【大企業病に効く!】組織の枠を超える人材育成の形「越境学習」を知るための基本文献・8選
「越境学習」今、人材育成の現場で注目され始めてきているキーワードです。これまで日本の社員教育といえば、OJTや社内研修などの企業内学習が中心でした。一方で社員をあえて社外に送り出し、いつもと違う環境で武者修行させ、組織内での学習の延長では得られない非連続な成長機会を持たせようとする。すなわち「越境学習」を採用する動きが出てきています。会社の常識や仕事の進め方が通じない世界に身を置くことで、視野が広がる、行動力がつくなどの多様な力が身に付き、イノベーションに欠かせない「つなぐ」人材となり得る可能性が期待されているのです。
そこで「越境学習」とは何か、これまでの社員研修とは何が違うのか語れるようになるために、まず押さえておきたい文献を紹介してみたいと思います!
越境学習の基本を知るシリーズ、『越境学習を科学する』は全5回!
#1:人事担当者が知っておきたい「越境学習」の主要論点
#2:「越境学習」で開発される人材能力とは?
#3:「越境学習」を通じた能力開発2つのパターン
#4:「越境学習」の効果は企業文化によってどう変わるのか
最終回:「越境学習」を企業価値につなげるための3つの展望
1.「2枚目の名刺 未来を変える働き方」
日本のイノベーション議論を引っ張ってきた、一橋大学イノベーション研究センター特任教授は、企業人事に会社のほかに「2枚目の名刺」を持とうと呼びかけています。越境学習という言葉こそ登場しないけれど、社外に越境することで、「新しい靴を履いたような喜び」とともに「不思議な人脈が広がり、思わぬ困難にぶつかるかもしれない」という得難い経験と、予期しなかったポジティブな変化が生まれるといいます。
米倉誠一郎『2枚目の名刺 未来を変える働き方』/講談社+α新書(2015)
2.「時間と場所を選ばない パラレルキャリアを始めよう!~『2枚目の名刺』があなたの可能性を広げる~」
P・F・ドラッカーが提唱したとされる複数のキャリアを並走させる「パラレルキャリア」。このパラレルキャリアについて、人材育成研究に取り組む法政大学大学院の石山教授は、「本業と社会活動を並走させること」に注目。人事の観点から、キャリア、リーダーシップ、人材育成、イノベーションという切り口でその越境の効果をひも解いています。
石山恒貴『時間と場所を選ばない パラレルキャリアを始めよう!~『2枚目の名刺』があなたの可能性を広げる~』/ダイヤモンド社(2015)
3.二枚目の名刺サポートプロジェクト導入企業からの声
NPO二枚目の名刺が取り組む「サポートプロジェクト」は、NPOの事業推進を社会人がプロジェクトチームを組み、3-4か月程度で取り組む活動で、チームは異業種メンバーによる混成部隊。人材育成の分野では、NPOとの共同プロジェクトに社員を送り出すことによる越境学習効果が注目され始めています。
◆GAP Japan:「ビジネスとソーシャルをつなぐ人材育成の最前線」日経BP
◆インテリジェンス:「社外研修を活用し、人材育成する。インテリジェンスが導入した『サポートプロジェクト』」とは」2枚目の名刺Webマガジン
◆NTTデータシステム技術:「フォロワーからリーダーへ成長促す!」日経BP
4.Works「社員の放浪、歓迎」2013年2月号
このあたりから徐々に、アカデミアの視点が入ってきます。リクルートで働き方を研究しているリクルートワークス研究所による特集レポートです。越境とキャリア確立にフォーカスしたこちらのレポートでは、越境学習の実践者の取り組みとアカデミアによる分析が紹介されています。
『Works「社員の放浪、歓迎」2013年2月号』/リクルートワークス研究所(2013)
5.RMS Message vol.44 2016年11月号 特集1「越境」の効能
こちらは、企業の人材開発、組織開発を行っているリクルート・マネジメント・ソリューションズの機関紙での特集。越境経験のある企業人に活動実態を聞いたアンケート調査が紹介されています。越境活動を通じてどんな変化があったのか? 社外での経験を本業に生かしたいと思うか? などのデータは興味深いです。
