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【共同研究】イントレプレナー”覚醒”の条件vol.2:イントレプレナーが覚醒すると、どうなるのか?

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近年、様々な業界や企業でイノベーションの必要性が叫ばれる中、組織の中で新規事業や変革の担い手となるイントレプレナー(社内起業家)の育成への注目が集まっています。これまでビジネスやアカデミアなどで様々な議論や試行が重ねられていますが、中でも重要かつ育成困難とみられているのが、イントレプレナーのマインドセットです。そこでNPO二枚目の名刺では、2019年より三井不動産株式会社・BASEQ、慶應義塾大学大学院SDM研究科と共同で「イントレプレナーたる人材のマインドセットに関する調査研究」を行ってきました。本稿では、その調査結果をご紹介します。

前回vol.1では、イントレプレナーたる人材のマインドセットの状態(“覚醒”状態)について紹介しました。詳細については前回の記事を参照ください。

このマインドセットは果たしてイントレプレナーのパフォーマンスに影響するのでしょうか? 今回vol.2では、文献調査を通じた考察として、様々な既存理論とこの調査結果の関連から、イントレプレナーが覚醒するとどうなるのか?という点について紐解いていきます。以下では4つの観点から、調査結果に関連する既存の理論の概要と、その理論を踏まえた調査結果の解釈をご紹介していきます。

新たな価値を生む

以下に挙げているのは、主にイノベーションに関連した理論です。これらの理論からは、覚醒したイントレプレナーは社会の変革のために、新たな事業機会を見出し、組織内外の力を有機的に結合しながらタスクを遂行する、という示唆が得られます。

■ソーシャル・イントレプレナー(Changemakers 2008)

ソーシャル・イントレプレナー(社内社会起業家)は、金銭的利益よりも社会に対する変革を目標として掲げ、達成手段としてコミュニティと会社組織の力を同時に活用しようとする人材のことです。社内出世を目的としないため、社内の立場が脅かされることを過度に心配しません。
以下表に示すとおり、今回の調査結果はソーシャル・イントレプレナーの11個の特徴のうち9個の特徴と符合しており、とても近しい概念であることが分かります。

■アテンション・ベースト・ビュー (Ocasio, W. 1997)

人は特定のアテンション(認知的な気づき,読み取り,解釈,集中の配分)によって、特定の情報を認知し、他の情報は無視します。企業の意思決定と行動は、意思決定者の限られたアテンションを、企業内外のどの問題にどのくらい配分するかに影響を受けます。
覚醒したイントレプレナーは、視座(A)が社会起点に高まることで、組織内の人とは異なるアテンションをもちます。すると組織の従来のアテンションでは無視されていた情報や事業機会等を認知し、それに基づくミッション(B)を掲げることができます。

■バウンダリー・スパナー (Leifer & Delbecq 1978)

バウンダリー・スパナーは、必要なタスクを遂行するために、組織の境界を越えて組織内外の要素をつなげる人材です。その際、組織間の異なる言語や価値観を翻訳しながら、組織間のコンフリクトを調整・解消していきます。
覚醒したイントレプレナーは、社内外の多様な仲間との協働(D)において、組織内外の要素を総合して目的達成の仕組みを考え、それらを有機的に結合するバウンダリー・スパナーとして振る舞います。

チームを導く

以下に挙げているのは、リーダーシップやモチベーションに関連した理論です。これらの理論からは、覚醒したイントレプレナーは社会のためになるミッションを魅力的に伝えることで、チームの生産性と創造性を引出す、という示唆が得られます。

■トランスフォーメーショナル・リーダーシップ (Bernard M.B 1980)

トランスフォーメーショナル・リーダーシップは、明確にビジョンを掲げて、メンバーに仕事の魅力を伝え、啓蒙し、新しいことを推奨し、学習や成長を重視するリーダーシップのスタイルです。
覚醒したイントレプレナーは、自ら掲げたミッション(B)を自分の言葉で魅力的に伝える(C)ことでトランスフォーメーショナル・リーダーシップを発揮し、メンバーのモチベーションを高めます。

■プロソーシャル・モチベーション (Grant 2008,2012)

プロソーシャル・モチベーションは、他者に貢献することにモチベーションを感じることです。プロソーシャル・モチベーションと内発的動機が高い人ほど生産性と創造性が高いという研究結果があります。
覚醒したイントレプレナーは、社会起点の利他的な視座(A)からミッション(B)を導出するため、プロソーシャル・モチベーションが高まり、生産性と創造性を引出します。

■シェアード・リーダーシップ(Pearce,C.L & Conger,J.A. 2002)

