「空飛ぶクルマ」で子どもたちに夢を届けたい。CARTIVATOR中村翼さんが未来に懸ける想い
「理想のクルマを創りたい」そんな小学生の頃からの夢を追い求め、日本発の空飛ぶクルマ「SkyDrive」を開発する有志団体「CARTIVATOR(カーティベーター)」の代表を務める中村翼さんは、2020年の東京オリンピックでの聖火点灯を目標に、大手自動車メーカーに勤務しながら、「空飛ぶクルマ」の開発に取り組んでいる。
前編では、中村さんが有志団体を立ち上げた理由や空飛ぶクルマの開発に着手した経緯、そして2枚目の名刺が1枚目になるまでの“二枚目なワークシフト”を紹介した。
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(写真:CARTIVATOR提供)
後編では、中村さんが夢を追いかける原動力や「モビリティを通じて次世代の人たちに夢を提供する」という団体のミッションに懸ける想いをお聞きする。
大手自動車メーカーからも評価される「SkyDrive」
中村さん率いるCARTIVATORは今年5月、トヨタ自動車をはじめとするトヨタグループ15社から、「SkyDrive」の活動資金として、総額4,250万円の支援を受けることが決定した。本業外でコツコツと続けてきた活動が大手自動車メーカーほか、自動車関連会社から評価された形だ。しかし、そこまでの道のりには苦悩もあったという。
「Uberなど、海外で『空飛ぶクルマ』の開発に取り組んでいる競合会社が複数あります。私たちは業務外だけで活動していましたから、時間の面でも資金の面でも競合の先を行くことは厳しい。会社を辞めて、ベンチャー企業を立ち上げるべきなのでは、と考えていました」
そんな折、トヨタ自動車の役員に、空飛ぶクルマをプレゼンする機会をもらう。同時期に、トヨタのグループ会社に向けてプレゼンする機会も得た。その結果、協賛金という形で支援を受けることになったのだ。
夢がこれまでの自分を支えてくれた
資金の目処が立ち、中村さんも本業の時間を一部使ってCARTIVATORの活動に取り組むことができるようになった。「空飛ぶクルマ」の開発は目標に向けて一気に進んでいきそうだが、小さい頃から現在まで一貫して、「理想のクルマを創る」という夢を追いかけ続けてきた中村さんの原動力は一体どこにあるのだろうか。
「子どもの頃に抱いた『クルマが好き』という想いが、ずっと自分の原動力でした。大人になって、自動車エンジニアになり、クルマを作る立場になれた。夢を叶えることができたこれまでの過程に、私はとても恩義を感じているんです。自動車エンジニアになりたいという夢があったから、道を踏み外したり、非行に走ったりしなくて済んだ。それくらい、クルマの存在や自動車エンジニアになりたいという夢は大きく、自分を常に支えてくれました」
「人間が生きられるのはせいぜい数十年。そこでできることというのは、たいしたことではない」と中村さんは言う。CARTIVATORの活動も、最初は自分のためにやっていたが、続けていくうちに自分を支えてくれたクルマに対する恩返しがしたいという想いが芽生えた。それが、「モビリティを通じて次世代の人たちに夢を提供する」というCARTIVATORが掲げる“ミッション”につながった。
過去の自分と同じ、夢を持つ子どもをサポートしたい
CARTIVATORでは、2050年には誰もが空飛ぶクルマに乗れる社会を実現できるよう、長期的なプランを立てている。ではその時、中村さんはどのような仕事あるいは働き方をしていたいと考えているのだろうか。
「2050年の自分は65歳くらい。プレイヤーとして働くというより、夢に向かっている子どもや若い人を教育・支援する側に回りたい。金銭的な支援もそうですし、やりたいことをやるためにどんなステップを踏めばいいのかわからず悩んでいる人をサポートすることができたらと思います」
「子どもたちへの教育」という言葉が出てきたが、そのような想いに至ったのは、中村さんが子どもの頃に経験したジレンマや、現在の日本の教育システムも関係しているようだ。
「私は小学生の頃からクルマの勉強をしたかったこともあり、学校の教育システムにはなじめませんでした。誰も『自動車エンジニアが、どのように物理などの理系科目を活用しているか』ということを教えてくれませんから、物理の勉強をしていても『早くクルマのことを学びたいのに遠回りをしている』と感じ、フラストレーションが溜まる日々でした」