◎PDFファイル
『RMS Message vol.44 2016年11月号 特集1「越境」の効能』/リクルート・マネジメント・ソリューションズ(2016)
6.経営学習論 ~人材育成を科学する~ (中原淳)
ここからアカデミアの世界に入っていきます。東京大学の中原准教授は、企業・組織に関係する人々の学習(いわゆる、人材育成ですね)について論じた著書の中で越境学習を取り上げ、「個人が所属する組織の境界を往還しつつ、自分の仕事・業務に関連する内容について、学習・内省すること」と定義しています。会社と社外活動、大きな会社であれば社内部門間を行き来しながら、所属組織外で学び、それを振り返ることが企業人の学びになる、というわけです。
同じ組織に長くいると、組織に人が過剰に適応する「過剰適応」に陥ってしまったり、過去の成功体験にしがみつき、それを永遠に繰り返そうとする「能動的惰性」の状態となりがちで、そうした状況に裂け目を入れるのが、この越境学習であると指摘。こうした動きが注目される背景には、企業にとって競争優位を支えるイノベーションへの渇望があること、そして企業及び社員双方にとって、組織を超えた社員のキャリア開発・能力形成へのニーズがあるとしています。
中原淳『経営学習論~人材育成を科学する~』/東京大学出版会(2012)
7.組織内専門人材のキャリアと学習~組織を越境する新しい人材像~
このあたりから結構難しくなってきます。この本の著者である石山恒貴教授は、越境学習では、単に越境先の他の参加者から専門知識を学ぶだけでなく、「組織を超えて活躍するためのスキル」の体得可能性もあると見ています。例えば、即興的に結びつきつつ新しいつながりを模索するノット(結び目)ワーキングスキルや、異なる価値観にうまく向き合い受容するスキル、組織横断的なコトを運営するスキルなどです。
外部で得たものを、社内からの反発を巧みに対処し、うまく還元するスキルが身に着けば、越境の上級者。組織を超えた価値創造が可能となり、さらには自分のキャリアを自ら選択することにもつながっていくわけです。同時に、そんな越境社員をいかに活躍させるか、戦略的なタレントマネジメントについても触れられています。
石山恒貴『組織内専門人材のキャリアと学習~組織を越境する新しい人材像~』/日本生産性本部生産性労働情報センター(2013)
8.越境学習を科学する
最後は、NPO二枚目の名刺が取り組むNPOサポートプロジェクト(参照:リーダーシップが身につく!?「NPOサポートプロジェクト」で社会人が学んだこと)を題材に、越境学習効果、特に人材育成効果の検証に取り組んだ結果を紹介したいと思います。NPO二枚目の名刺では、企業と連携したNPOサポートプロジェクトを展開していますが、そこで企業から必ずと言ってよいほど聞かれるのが、「人材育成効果を示してほしい」ということ。こうした企業の要望に応えるべく、NPO二枚目の名刺ではアカデミアと連携して効果検証に取り組んでいます。こうした取り組みで明らかになってきた、プロジェクトを通じて開発が期待される能力、その開発パターンに、企業文化による違い等、定量データを用いて“越境学習を科学”した記事がこちらです。
シリーズ「越境学習を科学する」全5回
#1:人事担当者が知っておきたい「越境学習」の主要論点
#2:「越境学習」で開発される人材能力とは?
#3:「越境学習」を通じた能力開発2つのパターン
#4:「越境学習」の効果は企業文化によってどう変わるのか
最終回:「越境学習」を企業価値につなげるための3つの展望
いかがでしたでしょうか。組織の外に出てみたとき、意外な自分に気づいたり、刺激を受けて次の日からの行動が少し変わったり、そんな経験あるんじゃないかと思います。一方、単に外の勉強会や異業種交流会に行って、「面白かったな」とか「名刺交換たくさんできた」というのでは、その人に訪れる変化も限られていたりします。越境する経験をどのように設計し、学習効果をデザインするのか。これから働き方が変わり、合わせて学び方も変わる中で、「越境学習」が今後どのように進化していくか注目です。
ライター
編集者
カメラマン