リーダーとフォロアーの垂直的関係とは異なり、シェアード・リーダーシップは、メンバーそれぞれが時にリーダーとして振舞い影響を与え合う、水平的関係のリーダーシップスタイルです。また、シェアード・リーダーシップとトランスフォーメーショナルリーダーシップを持ち合わせたグループは、高い組織パフォーマンスを発揮する、という研究結果があります。
覚醒したイントレプレナーは社内外の多様な仲間との協働(D)において、役割ではなく想いでつながるため、シェアード・リーダーシップが発揮される水平的関係を築きます。

立場を築く

以下に挙げているのは、キャリア開発に関連した理論です。これらの理論からは、覚醒したイントレプレナーは不確実で変動する環境でも柔軟に行動し続けながら、自分の立場を主体的に築いていく、という示唆が得られます。

■プランド・ハップンスタンス(J.D.Krumboltz 1999)

プランド・ハップンスタンス(計画された偶発性)は、キャリアの不確実性と変動可能性を許容し、偶発的に発生した事象を主体的に活用し、フレキシブルにキャリア形成へつなげることです。行動指針として、好奇心、持続性、楽観性、柔軟性、冒険心が挙げられています。
覚醒したイントレプレナーがもつ活動力の源泉(E)は、プランド・ハップンスタンスの行動指針である好奇心、楽観性、冒険心に符合しており、不確実性と変動性の高い(イノベーションが求められる)環境においても柔軟にキャリアを形成します。

■ジョブ・クラフティング (Wrzesniewski 2001)

ジョブ・クラフティングは、自分自身で仕事の境界(タスク境界、認知的タスク境界、関係的境界)に変更を加えながら、やりがいを高めていく姿勢です。仕事の内容や環境を変えることは、仕事の意味付けとワークアイデンティティの変化につながり、さらにジョブ・クラフティングを実践していく動機を高めます。
覚醒したイントレプレナーは、自らミッションを掲げる(B)ことで認知的タスク境界を変え、多様な仲間と協働する(D)ことで関係的境界を変えます。それらが仕事の意味付けやワークアイデンティティ(C)の変化につながり、さらにジョブ・クラフティング(B,D)の動機を高めます。

成長し続ける

以下に挙げているのは、学習や成長に関連した理論です。これらの理論からは、覚醒したイントレプレナーは多様な仲間と協働する過程で、自身の価値観を自覚したり、異なる価値観を受容していく、という示唆が得られます。

■成人発達段階 (Kegan, R. 2001)

成人発達段階は「人間は生涯をかけて成長し続ける」と説いてます。その発達には段階(環境順応型知性→自己主導型知性→自己変容型知性)があり、段階を上がるごとに認識の枠組みが広がります。この認識の枠組みの変化を、水平的成長(具体的な知識スキルの獲得)に対して、垂直的成長と言います。
覚醒したイントレプレナーは、自分を知る(C)ことで自己主導型知性へ発達し、多様な仲間と協働(D)する中で自己変容型知性へ発達する機会を得ます。

■越境的学習 (Ishiyama, T 2018)

越境的学習は、自身が普段所属する場(例えば職場)ではない場での経験から学ぶことです。学習することには、知識を持ち帰って自組織で活かすこと(知識の仲介)や、自身(または自組織)の価値観を自覚すること、異なる価値観を受容すること等が含まれます。
覚醒したイントレプレナーは、社内外の多様な仲間との協働(D)を越境の場として学習します。自分を知ること(C)や、異なる価値観を受入れ視座が高まること(A)組織内外の知識を仲介してバウンダリー・スパナーとして成長することなどを経験します。

イントレプレナーの覚醒を促すために

以上のとおり文献調査から、覚醒したイントレプレナーは新たな価値を生み、チームを導き、立場を築き、成長しつづける、ということが示唆されます。BASEQと二枚目の名刺は、社会にこのような人材を増やしていくべく、今後イントレプレナーのマインドセット”覚醒プログラム”を展開していきます。調査結果をもとに開発したこのプログラムでは、社会に向き合う越境と、自分に向き合う内省を繰り返すことを通じて、マインドセットの覚醒を促していきます。今後、BASEQの主催するコミュニティ活動であるIntrapreneurs Networkの中で、実装していく予定です。

続くvol.3では、本調査のインタビュー対象となっていただいたイントレプレナーのうち2名を迎え、調査結果にまつわる具体的なエピソードを紹介していきます。

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ライター

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編集者

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カメラマン

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磯村幸太
ライター
慶應義塾大学大学院SDM研究科・研究員/IAF認定プロフェッショナル・ファシリテーター。企業,NPO,自治体等にて、人材・組織開発,オープンイノベーション,社会課題解決等の変革をファシリテーターとして支援する傍ら、大学研究員として人材・組織分野の研究を行っている。  note: https://note.com/kota1106
海野 千尋
編集者
2枚目の名刺webマガジン編集者。複数の場所でパラレルキャリアとして働く。「働く」「働き方」「生き方」に特化した取材、記事などの編集・ライターとして活動している。