はる香(1日目・2日目担当) 伊藤ノリコ(3日目・4日目担当)
ライター
編集者
カメラマン