「飾り巻き寿司講師という2枚目の名刺を持ったママライターに聞く、両立のための心がけ」川口ゆかりさん【後編】
ファッションライターとして働く2児のママ・川口ゆかりさん。雑誌やWebで私服コーディネートやライフスタイルがたびたび紹介されるほどのファッションピープルである彼女の2枚目の名刺は、飾り巻き寿司など「おもてなし料理」を教える講師の仕事。家事育児、そして2つの仕事をどう両立しているのか、時間のやりくり、心がけを教えてもらった。
「人をもてなしたい」気持ちからインテリア、食器に興味が移った
川口さん(以下、敬称略):「結婚前は、かなりハードに働いていました。ファッションの撮影って、日が出ると同時に始めることも多いので、スタッフの準備は明け方5時頃からスタートになるんです。さらに、次の撮影のためのカメラマンさんやスタイリストさんと打ち合わせが、24時を過ぎて深夜に及ぶこともあり…。そのまま次の日も撮影で早朝集合になると、ほとんど寝ていない状態で、撮影中に立ったまま寝ていたこともありました(笑)。上の子の産後もあまり仕事をセーブせずに続けていたら、さすがに育児をしながらでは無理があり、自分が体を壊して入院してしまったんです」
パートナーから「早朝や深夜に及ぶ仕事は少し控えたら?」とアドバイスを受けたこともあり、仕事はセーブするように。
川口:「今は月3回程度撮影があるくらいにおさえています。“この日は家で原稿を書く日”“この日は外に出る日”と決めて、打ち合わせや校了の確認など出かける用事は同じ日にまとめるように。その枠に収まらないお仕事については、お声がけいただいたのに申し訳なくはあるのですが、お断りしています」
お金の使い方も結婚、出産をきっかけに変わったとか。
川口:「独身の頃、一緒に買い物に行った友達から“買い方が尋常じゃない”と言われたほど、相当服にお金を使っていたと思います。結婚して子どもが生まれてからは、服が欲しいという気持ちが薄れていって、それよりもインテリアや食器にお金をかけたいと思うようになったんです」
インテリアも食器も自分のためだけのものではなく、家族みんなが楽しく過ごすためのもの。そして家を訪れるお客さまを「おもてなし」するものである。家の中にも、仕事にも、人生にも、川口さんの「人をもてなしたい」という気持ちが強く表れていることがわかる。
(「近所の方をお招きすることで、キレイが保てます」という川口さん宅のリビングルーム)
川口:「“人を喜ばせたい”というのが私の人生のテーマですね。家族はもちろんですが、友人、知人含めてです。そもそもライターという仕事を始めたのも、自分のアイデアが編集さんや記事を読む読者の方の役に立ち、喜んでもらえるからという動機が強いんです」
「女子会」のような楽しさでリピーター続出の教室
“人を喜ばせたい”という川口さんの想いは、主宰する料理教室にも表れているのだろう。参加者の中には、毎回のようにリピートする方や、関東以外の遠方から来る方もいるのだという。
川口:「自分ではどういうところが魅力になっているのかわからないんですけど(笑)。“飾り巻き寿司やテーブルコーディネートの勉強になるから”というよりも、作業中や終了後に参加者みなさんで話す女子会のような雰囲気を楽しんでいただけているのかもしれないです。ファッションライターのお仕事では出会えないような赤ちゃん連れのママさんや、CAをしている方など、いろいろな方とお話できるのが私自身もとても楽しいです」
(料理教室は開催決定後すぐに満員になるほどの人気ぶり)
教室開催後には、教室の様子を撮影した写真にちょっとしたコメントを添えて、参加者全員にメールを送っているのだとか。やろうと思っていてもなかなかできない心配りを自然にできる人なのが伝わってくるエピソードだ。
川口:「コメントを添えて写真を送るなんて誰でもやろうと思ったらできることで、特別なことではないですよ。お料理やテーブルコーディネートで誰にも負けない技術があるわけではないですし、私にできることは本当にそれくらいしかないので」
お年寄りに向けた飾り巻き教室開催が現在の目標
飾り巻き寿司教室に加えて、最近は撮影現場やファッションの展示会、ママ会などに手料理を運ぶケータリングも行っている。
川口:「知り合いの編集さんやプレスの方から、ブログやSNSで紹介している私の料理を“食べたい”と言っていただいたので、自分にとって無理のない時間であれば、お届けしたいなと。あくまで空いた時間にやっていることなので、すべてのオーダーに答えられるわけではないのですが…」
(女性誌の撮影現場に届けたケータリング)
飾り巻き寿司教室が大盛況で、ケータリングのオーダーも増え、料理に関する仕事が広がりを見せているが、今のところ「ライターが本業である」という気持ちは、変わらないようだ。
川口:「料理教室の日程は、撮影が空いた日に設定しているんです。なかなか撮影の日が決まらなかったり、慌ただしい月は料理教室が開催できないこともあります。その状況を見て、“もうライターの仕事はやめて、お料理の仕事だけでもいいんじゃない?”という友達もいます。ただ、ライターの仕事も楽しいですし、お料理専門ではなく“ファッションライターが開催する料理教室”ということで、興味を持って来てくださる方もいるのかもと思っていて。お仕事をいただけるうちはライターも続けていきたいです」
川口さんのすべての行動原則は「自分がどうしたいか」ではなく「喜んでくれる人のため」。ファッションライターとしても、料理教室講師としても、自分が行動することで「喜んでくれる人」がいることが、何よりのモチベーションとなっている。川口さんが次に「喜ばせたい」と思っているのは、お年寄り。
川口:「友達の家に飾り巻き寿司を持っていくと、友達本人よりも、そのお母さんが“すごい!”“どうなってるの!?”と感動してくださることが多くて。自分の親世代やさらに上の世代の方も、飾り巻き寿司を喜んでくださるんじゃないかと思ってるんです。なかなかつながりがなくて、どう踏み出していけばいいのか悩んでいるところですが、老人ホームでレクリエーションのひとつとして飾り巻き寿司教室ができたらいいなと。それはひとつの目標です」
ほかにも、小学生と親御さんの親子教室もやってみたいし、おもてなし料理やテーブルコーディネート、ホームパーティの開き方など、自分が持っている情報で「人の役に立ちそうなこと」をつめこんだ本を出す目標も。
川口:「昔は目標を持ったことがなくて。でも、最近になって、ちゃんとやりたいことを考えて、口に出せば叶うんじゃないかと思い始めたんです。料理教室の講師という2枚目の名刺を持つことが叶ったからかもしれないですね」
川口さんとはティーン誌編集部のバイト仲間。そこから2人ともライターになり、キャリアを積み重ねてきた「同志」です。毎年誕生日には欠かさずお祝いメッセージを贈ってくれ、今回の取材オファーも「あなたのお願いなら!」と二つ返事で快諾してくれた川口さん。すべては「人を喜ばせたい」という想いが源流にあったと知り、深く納得しました。(ライター古川)
ブログ:ファッションライター川口ゆかりのMOM’S DAYS
インスタグラム:@yucarikawaguchi
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