住みたい街は自分で実現する。コミュニティデザインを使ってみんなで共創する街の未来とは
かつて、マザーテレサは「世界で1番恐ろしい病気は、孤独だ」と表現しました。人口減少、地方の過疎化、少子高齢化……。現在、日本は多くの問題を抱えており、それに比例するように孤独死の数も増えてきています。
これらの問題は、もはや行政や企業が重い腰を上げるのを待つ時間もないほど進んできている状況。「何が課題なのか」「どうすれば良くなるのか」といった現状の把握やアイデア出しをし、自分たちが当事者として動き、自分たちの手で必要なコミュニティを作り上げることが必要になってきているのです。
そうした中、注目されているのが、人と人がつながる仕組みをつくり問題を解決しようとする“コミュニティデザイン”の取り組み。
この記事では、コミュニティデザインの概念や、日本でおこなわれている事例などを紹介していきます。行政の力を借りずとも、個人やNPO、企業などそれぞれの形でコミュニティを盛り上げている実例を知り、自身がどう関われるのか考えてみましょう。
コミュニティデザインとは、人と人とが繋がる仕組み
携帯電話やインターネットの普及などにより、人々のコミュニケーション様式が便利で簡単にできるようになりつつある一方で、人と人との関わりは薄くなり“無縁社会”が広がっている現代。あくまで一例ではありますが、地方の過疎化や人口減少、少子高齢化など……。それ以外にも、抱える問題は人や場所によってさまざま。
そうした問題を抱えながらも、少子高齢化が進んでいく中では、税金を使って地域活性化するのはかなり難しいこと。行政はいかに税金を使うことのリスクを考えることもあり、承認を得るのに時間がかかる場合がほとんどです。
また、地域が抱える問題はそこに住んでいる当事者にしか分からない部分もあります。その土地に愛着があるからこそ気づける問題点や、こうあって欲しいという理想。その土地を愛し、その土地のためになにかしたいという有志が手を動かしたほうがはやく取り組むことができるうえに、人々が求めるものをアウトプットすることができ、結果、人々が住みたいと思う街づくりができるのでしょう。
“コミュニティデザイン”とは、こうした想いを同じくする人々のつながり方やその仕組み、場のあり方をデザインすること。施設や空間といった建設面でのアプローチではなく、ワークショップやイベントといった形で人々のつながりを作ることでコミュニティを活性化させる方法として注目されています。自分が課題だと思うことや理想とする未来に基づき、手を取り合える場所をつくることこそ、今の私たちに必要なことなのかもしれません。
NPOや個人、企業まで!コミュニティデザインの事例
この章では、実際にどういったコミュニティデザインが構築されているのか探っていきましょう。
わずか400人の町でのコミュニティデザイン。島根県大田市大森町「三浦編集長」
大森町の会社、石見銀山生活文化研究所が運営する〈群言堂〉が発行する広報誌。
群言堂は、人口わずか400人の島根県大田市大森町に根を張りながら、アパレルの企画・製造・販売、飲食店経営、古民家再生などを手掛けている企業です。
大森町はかつて銀山で栄えた町。2007年には世界遺産として登録されました。ですが、多い時には約80万人きていた石見銀山への観光客も、今や40万人ほど。深刻な過疎化が進んでいました。
そうした中、群言堂が立ち上げたのが「三浦編集長」というローカルメディア。民家の佇まいや街の風景など、“等身大”のローカルニュースを伝えることで、旅行客や移住してくる人が徐々に増え始めているそう。
地域のヒトやモノ、コトをつなぎ、いかに伝えるかといった一種の“編集”作業は、日本、そして世界各地のファン作りに貢献しているのです。
企業だけでなくNPOでも!「ヨコハマ経済新聞」
横浜コミュニティデザイン・ラボは、世界の港町「横浜」を目指し、面白く、楽しいまちづくりを実践型で研究する非営利のラボ。「つながり」のきっかけをつくるために、さまざまな取り組みをおこなっています。
そんなNPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボが運営する「ヨコハマ経済新聞」。
2004年4月に創刊された、創造都市・横浜の魅力を広く伝えていくことをミッションとしてインターネットのニュース媒体。横浜都心臨海部(中区、西区周辺)のビジネスやカルチャー、クリエイティブといった情報を配信しています。
立ち上げは1984年から個人で。元祖地域雑誌「谷中・根津・千駄木」
「コミュニティデザイン」は、企業やNPOといった団体にとどまりません。
1984年に個人で立ち上げられ、今やローカルメディアの大御所的立ち位置をほこっている「谷中・根津・千駄木」という地域雑誌。下町の名所として知られる“谷根千”を紹介していました(2009年に終刊)。
街への愛があればなんのその!情熱がある記事に触れれば、きっとその土地が好きになってしまうでしょう。事実、メディアの力を使って発信してきたこの土地は、世界的にも有名な場所となり、海外からの旅行客も増えているそう。
また、民間都市開発推進機構が朝日信用金庫と連携し、「谷根千まちづくりファンド」が設立され、風情ある古民家のリノベーションし、きちんと残していこうという取り組みもされています。
「人を巻き込むには情報発信から」を体現したコミュニティデザインのあり方といえます。
地域課題を解決するのは大人だけじゃない!子供たちが取り組むコミュニティデザイン「SKAP」
「SKAP」は、小学生が原宿を歩き、街に住む人や訪れる人の話を聞き、その土地の課題を探し、解決するアイデアを大人たちに向けて提案するプロジェクト。東急不動産やNTT都市開発といった街づくりにかかわる企業も後援として参加しています。
近年、グローバル化や高度情報化など、社会の大きな変化に対応するための力として、主体的に行動し課題を発見したり、解決策を考えたりといった能動的な力が求められています。
コミュニティデザインとして地域課題を解決できるとともに、子どもたちの学習の場にもなっている実例です。
“社会は自分で変えられる!”小学生が地域課題に本気で取り組む「Social Kids Action Project」密着レポ
小学生の「本気の提案」で原宿の街が変わり始めている! 2018年「Social Kids Action Project」開催レポート
新しいスポーツ×観光の形を地域おこしにつなげる「二枚目の名刺×鴨川市地域振興スポーツプロジェクト」
スポーツを通した地域おこしをすることを目的に、千葉県鴨川市にスポーツと観光を組み合わせた「平日のスポーツツーリズム」を作ろうとする取り組み。
鴨川市のスポーツコミッション(スポーツを通した地域振興を目指す組織)とNPO法人二枚目の名刺が協働し、メンバー全員が2枚目の名刺という形で地域プロジェクトに取り組んでいます。
これからのスポーツのあり方、地域のあり方、働き方を同時に変化させるようなプロジェクトです。
【千葉県鴨川市×二枚目の名刺】スポーツと観光の概念を一新する「地域おこし」始動!(前編)
まずは自分たちでできるコミュニティデザインを
行政任せだけにせず、自分の手でできることを。コミュニティデザインは企業などの法人だけでなく、個人でもできること。
自分自身で地域の課題を見つけ、少しづつ解決していけば、周りの人も巻き込めるようになるでしょう。また、人と人が集まればさらなるアイデアが生まれ、コミュニティデザインの精度はどんどん上がっていくはず。
ぜひ、人と人とが繋がり、自分の地域がより盛り上がるアイデアを探してみてくださいね。
ライター
編集者
カメラマン