大学入学後、ようやく自分の夢に近い勉強ができる環境を得た中村さんは、そこで初めて学ぶことに対する高いモチベーションを手に入れた。
「私の場合、結果として自動車エンジニアになるという夢を叶えることはできましたが、小学生の頃から目の前の学習がやりたいことにどうつながるのかが分かっていたら、さらに“学びの質“が深まったと思っています。子どもの頃から夢に直結する勉強を実践できたら、もっと尖った面白い人材が生まれると思うんです。自分が子どもの頃に歯がゆい思いをしていたので、将来は夢を抱く子どもたちの手助けをしたいですね」
(写真:CARTIVATOR提供)
「できないことはない」それを空飛ぶクルマで証明したい
プライベートでは、2歳の男の子の父親でもある中村さん。子どもを持ったことも、空飛ぶクルマ開発へのモチベーションがこれまで以上に増すきっかけとなっている。
「『子どもたちがわくわくしながら、自分の夢を追いかけられる社会』という、次世代に実現させたい社会のイメージがより強く湧くようになりました。
2020年の東京オリンピックの時、息子は5歳になっているので、その時には空飛ぶクルマのことも理解できるようになっているだろうなとか、2050年に息子は今の私の年齢に近くなっている頃なので、その時にどういう社会が実現していたら良いのかなと考えることがあります」
朗らかな表情でお子さんの話をする中村さんが空飛ぶクルマを通じて、自分の子どもや次世代の子どもたちに伝えたいメッセージとはどんなものだろう。
「『できないことはない』ということを伝えたいです。『人間が想像できるものは実現できる』とよく言われますが、本当にそうだということを『空飛ぶクルマ』の実現を通して証明したい。それが次世代の子どもたちが夢を抱くきっかけになればと」
やりたいことは勇気を出して人に言ってみる
中村さんのように、子どもの頃に描いた夢をいまだに持ち続けている人もいるだろう。また、「やりたいことはあるが、具体的にどう行動すれば良いのかわからない」「やりたいことはあるけれど、一歩を踏み出すのがこわい」という人や、「本当にやりたいことがわからない」という人も少なくないだろう。
最後に、夢を追い続け、現実のものにしようとしている中村さんに、自分の夢や目標に向かって突き進んでいくために、どう行動すればよいのか尋ねてみた。
「まず『自分はこれがやりたい』ということがない人は、少しでも興味があって面白そうと思う集団や組織にとりあえず参加してみる、というアクションからスタートすると良いのではないかと思います。
一方で、やりたいことがあるけれどどうしたらいいかわからない人は、周りの信頼できる人に話してみることをおすすめします。私も『理想のクルマを作りたい』という自分の夢を、信頼できる同期に思い切って話しました。
最初はどう思われるだろうと不安でしたが、結果的に賛同してくれて、ビジネスコンテストに一緒に出ることになりました。『こういうことがやりたい』という想いがあっても、それを内に秘めていても周囲には伝わらないですし何も進まないので、相手を選びつつ、勇気を出して言ってみる、というのが大切だと思います」
中村さんは、空飛ぶクルマを通じて次世代に新たな希望を与えるべく活動を続けている。そのモチベーションは、好きなことや夢を自分だけのものにするのではなく「自分が受けた恩を返したい」「子どもたちがわくわくできる社会を作りたい」という気持ちから来ていることがわかった。その想いが伝わり、CARTIVATORの活動は多くの人に支持され、海外からも注目されている。
中村さんの前向きに夢に向かう行動力や強い信念を目の当たりにすると、やりたいことがあるのにやらなかったり、尻込みしてあきらめたりしてしまうことがいかにもったいなく、自分の可能性を狭めていることなのかがわかる。できない理由を探すのではなく、勇気を出して自分のやりたいことに向かって一歩踏み出す人が増えることが、結果として、より良い未来を作ることにつながるのかもしれない。
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編集者
カメラマン